【第1部】不動産売買における登記申請事件
 
 
 皆さん こんにちは!
 
 このセミナーも回を数えて10回目になりました。
 
 そこで、今回は記念すべき第10回セミナーを記念して、第1回目のオープンセミナーに続き第2回オープンセミナーとします。
 
 このセミナーは、法務実務セミナーと題して、法務事務所のリーガルスタッフや法律事務所の事務職員の皆さん、不動産会社や金融機関、保険会社のご担当者の方々を対象に、日常の基本的な事ですが、非常に重要な事を再確認して頂き、業務に役立てて頂ければと思い、開催しているものです
 
 しかし、一般の方、特に不動産の購入を検討されている方々や所有の不動産に担保権を設定して融資を受けようとされている方々にとっても、きわめて有用な内容にもなっている考えています
 
 今回の第10回のセミナーでは、そんな一般の方々をも対象にした内容になっていますので、是非受講ください
 
 
 
 
 それでは!
 
 
 誰も教えてくれない、ホントの事を解き明かす、法務実務セミナーへどうそ!!
 
 
 
  第10回 司法書士ってどんな資格者?
 
   - 法務事務所における取扱分野と専門事務所 -
 
                     (第2回オープンセミナー)
 
 
(2020年8月3日(月) 公開)
 
 
 
 
皆さんは司法書士の事、ご存知ですか?

 

 今回のセミナーは、第10回目という区切りの回ですので、法務事務所のリーガルスタッフや法律事務所の事務職員の皆さん、不動産関係や金融機関、保険会社のご担当者の方々だけでなく、一般の、特にこれから不動産の購入を検討されている方々や所有の不動産に担保権を設定して融資を受けようと考えている方々にもお聴きして頂くオープンセミナーです。
 
 不動産を購入して自分のものだと人に言えるために、自身の名前に登記記録を書換える所有権移転の登記申請が必要になります。又、金融機関から融資を受ける際、抵当権等の担保権を所有の不動産に設定する必要があります。その登記申請は司法書士が経営する法務事務所で受付けています。しかし、司法書士や法務事務所を知っている人はご自身の仕事で関係している方以外では殆どいないでしょう。そこで、司法書士や法務事務所とは、というテーマで今回はお話をしていきます。
 
 ●司法書士は国家試験合格者の法律専門実務家
 
 まず、司法書士は、国家試験合格者である法律専門実務家です。毎年司法書士試験については、7月に実施される筆記試験、その年の10月に実施される口述試験、そしてその年の11月(過去は10月に合格発表がありました。)に合格発表があります。筆記試験は、午前2時間、午後3時間で実施され、記述式試験の採点を受けられる択一式の基準点が毎年設定されます。その基準点をクリアーした受験生のみが記述式の採点を受けられます。択一式の基準点に到達しなかった受験生は記述式問題の解答の採点をされず不合格となります。そして、その合格者の殆ど全てが受験する簡裁訴訟代理等能力認定考査(試験)は翌年の6月に実施され、その年の9月に合格発表があります。
 
 毎年7月に実施される試験を第一次試験として、翌年の6月に実施される試験を訴訟代理資格を法務大臣が認定する第二次試験とします。
 
 例えば、過去10年間の第一次試験の合格率は平均3.02%で、第二次試験の合格率の平均は62.51%です。第一次試験の合格者の殆ど全てが第二次試験を受験しますので、司法書士試験の最終合格者の合格率の平均は単純計算で1.88%になります(第二次試験は過去に第二次試験を不合格になった人も受験できますので、第一次試験に合格して、翌年の第二次試験を初めて受験する人が、第二次試験に合格するパーセンテージはもう少し上がり、実際は司法書士試験の最終合格者の合格率は2.71%程度になると見込まれます)。この合格率は他の国家試験の中で最も低いものになっています。
 
