【第1部】 不動産売買における登記申請事件
 
 
 いよいよ法務実務セミナーの開講です。

 

 初回を記念して、今回は不動産関係の方々だけでなく、一般の方々、特にこれから不動産を購入しようと検討されている皆さんの為にも講義をするオープンセミナーとします。

 記念すべき最初のセミナーのテーマは、”司法書士の選定や委任”についてです。

 皆さん、準備はいいですか? 

 

 それでは始めます。

 

 第1回 登記法務事件における司法書士の選定と委任(初回記念オープンセミナー)
 
                                       (2019年10月 1日 公開)
 

    皆さんは司法書士に登記申請事件を委任された事がありますか?

 

 第1回目の講義は、基本的ですが、あまり知られていない、そして極めて重要なテーマについてのお話です。今回の講義は、一般の方々(=一般消費者、これから不動産売買契約を検討の皆さん)にも大切な内容となりますので、第1回目という事も有り、テーマにしてみました。不動産関係の方々に置かれても、仕事上では司法書士に仕事を依頼する事は何度も有りますが、個人的にはさすがに多数有る方は少ないでしょう。むしろ、個人的には司法書士を知らない、依頼した事が無いという方が圧倒的ではないでしょうか? 今回は、その“個人的な司法書士への依頼(=委任)”が主題です。

 

 私の経験では、売主、買主の方にお会いし、売買契約や抵当権設定契約についての確認、抵当権設定契約の銀行代行、等の際、今迄に司法書士に会った事が有るか、を聞いたとき、会った事が無い、と答えた方が殆どでした。更に、司法書士とはどの様な仕事をしている資格者か、との問いにも分かりません、とお答えされる方が殆ど全員です。改めて、司法書士の一般的な社会認知度の無さに失望しますが、実は、失望だけでは済まないのです。

 

 なぜなら、司法書士の役割を知らない、という事がどれだけ契約当事者、つまり売主、買主にとって不利な事かという事です。

 

 まず、司法書士の仕事の中で、登記申請事件の受任について考える事とします。例えば、売買契約では売主、買主から登記申請の代理権の授権(=委任)が有ります。売買契約当事者と司法書士との契約関係は委任契約に基づく法律関係です。つまり、この委任契約の当事者は売買契約の当事者、つまり、売主、買主と司法書士です。司法書士は、この委任契約に基づいて、基本的には売主や買主と実際に会い、本人確認、売買契約の存在或いは抵当権設定契約の存在の確認、売買目的物件の確認、登記申請の意思確認を行います。

 

 そしてこの中には、不動産仲介会社の担当者は入ってきません。もう一度繰返しますが、登記申請事件の委任契約の当事者は売主、買主、或いは金融機関と司法書士だけになります。

 

 更に、この委任契約は自由にする事が出来ます。そうです、誰とでも、又、どの司法書士とともです。“私的自治の原則”という言葉を聞いた事が有るかと思いますが、この社会は、私的自治で動いています。契約も自由にする事が出来るんです。

 

 そして更に、契約が自由に出来るといっても、誰とでも出来るわけでは有りませんね。そうです。相手がどの様な人物かも判らないで、ただ契約をしても不利益を受ける危険性が有るからです。つまり、この私的自治の原則とは、自由に契約行為をしてもいいですが、その結果損をしても、それは貴方が、自由に自分の意思で契約をしたんだから、貴方自身の責任です、という意味なんです。つまり、”結果責任原則”なんですね。それはそうですね。自分の好きで契約をしたのに、その結果損をしたら、それは誰かのせいにするという事は不合理ですから。自由に行動をした結果の責任は自分に有るというのは合理的です。 

 

 問題はココからなんです。では、実際の不動産売買契約の場面で、どうでしょうか? 自分の好みの不動産を見付けて、仲介業者と契約をし、不動産が自分のものになる迄、その不動産の購入資金を確保する為、住宅ローンの契約をしますが、その金融機関を探さなければならない事、又、その不動産が自分のものである証となる登記の名義を変える為の法務事務所も探さなければなりません。場合によっては、引っ越し会社、リフォーム会社や警備会社、等も必要になるでしょう。

 

 しかし、どれも初めての事で、どうやって調べたら良いか、自分の信頼の置ける相手であるかどうか、費用は高く請求されはしないか、等々心配は尽きません。殆どの方が生まれて初めての経験をするので当然の事ですね。引っ越し会社、リフォーム会社や警備会社、等は何となく数社から見積もりを取って、比べれば出来そうな感じですが、金融機関の住宅ローンや登記となるとなかなそう単純にはいかないと思います。なにしろ、住宅ローンはこれから30年から35年の間、その金融機関と付合い、返済して行かなければならないし、登記は数千万円の買い物が本当に実現出来るかという法律上の問題ですから。

 

 私の経験でも、登記受任手続きの際、見るからに心細さそうなカップルも少なくないです。赤ちゃんを連れたペアローンのカップルが、私に色々な質問をして、時間も尽きません。そうした人達に共通している一つの事は、司法書士に依頼する登記申請事件の費用やそもそも司法書士という資格者の事です。何故、司法書士に費用を払わなければならないのか、司法書士は自分たちに何をしてくれるのか、高い費用(=報酬)を請求されているのではないか、一言で法務事務所と言っても必要最低限の仕事しかしないが費用が安い法務事務所や疑問に丁寧に答えるが費用がその分高くなる法務事務所と有り、自分が望んでいる法務事務所に依頼しているのかといった疑念です。更に、売買契約をした不動産の名義を変える登記の他に住宅ローンの契約が有る場合の抵当権設定契約に基づく抵当権設定登記の費用についてが有ります。

