【ニュースレター ❺ 生前法務・相続法務】
願いが叶う 画期的な法技術 民事信託!!
財産凍結問題と民事信託
いよいよこのホームページでも堂々登場です!!
民事信託は、その昔、大正11年に旧信託法がこの日本で初めて制定された事に始まります。そして、世の中のニーズに応え、平成18年に全面的に改正され、新信託法として制定されました。
民事信託は一言で言って
「私の財産を信頼するあなたに託すから、大切なあの人の事を頼みます。」
という行為と言えるでしょう。
気を付けなければならない事は、この信託方法は「商事信託」とは違うという事です。「信託」は危ないという先入観は「商事信託」の世界の話で(元本保証等安全な商事信託も有ります)、この「民事信託」は絶対的な信頼関係を基礎に、託された人にとって営利的な行為は一切行わず、受託者は委託者の大切な人のためだけに託された財産を管理及び運用、時にはその大切な人のために処分を行う信託方法です。
例えば、財産を託す委託者を父親、財産を託される受託者がその子、委託者の財産で守られる大切な人を受益者とします。そして信託スキームでは、受益者を父親として設計するのです。その結果、父親の自宅や現金及び預金、有価証券等は全てそれまで通り父親のために管理及び運用並びに処分する事が出来るようになります。父親が認知症で判断能力を失ったとしても、受託者である信頼する肉親の子が代わって法律上の行為をしますので、「財産凍結」という事態を避けられる事になるのです。
この方法は、委託者と受益者が同一人物という形態の「自益信託」というスキームです。
この方法は、本人が生前にどの様な事態になっても、その家族にとって財産管理上はあたかも最後迄健康で、お亡くなりになった状況を作り出すことが出来ます。
判断能力を失ってからの対処方法は、極めて限られます。日常的に非常に不都合を強いられる事態に陥り、困難な状況になってしまいます。
ポイントは、認知症での判断能力を失う前に、「認知症対策」をしておく事に尽きます。
<財産凍結問題と民事信託 要説>
更に知りたいという方のために、民事信託を「財産凍結問題」に焦点を当てて、少し詳しく解説します。関心の有る方はどうぞ!
●平成18年 新 信託法制定
信託法(公益信託二関スル法律、民法の特別法)は、日本では1922年(大正11年)4月20日(大正11年法律第62号)に制定(裁可)され、1922年(大正11年)4月21日公布、1923年(大正12年)1月1日に施行されました。
その後、2006年(平成18年)12月8日(平成18年法律第108号、民法の特別法)に改正、2006年(平成18年)12月15日公布、自己信託に関する規定を除き、2007年(平成19年)9月30日に施行されました。
自己信託は新信託法施行日より1年延期された2008年(平成20年)9月30日より施行されています(新信託法附則2)。自己信託の施行日が1年延長された理由は、旧信託法時代に自己信託を認めると信託財産は倒産隔離される機能が有る事から、執行免脱など悪用されるのではないかとの疑念で、「委託者=受託者」となることは出来ないとするのが通説になっており、濫用の懸念があった事によるためのようです。
しかし、欧米では一般的に利用されている信託方法であり、この改正で日本でも可能になりました。延期された理由の他は、税務・会計制度の整備をしておかなければならなかったという事情も有る様です。
又、2007年(平成19年)度に税制改正がなされ、新信託法に対応した税制が拡充及び整備されました。
因みに、アメリカ合衆国の中流階層以上では、相続を円滑に行う事を目的とした「生前信託(living trust)」を設計及び契約することが一般的であると言われています。
信託法は、国際社会では既に一般化している財産管理方法であり、その起源の通説は、中世ヨーロッパの十字軍であると言われています。
信託法では、兵士を委託者、信頼され託された人を受託者、兵士の家族が受益者となります。
つまり、信託の本質は、深い愛情と絶対的な信頼関係を基礎にした、委託者から受益者に対する条件付贈与又は相続財産の先渡し(=死因贈与)である事が解ります。
ここで、受託者(信頼関係のもと財産を託された人)は、その財産の管理及び運用権限者並びに処分権限者であり、受益者のためだけに委託者との約束を遂行する役割を果たすのです。
この様なことから、一言で言って信託とは、
「私の財産を信頼するあなたに託すから、大切なあの人の事を頼みます。」
といった内容の契約行為であるという事が言えます。
●信託法の利用方法は?
