ニュースレター ➍ 生前法務・相続法務

  

 法定相続情報証明制度とは?

 

 第4回目のニュースレターでは、「法定相続情報証明制度」について取上げます。既にご存知の方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、相続登記等の相続手続きの利便性を図る制度という事でこのニュースレターでもその概要を掲載します。

 

 ●法定相続情報証明制度で便利になる 

 相続人特定には、これ迄戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)自体を基にしての証明が必要でしたが、この制度を利用する事により、相続登記申請は戸籍等の証明書を「法定相続情報」で代替する事により、何枚もの戸籍謄本等を持運ばなくてよくなり、更にこの公的書面は相続手続きをも想定した制度となっており、被相続人名義の不動産が無い場合(例えば、遺産が銀行預金のみの場合等)でも利用可能です。追加で必要な場合も再交付も可能です。
 
 
 ●法定相続情報証明制度は平成29年5月29日からスタートしています。

 

 ●法定相続情報証明制度は無料で利用出来ます。 

 

 ●法定相続情報一覧図の保管並びに写しの交付及び再交付の申出は、被相続人の相続人又は委任による司法書士や弁護士等の資格者代理人です。 

 

 ●申出先は、申出人の住所地等の登記所です。 

 

 ●何故、この法定相続情報証明制度が創設されたのか

  空き家問題の解消の一環として、法務省としても不動産登記規則を改正しました。 

 平成30年の統計では848.9万戸という空き家が有り、その数は東京都全体の住宅数(767万戸)や九州8県の住宅数の合計(707万戸)よりも多い数の空き家が日本全国に有ると言われています。 

 

 ●制度の概要 

  相続人が登記所に対し、相続人を特定するための戸籍謄本等及び法定相続情報一覧図等の必要書類を提出し、その内容を登記官が確認し、認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを交付します。

 

 ●制度の利点

  戸籍謄本等の代わりに法定相続情報を利用出来るので、その分手軽になります。

 ただ、この法定相続情報一覧図自体を作成するには相続人特定のための戸籍調査等一定の要領が必要であり、今後の課題も有るのではないでしょうか。

 
 
 ●空き家を放置するとその相続人に不利益になる
 
 空き家の持主が所在不明の場合やお亡くなりになっていた場合、その不動産を直ぐに売却出来なかったり、その相続人を何代にも亘り捜索する事態になり、非常に困難な状況に陥ります。その上、相続登記に高額な費用が掛かってしまいます。
  
 「現在の所有者」がハッキリしている不動産は直ぐに売却も出来、又、その不動産に相当程度の資産価値が有れば売却しないで担保とする事により金融機関からお金を借りられ、更に、新たな不動産の購入のための住宅ローンを組む事も出来るのです。 
 
 この様な事から、基本的に不動産の名義は絶えず「現在の所有者名義」にしておく事をお薦めします。 
 
 
  
 
 

 <法定相続情報証明制度の要説>

 

 更に詳しく知りたい方のために、この法定相続情報証明制度の概要を簡略化して解説しますので、どうそ。

 

 ●法定相続情報証明制度で便利になる

  法定相続情報を利用する事により、相続登記の際、何枚もの戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)等の持運びをしなくて済み、この「法定相続情報」でそれに代える事が出来ます。更に、この法定相続情報は相続手続きにおける戸籍を代替する制度であるため、各種の相続手続きへの利用が可能となっており、被相続人名義の不動産が無い場合(例えば、遺産が銀行預金のみの場合等)でも利用可能です。
 
 法定相続情報一覧図の保管期間中(5年間)は追加で必要な場合に再交付も可能です。但し、再交付の申出をする事が出来るのは、当初、その法定相続情報一覧図の保管等を申出た人に限られます。他の相続人が再交付を希望する場合は、当初の申出人からの委任が必要です。
 
 この法定相続情報制度は、あくまでも被相続人がお亡くなりになった時点での「法定相続人」を証明するための制度ですので、法定相続情報の一覧図には「被相続人がお亡くなりになった時点での法定相続人」のみを記載します。仮に法定相続人以外の方が記載されていた場合は補正の対象になります。
 
 又、相続登記の申請時に、この法定相続情報一覧図と申出書(法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書)を一緒に添付した場合は、原本還付の返却時や登記識別情報等の郵送時に法定相続情報証明(の一覧図の写し)も交付(郵送時に同封)して貰う事が出来ます。
 
