【第1部】不動産売買における登記申請事件
第9回 不動産売買の登記申請事件における司法書士とリーガルスタッフ
(2020年7月1日(水) 公開)
皆さんは法務事務所における司法書士とリーガルスタッフについてご存知ですか?
司法書士の法務事務所には司法書士とリーガルスタッフがいます。リーガルスタッフは法律上の正式な名称を「補助者」といいます。このセミナーでは主に法律実務の補佐を行う補助者を対象にしていますのでリーガルスタッフと呼ぶ事にしています。事務所によってはこの補助者を事務所内の職務に応じて色々な呼称で呼んでいる場合が有ります。例えば、営業職では「営業担当」や「ビジネススタッフ」、総務職、人事職、業務職では「総務担当」、「人事担当」、「業務担当」、更に秘書職では「秘書」や「セクレタリー」等としている場合も有るでしょう。また、管理職では「課長」や「部長」、「局長」、「事務局長」、「シニアスタッフ」、「リーダー」、「マネージャー」、「チーフマネージャー」等です。いずれにしても法務事務所の構成員は司法書士と補助者だけになります。司法書士の法務事務所には司法書士が一人で仕事をしている事務所も少なくないですが、この補助者が一緒にいる事務所が多いのではないでしょうか。
補助者は司法書士と一緒にその事務所の仕事をするスタッフですが、どうしたらなれるのでしょうか? 入所はその事務所が法務事務所での勤務に相応しい人物かの判断のもと採用します。その際、採用試験等が有る事務所も有りますが、そんなに困難な内容では有りません。というのも、一般の人で法律を専門に勉強した人しか入所出来ないというものではないからです。法令上も補助者の資格については規定が有りません。ただ、法務事務所に就職したいと考える人の中には司法書士試験の受験生もいたりします。
採用が決まるとその事務所が所属する都道府県の司法書士会に登録の届け出をします。通常この段階で登録を拒否されることは殆ど無いようです。登録が完了すると「補助者証」というIDが発行され、その所属事務所のみ補助者としてある決まった制限のもと仕事をする事が許されます。つまり誰でも成れるわけでは有りませんが国家試験といった資格試験は有りません。
そうして晴れて入所出来たら、この次は仕事を覚えていきます。これはどの会社も同じです。こうして司法書士のスタッフとして日頃の書類作成から相談者や依頼者の対応までを広範に行います。皆さんも決済の場所や法務事務所で日頃会われていると思います。
さて、いよいよリーガルスタッフの具体的な仕事の内容になりますが、その前に法務事務所の事をもう一度踏まえておかなければなりません。法務事務所は単に営利活動を目的に、自由主義市場経済社会での競争を原理とした利益増大を目的とする一般の会社とはその本質的基盤が異なります。その一つの違いとして、一般の会社はある人が設立しようと考えれば不可能ではありません。勿論最低限の法令上の決まりはありますが。しかし、司法書士の法務事務所は開設(設立)したいと思っても出来ません。その経営者が国家試験である司法書士試験に合格しなければ不可能です。そしてこの職業選択の自由がある自由主義市場経済社会で何故このような制限があるのでしょうか? それは国家が、国家試験に合格した人だけに特別な権限を与えて仕事をして貰う必要があるためです。難易度の高い国家試験に合格する事を条件に、ある種一般の人とは違う特別な仕事が許可されるのです。実務に入った後は、大変厳しい責務があります。この厳しい決まりは一般の会社経営者には無いものです。そして司法書士はその法律専門実務家として、一般の人に対して法律的側面からあるときは相談者に応え、またあるときはその依頼者と共に、またあるときはその依頼者を代理して、希望が叶えられるよう専門知識と能力を発揮して仕事をし、依頼者の権利を守っていくんです。
補助者に話を戻しますが、法令上の厳しい制限の中、補助者は仕事をしています。具体的には
補助者個人では「法律判断」は出来ません。補助者単独でした法律判断は無効であり、何より刑事罰を伴う法令違反です。
法律判断とは、法律関係を認定するための判断、すなわち、ある事実を証拠に基づき事実認定した上で、その事実を法律に当てはめ、法律的にどのように処理する事が出来るか、それを判断する事です。
皆さんの相談や具体的な仕事に補助者単独で対応しているとしたら、それは法令違反になるという事になります。補助者は業務を遂行中は、必ず司法書士に連絡や相談、報告が必要になります。それに関連して補助者が司法書士に代わって法律判断を伴う仕事をしてはなりません。ここは非常に大事な事なので注意が必要です。
また、一部の補助者の中には司法書士に代わって日常の仕事をしても構わない、つまり司法書士のする業務を補助者がしても構わない、場合によっては司法書士に業務上の命令や指示をする、それが補助者の仕事の一つでもあると考えている人はいないでしょうか? それは大きな誤解です。補助者の皆さんは、その勤務する法務事務所の研修内容やOJTによりますので無理もありませんが、事務所代表の経営の仕方で色々な方針、指導がなされる中、そのように曲解していたとしたら、それは紛れもなく法令違反であると認識して下さい。
登記申請事件は、直感や経験則で正しく遂行出来るものではありません。
むしろ、登記申請事件についても経験がない事、知らない事自体は問題ではないのです。
そして仲介業者等の不動産会社の皆さんは一般の人の契約に直接、間接に関与する仕事です。法務事務所はその一般の人の希望が叶うよう、又は権利が守られるよう仕事をしています。我々司法書士が皆さんに売主、買主にとって必要だと思った事はためらいなくするのと同様に、皆さんも大事なお客様のため、更には自身の大切な仕事のために必要だと思った事、疑問を感じた事があれば遠慮なくその法務事務所や司法書士に尋ねて下さい。もし皆さんのその疑問にまともに答えない法務事務所だとしたらそれはどこかおかしい法務事務所に他なりません。
大部分の補助者は優秀で法務事務所や司法書士を補佐し、自身のするべき仕事を誇りと自信を持ってしています。そして依頼者のために誠実に仕事をしようと思っているはずです。補助者の皆さんは自身の使命をこの機会に改めて自覚して、更により良い仕事をしていけるようになる事を相談者や依頼者は期待しています。
今回の第9回法務実務セミナーはここまでとします。今回もこのセミナーに参加頂き有難う御座いました。