【第1部】不動産売買における登記申請事件
 
 
 
  第15回 不動産売買の決済におけるネット銀行と口座決済
 
       - 買主のための不動産仲介担当者にとっての最善提案 -
 
(2021年3月1日(月) 公開)
 
 
 

皆さんはネット銀行の融資と決済についてご存知ですか?

 
 
 
 今回は、今注目され、今後は主流になるであろうネット銀行について、その不動産決済との関係でお話していきます。
 
 一般の方が住宅を購入する際に必ずと言っていい程利用するのが住宅ローンです。この住宅ローン(金銭消費貸借契約)は、これ迄都市銀行や地銀等といった金融機関の支店等で契約してきましたが、インターネットの利用拡大やスマホの機能充実で、銀行窓口に来るお客さんの減少もあり、都市銀行を中心に店舗数を減らし、関係するネット銀行に住宅ローン業務を事実上移管する流れになってきているようです。ネット銀行はリアル店舗を持たず、コストの削減が出来るため、その分金利も大幅に低くなっており、従来の窓口業務での住宅ローンの顧客獲得は困難になってきているのが現状ではないでしょうか。そのような背景で今後はネット銀行が主流になる日も近いと考えられます。
 
 不動産業界では仲介業者の皆さんが特に関係があります。現在でも、ネット銀行の事を知らない、又は敬遠する仲介の担当者の方をお見受けしますが、その方々は特に今回のセミナーは必見です。今後は、ネット銀行にお客様を紹介出来ない仲介業者は、その手腕に疑問符が付いてしまうからです。
 
 ネット銀行というと、まず浮かぶのが手続きが面倒臭い、手続きにかなりの時間が掛かる、審査が厳しい、仲介担当者が自由にペースを決められない、等一言で言って「仲介担当者にとって」やりずらさを感じる方が多いと思います。その通りで、最初のスタートで印象を悪くしたネット銀行という不動産業界に遅れて入って来た業態は、中々不動産業界のスピード感に付いて来れず、苦戦したのも事実でしょう。
 
 しかし、2018年辺りから仲介業者の方々の声を反映して、フローの見直し等で一部のネット銀行はその仲介業者から評価されるようになってきています。何でもそうですが、最初は問題も多いですが、それは徐々に改善していくもので、皆さんのクレームがネット銀行を更に良くしていく事に繋がりますので、問題点はドンドン指摘した方が良いでしょう。
 
 ネット銀行の手続きは、各ネット銀行によって様々ですが、今回お話しするネット銀行は、ネット銀行でありながらリアル店舗を持っているネット銀行について、その利便性をご紹介します。
 
 尚、ご紹介する手続き方法は、ネット銀行の1つの方法に過ぎないので、予めご了解下さい。しかし、仲介業者の皆さんには参考になると思います。また、この頃は住宅ローンを契約する際、買主の方はご自身で金融機関を探される方もいらっしゃいますので、仲介の方はネット銀行の知識は必須になるでしょう。
 
 それではまず、最初の手続きの住宅ローンの申込みからです。金利やオプション等を比べて、買主は色々用意されている金融商品の中からネット銀行を選定したとします。この際、買主仲介業者と媒介契約を締結している場合は、その買主仲介担当者と相談して決める事になる場合もあるでしょう。そして、そのネット銀行宛に問合せをして、申込みから審査、融資までの概要を確認し、申込書に必要事項を記入して郵送します。ネット銀行では申込書の審査をして、融資基準にクリアーした申込者に仮審査本審査の合格を通知します。この審査中にネット銀行から買主、又はその買主仲介担当者宛に審査合格の打診をします。仮審査の合格の目途が立った段階で買主仲介業者の方は、ネット銀行の担当者と今後の手続きの進め方を打合せします。金融に関しては、仲介実務上、ここから買主仲介の担当者が本格的な調整に入る事になります。
 
 買主仲介担当者は、具体的に売主仲介の担当者と相談し、具体的な住宅ローンの契約日、いわゆる金消日とその決済日を決める作業に入ります。そして、この不動産売買契約での不動産登記申請手続きについて法務事事務所を選定します。不動産売買契約書にいわゆる売主指定条項があれば、売主が指定した法務事務所が不動産売買契約に基づき登記申請事件を担当しますが、その他に売主仲介の担当者が懇意にしている法務事務所を売主の承諾の下、選定し、また、住宅ローンの契約に基づく抵当権の設定契約及び抵当権設定登記申請手続きは、その融資をしたネット銀行の指定の法務事務所が担当する場合もあります。
 
 尚、不動産売買契約では、不動産の所有権を取得する買主のために、宅地建物取引業者の宅地建物取引士が、宅地建物取引業者の責任で(宅地建物取引士の責任ではありません。)、その不動産の重要事項について説明する義務が課されています。この説明の目的は、その物件を取得しようと考えているお客さんに対して、取得して良いかどうかを判断するための重要な情報(判断材料)を提供する事にあります。説明者は、宅地建物取引士がしなければなりません。また、この不動産の所有権を取得した事に伴う売主名義から買主名義に移転する法律上非常に重要な不動産の所有権移転登記申請事件は、買主のためにする手続きになります。
 