 更に、たとえその相続で法定相続人の中に遺産を受取る人がいない場合でも、この法定相続情報(の一覧図の写し)の交付を受ける事が出来ます。
 
 但し、後日遺留分の侵害額請求時に利用出来るかは、その様な事例の紹介が一般的になされていないため現段階では不明です。
 
 「遺留分侵害額請求」が「相続手続き」に含まれるかどうかが問題となりますが、たとえ「遺留分侵害額請求」が純粋な「相続手続き」に含まれないとしても、この法定相続情報証明制度は、空き家問題の解消の施策として制定された制度で、その趣旨は「相続手続き」の一環としての相続登記の促進に有る事、又、この制度は不動産が遺産相続に含まれていない場合も想定している事、そしてこの「遺留分侵害額請求」事案は相続を原因として生じる法定相続人の権利である事、法定相続人からすればこの「遺留分侵害額請求」をして初めて相続関係の精算が完了する「相続手続きの一環」である事、政府はこの法定相続情報証明制度の利用拡大を決定している事(平成29年6月9日閣議決定)等を踏まえ、当方としてこの制度の趣旨等を鑑みると、少なくとも公的機関では利用出来るのではないかと考えます。
 
 尚、被相続人や相続人等が日本国籍を有しない等、戸籍謄本等を添付出来ない場合は、この法定相続情報証明制度は利用出来ません。

 又、戸籍等の代替証明のみならず、法定相続情報一覧図に相続人の住所が記載されていれば、相続人の住所証明情報に代える事も出来ます(平30.3.29民二.166)。

 この法定相続情報証明制度は「相続手続き」を想定した制度であるので、「相続登記」のみに止まらず、相続登記自体以外の次のような場合にも法定相続情報(の一覧図の写し)を利用出来る仕組みとして創設されました(改正不動産登記規則247条1項柱書)。
 
 ①預貯金の相続手続 

 ②保険金の請求、保険の名義変更手続 

 ③有価証券の名義変更手続

 尚、この制度は、空き家問題の解消の一環として創設された制度であり(立法事実)、登記制度においてより相続登記を促進するための施策として改正されたものです。従って、実務上、例えば一部金融機等では自行の自衛措置として、又その金融機関の担当者の法令知識の不足により、この法定相続情報を戸籍謄本等の代替証明として取扱わない事も想定されます(改製不動産登記規則37条の3参照)。その際は、その金融機関の指示に従って頂く事も一つの知恵かと思います。但し、法令上の公的な書面であり、政府は相続登記の更なる促進のため、「法定相続情報証明制度の利用拡大」を基本方針としており(平30.3.29民二.116)、その一環としての「相続手続き」において、その金融機関の指示に応えられない時、等困難な場合は司法書士や弁護士に相談する事も有効です。

 又、この法定相続情報(の一覧図の写し)は、相続手続き以外では利用出来ません。
 
 更に、法定相続情報(の一覧図)の作成に当たっては、黒の消しゴム等で消えないペンで作成する事が無難です。因みに、法定相続情報(の一覧図の写し)は白黒の表示になりますので、色を使用しての作成も意味は有りません。

 

 ●「法定相続情報証明制度」は、平成29年5月29日からスタートしています 

  平成29年4月17日不動産登記規則改正(平成29年法務省令20号)、平成29年5月29日施行より制度が開始しました。

  これに関連して、平成29年4月17日(平成29年4月17日法務省民二第292号)に施行通達が発出され、更に、平成30年3月29日(平成30年3月26日法務省民二第166号)にその施行通達を改正する通達が出されました。

 

 ●制度の概要

 相続人が登記所に対し、申出書(法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書)の他、次の書類をはじめとする必要書類を提出し、その内容を登記官が確認し、認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを交付します。
 

 ①被相続人が生まれてから亡くなる迄の戸籍関係の書類。

 ②①の記載に基づく法定相続情報一覧図。

 
 ※「法定相続情報証明制度」について(法務省HP)

 

 ●法定相続情報証明制度は無料で利用出来ます。

 

 ●法定相続情報一覧図の保管及び交付、再交付の申出者
 
  被相続人の相続人又は委任による資格者代理人になります。資格者代理人は、司法書士、弁護士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士です。  提出された法定相続情報一覧図は、登記所において5年間保管されます。この間は、一覧図の写しを再交付の申出により再交付する事が可能です。但し、この再交付の申出は当初、法定相続情報の保管等を申出た人に限られます。他の相続人が再交付を希望する場合は、当初の申出人からの委任が必要です。