 試験科目ですが、第一次試験は筆記試験、口述試験で行われ、筆記試験では、公式科目として憲法、民法、刑法、商法(会社法)、不動産登記法、商業登記法、民事訴訟法等11科目、この他に建物区分所有法、借地借家法、利息制限法、戸籍法、登録免許税法等の関連法令を入れると20科目程、それに加え先例、判例、実例、学説等になる択一式、記述式問題です。第一次試験の面接試験は、法律の基本知識、人物を審査の対象とした口述試験です。口述試験では受験生は皆、万全を期して臨みます。第一次試験の筆記試験を突破した受験生達なので、皆基本的な法律知識もあり、又社会的常識や教養も持ち合せているため、大部分の受験生は見事合格しています。更に、第二次試験は、民事訴訟法での基本となる要件事実論及び事実認定論を中心に司法書士倫理、司法書士の業務範囲から出題される記述式(及び論述式)試験です。受験科目数はこれもまた他の国家試験の追随を許しません。
 
 第一次試験の筆記試験の合格者が口述試験を受験する事ができ、第一次試験に合格しなければ、第二次試験の受験はできません。この第一次試験の筆記試験、口述試験そして第二次試験は各々1日で実施される各1回試験であり、第一次試験が上手く行かなかった場合はまた来年に臨むことになります。
 
 第一次試験では、法律知識や応用力、実践力は勿論の事、時間との勝負が最後の決め手になる内容で、始まりから終わりまで細い1本の糸の上を最後まで正確に渡り切った先に合格があるとてもシビアーなものです。少しでも途中で判断を誤り逸れると合格ゾーンに入れない過酷な試験です。これが「司法書士試験は知識だけでは勝負できない」と言われる所以です。
 
 第二次試験は、最も基本となる法律論である要件事実論及び事実認定論を中心に、司法書士倫理、司法書士の業務範囲を記述式(及び論述式)で解答していく形式です。第一次試験に合格した人の中でも、特にこのシンプルで明快な要件事実論という基本理論の習得が間に合わなかった人は合格は難しくなります。
 
 客観的に見て、受験科目、受験科目数、試験形式、試験内容、合格率はどれをとっても日本の国家試験の中で最も難関な試験の一つであると言っていいのではないでしょうか。
 
 ただ、受験生の皆さんは心配しないで大丈夫です。するべき事をすれば合格できます。できるだけ合格者の話を聴く事をお勧めします。司法書士試験に合格した人を身近に感じる事で合格に近ずきます。
 
 ●司法書士の法務事務所
 
 そんな司法書士が経営するのが司法書士事務です。事務所の名前は基本的に自由に決める事が出来ます。“司法書士 〇〇〇事務所”や“〇〇〇司法書士事務所”、“司法書士 〇〇〇法務事務所”、等色々あります。この頃では、“司法書士 〇〇〇ホームロイヤー”や“ホームロイヤーズ法務司法書士事務所”等カタカナも交えた事務所名も多くなってきました。基本的には自由ですが、“司法書士”と“事務所”という名称は皆入っていますね。
 
 また、司法書士法の平成14年改正で個人事務所も法人化が出来るようになり、“司法書士法人 〇〇〇事務所”や“〇〇〇司法書士法人”、“司法書士法人 ホームロイヤー”といった法人名称も多く見られるようになりました。この場合は“司法書士法人”という名称をどこかに入れなければなりません。
 
 因みに、2019年(令和元年)6月6日に新・司法書士法が制定され(2019年(令和元年)6月12日公布)、この8月1日に施行されました。この「制定」で一人法人も設立出来るようになりましたので、今後は益々司法書士事務所の法人化が進むでしょう。この新・司法書士法については、司法書士の在り方(使命)を法律上明確化する条項が新設され、「新・司法書士法」との通称名が付く程の歴史に残る改正になりました。
 
 法務事務所の種類としては、司法書士が経営する事務所の名称は、“司法書士”という名称がついた個人事務所か“司法書士法人”という名称が付いた法人事務所になります。
 
 このセミナーでは、司法書士が経営する事務所の総称を“法務事務所”と表現する事としています。それでは、この法務事務所ではどのような仕事をするのでしょうか?
 
