第2回目は、司法書士の存在意義についての講義です。何故、司法書士は存在するのか? 司法書士とは一体どういう専門家なのか? 私達にとって味方なのか、それとも・・・。
司法書士の”正体”が今、明かされます。
皆さん、準備はいいですか?
それでは、始めます。
第2回 不動産売買の決済における司法書士の存在意義
(2019年11月6日(水)公開)
皆さんは不動産決済の場所に何故司法書士が立会うのかご存知ですか?
それは、売主様、買主様の権利を守る為なんです。皆さんの中には所有権移転登記による“登記名義の変更”や“担保権の設定”の為、“何となく昔から司法書士が来ているから”、“決済の場所には司法書が居ないとカッコが付かないから”等の理由で仕方なく来て貰っていると思っている方が少なくないように感じます。だから当然の事その論理的帰結は“早く済ませて欲しい。不動産売買の本質的仕事じゃないんだから”といった態度で司法書士の立会いを急かせる人も少なくないです。
不動産は高額な物です。売主はその高額な不動産を売却してその売買代金を受取り、又買主は高額の代金を用意し、支払うことによりその不動産を自分の物にしたいと考えています。
ここで一つ矛盾が有るのに気が付きましたか? 売主はお金、買主は不動産を手にしたいのですが、不動産は重要財産であり売買代金も高額です。売主は不動産を引き渡すのは構わないが本当に売買代金が自分のところに間違いなく支払われるのか? 又買主は売買代金を支払うのはいいが、本当にその欲しい不動産が自分の物になるか? というお互いの疑念が有ります。つまり売主、買主双方で相手が先に行為をして貰わないと自分が行為を起こすことは出来ないと思っているのです。
普通、不動産の売買契約には“売買代金の全額の支払いの後、不動産が移転する。”という条件を含んだ不動産のいわゆる所有権移転条項(停止条件付請求権条項)が入っていいます。この条項自体は“不動産は固有の物”(つまりこの世でその不動産と同じものは無いという事)、そして“お金はどこにでも有る”(つまりお金自体は皆さん誰でも持っています。あなたでなくても買主は何処にでも居るという事。)のでお金自体よりも代替のきかない不動産の方が貴重なモノであるから、先にお金を払ってくれ、といった不動産取引上の慣習のようなものです。従ってこの条項は“先に買主が売買代金を支払わなければならない”という内容と、“売買代金を受取ったら売主は不動産を移転する”という内容になっていますが、前述した様にこの条項では買主が先にお金を支払わなければならないことになり、経済的見地からは買主に不利な様に思えます。つまり、売主は売買代金を受取ったら行方をくらましてしまうかもしれないという問題が有るんです。何せ売主と買主は面識が無いのが通常で、当事者が複数の場合等は決済の場所で初めて顔を合わす事もあるのですから。
しかし、お互いの取引の先後を言っていたのではいつまでたっても売主買主双方の目的は達成出来ません。そこでお待たせしました。司法書士の登場です。司法書士はこの問題を解決出来る唯一の存在なのです。そうです。司法書士はこの問題を解決する為に決済に立会うのです。
まず、司法書士はどういう存在なのかということをご存知でしょうか?
“何か資格を持った人で弁護士とは違うけど同じ様なことをしている人”、“登記の名義変更を変わってしてくれる便利な登記手続代行者”、“正直言ってよく分からない”といった方々が多いのではないですか?
司法書士は誰かに代わって仕事をする便利な代行者ではないんです。司法書士として主体的に決済の場所に立会う法律専門の実務家なんです。もし必要がないなら昔からそんな大事な場所に居合わせるわけないのですから。
司法書士は冒頭で売主様、買主様の権利を守る為に存在すると言いました(”登記申請当事者独立擁護論”と呼ぶ事にします)。その意味についてこれからお話しします。まず司法書士の職責を簡単に言いますと売主・買主の権利を守る為に
“公正、中立、独立を保持し、自由な立場で
使命を果たさなければならない法律専門実務家”
が司法書士です(”登記法務規範論”と呼ぶことにします。)。“公正”とは客観的に手続きの内容が正しい事、“中立”とはどちらの側にも有利にせず、等距離を保ち、どちらにも干渉しない事、“独立”とは誰からも支配されない事、という意味です。そして”使命”とは、国民の権利を擁護し、よって自由かつ公正な社会の形成に寄与する事ですが、そのことを前提に自由に、つまり、自身の法律判断を基に職務を行わなければならないという存在なんです。誰かの言う事を聞いて行動をするのではなく、例え誰かが白と言っても、自身が黒だと思えば、それは”黒だ”と言わなければならない存在です。ちょっと難しいですが、簡単に言うと
“自立した存在”
という事です。
このような法律専門実務家が不動産決済の立会いをするから、買主は先程の契約条項に従ってお金を先に支払うんです。仮に司法書士が決済立会いをしない場合決済立会いの出席者は、売主や買主の他に売主仲介業者、買主仲介業者、金融機関だけとなりますが、仲介業者や金融機関は基本的に契約当事者の為に良心的な仕事をしていると思いますが、だからと言って必ずしも売主、買主双方からは相手方の仲介業者に対しては、全幅の信頼を置いて期待をしている人が全てとは言い切れないでしょう。
日本国は自由主義市場経済社会であり、営利活動を競争の原理で発展させる形態なので、そのような国家ではある程度のエゴは許され、反対に無知な方が悪いとなってしまう傾向は否めません。消費者問題等はこの様な事情を背景にして起こります。しかしそれではどこかの国の様に訴訟社会になってしまい、必ずしも契約当事者の権利が守られるとは言えず、ひいては健全な経済社会の発展にマイナスになる事もこれまた当然です。
法治国家であっても訴訟社会では訴訟費用に莫大な金額が必要になり、一般の国民の権利は守られにくいとういのが実情です。そして又、決済の場所では買主だけでなく売主も大事ないわゆる権利証や印鑑登録証明書を司法書士に差し出します。それはこの日本で伝統的・社会的にこの様な司法書士に対する信頼が有る事の証でもあります。
お解りになりましたでしょうか? これが司法書士の存在意義ですね。従って、司法書士は仲介業者等の“下請け”で仕事をするのでは決してありません。又、司法書士の本人確認や意思確認、不動産の確認は非常に重要な事です。ですから必要に応じて“自立した自由な立場”でこの不動産売買の実体法上の事実関係に迄踏込んで確認することも有りますから、むやみやたらに司法書士の仕事の内容に口を挟んだり、急がせてはならないのです・・・売主、買主の為に。
所有権移転登記や抵当権設定登記といった”登記手続き”は司法書士の仕事の一部であり、“登記手続き代行業者”ではない事が少しでもご理解頂けたでしょうか。
司法書士がこのような役割を果たす事によって、本当の意味で仲介業者や金融機関にとっても本来の目的である売主、買主の満足のいく不動産取引が達成出来るのです。
法律の事や登記申請手続きの事等どんな事でも聞いて下さい。受任した登記申請事件について、全力を上げて売主、買主のために、そして仲介業者や金融機関のご担当者のためにお力になるのが司法書士です。
つまり、司法書士が受任する事件は、“登記申請手続きの代行”ではなく
“不動産取引きの実体法上の真実性(=適法性)の確認から
登記申請の代理迄の登記申請事件の受任”
なのですから。
第2回目のセミナーはここ迄とします。セミナーに参加して頂き有難う御座いました。