ニュースレター ➊ 生前法務・相続法務

 

 相続法が38年ぶりに改正された!

 
 高齢化等に対応するための大きな改正です!!
 
 更に、いよいよ成人年齢が引下がります。
 

1.自筆証書遺言の方式緩和(2019年1月13日(日)施行)

 遺言関係では自筆証書遺言の方式が緩和されました。財産目録はワープロや金融機関発行の証明書を添付すればよく、直筆部分は本文だけとなり大分手軽になりました。

2.婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
(2019年7月1日(月)施行)
 婚姻期間20年以上の夫婦間で、被相続人の気持ちが尊重され、その配偶者への居住用不動産の贈与等は遺産の先渡しとはならず、結果的に相続時にはより多くの遺産を取得出来る事になりました。高齢化は社会的な問題であり、勤労出来ない期間も安心して暮らせるようにとの趣旨が有ります
 
3.預貯金の払戻し制度の創設(2019年7月1日(月)施行)

 今問題となっている「財産凍結」問題を解消するための一つの方策になります。

4.遺留分制度の見直し(2019年7月1日(月)施行)

 遺留分が侵害された相続人は金銭でその侵害額を請求出来る事になりました。この事により不可分な不動産の共有化を避ける事が出来ます。

5.特別の寄与の制度の創設(2019年7月1日(月)施行)

 相続人以外でも寄与分が認められるようになりました。

6.相続の効力等に関する見直し(2019年7月1日(月)施行)

 遺言での相続分を超える遺産の取得では、登記をしなければ自分の不動産であると第三者に主張出来ない事を明文化したものです。今後はこの規定により遺言書で相続した遺産についても相続分を超える持分については登記が必要になります。

7.配偶者居住権の新設(2020年4月1日(水)施行)

 建物の所有者である被相続人の配偶者は、相続時にその建物に居住していた場合、遺産分割において配偶者居住権を取得することにより、終身又は一定期間、その建物に無償で引続き住み続けられるようになりました。これも高齢化する社会的問題に対応出来る法制度にするためのもので、大変良い事だと思います。

8.法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設(2020年7月10日(金)施行)

 遺言書保管所(法務大臣が指定する法務局)にて書遺言の保管が出来るようになりました。その他にも相続人等は保管有無の調査や写しの請求、閲覧も可能になります。この制度で検認手続が不要になります。
 
9.成年年齢の引下げ(2022年4月1日(金)施行)
 
 成年年齢が、20歳から18歳に引下がります。
 
 

 改正相続法等に関心を持って頂き、是非、高齢化時代に不利益を受けないようにして下さいね!!

 

 

 

 <改正相続法及び制定遺言書保管法等の要説>

 

 もっと詳しく知りたいという方のために、改正相続法及び制定遺言書保管法、成年年齢引下げの各々について簡略化して解説しますので、お時間の有る方はお読み下さい。

 

 平均寿命が延び、高齢化が進展するなど社会経済の変化に対応するため、前回の1980年(昭和55年)以来の大きな改正です。2018年(平成30年)7月6日(金)に改正民法(相続法)と遺言書保管法が可決成立しました(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号))。交付日は同年7月13日(金)です。注意が必要なのは各々の施行日が異なり、2019年(平成31年)1月13日から段階的に施行されています。
 
 又、成年年齢に関する民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)が、2018年(平成30年)6月13日に成立、同年7月13日公布、2022年(令和4年)4月1日施行されます。
 

 

2019年1月13日(日)施行

 ○自筆証書遺言の方式緩和

 

2019年7月1日(月)施行

 ○婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置

 ○預貯金の払戻し制度の創設

 ○遺留分制度の見直し

 ○特別の寄与の制度の創設

 ○相続の効力等に関する見直し

 

2020年4月1日(水)施行

 ○配偶者居住権の新設

 

2020年7月10日(金)施行

 ○法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設(遺言書保管法)

  ※手続きの詳細は施行迄に政省令で定める事となります。

 
2022年4月1日(金)施行
 
 〇成年年齢引下げに関する民法の一部を改正する法律
 

 

 それでは、この9つの改正及び制定の法律について見ていきましょう。

 

 何といってもまず遺言書の改正ですね。これは「自筆証書遺言の方式緩和」の改正ですが、簡単に言うと遺言書を改正前は全て自筆で書かなければなりませんでしたが、改正後は財産目録はワープロや官公庁、金融機関が発行する証明書を添付すればよい事になりました。但し、各財産目録には署名押印をしなければなりません。この事により、遺言を書く人は遺言の主要部分である本文だけを自筆すればよく、大変手軽になりました。

 

 「婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置」では、これは夫婦間で贈与を行ったとしても、原則として遺産の先渡しを受けたものとして取扱われたので、相続時にその贈与等がなされた分を加算した額で遺産が計算されましたが、改正法では遺言をした人の気持ちがより生かされる事になり、結果としてその配偶者の受ける相続財産が多くなる事になります。これは良かったですね。

 

 「預貯金の払戻し制度の創設」は、預貯金が遺産分割の対象となる場合に、各相続人は、遺産分割が終る前でも一定の範囲で預貯金の払戻しを受ける事が出来るようになりました。これは興味深い創設ですね。所謂「財産凍結問題」と関連が有ります。