 ●司法書士の業務
 
 第一番目に思い浮かぶのは登記申請事件の受任でしょう。他には債務整理・過払い請求事件の事務所、いわゆるタテアケ(建物明渡関係)事件の事務所、刑事訴訟法務を取扱っている事務所あるでしょう。近頃では成年後見制度、新しいところでは民事信託法務を業務にしている事務所も出てきました。この司法書士が経営する法務事務所は、司法書士法で決められた(特別に許された)種類の仕事を中心に行います。
 
 しかし、“法務事務所”と聞いて行政書士の先生の事を思い出す人も多いと思います。そうです。法務事務所は司法書士や行政書士が経営する事務所の事をいいます。これとよく似た事務所に法律事務所という名称の事務所がありますが、この事務所は弁護士の先生が経営する事務所の事です。国家資格にはこの他、弁理士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、等ありますが、皆独立系の国家資格の専門実務家ですね。これらの資格者にも各々相応しい事務所名称があります。
 
 因みに、行政書士の先生の事務所は行政書士法で定められた行政手続きの代理や権利義務に関係する文書、契約書、事実証明に関する文書の作成代行等が主な業務になります。行政書士の先生の事務所名称には“行政書士”又は“行政書士法人”(平成16年8月1日施行 改正行政書士法)という語が含まれていなければなりませんから、司法書士の法務事務所とは間違う事はありませんのでご安心下さい。
 
 ●司法書士の取扱分野(広義)
 
 さて、司法書士の経営する法務事務所に話を戻しますが、司法書士の仕事の分野も非常に広いです。色々な業務をされている司法書士の法務事務所がありますが、大きく分ける事が出来ます。第一に「登記系」法務事務所です。そして、第二に民事事件等の裁判実務等を取扱う「事件系」の法務事務所です。第三番目は、成年後見制度に基づいた「後見系」の法務事務所、更に第四番目は今、脚光を浴びている民事信託を取扱う「信託系」の法務事務所です。そして、これらの業務を複合的に取扱分野としている「複合系」の事務所もあります。
 
 民事信託系に関係する仕事は、相談業務として税務に関係のある税理士の先生もされており、又司法書士と同じ法律専門家である弁護士の先生も一部されていると思います。また、行政書士の先生は一般的に法律上、契約書の作成代行をする業務がありますので、民事信託契約書の作成に関係して、この分野は行政書士の先生もされている事があるでしょう。また、民事信託を検討する相談者の多くは不動産をお持ちなので、必ず登記の申請が必要になります。又民事信託の設計では法律専門の知識が必要になる事と等から民事信託の分野では法令上、財産管理関係業務を行う事ができる法律専門資格者である司法書士の先生方が、実際にもこの民事信託法務分野では最も活躍しているといっていいでしょう。
 
 何故、法務事務所がこのような種類に分かれるのかは、その法務事務所の経営理念専門志向性によります。
 
 ●司法書士の取扱分野(狭義)
 
 司法書士の法務事務所には、大きく分けて登記系事務所事件系事務所後見系事務所民事信託系事務所、そしてその複合系事務所の5種類がありますが、更にこのカテゴリーは細分化します。
 
 まず、登記系法務事務所ですが、この類型の事務所では「相続系」「売買系」「企業法務系」があります。どの種類の法務事務所もその種類だけで数多くの法務事務所が存在します。
 