 つまり、通常の不動産取引きにおいて、宅地建物取引業者の責任の下、宅地建物取引士が行う主な役割は買主の利益保護であり、重要事項説明書は買主のために作成されるものです。そして、買主名義にする所有権移転登記申請も買主の確定的な不動産取得を目的に申請される法律上とても重要な手続きです。そして、当然ですが、不動産代価も登記申請費用も買主の負担になります。
 
 すなわち、不動産売買契約書の中のいわゆる「売主指定条項」、つまり、不動産売買契約上で、登記申請事件の依頼先である法務事務所の選定権を売主に限定する条項は、本来の不動産売買契約及びそれに伴う不動産の所有権移転登記申請の趣旨とは異なり、一般条項としては規定できない条項になるという事です。止むを得ない事情があり合理的理由がない限り、「売主指定条項」は不動産売買契約の条項とするべきではないでしょう。仮に、他に方法が無い場合は、宅地建物取引業者の責任で、宅地建物取引士が買主に、本来の買主の権利を十分に説明した上で、買主が自身の権利を放棄する承諾(所有権移転登記申請事件の司法過誤で、買主自身が不利益を受けても構わないという承諾)をした場合のみ、条項として組入れる事になります。ここで重要な事は、買主が本来は自身が登記申請事件の依頼先を優先して決定できる事を認識していることが必要であり、後日、認識していなかった事が判明した場合は、例え宅地建物取引業者が説明義務を果たしたと言っても、宅地建物取引士の説明が十分だったとは法律的に評価されない蓋然性が高い事を知識としておくべきです。何故なら、宅地建物取引士がする説明は、買主の判断材料になるべき事項で、買主自身が十分理解できるように説明すべき宅地建物取引業者という専門事業者の一般消費者に対する責任だからです。 
 
 ネット銀行は、色々な手続き方式があると思いますが、その後は通常郵送での取扱になるでしょう。しかし、ここでポイントとなるのは、ネット銀行の手続き代行業者が存在する場合です。この場合、更にその後の不動産売買契約手続きについてもお客様にとっても利便性が増します。
 
 例えば、そのネット銀行にリアル店舗を設けるネット銀行事務代行業者が存在する場合は、その代行店舗で抵当権設定契約もその指定の法務事務所が代行して行います。そして、住宅ローンの契約日と抵当権設定契約日は通常同じになりますが、ここで、お客様の負担を考慮して、指定の法務事務所は抵当権設定契約の時に抵当権設定登記の代理申請のための登記申請事件委任手続きも一緒に行ってしまいます。この時間は、客様の負担やご都合も考慮して、法務事務所の司法書士とネット銀行の手続代行業者で分担し、大体合計2時間程度で行います。更に、この日に決済の日に融資が実行できるように、不動産の売買代金残代金、仲介手数料、法務事務所宛の登記申請の報酬の振込依頼書を作成してしまうんです。この流れが一般の銀行と違うところですね。
 
 つまり、不動産売買契約の残代金決済日の前に、買主様とネット銀行事務手続き代行業者が、その店舗で住宅ローン契約(金銭消費貸借契約)、不動産抵当権設定契約、抵当権設定登記申請事件委任契約の3種類の契約を締結し、その契約に基づき振込依頼書等の伝票類を全て作成するという事です。
 
 そして、いよいよ決済の日を迎える事になるのです。決済の日は、このセミナーでもお話済みですが、その日迄に準備をした内容を踏まえ、淡々と手続きが進みます。その中で、一般の銀行が関わる融資の実行手続きとは大きく異なるネット銀行特有の融資の実行手続きがあります。それが「電話実行」です。お解りでしょうか? 仲介業者の応接室や場合によってはネット銀行の手続き代行業者の店舗の会議室を使用して決済が行えるのも、ネット銀行ならではの事ですね。従来なら、銀行の応接室で登記の書類が調ったら、いったんその応接室を出て銀行の担当者が居る事務エリア迄行き、実行の合図をしますが、ネット銀行の場合は、決済に出席した方々が席を立たずに全て行えるのが特徴です。これは、従来の慌ただしさを知っている仲介業者の担当者の方でしたら、非常に嬉しい事だと思います。何しろ、場合によっては銀行の応接室を借りれず、一般のお客さんの居るソファーで、フロアーの銀行担当者が迷惑顔でこちらを見ているのを尻目に最低でも5人から6人の大の大人が行ったり来たりしながら決済をしたり、また仲介業者の会社で行った場合も、銀行の口座決済のため、振込依頼書等の作成で融資先の銀行にみんなで移動しなければならない状況だったので・・・雨の日も風の日も雪の日も。この事は、売主様、買主様にとってもとても喜ばしい事なのです。何しろ、数千万円以上の買物をする契約なのに、銀行の待合フロアーとは情けない話しだからです。
 