 

 ●何故、この制度が創設されたのか

  今般「空き家問題」はよく知られている事ですが、この空き家問題とは、空き家が増加する事で国民経済の損失や治安の悪化、土地や建物の有効活用の阻害による機会喪失等によって生じる社会問題の事です。

  「平成30年住宅・土地統計調査」(調査の時期 平成30 年10 月1日午前零時現在)では、空き家数は848.9万戸と5年前に比べ29.3万戸(3.6%)増加 、空き家率  (総住宅数に占める割合)は13.6%と0.1ポイント上昇し,過去最高になりました。

 (総務省統計局 平成30年住宅・土地統計調査における住宅数概数集計の結果(いわゆる速報値) 平成31年4月26日発表、平成30年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計結果 令和元年9月30日発表)。

 ※「住宅・土地統計」は、国勢統計等で知られる国の56有る基幹統計の一つで、この基幹統計は公的統計の根幹をなす最も重要な統計になります。基幹統計は所管する各府省が行う統計で、国勢調査等の各々の基幹統計調査を基に作成されます。

 又、昭和38年に52万戸(空き家率2.5%)だった空き家数が平成20年には757万戸(空き家率13.1%)、又、空き家率は平成10年に1割を超え、その後、少子高齢化の進展や人口移動の変化等により、1年毎に1ポイントずつ上昇し続け、今後も問題は大きくなる事が容易に予想出来る状況です。

 この傾向は全国的にみると、東日本では一部を除き全国平均に近い割合の県が多く、西日本では、全国平均より高い県と低い県との差が出る傾向が見られます。(共同住宅の空き家約460万戸について分析-平成20年住宅・土地統計調査からの推計-総務省統計局 平成26年2月6日公表)

 この848.9万戸という空き家の数はその多さについて、東京都全体の住宅数(約767万戸)や九州8県の住宅数の合計(約707万戸)よりも多い数の空き家が日本全国に有ると言われています。

 この様な状況が改善されない中、この空き家問題を解消すべく登記制度の一部改正が行われました。まず、不動産の登記名義人(所有者)が死亡した場合、所有権の移転の登記(いわゆる相続による名義変更の登記)が必要である事、近時、相続登記が未了のまま放置されている不動産が増加し、これがいわゆる所有者不明土地問題や空き家問題の一因となっていると考えられる事に鑑み、法務省においても相続登記を促進するために、「法定相続情報証明制度」の創設したものです。

 

 ●制度の趣旨(狙い)

 ①この制度により交付された法定相続情報一覧図の写しが、相続登記の申請手続きをはじめ、相続手続きに係る相続人、手続きの担当部署双方の負担軽減。

 ②この制度を利用する相続人に、相続登記のメリットや放置する事のデメリットを登記官が説明する事等を通じ、相続登記の必要性についての意識の向上。

 

 ●法定相続情報一覧図の記載事項 

 記載事項は、被相続人の氏名、最後の住所、最後の本籍、生年月日、死亡年月日並びに相続人の氏名、住所、生年月日及び続柄です。
 
  一覧図に記載する被相続人との続柄は、申出人の選択により続柄を「子」と記載する事も出来ます(この記載の場合は税務上の証明書として利用出来ない場合が有ります)。又、法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載するかどうかは相続人の任意になります。この場合、申出時の書類に各相続人の住民票記載事項証明書(住民票の写し)が必要になります。更に、被相続人の最後の住所は、住民票の除票(又は戸籍の附票)に従い記載しますが、最後の本籍の記載は、申出人の任意となります。この場合、住民票の除票等が市区町村において廃棄されているときは、被相続人の最後の住所に代えて最後の本籍を必ず記載しなければなりません。
 
 尚、法定相続情報証明制度は,戸除籍謄本等の記載に基づく法定相続人を明らかにするものです。そのため,相続放棄や遺産分割協議の結果によって,実際には相続人とならない方(相続分を有しない方)がいる場合も,法定相続情報一覧図にはその方の氏名等が記載されます。
 
 又、推定相続人の中に排除が有った場合は、法定相続情報一覧図には、原則としてその排除された者は記載されません。 

 

