ニュースレター ❷ 生前法務・相続法務
 
 

 自筆証書遺言とは?

 
 
 生前法務・相続法務の第2回目のニュースレターでは、現在、そしてこれから関心が高まるであろう「遺言」について掲載します。

 遺言は法律上大きく分けて2つの種類が有ります。1つは普通方式の遺言。もう一つは特別方式の遺言です。

 

                          ①自筆証書遺言

          ■普通方式の遺言→   ②公正証書遺言

                          ③秘密証書遺言

 

 遺言書 → 

 

                                    ④死亡危急者遺言

                        ●危急時遺言

                                    ⑤船舶遭難者遺言

 

          ■特別方式の遺言

 

                                    ⑥在船者遺言

                         ●隔絶地遺言

                                    ⑦伝染病隔離者遺言

 

 遺言書の種類はその時々の事情や遺言者の考え方で選択されますが、私たちが日常作成する遺言は普通方式の遺言になります。その中でも特に利用さされている遺言書は自筆証書遺言と公正証書遺言の2つでしょう。

 公正証書遺言は、公証役場で作成する厳格な手続きの遺言です。この公正証書遺言についてはまた回を改めて掲載します。

 今回のニュースレターでは自分一人で作成出来る自筆証書遺言について記載します。

 前提として何故「遺言書」を作成するのかについては次のような色々な利点が有るからです。

 ①最大の利点は遺言書には財産の分配方法を指定するための役割が有るので、この遺言書によって自分のために親族間に紛争を生じさせる事を未然に防ぐ事が出来る。
 
 ②「遺言書」はいわゆるエンディングノートでは無く、遺言者の意思(遺志)を法律上生かす事が出来る代表的な方法である。

 ③「遺言書」の法律上の効力は非常に強いく、遺産分割協議より優先する。つまり、法律で定められた相続割合に優先し、しかも遺産分割協議をする事なく相続手続きをする事が出来る。

 ④相続人の中に未成年者が居る場合、遺産分割協議をする時、家庭裁判所にその未成年者の代理人として特別代理人の選任を請求しなければならず、相続手続き全体として複雑になる事を防ぐ事が出来る。

 ⑤法律で定められた相続人以外に自分の財産を分ける事が出来る。

 ⑥相続人が居ない場合、その相続財産が国のものになってしまう。

 ⑦遺言執行者を指定出来る。

  

●自筆証書遺言の利点と欠点

 自分一人で作成出来て、費用も掛かりませんが遺言書として法律上成立しているか判らない。又、紛失の危険が有り、更に検認手続きをしなければならない。

 
 
●自筆証書遺言の法律上の成立要件

 ①本文は手書きする。

 ②日付を手書きする。

 ③署名・押印する。

 

●自筆証書遺言の作成上のポイント

 ①法律上の要件を満たす事。

 ②遺言の内容は誰が読んでもハッキリと判るよう明確に書く。

 ③遺留分を想定する(強い効力の有る遺言でも遺留分には劣後します)。

 ④出来るだけ遺言執行者を指定する。

 

●自筆証書遺言の注意点

 ①財産目録はワープロでも可。

 ②印鑑は出来るだけ実印とする。

 ③自筆証書遺言は「検認」が必要のため、封筒に「遺言書の保管者又は遺言書を発見した相続人は開封せずに家庭裁判所に提出し検認を受ける事」とハッキリと明記する。

 

●検認について

 遺言書を発見したら、遺言者が死亡した後、遅滞なく家庭裁判所に検認の手続きを請求しなければなりません。

 

●遺言執行者について

 未成年者又は破産者以外は遺言執行者になれます。

 尚、遺言執行者は「遺言を執行する者」なので、「遺言の存在」を前提とした制度であり、そもそも遺言自体が不存在ならば遺言執行者の存在も観念出来ない事に注意を要します。

 

●自筆証書遺言の特徴

 自筆証書遺言は手軽で、身近に感じる遺言の方法だと思います。機会を改めて「公正証書遺言」について掲載します。いずれにしても、この機会に遺言について関心を持って頂き、是非書いてみてはいかがでしょうか? 
 