 法務事務所の経営理念や専門志向性の他に、取扱分野の違いは依頼者によるところも大きいです。売買系法務事務所は、その中心が不動産の売買や担保権の設定に伴う登記申請事件の受任が中心になります。依頼者は居住用不動産の購入者や投資用不動産の購入者、融資をする金融機関等になりますが、この登記申請事件の相談や依頼は、相談者や依頼者自身ではなく、不動産仲介業者や金融機関の担当者からの紹介で来るところが特徴です。しかしこれに関連して、司法書士に登記事件を依頼するのは売買契約の当事者や担保権設定契約の当事者です。どんな契約上の拘束があっても契約の当事者は自由に司法書士を選び、委任する事ができますので、是非、依頼者ご自身で自信を持って司法書士に大切な登記事件を委任して下さい。司法書士は売買契約等の契約当事者の立場に立ってご相談や登記申請事件に対応しますので、紹介で受任した会った事もない知らない司法書士よりは心強いと思います。
 
 相続系法務事務所は、その中心が個人の依頼者が殆どです。家族に相続が発生し、不動産の相続登記が必要になり、法務事務所に依頼に来られます。
 
 企業法務系法務事務所は、文字通り企業法務や会社の登記申請事件を取扱う事務所です。この事務所への依頼者は会社当事者の他税理士事務所や会計事務所、法律事務所が多いです。
 
 このように登記系法務事務所は、自身の法務事務所がどの仕事をする事を目的としているのか、また逆に自身の法務事務所にはどのような依頼者(紹介者)が多く相談に来るのかといった状況で、その法務事務所の取扱分野が決まってくるのも大きな要因となります。
 
 事件系法務事務所ですが、この種類の法務事務所も幾つかの種類に分ける事が出来ます。まず「債務整理・過払い請求事件系」、そして「建物明渡請求事件系」「一般事件系」です。この一般事件系には、給与不払い・残業代未払い請求事件といった労働事件、離婚・不貞行為慰謝料請求事件といった家事事件、交通事故や不法行為等の損害賠償請求事件等を業務としており、本人訴訟支援法務及び訴訟代理法務を業務として行っています。歴史的に見て司法書士の本来的業務はそもそも事件系ですので、この一般事件系は昔から業務としてされている司法書士の先生も多いと思います。
 
 後見系法務事務所民事信託系法務事務所は親和性があり、後見系事務所から民事信託系事務所へと変貌した事務所もあり、又民事信託系事務所は後見系分野の必要性もあり、複合的に取扱っている事務所が多いです。民事信託系法務事務所は、高齢化に伴い、認知症から起因する財産凍結問題の回避のため不動産の所有権を保全・活用したい方や自身の金融資産を将来的に自身の自由にしたいと考える不動産等の所有者やそのご家族、また不動産の他に金融資産をお持ちの主に資産家が依頼者になる事もあるでしょう。誤解してはいけないのは、民事信託は「資産家のためだけの制度」というものではありません。資産家の方々も利用されますが、この法制度は、高齢化社会に対応した法技術という事です。高齢化時代の問題である認知症等による精神疾患を原因とする財産凍結問題や事業承継等に対する様々な問題を解決し、広く多くの国民の人生や生活に寄与するためのものです。従って、積極的に活用を検討して頂き、より身近に考えて頂ければと思います。今後この分野を取扱分野とする法務事務所は加速度的に増えていく事でしょう。
 
 事件系法務事務所は、大きく2種類の業務を行います。1つは「本人訴訟支援法務」、もう1つは「訴訟代理法務」です。「訴訟代理法務」は、簡易裁判所管轄で、訴額が140万円以内の事件を扱います。これに対し「本人訴訟支援法務」は、裁判所等に提出する書類作成関係に関しては、法令上、取扱う事件に制限がありません。これは、実は当然の事なのです。司法書士のルーツは「裁判実務家」だからです。現在では、司法書士といえば「登記法務」という印象が強いですが、明治に司法書士が誕生した時から現在まで一貫して司法書士は裁判実務を専門として業務をして来たのです。従って、司法書士が裁判実務をする事はごく普通の事です。資格名称も「登記書士」ではないですね。
 