 ●法定相続情報一覧図の保管及び法定相続情報証明(法定相続証明情報一覧図の写し)の交付の申出先となるの登記所

  申出をする登記所は,以下の地を管轄する登記所のいずれかを選択することが可能です。

  (1)被相続人の本籍地(死亡時の本籍を指します。)

  (2)被相続人の最後の住所地

  (3)申出人の住所地

  (4)被相続人名義の不動産の所在地

  なお,申出や一覧図の写しの交付(戸除籍謄抄本の返却を含む)は,登記所に行く他、郵送によることも可能です。郵送による一覧図の写しの交付(戸除籍謄抄本の返却)を希望する場合は,その旨を申出書に記入した上,返信用の封筒及び郵便切手を同封します。窓口で受取をする場合は、受取人の確認のため,「申出人の表示」欄に押印した印鑑を持参して下さい。

 

 ●法定相続情報証明制度の手続きの流れ 

 ①事前準備

 〇相続人を特定するために戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)の収集・調査し、法定相続情報一覧図を作成する。

 ↓

 ②申出(法定相続人又は代理人)

 次の書類を登記所に提出する。

 ○申請書(法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書)

 〇戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)

 ○法定相続情報一覧図

 ↓

 ③確認・交付

 ○登記官による確認

 ○登記官による法定相続情報一覧図の保管

 ○認証文付き法定相続証明情報一覧図の交付及び戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)の返却

 ↓

 ④利用

 各種相続手続きへの利用(戸籍謄本等の原本を持ち歩かなくても手続きが可能になります)

 

 ●空き家放置とその相続人の不利益 
 
 空き家の持主が所在不明の場合、その不動産を直ぐに売却出来ない状況になります。又、その空き家の持主がお亡くなりなった後、相続登記をする際、その登記をする事が難しい状況になったりします。更にその相続人がお亡くなりになった場合、元々の空き家の持ち主を探す事に加え、その相続人を何代にも亘り捜索する事態になり、非常に困難な状況に陥ります。相続人特定のための戸籍調査、現地調査といった時間と労力、その上、現在の所有者名義にする相続登記に高額な費用が掛かります。
 これでは、折角不動産が有っても売却する事が事実上困難で、悪い事に、たとえその不動産を売却出来たとしても、不動産の売却代金からこれらの費用を負担する結果、事実上大幅に減額した価格になる事を強いられてしまいます。
 
 「現在の所有者」がハッキリしている不動産は直ぐに売却も出来、又、その不動産に相当程度の資産価値が有れば売却しないで担保とする事により金融機関からお金を借りられ、更に、新たな不動産の購入のための住宅ローンを組む事も出来るのです。 
 
 この様な事から、基本的に不動産の名義は絶えず「現在の所有者名義」にしておく事をお薦めします。 

 

 ●法定相続情報証明制度の利点と今後の課題

 今迄、相続関係を証明する書面は戸籍謄本等でしたが、この制度を利用する事により、戸籍そのものを持ち運ばなくてよくなり、又、これ迄相続関係を確認する手段が戸籍自体の内容確認しか無かった事に比べ、法定相続情報は公的な書面であり、更に相続関係の一覧性の面でも有用な制度となります。

 この法定相続情報は、記載する事項が定まっていて、相続人特定のための戸籍調査の要領等、一般の方々には直ぐに作成出来ない面も有りますが、登記所における大量の空き家問題に対応するための手段としては一定の評価は出来るでしょう。

 今後は、相続登記を「申請する側」の効率化を前提に、「事実証明」の調査につて、司法書士等の依頼に応じ、相続人特定のための戸籍謄本等の必要書類を取集する事により、この「法定相続情報一覧図」自体を無料で作成する公的相続人特定調査機関を創設(「戸籍調査技能検定」といった国家検定を創設して空き家問題解消に資する環境作りの醸成も有効)すると、登記等の代理申請をする際、戸籍調査といった事実確認事務はこの機関に任せ、司法書士等は戸籍とその一覧図での確認をするだけで済み、実体法上の法律関係の確認(法律判断)に時間が割ける事になり、より効率化し、又、提出された戸籍と一覧図を登記官が再度確認する事によりダブルチェックが可能となる等、相続登記の促進はもとより、この法定相続情報証明制度の安全性の向上と共に、更にこの空き家問題が加速度的に解消に向かう事が期待されるのではないでしょうか。 

(法務省民事局公報等参考による)

 

(2019年10月22日(火)リリース)