 何故なら、遺言書は遺言者にとって大事なご家族に対する将来の願いを込める事が出来る法律上最も代表的な手続きだからです。

  

 

 

<自筆証書遺言の要説>

 

 自筆証書遺言の詳細を簡略化して解説します。更に関心の有る方はどうぞ。

●自筆証書遺言の利点と欠点

 ○利点は

 ①自分一人で作成するため費用が掛からない。

 ②証人はいらない。
 
 ③いつでも書換えが出来る。
 
 ④所要時間は内容にもよるが本文だけなら1時間程度。

 

 ○欠点は

 ①紛失の危険が有る。

 ②自分一人で作成するため法律の要件に合致しない事に気が付かない場合が有る。この事により遺言が法律上の効力を生じない事になる(つまり折角遺言書を作成しても遺言書の通り財産を分ける法律上の執行力が無いという事)。

 ③基本的に自分一人しか知らないため、自分が死亡した時に遺言の存在が明らかにならない危険が有る。争いの原因になる可能性が生ずる。

 ④家庭裁判所での検認の手続きが必要になる。

 

●自筆証書遺言の法律上の成立要件は3つです。この要件を1つでも欠くと遺言自体は法律上の効力を生じません。

 ①本文は手書きする。

 ②日付を手書きする。
  ※「日付」は、作成日を特定して記載しなければなりません。(例)令和元年10月吉日は「吉日」の部分が日付を特定していないので遺言書が効力が有りません。
  ※「日付」は、「真実の作成日付と相違していても、その記載が誤記である事及び真実の作成の日が遺言証書の記載から容易に判明する場合には、その日付の誤りは遺言を無効にしない。」という判例が有ります(最判昭和52年11月21日)。(裁)判例は、個々の争いが有った事件に対して、その事件のみに判断されるものです。又、裁判には高額の裁判費用が掛かります。基本的には、作成日を記載する事が将来の紛争を防止するためには良いかと思います。
 
 ③署名(氏名)・押印をする。
  ※署名は、他人と混同される恐れがある場合は住所等も付記する事が必要です。
 
 

●ます遺言書の作成のポイントは次の通りです。

 ①法律の要件を満たす事。

 ②遺言の内容は正確に記述する事。

 ③遺留分を想定する事(効力の強い遺言でも遺留分には劣後します)。

 ④出来るだけ遺言執行者を指定し、又は遺言執行者を指定する者を決める事。
 
 ⑤付言事項も入れた方がよりよい。
  ※例えば家族に対する自分の考えや思い、生活の保障をしてあげたいという気持ち。この事により、遺言の内容(趣旨)がより明確になり、親族間の紛争も未然に防ぐ事に役立ちます。

 

●注意点は、次の通りです。

 ①財産目録はワープロでも可。又、金融機関の通帳等のコピーも添付可能。但し、偽造防止のため、添付した各目録やコピーには署名・押印が必要。尚、手書きであるなら正確に記述する。

 ②訂正は、正しい訂正文言と署名・押印が必要(しかし、遺言書は大事な書面のため、訂正ではなく誤記した時は初めから書き直した方が良いです)。

 ③筆記具は消せないものを選ぶ(フリクション等の消せるポールペンには要注意)。

 ④紙は長期間の保存が出来る高品質で高耐久性の有るものを選択。

 ⑤印鑑は可能な限り実印とする。

 ⑥封筒に入れて封印をする。封緘印は本文で押印した実印を使用する。

 ⑧自筆証書遺言は「検認」が必要のため、封筒に「遺言書の保管者又は遺言書を発見した相続人は開封せずに家庭裁判所に提出し検認を受ける事」とハッキリ明記する。
 ⑨作成したら厳重に保管する。けっして紛失などしない様に注意する(出来れば信用の置ける人に保管場所を伝えておくと良いでしょう。例えば、遺言執行者等)。
 

●検認について

 ①検認とは

 検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。つまり、遺言書自体の保全手続となります。遺言が効力を生じているか否かの判断をする手続ではありません。

 この検認手続きは、公正証書遺言以外の全ての遺言で必要になります。

 尚、この検認手続きは、遺言の効力自体には影響は無いため、法律上は検認無しの遺言書で遺産分割や遺贈等の執行も可能となります。但し、公的機関による不動産登記等の場合は、書面審査により手続き(証明)を行うため、検認済証明書付遺言書でなければ受理されません。又、遺言書を発見した人には法律上、検認手続きの請求義務が有り、これを怠った場合や家庭裁判所外で開封した場合は、法律上5万円以下の過料(行政罰)に課せられます。更に、相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者は相続人となる事が出来ません(相続人の欠格事由)。

 ②遺言書保管者や相続人の義務

 遺言書(公正証書による遺言を除く。)の保管者又はこれを発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,その「検認」を請求しなければなりません。また,封印のある遺言書は,家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。