 「訴訟代理法務」には簡易裁判所管轄で訴額が140万円以内という制限があります。この範囲で依頼者の訴訟代理人として訴訟を主体的に行います。このような制限の中で、事件の依頼があるのかという疑問も感じられる方もいらっしゃると思います。何故法務事務所に依頼者があるのか? それは、少額の損害賠償額を争う事件が多いからです。この少額の損害賠償額は数十万円から140万円以内になりますが、この権利侵害に対して訴訟を起こすとなると、訴訟費用の他に弁護士費用との関係で赤字になってしまうか請求金額の大部分が手元に残らない可能性が高いのです。そうなんです。この日本は先進国で法治国家といいますが、現代でも司法はまだまだ閉ざされている国なんです。残念ながら2割司法といわれるように誰もが憲法に基づいて自身の権利を実現出来る国ではありません。これは、色々な原因や問題がありますが、例えばこの国の司法トップの最高裁判所長官の名前や顔を知っている人は殆どいないという現実に象徴されます。依頼者が訴訟代理人を希望する場合、司法書士の「訴訟代理法務」は、こういった日常の比較的少額な事案を対処しますので、今まで法による救済が行き届いていなかった人々にも光を差込む事ができるのです。
 
 その上、管轄限定、訴額制限により受任できなくても、司法書士の「本人訴訟支援法務」で依頼者の権利実現を支える事ができます。
 
 日本の裁判制度は、訴訟代理人強制主義ではありません。本人訴訟が原則なのです。現実的にも簡易裁判所への訴訟提起件数は圧倒的に本人訴訟です。訴訟代理人が就任する事件の方が少ないのです。現在法律的問題に遭遇されている方は、裁判書類の作成を中心に支援する司法書士の「本人訴訟支援法務」を原則に、コストの面でも比較的低く抑える事が可能になり、自身の気持ちが直接裁判に反映できる本人訴訟をお考えになってはいかがでしょうか。
 
 お解りですか? このように司法書士の経営する法務事務所は、まず個人事務所、そして法人事務所の2種類があるという事。
 
 更に、その法務事務所には各々専門的に取扱う分野があり、登記系法務事務所事件系法務事務所後見系法務事務所民事信託系法務事務所、更にそれらの法務実務を複合的に取扱う複合系法務事務所が存在するんだという事です。
 
 そして更に、登記系法務事務所には、売買系(決済系)法務事務所、相続系法務事務所、企業法務系法務事務所があり、事件系法務事務所には債務整理・過払い請求系法務事務所、建物明渡請求系事務所、一般事件系等の法務事務所があり、その一般事件系法務事務所には労働事件や交通事故事件、家事事件、不法行為による損害賠償事件、刑事事件等を取扱分野としている事務所があり、更に、後見系法務事務所民事信託系法務事務所があるという事です。
 
 不動産決済を中心とする売買系法務事務所といった単一系法務事務所とは違い取扱分野を複数持つ複合系法務事務所では、特にその中で中心的に取扱っている分野を専門分野として位置付けている事務所もあります。
 
 従って、同じ司法書士の法務事務所といっても、その専門分野は様々で、皆さんが法律問題を依頼する時、また一般の個人が相談をする時は、自身の目的に合った法務事務所を探す必要があるという事です。
 
 病院にいる医師も内科もあれば外科もあります。内科でも循環器内科もあれば呼吸器内科もあり、外科にも脳神経外科もあれば心臓外科もあります。彼ら医師も同じ国家試験に合格して医師になりますが、専門分野は各々ですね。
 
 
 