 更に、売主の売買代金の着金確認も抹消銀行の完済確認も事前にその金融機関に電話でする事を確認しておけば、売主側、買主側の手続きは全てその場で行えます。
 
 
 司法書士が融資の実行を掛けたら、あとはその資金が売主や抹消銀行、仲介手数料、法務事務所宛の登記の報酬の着金確認、完済確認迄の間、売主や売主仲介の担当者からの買主に向けての住宅の説明や質疑応答、関係書類の署名押印をし、着金確認、完済確認ができたら最後に売主から買主に鍵の引渡しをして決済は無事終了になります。
 
 そして、完済確認迄済めば、いよいよ我々の登記の申請手続きです。
 
 これがネット銀行の決済迄の一つの一般的な流れです。
 
 ところで、
 
 
何故 決済の場で電話一本で融資の実行ができ
 
更に その融資が売主やその他の関係者へ自動的に送金されるのか?
 
そして
 
何故ネット銀行は一般的な決済に掛かる時間より大幅に早いのか?
 
 
 お解りになりましたでしょうか?
 
 それは、まず金消日にあります。前述したように金消日に振込依頼書等の伝票類をお客様の買主に書いて頂くんです。その手続きにより決済日は席に座っているだけで資金が自動的に流れるように見えるんです。又、振込依頼書等を事前の金消日に書く都合上、必ずどこにどれだけの金額が必要かの金種を金消日前の決められた期限迄にネット銀行の手続き代行業者に提出しておかなければなりません。これは、仲介業者の担当者にとってとても大事な手続きですので気を付けて下さい。この金種が解らないと金消は延期になってしまいます。金消が延期になると、もともとの日程がタイトな場合、決済日自体も延期にならざるを得ませんので、くれぐれも注意が必要です。
 
 決済に掛かる時間が早いのは、この売買契約による住宅ローンの契約の段階から、実はこの融資案件はフォローが始まっており、逐一、ローンの申込みから最後の融資の実行迄ネット銀行はその進捗をウオッチしていて、司法書士からの融資実行コールが掛かり次第、直ちに融資を実行出来る体制を組んでいるからなんです。なので、買主は自身のスマホでお金の流れをモニタリングしていきますが、一般的に司法書士からの融資の電話の実行コールから買主の口座にその融資が入金される迄約5分から10分程度で完了します。そして、その買主の口座から各々振込み先口座への放射線状の送金処理は一瞬で終わります。あとは、売主側の金融機関の着金確認と完済確認の時間になるのです。この着金確認や完済確認も一般的には、その金融機関の担当者が予め連絡があった口座の入金を目視して確認していき、それらしい金額の入金が有った時は、手動でローンの残代金の引落しを行います。その時間は今回の売主の売買代金の入金の他にも多数の入出金の情報が銀行に入りますので、それを目視で確認していくわけですから、決済の開始時間との関係で、資金の動く数が少なければ着金確認も早いし、資金の動く数が多ければその分、確認する時間の待ち行列の関係上、着金確認も遅くなります。更に、銀行によっては上長決裁が必要になりますので、ここでも時間を要するというわけです。
 
 この売主側の金融機関の手続きについては、売主側仲介担当者又は司法書士が予め連絡をしておき、決済日には電話で確認できるように金融機関の担当者と事前に打合せをしておけば、その担当者も着金確認や完済確認の用意ができますので、決済日当日を順調に進めたいのであればこのような段取りもしておく事が必要でしょう。しかし、この頃は、売主もネット銀行を利用している場合もあり、自身の口座の入金はすぐに判るため、抹消担保が無い場合は、全体で40分掛からないで終了する事もあるようになりました。
 
 そして、最近はメガバンクでもスマホでの残高照会等のサービスを提供していますので、その場合は売主がネット銀行を口座決済銀行にしていなくても、決済場所でスマホを利用して残高確認ができます。
 
 ネット銀行は、これからの住宅ローンの主流になるでしょう。そして、そのネット銀行を自身の職務範囲に入れたら、あなたは他の仲介業者の担当者と差を付ける事が出来ます。そして、お客様に喜ばれる真の仲介業者の営業マンに成れるでしょう。
 
 仲介業者の皆さんの中には、自身の都合で知っている金融機関の担当者、つまりあなたにとって「やり易い」金融機関を買主に紹介して、この仲介案件を自身のペースで進めたいと考えている方も居るかと思います。そこには、あなた自身の成績や会社のノルマが関係している事は容易に想像できますが、それはご自身の都合でしかなく、本来の仲介業に戻って、買主のために有利な金利やオプションサービスのある金融機関を是非勧めて下さい。特に、ネット銀行の金利は一般の銀行に比べて非常に低い商品を提供しています。また、ネット銀行の中には、手続き代行業者を設置し、ネット銀行でありながらリアル店舗で買主に対するサービスを提供する銀行もあります。
 
 買主は、あなたが勧めた金融機関と30年から35年もの間、付合わなければならないのです。
 
 
一番良い選択肢の提案ができるかが 腕の見せ所です
 
 
 
 
 
 今回のセミナーはここ迄とします。今回もこのセミナーに参加頂き有難う御座いました。