 ③申立人

 遺言書の保管者又は遺言書を発見した相続人

 ④申立先

 遺言者の最後の住所地の家庭裁判所

 ※「遺言者の最後の住所地」とは、基本的に遺言者の最後の住民票の住所地になりますが、管轄の問題になるので、裁判官の判断により、家庭裁判所において申立時の証明によって現実に生活をしていた住所地でも認めれれる場合が無いとは言えません。

 ⑤検認手続きの申立て書類

 ・検認申立書

 ・遺言者の出生から死亡迄の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍、等含む)

 ・相続人全員の戸籍謄本各1通

 ・その他各相続事案で、家庭裁判所担当官から求められた証明書等

 ※基本的に遺言者の住民票(除票)の写しは申立書類に含まれていません。

 ⑥ 申立に必要な費用

 ・遺言書(封書の場合は封書)1通につき収入印紙800円分

 ・連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ要確認。)

 ・相続人特定のため必要な書面

(例) 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

    相続人全員の戸籍謄本、等 

 ⑦検認続きの流れ

 <検認手続きの申立て>

 立会人は、申立てに必要な書類を持参し、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に検認手続きの申立てを行う。

   ↓

 <家庭裁判所から検認期日の通知発送>

 申立書類に不備が無い場合は、申立てから約1カ月後に、家庭裁判所から相続人全員に検認期日の通知が発送されます。

 申立人は、遺言書と印鑑、その他家庭裁判所担当官から指示されものを持参する。

   ↓

 <検認期日>

 申立人から遺言書を提出し,出席した相続人等の立会のもと,封筒を開封し,遺言書を検認する。検認期日に相続人全員が出席しなかったとしても検認は行われる。但し、申立人は欠席出来ない。尚、検認期日に欠席した相続人には検認が終了した旨の通知が家庭裁判所より発送される。

 確認後、検認調書が作成される。又、遺言執行をするためには遺言書に検認済証明書が付いていなければならないため、検認済証明書の申請をする。尚、検認済証明書の申請には、遺言書1通につき収入印紙150円分と申立人の印鑑が必要。

   ↓

 <相続手続き開始>

 検認済証明書付遺言書で遺言の執行を行えるようになる。

 ※自筆証書遺言の保管者や遺言書を発見した相続人は、遺言者死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所に検認の申立てをしましょう。特に、封印の有る遺言書は必ず開封せずに家庭裁判所に提出しなければならない事に注意して下さい。

        

●遺言執行者について

 ①遺言執行者の存在意義

 遺言執行者は、相続人の代理人とみなされ、遺言の執行につき一切の権利義務を有しており、その職責上、中立・公正・独立の立場で任務を遂行するので、遺言執行者を予め決めておく事により、合理的に相続手続が進み、相続人間の相続トラブルを未然に防ぐ事が期待出来ます。

 ②遺言執行者の指定

 未成年者と破産者以外であれば誰でも遺言執行者に就任する事が出来ます。

 選任方法は、次の3つである。

 ▼遺言書での指定。

 ▼遺言書で遺言執行者を指定を委託する者を決める。
 
 ▼遺言書で遺言執行者についての指定が無い場合、又は遺言執行者が不存在になった場合は、利害関係人(相続人、受遺者、被相続人の債権者、等)の請求により家庭裁判所が選任する。
 
 尚、遺言執行者は「遺言を執行する者」なので、「遺言の存在」を前提とした制度であり、そもそも遺言自体が不存在ならば遺言執行者の存在も観念出来ない事に注意を要します。 

③遺言執行者を指定する利点

 遺言執行者は遺言を執行する一切の権利義務を有しています。遺言者がお亡くなりになった後に遺言の内容がいつ迄も放置されるのを防止し、又、他の相続人が独善的に遺産を処分する事等を阻止する事が出来ます。

 更にまた、遺言に従って手続きをする際、相続人全員の署名押印書類が要求される場合が有るのに対し、遺言執行者が相続人代表として効率的に処理出来ます。

 尚、一部金融機関によっては、相続人が遺言執行者であるとき、相続人全員の署名押印書類を求められる事が想定されます。これは、法律上の判断というよりは、その金融機関の自衛措置や対応した担当者の知識不足から来るものと考えられ、この様な場合は、出来るだけその金融機関の指示に従う事が手続きをスムースに進ませる一つの知恵とも言えますが、法律上は必ずしも従う必要な無いので、司法書士や弁護士に相談する事も有効です。

