【第1部】不動産売買における決済と登記申請事件
今回は、不動産売買の決済における売買代金の残代金決済時の司法書士の役割について、どのような意義があるのかに焦点を当ててその必要性についてい講義します。
司法書士は、売主や買主の本人確認と登記書類の取付けといった事務処理をするために決済の場にいるのか、それとも・・・。
第3回 不動産売買の決済における司法書士の必要性
(2019年12月6日(金)公開)
皆さんは不動産売買の決済で司法書士が果たす役割について本当にご存知ですか?
不動産売買の決済では例えば売主、買主、売主仲介業者、買主仲介業者、金融機関担当者そして司法書士が一堂に会しますが、ここでこれ迄の不動産売買契約の最後の手続きが行われます。売主が自分の不動産を売りに出し、買手を探すところから始まり早ければ3カ月程度、遅い場合は約1年位掛かってやっと最後の決済の日を迎えるのです。ここ迄辿り着くにはこの売買契約に関係した人達のご苦労は人知れず大変なものであったでしょう。そして晴れて買主にとって念願のマイホームを手に出来る日になるわけです。
決済はその時々の都合によりますが、一般的に平日10時頃から銀行等の金融機関で行う事が多いです。今回の決済は買主が銀行から融資を受けているケースとします。ここでする事はもう決まっています。何故ならこの日迄にしなければならない事は全て終えて最後の日を迎えるのですから。つまり、この日に売主、買主それぞれの気持ちが決まっていなかったり、書類がそろっていなかったりした場合は、この晴れの決済の日、つまり買主にとって一生に一度の記念すべき日が流れてしまい、台無しになってしまいます。又売主にとっても高額な代金を得る日にとんでも無い事になってしまうのです。
さて、決済当日にすることは、“決済”の名の通り不動産の売買代金の残代金の決済、つまり支払いの完済をします。不動産の売買契約には通常いわゆる“所有権移転条項(停止条件付請求権条項)”が有ります。これは、“買主が売買代金の残代金の全額を支払ったのち売主の不動産が移転する”という条件の不動産売買契約上の慣習的な内容の条項のことです。
しかし、売主、買主双方の公平の観点から高額な残代金を無条件で先に支払わせる事が適当かは問題が有ります。なにしろ売主、買主双方は面識がそれ程あるわけでは無いのに加え、仲介業者もここ数カ月前に知り合ったばかりであり、金融機関の担当者に至っては売主とは決済の日に初めて顔を合わせることもあるのですから。そして更に不動産価格は一般人の年収の何倍から何十倍以上の高額なものになります。一生に一度有るか無いかの出来事に、例え売買契約を締結したからといって決済の場に来た買主には安心感は無いのです。
では、この問題は解決出来るんでしょうか? 売買契約を締結した以上その契約内容には従って貰わないといけない、と買主に迫るんですか?
非常に、難しい問題です。しかし、この問題は解決出来るんです。お待たせしました。ここで司法書士の登場です。
決済の場に売主、買主等揃ったら、買主仲介業者は買主に売買代金の残代金の支払いの為に買主の口座の出金伝票と売主の口座宛の振込依頼書を書いて貰います。この伝票で売買代金の残代金の支払いを口座を通して行います。しかし、ここで待って下さい。伝票が調ったら直ちに出金して、振込みをしてしまうと残代金の支払いと不動産の引渡を同時行為の関係にしたい目論見が崩れてしまいます。前述した様に出来るだけ売主、買主の公平を図りたいわけです。
ペンや腕時計なら代金の支払いとモノの引渡しをその場で行えますが、不動産は持運び出来ません。不動産を決済の場所に持って来れないのなら代金の支払いとモノの引渡しの同時行為は不可能なのでないか、と考えてしまいそうです。
そこでこの大問題を解決する為に、不動産の売買の場合には
昔からある特徴的な方法が取られています。
そしてそこに司法書士が深く関係しているんです。法律上、不動産が自分の物であると他人に言える為には、不動産の名義を自分の名前に変える事が必要です。逆に言うと不動産の名義を自分の名前にさえしてしまえば、自分の不動産といえる状態に出来るんです。この関係を使うんです。
司法書士は決済の場所に行った際、仲介業者が買主と伝票作成に入る前に売主、買主双方から本人確認書類及び不動産の名義を変える為等の登記書類を受取ります。そして今回の不動産の売買契約は真実であるかを売主、買主に確認し、委任状等に署名・押印を頂きます。ここの部分は非常に重要なのですが、今回は具体的手続きについては省略します。とにかく売買契約が真実(適法)である事を確認するんです。そして次に登記書類に間違いがないかを確認します。この間に司法書士は仲介業者の方に伝票の作成を指示します。この登記書類の取付けが一番のポイントなんです。
つまり先程お話ししましたが、登記書類が調うという意味はいつでもその不動産の名義を買主名義に変える事が出来る事を意味します。この段階では買主はまだ不動産の売買代金の残代金の支払いをしていませんよ。そして次の段階で仲介業者の支払伝票の準備が出来ます。そしてその伝票の準備が整った事を見計らって、いよいよ司法書士がある重要な宣言のための確認をします。
「登記書類が整いました。これから不動産の売買代金の残代金の決済の為、
(融資又は残代金の)実行を掛けさせて頂いてよろしいでしょうか?」
と。融資の実行、つまり買主から売主へ、まさに今残代金の支払いの同意を買主をはじめ決済出席者に確認しているんです。不動産は持運び出来ません。だからそれに代わり名義を変えることを考えるんす。不動産は持運び出来ませんが買主からしたらその不動産は殆ど完全に自分の物になったと同じ状況になっています。買主は代金を支払う前に法律専門実務家の司法書士が登記書類を取付けているので安心して残代金の支払いに応じます。そして、司法書士は宣言をします。
「実行をお願いします!」
と。これであの条件付きの不動産売買契約の通りの合意を果たす事が出来たんです。仲介業者の方が司法書士の指示に従わない事で、不動産売買契約についてトラブルが生じた場合は、その仲介業者の担当者は後日訴えられ、損害賠償責任の追及がなされる蓋然性が高いです。
通常モノを売り買いする時は代金の支払いとモノの引渡しは同時の関係に有りますが、不動産売買に関しては更に条件が付き、代金の支払いが先という契約内容になっているので、余計この様なテクニカルな方法が売主、買主双方の「所有権」という権利を守る為に求められるのです(登記法務規範論)。
いかがでしたか? ご理解頂けましたでしょうか?
なので、もしあなたが仲介業者の担当者だったら、
司法書士が(融資又は残代金支払いの)実行開始宣言をする前に
絶対にお金を動かしてはいけません。
第3回のセミナーはここ迄とします。今回もこのセミナーに参加頂き有難う御座いました。