 ●司法書士とは
 
 さて、ここでまた一つ重要な事をお話しなくてなりません。
 
 それは、法務事務所の仕事に対する姿勢です。このことも、これから法務事務所を検討される方々にとってはとても大事な問題です。この問題は主に「登記系」事務所に対してです。「登記系」事務所は、一見登記記録を書換える単純作業をする事務所のように見えます。司法書士の元祖はその昔、法制度上「代書人」といわれた通り、依頼者本人の意図する趣旨に則って裁判書類等の書類作成をする仕事をしてきましたが、日常用語で「代書」というと、何か本人の代わりに代筆するかのような、又はその職人といった印象を与えた事により、法律専門性を本質としない仕事という誤解を一般に招いてしまいました。これが所謂「代書屋」といわれる所以です。この「代書人」はその後、法制度上一般代書人と区別され、「司法代書人」という名称の下、元々使命とされていた制度趣旨である法律専門実務家として法律上明確化されたのです。
 
 因みに、こういったキャッチコピーはどのように思いますか?
 
 
 
“司法書士はサービス業”
 
 
 
“司法書士は接客業”
 
 
 
 もっと大胆なものは次のようなキャッチコピーです。

 

“士業はサービス業”

 
 
 
 一見良さそうに見えますが、その反面、捉えようによっては
 
 
 
“司法書士は「代書屋」だ“
 
 
 
 といっているようにも聞こえませんか?
 
 
 
 司法書士の事を英語表記すると、これが正しいとする人達もいます。それは、
 
 
 
“judicial scrivener”
 
 
 
 これは、「司法の代書人」という意味です。法律専門家というより日常用語のイメージから連想しやすい「司法代書屋」や「司法代書職人」といった印象を持つ人も多いのではないでしょうか。「scrivener]は「書士」という意味もあるようだからこれでイイという人もいると思いますが、この英語表記からとても法律専門実務家という訳にはならないです。もともとこのような英訳を誰がしたのかも不明であり、司法書士の英語表記として公認されている用語でもなく、更に、この英訳をした人間は法律の専門家でもないと考えられます。何故なら、もし法律家が司法書士を英語表記する際、「scrivener]という単語を用いる事は無いと考えられるからです。
 
 勿論、司法書士の仕事はサービス業であり、接客業です。しかし、その本質は、法律専門実務家なのです。単なるサービス業や接客業ではありません。何故ならサービス業や接客業では、依頼者やその関係者に対し不快な思いをさせてはなりません。それが仕事です。しかし、司法書士は、例えその関係者が依頼者の権利に不利益な行為をしようとしたら、又依頼者が誤解し法律違反の行為をしようとしたら、躊躇無く自身の判断に従って依頼者の真の権利及び利益を守る行動を執らなければならないからです。そうです、司法書士はいつでも中立・公正・独立した存在でなければなりません。もし関係者の誰かに影響されて仕事をしたのなら、それは大事な依頼者の権利を蔑ろにする行為に等しいからです(「登記法務規範論」)。
 
 
 
 司法書士は、
 
 
 
“単なるサービスを提供する事を使命としていない”
 
 
 
 
 前述の「司法書士はサービス業」、「司法書士は接客業」、更に「士業はサービス業」といったキャッチコピーがあるとしたら、一般の人からしたら親しみ易く、敢えてこのように表現するのも否定はできませんが、これはその昔、司法書士の先生方の中に威厳のある先生方が多かった事に対するアンチテーゼの意味も込められていると思います。現在(いま)はそういう時代ではありません。
 
 この頃、法務事務所の中に“法律の専門家として社会に貢献する”といった経営方針を立てておられる司法書士の先生もいらっしゃいます。前段にもお話しましたが、新・司法書士法制定により、その司法書士の在り方もより正しい形になり、多くの法務事務所も法律専門実務家としての「使命」を意識し、認識した事務所が増えていく事でしょう。
 
 司法書士は所謂「代書屋」ではありません。英語表記をするなら「lawyer」です。「lawyer」は日本では弁護士の先生が多く用いていますが、この単語は本来法律職全般を意味する言葉であり、「弁護士=lawyer」という和訳こそが、これまた誰が最初に和訳したのか不明であり間違っています。因みに、日本司法書士会連合会では「Shiho-shoshi Lawyer」となっています。
 