 ④遺言執行者の欠格事由

 未成年者又は破産者でなければ誰でも遺言執行者に指定出来ます。未成年者は判断能力の問題で、破産者は財産管理能力の問題で欠格事由になると考えられています。

 この欠格事由は、遺言の効力発生時(遺言者のお亡くなりになった時)を基準として判断します。従って、遺言作成時に遺言執行者として指定された者が未成年者であっても、遺言の効力発生時に成年に達していれば遺言執行者に就任出来ます。又、遺言作成時に遺言執行者として指定された者が、遺言の効力発生時に破産していれば欠格事由に該当し、遺言執行者には就任出来ません。

 尚、この場合は、相続人間で遺言執行するか、利害関係人の請求で家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てる事になります。

 因みに、遺言執行者は複数人指定する事も出来、この場合は、保存行為を除き、その執行は過半数で決し、遺言の執行を行います。

  ⑤遺言執行者の仕事(使命)

 遺言執行者は、遺言の内容を正確に執行するために必要な手続きを行う者で、法律上相続人の代理人とみなされ、遺言の内容を執行する一切の権利義務を持っています。
 
 遺言執行者は、基本的に遺言者が指定する者で、遺言者の意思(遺志)を現実に実現する人間なので、中立・公正・独立な立場で、相続人間の公平を図りながら執行を完了出来る者が最も遺言執行者の任務に相応し人物になります。

 特に、不動産や金融資産をお持ちで、相続人が複数居る方の遺産相続の場合は、出来るだけ客観的な立場で、しかも法律の専門家であり、法律判断が出来る司法書士や弁護士が就任する事が好ましいでしょう。

 遺言執行者の任務は、法令上規定されていますが、任務を開始した時は遺言の内容を相続人に通知する事や財産目録を作成して相続人に交付すること等相続人との連絡の前提としてその相続人を特定する事から始まります。戸籍調査やその他の財産の証明書類等も必要になり、相当程度時間と労力が掛かります。この意味でも、司法書士や弁護士であれば専門家としてスムーズな対応が期待出来ます。

 

 ▼遺言執行者のみ出来る手続き

  ▽認知

  ▽推定相続人の廃除又は取消し

 ▼遺言執行者又は相続人が出来る。

  ▽遺贈

  ▽遺産分割方法の指定

  ▽寄付行為

 ⑥遺言執行者の家庭裁判所での選任手続き

 ▼申立人

  利害関係人(相続人、受遺者、被相続人の債権者、等)

 ▼申立先

  遺言者の最後の住所地の家庭裁判所

 ※「遺言者の最後の住所地」とは、基本的に遺言者の最後の住民票の住所地になりますが、管轄の問題になるので、裁判官の判断により、家庭裁判所において申立時の証明によって現実に生活をしていた住所地でも認めれれる場合が無いとは言えません。
 

 ▼申立必要書類

  ▽申立書(家事審判申立書)

  ▽遺言者の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本

  ▽遺言執行者候補者の住民票の写し又は戸籍の付票

  ▽検認済証明書付遺言書の写し又は遺言書の検認調書謄本の写し

  ▽利害関係人の利害関係を証する証明書(遺言者の相続人等でる事の証明)

  ▽その他家庭裁判所担当官から求められた証明書等
 
  ※基本的に遺言者の住民票(除票)の写しは申立書類に含まれていません。
 

 ▼申立費用

  ▽遺言書1通につき収入印紙800円分

  ▽連絡用相当額分の郵便切手

 ⑦遺言執行者の解任事由と解任手続き

 ▼遺言執行者が任務を怠ったとき

 ▼解任につき正当な事由が有るとき

 利害関係人が家庭裁判所へ請求します。又は遺言執行者が家庭裁判所の許可を得て任務を辞する事が出来ます。

 

●自筆証書遺言の特徴は

 いかがでしたでしょうか? 「自筆証書遺言」は、自分一人でいつでも作成出来ますが、その分色々と注意が必要であり、やはり慎重に作成する事が求められます。
 
 それにしても一言で「自筆証書遺言」といっても様々な内容が含まれていますね。これは、遺言をした人がお亡くなりになった後、いかに公正な手続きを担保するかといった大きなハードルをクリアーするために色々な立場から考えれれた事なんです。
 
 従って、遺言をする人はこれらの事柄を踏まえた遺言書を作成しなければなりません。何故なら、遺言者にとって大事なご家族に対する将来の願いを込める法律上の代表的な手続きだからです。
 
 機会を改めて、より厳格な「公正証書遺言」について掲載します。そして、その機会に皆さんは「自筆証書遺言」がいいのか「公正証書遺言」がいいのかを判断して、是非、遺言書を作成してはいかがですか?

  

(2019年10月18日(金)リリース)