 

 つまり、こういう事が有るんです。売買契約の購入不動産の名義を変える登記の申請事件を受任する法務事務所と抵当権設定登記の登記申請事件を受任する法務事務所が分離する形態です。買主からしたら売買契約に基づく一連の登記申請を代理で一つの法務事務所がしてくれれば済みますが、その一連の登記申請を名義を変える法務事務所、抵当権を設定する法務事務所と二つ依頼しなければならない事態になるのです。一般的に登記の申請費用はどの法務事務所もそれ程大きな違いは有りませんが、関係添付書面作成費用や登記事項等の調査費用、決済立会い費用等の諸費用が法務事務所の分だけ掛かるので、その分買主からしたら余計に請求される事になります。そういった事から、買主の疑問は尽きません。

 

 しかし、ちょっと待って下さい。この講義の前段でお話しました通り、登記申請事件の委任契約の当事者は売主、買主、そして司法書士です。そして、私的自治の原則が有りましたね。この原則では、自分が好きでした行為の責任は自分が負うというものでした。前述の関係で、何故、買主は色々と司法書士に質問しなければならない状況に追い込まれたのでしょうか? それは、本来の自由な契約関係が存在しないからです。納得した上で、司法書士との委任契約の日を迎える事が出来なかった為、契約の日に心配事を抱えて出向かなければならなかったのです。

 

 同じ事が住宅ローン契約の金融機関に対しても言えます。住宅ローンという商品も各金融機関が色々な商品を揃えて、お客様を迎えます。まず、金利ですね。低い事に越した事はないです。更に、保険等のオプションを付けた際に、金利や手数料がどうなのか、等の問題です。この場合、住宅ローン契約の際やその事前の説明の際、やはり心配の有る方は、金融機関やその代理店の方に色々質問されると思います。それは、自分で住宅ローンの契約をする金融機関を決めていないからだと思います。

 

 それでは、何故、自分の契約なのにこの様な事態になるのでしょうか? それは、売主、買主 にとって前提知識や経験が無く、又は乏しく、必要としている情報が十分に収集出来ないからです。自分が自信を持って契約を出来ないんですね。入って来る情報と言えば、この売買契約と住宅ローン契約に関連した関係者からの情報が殆どであり、第三者の目線での客観的な情報は有りません。

 

 そうです。この様な状況に居る人が不利益を受け易いんです。なにしろ、周りの人達を信じるしか他に方法な無いのですから。確かに、周りの関係者は殆どが誠実で、信じられる方々だと思いますが、それでは全員が全幅の信頼を置けると言い切れるでしょうか? 

 

 この頃は、住宅ローンの商品の違い等は、買主が自分でネットで調べて契約する人達にも会います。又、登記申請の際に減税の対象になるか等の問題も買主自身が調べて、私にそれで良いか質問される方も居ます。

 

 この様に、誰と契約をするかを周りの関係者だけでなく、自分自身で調べて、自信を持って契約する事が大事です。特に、法務事務所との契約では、一連の契約に基づく登記申請事件は基本的に一つの法務事務所が受任します。その一連の登記申請を二つ以上の複数の法務事務所が分担するという事はその登記申請事件が複雑になる事やそれに伴うリスク、つまり、前件の法務事務所の登記申請が上手くいかない場合、後件の法務事務所の申請迄出来ないという危険、売買契約では登記費用は一部の登記費用を除き、原則買主が負担しますが、その負担額が上がる蓋然性、等が有るので、何故、原則的ではないスキームで決済を迎えなければならないのかを、そのプランや不動産売買契約書を作成した関係者に訊き、説明を求めて、慎重に検討した後で、契約書に署名捺印した方がいいという事です。

 

 無論、複数の法務事務所が一連の不動産売買契約に関わる理由は絶対に無いとは言いませんが、この講義の主題である誰が契約当事者かという観点で、事実関係を精査し、判断すれば答えは出る筈です。契約当事者ではないのに、あたかも契約当事者の様に振舞い、この不動産売買契約のスキームを取仕切る人が居ない様、そしてあくまでも契約書に署名捺印した貴方は、基本的に自己責任になるという事を心して置かなければならないという事を認識しなければなりません。

 

 例えば、不動産売買契約の場合、一部の費用を除き原則的に登記費用は買主が負担します。つまり法務事務所への依頼は買主が決めて良いという事です。初めてなので、色々と関係者に気を使うことも多いと思いますが、決めるのはあなた自身です。違う言い方をすると、あなた自身が決めて良いという事です。積極的に解らない事は確認して、関係者からの提案が有っても鵜呑みにしないで、自分自身で必ず確認(=裏)を取る、もっと良い選択肢がないか調べてみる、場合によっては費用は掛かりますが、それは無駄遣いでは有りませんので、専門家のセカンドオピニオンを利用する事も有効です。
 
 何故なら、

 

 最終的に後で後悔しない、そして満足のいくマイホーム生活をスタートさせる為に。 

 

 これからこの様に非常に基本的な事ですが、極めて重要な事をこのセミナーを通して解き明かしていきますので、皆さんの認識を改めてご確認して頂くと共に、是非日頃の業務に役立てて頂ければ幸いです。出来るだけ丁寧に、やさしい言葉で講義をして行きますので、今後共宜しくお願いします。

 

 それでは第1回目のセミナーはここ迄とします。セミナーに参加して頂き有難う御座いました。