 2016年(平成28年)12月19日最高裁大法廷決定(遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件での原審への破棄差戻)により、①相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれる事となり、②共同相続人による単独での払戻しが出来ない事とされていました。
 
 しかし、この創設により、預貯金債権の一定の割合(単独で払戻しをする事が出来る額は次の通りです。(相続開始時の預貯金債権の額(口座基準))×1/3×(当該払戻しを行う共同相続人の法定相続分)。一つの金融機関から払戻しが受けられるのは最高150万円迄。)については、①家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払を受けられるようになりました。又、②預貯金債権に限り、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件を緩和されました。遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応出来るようにする趣旨です。
 
 ①は限度額が定められている事から小口の資金需要に、②は限度額を超える比較的大口の資金需要について用いる制度になる事が想定されています。

 

 ※ 最高裁判例

 ① 事件番号 平成27(許)11

 ② 事件名 遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

 ③ 裁判年月日 平成28年12月19日

 ④ 法廷名 最高裁判所大法廷

 ⑤ 裁判種別 決定

 ⑥ 結果 破棄差戻

 ⑦ 判例集等巻・号・頁 民集 第70巻8号2121頁

 ⑧ 原審裁判所名 大阪高等裁判所

 ⑨ 原審事件番号 平成27(ラ)75

 ⑩ 原審裁判年月日 平成27年3月24日

 ⑪ 判事事項 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は遺産分割の対象となるか。

 ⑫ 判例趣旨 共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となる。(補足意見及び意見がある)

 ⑬ 参照法条 民法264条、民法427条、民法898条、民法907条

 

 「遺留分制度の見直し」は、遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の請求をする事が出来るようになりました(遺留分減殺請求権の法的性質を物権的請求権から金銭債権化へ変更)。この事により、従前の「遺留分減殺」を登記原因とする所有権の移転登記の申請は受理しない事となりました(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(通達)法務省民二第68号令和元年6月27日法務省民事局長)。
 
 尚、この改正後の規定は、改正法の施行の日(令和元年7月1日)以降に開始した相続について適用され、同日前に開始した相続については、なお従前の例によるとされました(改正法附則第2条)。
 
 遺贈や贈与を受けた者が金銭を直ちに準備する事が出来ない場合には、裁判所に対し、支払期限の猶予を求める事が出来ます。このことにより、不可分である不動産の共有化といった事態が避けられる事になります。

 

 「特別の寄与の制度の創設」は、相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、相続人に対して金銭の請求をする事が出来るようになりました。改正前では、寄与分は相続人の中でのみ認められていましたが、この改正により相続人ではなくても、被相続人に貢献した人の実質的公平が図られます。 

 「相続の効力等に関する見直し」は、特定財産承継遺言等により承継された財産については,登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができるとされている現行法の規律を見直し,法定相続分を超える部分の承継については,登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することが出来ないとする規定を新設したものです。これにより遺産分割の効力(民法909条)の規定やその判例(最判昭和46.1.26)と同様に「相続させる」旨の遺言による特定財産の承継の場合も対抗要件主義(民法177条)が明確化しました。

  尚、この改正後の規定は、改正法の施行の日(令和元年7月1日)以降に開始した相続について適用され、同日前に開始した相続については、なお従前の例によるとされました(改正法附則第2条)。 
 
 「配偶者居住権の新設」は、被相続人の配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、その配偶者は遺産分割において配偶者居住権を取得する事により、終身(配偶者居住権)又は一定の期間(配偶者短期居住権等)、その建物に無償で居住する事が出来るようになります。又、被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させる事も出来ます。この事により、被相続人の配偶者は、被相続人の遺言にこの権利が記述されていなくても、遺産分割時に配偶者居住権を取得する事により、法律上当然にその配偶者の居住権という生活上とても大事な権利を得ると共に、相続財産の計算の中にはこの居住権は含まれないので、結果として通常の相続分に加え居住権を得る事になり、生活費の心配が緩和され安心になります。

 

 「法務局における遺言書の保管等に関する法律」は、遺言書を作成した人は、法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所)に遺言書の保管を申請する事が出来るようになります。遺言者が死亡した後に、相続人や受遺者等は全国にある遺言書保管所において、遺言書が保管されているかどうかを調べる事が出来(「遺言書保管事実証明書」の交付請求)、遺言書の写しの交付を請求する事が出来(「遺言書情報証明書」の交付請求)、又、遺言書を保管している遺言書保管所において遺言書を閲覧する事も出来るようになります。

 この手続きは遺言書を作成した本人が遺言書保管所に来て手続きを行う必要が有ります。これらの手続きには手数料を納める必要があります。これにより、家庭裁判所の検認が不要になり、又、遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付がされると、遺言書保管官は、他の相続人に対し、遺言書を保管している旨を通知します。