 ●司法書士(又は法務事務所)の選定の重要性と司法書士の使命
 
 大事な事は、仕事を依頼する時、相談する時に、自身で良く調べてから法務事務所にコンタクトを取る事です。そして、司法書士にも色々なタイプの先生がいますので、コミュニケーションが取り易く、自身の質問や心配事、疑問に応えてくれる自身に合った司法書士に相談する事が肝要です。くれぐれも関係者等の誰かからの紹介を無批判に受け止め、会った事もない知らない司法書士に自身の大切な登記申請事件の依頼をする事は避けるという事は言うまでもないはずです。 
 
 不動産関係会社のご担当者は、売買契約当事者に対し、個別の法務事務所を直接紹介するのではなく、どのような法務事務所がより良い法務事務所であるかをご自身の経験に基づき助言して頂く事で十分ではないかと考えます。
 
 何故なら、例えば、不動産仲介会社のご担当者は、業務上、以前に紹介した法務事務所を再度、現在の売主や買主に紹介する事も多いと思います。その場合、不動産仲介会社としては、その法務事務所への紹介が繰返されると、その中で不動産仲介会社と法務事務所が知らず知らず無意識に同化してしまい、本来の主体である売主や買主との関係が相対的に希薄化し、売買契約の当事者、つまり高額の売買代金や仲介手数料の他、大切な法務事務所への登記申請事件の委任料を実際に支払う売主、特にその大部分を負担する買主が不利益を受ける危険性が想定されるからです。
 
 勿論、大部分の不動産関係会社のご担当者は、売主、買主のために公正な手続きをしていると思いますが、外形上もこのような関係を形成してしまう事は、法律上、必ずしも適切とはいえません。本来、法務事務所は、売主、買主のために、法務事務所は不動産仲介会社とある一定の良い距離感を置いて、不動産取引きを知らない一般の消費者である売主、買主のために、不動産売買契約の公正さに基づき、適切適法な登記申請事件を担保しなければならない役割があるのです。つまり、司法書士は高額な不動産取引きにおいて、業界関係者とは圧倒的に情報量が違う売主、買主がこの売買契約で不利益を受けないよう、その権利を擁護しなければならないという事です(「登記法務規範論」)。その意味では、法務事務所自身も同じ不動産仲介会社等の担当者からの紹介には注意が必要である事は言うまでもありません。
 
 事務所の規模によってもその仕事の取組み方針や姿勢が異なってくる事があります。大規模だから自身の依頼した仕事を良くやってくれるというものでもありません。例えば、ある大規模法人法務事務所は、大量の登記申請事件を機械的に行い、中々依頼者に対して説明もできないが、報酬は何処よりも安いといった事務所もあれば、小規模ながら一つひとつの仕事は時間を掛けて行い、依頼者の質問にも丁寧に応えるが報酬は標準的か比較的高めといった事務所もあります。
 
 当職の経験では、報酬が安い事務所を希望する依頼者もいれば、心配事にも丁寧に対応してくれる事務所が良いという依頼者もまたいます。自身がどちらなのかを自分で考えて、自身の希望に沿った法務事務所を自身で自信を持って選んで頂く事が一番大事です。決して人の提案に無批判に従ってはいけません。あとで後悔しないためにも。
 
 
 
 
 よく司法書士は何をしている資格者なのか? といった内容の質問を受けるので、今回は司法書士試験の事、司法書士の法務事務所や取扱分野、そして専門分野、更には法務事務所の在り方、それに関係する不動産関係会社と法務事務所との関係、売主、買主の皆さんがすべき法務事務所の選定の仕方についてお話してみました。今後の皆さんの少しでもお役に立てれば嬉しいです。
 
 
 
 
 今回の第10回法務実務セミナー、そして第2回オープンセミナーはここまでとします。今回もセミナーに参加して頂き有難う御座いました。