【第1部】 不動産売買における登記申請事件
 
 
 今回には、不動産売買の決済の場に何故司法書士は関与するのか、というテーマです。司法書士の具体的な一つひとつの仕事自体に関わってくる内容です。
 
 誰の為に仕事をするのか、何故売買取引きの内容に関与してくるのかといった疑問にお答えします。
 
 

 第4回 不動産売買の決済における司法書士の立会いの重要性

(2020年1月6日(月)公開)

 

 皆さんは不動産決済の場所での司法書士の立会いの重要性って本当にご存知       ですか?

 

 不動産売買の決済の場では売主、買主、売主仲介業者、買主仲介業者、金融機関やその代理店の担当者、そして司法書士が一堂に会します。この日はそれ迄長く掛かった不動産の取引きの最後の日であり、いよいよ念願のマイホームが自分の物になる買主様にとっての記念すべき日なのです。

 

 この日は“決済”の名の通り買主が不動産売買の売買代金の残代金の支払いをします。そして不動産の名義が晴れて買主名義に変わるのです。仲介業者は売主宛の残代金の支払いをする為出金伝票や振込依頼書を買主と作ります。金融機関、例えば銀行の担当者はその伝票類に基づき口座でのお金の送金処理をして口座決済を行います。その後不動産の引渡しに必要な注意事項等を説明し、買主と売主を交え質疑応答を済ませ、この頃に売主の口座に売買代金の残代金が着金されますので、売主が売買代金の残代金の入金を確認出来れば、売主から買主に不動産の鍵を渡して終了です。

 

 それでは司法書士は何をするのでしょうか? 

 

 司法書士は売主、買主双方の所有権という権利を守る為に居ます。そしてその必要性によりこの決済が売主、買主にとって不利益を及ぼさないかを決済立会いを通して確認するのです。

 
 
 例えば、売主と買主は殆ど初対面に近い場合も少なくありません。また、仲介業者はこの不動産売買契約の成約により売主、買主よりお金を貰う立場です。そもそも売主、買主は仲介業者に各々の希望に沿う形で仕事をして欲しいと思っているだけで、それ以上の事迄深く考えていないのが普通です。仲介業者は彼らのこの要望に応えるために出来るだけのサービスをします。勿論仲介業者は法令の規定によりこの不動産売買を公正にしなければならない義務はあります。そして、銀行の担当者は口座決済や融資のための担保権の設定に関心が有りますが、同じように売買契約の成約によりビジネスが出来る立場です。この様な関係で、もし立ち入って売主や買主にあれこれ事情を深く聞いて、気分を害されては折角ここ迄辿り着いた苦労が水疱に帰する危険さえ有ります。つまり、この不動産売買契約に立ち入って売主や買主から事情を聴き出すことはこの期に及んで中々難しい立場でもあるんです。何しろ、決済の場ではそのような雰囲気では有りません。この決済当日は予定されている手続きを淡々と進めるだけなのです。

 

 そこで司法書士の登場です。司法書士は不動産売買の決済において立会いをする事が昔から一般化されており、日本社会の中でこの決済の場に司法書士が同席する事に対する期待と信頼は確立しています。この歴史的背景から来る司法書士に対する売主、買主の期待と信頼は確固たるものなんです。例えば、売主が大事ないわゆる権利証や印鑑登録証明書を疑いも無く司法書士に差出すのもこのためです。

 

 しかしここで一つ疑問が沸きますね。それは

 

 司法書士だって報酬を貰っているんじゃないか・・・だから仲介業者や金融機関の担当者のように売主や買主の気に障る事は言えないのは同じだ、と。
 
 
 
 仲介業者や金融機関の担当者の方々も業界の事、法令の事は勉強されていると思いますので、一般の方が感じるこの様な素朴な疑問は持たないと思いますが、もしこのように考えた方がいらっしゃったらそれは大きな誤解です。前述したように司法書士の受取る報酬は純粋なサービスの対価ではないんです。登記制度を基盤にしたこの日本社会での不動産の取引きの安全性と迅速性を担保するための国が必要とした専門資格者が司法書士なんです。

 

 少し難しいですね。つまり、例えば、第一のこの売買取引きが無効だとしたら、第三者はこの不動産を目的とした次の第二の売買契約上の売主から有効に不動産を購入する事が出来るのかという問題なんです。

 

 当然今回の売買契約が無効なら、その後に出てきた第三者の買主もこの売買契約上の買主を売主とする不動産を自分の物に出来ない事になってしまいます。そうなると、不動産の売買契約の度に一つ前の売買契約が有効か、いやその二つ前の売買契約も調べなければ安心は出来ず、そして三つ前、四つ前と永遠に調べは続き、この日本では結局まともな不動産の売買契約は不可能な事態に陥ってしまうのです。

 

 また、この事に関連して法務事務所のベテランスタッフの中に、“不動産登記制度の目的である取引の安全・迅速”を決済の場でするいわゆる権利証や印鑑登録証明書等の確認をいかに早く終わらせるかという事と同義に認識している人が居ますが、それは大きな間違いです。つまりここで言う“安全・迅速”は不動産売買の全体の取引きの信頼性の事であり、決済の場で行う個々の書類の突合せをいかに早く終わらせるかという事務処理上の事ではありません。逆に不動産登記制度から言えば司法書士は決済の場ではむしろ必要十分な時間を掛けて仕事をしなければならないのは当然の事です。

 

 それから、誤解が多いと思うのは、司法書士の報酬は仲介業者から支払われるものではないという事です。法務事務所への依頼は、今は仲介業者からが多いですが、司法書士の報酬を支払うのは売主様、買主様です。そして報酬を支払う売主、買主は何のために高額な報酬を支払うかというとそれは、もう解りますね。前述したように自分の権利を守って貰う為です。つまり、自分が聞けない、また調べられない事を代わって法律専門の実務家の立場で確認して欲しいという事です。だから、司法書士は売主、買主に本人確認や重要書類の提出、時には個人情報の最たる物である戸籍等も受取り、必要に応じて他人が聞けない事を聴取していくんです。

 

 いいでしょうか? 仲介業者を始めとする不動産会社の皆さんの中に、

 

 “自分のために仕事をするが司法書士”

 

という考え方を持った方が時々居るように思いますが、
 
 
 
 それは間違いです。
 
 
 
 契約当事者である売主、買主、つまり不動産売買についてはよく知らない善意の人々のために献身的に仕事をされている賢明な仲介業者や不動産会社のご担当者の方とは違い、善意であることに乗じてその場限りの仕事をする仲介業者等の担当者は論外ですが、決済の場所で健全な不動産取引きが出来るよう売主、買主のためにこの機会に各々の役割を是非再認識して頂ければと思います。

 

 売主、買主は、不動産の売買契約を公正に行いたいと思っています。

 

 そして、司法書士はその売主、買主に不利益を与えないようにこの取引に関与します。

 

 司法書士がこの取引に関与する理由は全て売主、買主のためなのです。

 

  いかがでしたか?
 
 
 売主、買主がより満足のいく売買取引をする事が一番大事な事であり、その事が皆さんの満足度や達成感が得られる唯一の方法なのです。
 
 
 

  今回の第4回セミナーはここ迄とします。このセミナーに参加頂き有難う御座

いました。