 
 遺言書の保管の申請は、遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所の遺言書保管官に対してします。「遺言者の住所地」は、遺言者の住所を証明する必要から住民票の有る遺言者の住所地となる見込みです。又、「遺言書保管所」は、手続き上不便とならない程度の数の保管所が指定され、大都市等に限られるものではない模様です。保管の対象となる遺言書は公正証書遺言以外の遺言書で、封のされていない法務省令で定める様式に従って作成されていなければなりません。尚、遺言書保管所の指定及び具体的な管轄、手続きの詳細については施行日(2020年7月10日)迄の間に政省令で定める事となります。
 
 
 「民法の一部を改正する法律」では、成年年齢は満20歳から満18歳に引下げられる事となりました。国際的に成人年齢は満18歳とする国が多いようです。日本ではいかがでしょうか。
 
 

(法務省民事局公報等参考による)

(2019年10月17日(木)リリース)

 

 (追 記)

 

 相続法改正で、法務省の広報資料の中で、一部の広報資料中で未掲載になっていた内容を今回追記します。

 

●相続開始後の共同相続人による財産処分について

 

 施行日  2019年(令和元年)7月1日

 

 相続開始後に共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分した場合に、計算上生ずる不公平を是正する方策を新設するものです。

 

 共同相続人の一人が他の共同相続人に黙って、勝手に遺産の一部を処分するいわゆる「遺産の使い込み」に対しての法改正です。

 
 この法改正の適用は、2019年7月1日以降の相続が対象となります。
 

 民法では、相続開始前に生じた事情については遺産分割時に考慮していますが、相続開始後の遺産の増減については遺産分割時に考慮していませんでした。

 
 遺産分割協議は、現にある遺産をどう分けるかという話合いに基づく合意になります。
 

 例えば、相続開始前に共同相続人の一人に生前贈与が有った場合、それは特別受益の対象となり、遺産分割時にその分が遺産に加算され(特別受益の持ち戻し)、法定相続分(法律上の基本的割合)に基づき各共同相続人の具体的相続分(特別受益や寄与分を考慮した割合)を決めます。他方、相続開始後にある共同相続人による遺産の一部処分(以下「遺産の使い込み」という。)に対しては、その処分された遺産の一部は「もはや遺産ではなくなります」ので、処分された後の残された遺産(以下「遺産分割時の遺産」という。)が遺産分割の対象となる財産となります。

 

 「もはや遺産でなくなります」とは、被相続人が相続開始時に遺した財産の事を遺産と言いますが、遺産分割の対象となる「遺産」は「遺産の使い込み」後に残った財産であるので、その意味で遺産の使い込み部分の財産はもはや遺産分割時の「遺産」ではなくなるという事です。

 

 法定相続分は法律上予め規定され決められており、具体的相続分も実際には特別受益や寄与分を考慮して決めますが、潜在的には相続開始時に既に決まっているものです。ここで、各共同相続人の法律上の法定相続分に基づく実際の具体的相続分は「遺産の使い込み」が無かったと仮定した場合の割合になりますが(「遺産の使い込み」は相続開始後に起こる事実ですが、具体的相続分は既に相続開始時に定まっているので、その具体的相続分の計算は相続開始後に、遺産の使い込みが有った後の遺産分割時の遺産を基礎とするのではなく、相続開始時の遺産を対象として算出します)、仮に、この遺産分割時の遺産に対して各共同相続人の法定相続分に基づき具体的相続分を算出すると、特別受益と違い相続開始後に遺産の一部が処分された場合、その財産の部分は遺産分割時に考慮されないため、結果として「遺産の使い込み」をした共同相続人が相続開始後に処分した一部の財産の分だけ多く遺産相続する結果となり、共同相続人間に不公平が生じていました。

 

 この改正理由には、裁判でも民事訴訟では具体的相続分は遺産分割を経て初めて実際の共同相続人の権利となるため、遺産分割前のその具体的相続分(潜在的具体的相続分)を前提とした不法行為または不当利得に基づく地方裁判所での救済は困難とされてきた実情が背景にある事を挙げています。仮に訴訟がなされた場合でも、それは法定相続分の範囲内に止まる事になります。

 

 また、遺産分割協議なので、遺産分割時に共同相続人全員の同意が有れば「遺産の使い込み」部分を遺産分割時の遺産に組み戻す事は可能ですが、この場合「遺産の使い込み」をした共同相続人の同意を得る事は現実問題として困難な状況も有ります。

 

 そこで、今回の改正では法律上の規定を新設する事で、処分された遺産(預貯金)につき、遺産に組み戻す事について、処分者以外の共同相続人全員の同意が有れば、処分者の同意を得ることなく、処分された遺産(預貯金)を遺産分割の対象に含めることを可能とし、不当な出金が無かった場合と同じ結果を実現出来るようにして、共同相続人間の実質的公平を実現したものです。

 

 尚、改正趣旨から遺産の使い込み部分の対象となるのは、預貯金だけではなく動産や不動産も含むと解されますので、動産や不動産の現実の取戻しは別問題として、その価格が客観的に評価出来れば、遺産の使い込み部分の財産も計算上遺産分割時の遺産に組み戻す事も可能であると考えます。

 

 

 ※「相続開始後の共同相続人による財産処分について」(法務省民事局HP)

 

 

(2019年12月6日(金)追記リリース)