現在、信託法を基礎にした利用方法は、大きく2つ有ります。一つは、この信託法をビジネスとして活用している方法。もう一つは、ビジネスとせず、身近な人のためにこの信託法を活用しようとする方法です。
前者が商事信託、後者が民事信託と言われています。家族信託という言い方もされますが、その形態は、一般的に、ある家族又は親族の一人が、ある特定の家族又は親族のために、その家族又は親族の中の人に財産を託する形態、つまり、委託者、受託者、受益者が全て家族又は親族、或いは受託者が委託者の家族又は親族という繋がりが成立している中で形成される信託を言い表す用語として使われているようです。他にも、「福祉信託」、「個人信託」、「ペット信託」等々の用語が色々な局面で使用されています。「民事信託」は、この「家族信託」等を含む概念ですので、このニュースレターでは、より広い概念の「民事信託」という日常用語又は業界用語を使って解説していきます。
因みに、「商事信託」も「民事信託」も「家族信託」等も全て法律上の用語では有りません。特に、受託者が営利を目的としない信託方法を表現する用語の中で「民事信託」という用語が一番古く、「商事信託」、「営業信託」といった用語の対比語として、信託法改正が論議されていた頃に使われたのが最初だと言われています。
商事信託は、皆さんご存じの通り、信託銀行等で活用されています。今、ちょっとしたブームを起こしているのは民事信託です。
民事信託は「財産管理方法」の一つである事がそのポイントです。第2のポインとは、民事信託は今迄常識とされていた法制度の根本を大きく変える存在であるという事、第3にその活用方法は当事者が自由に決められるという事が挙げられるでしょう。
●高齢化社会と財産凍結問題
それを理解するには一つの大事な視点と現代社会を前提としなければなりません。何故なら、その視点を前提としなければこの問題の本質を理解出来ないからです。
この社会は「自己決定権の尊重」を基本にする基本的人権の尊重を基本原則とした国に在ります。簡単に言いますと、個人の意思が最も大事で、その個人の意思を出来るだけ尊重する事、国の立場から言うと、自分の事は自分で決める自由を保障しなければならないという事です。
もう一つの前提は、現代は高齢化社会であるという事です。厚生労働省の発表によると、平成24年の65歳以上の高齢者人口は3,079万人で、認知症高齢者数は約462万人、正常と認知症の中間の人(MCIの人)は約400万人と推計されています。この推計を基にすると、約7人に1人が認知症患者、約4人に1人が何らかの認知症に関係のある高齢者という事になります(厚生労働省 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応(H25.5報告)及び「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ以上の高齢者数につて(H24.8公表)より)。
又、内閣府の発表によると、団塊の世代が75歳以上になる2025年には、約700万人が認知症患者と推計され、その年の65歳以上の高齢者人口の約5人に1人に達すると見込まれています(内閣府 平成29年版高齢社会白書より)。
この様な場合、認知症になった人を保護する制度として法定成年後見制度が有ります。この制度自体は、この高齢化社会の時代に認知症になって判断能力が低下又は喪失した方のためにより良く生活出来るようにと制定された制度ですが、その反面、制度の趣旨として判断能力が低下した人を守る制度なので、出来るだけその方の財産を減らさない様にという方向性でその作用します。従って、積極的に財産を支出して、より良く生活していくという考えた方に消極的な制度となるのです。判断能力が低下した父親のために良かれと思って考えた事も法定成年後見人、更にはその許可を与える裁判所から「NO」と言われる事が少なく無い状況で、現在、評判が非常に悪い制度になってしまっています。
では、認知症になる前、判断能力の低下又は喪失していない段階で対処すればどうでしょうか。確かに良い視点です。判断能力が低下してしまう前に利用出来る制度として任意後見制度が有ります。この制度は、法定後見制度と異なり、まだ判断能力が低下する前に、その人の意思で自分が認知症になって判断能力が低下した以後、その人との間でどの様な事をするかについて契約をしておくものです。
法定後見制度も任意後見制度も共通している事は、利用者やその家族にとって使い勝手が悪い事が挙げられるでしょう。
因みに、「遺言」を作成しておけば何とかなるとお考えの方がいましたら、それも困難です。この遺言という制度は、本人が亡くなった後に機能する方法です。今、問題になっているのはその本人が生きている間に起こる問題なのです。
つまり、自己決定権が尊重されるこの国で、高齢化時代において、認知症になり判断能力が低下又は喪失した場合の有効な手立てがないという事です。
これがいわゆる人の生前に起きる「財産凍結問題」の正体です。
そこで、今迄には無かった方法が求められるようになりました。それが、画期的な法技術である民事信託です。
民事信託は、その効果の面で大きく分けて2つの効果が有ります。いずれも今までの法律的な常識を超える効果です。
一つは、人の生前に機能し、能力を発揮する現在の法制度を補完する効果。もう一つは、人の死後に機能し、能力を発揮するそれ迄の法制度を超える効果です。
民事信託には、法制度の補完効果(法制度だけでは不十分な部分を補完して十分な能力を発揮させる効果)、そして、法制度の超越効果(法制度を十分に適用しても限界が有り、その限界を超える新たな能力を発揮させるための効果)の二つが有るという事です。
この効果を併合して一つのスキームとして設計する事も勿論可能です。今回のニュースレターでは、これ迄記載してきました人の判断能力の低下又は喪失に焦点を絞って、最低限支障を回避出来る、人の生前に機能し、能力を発揮する民事信託の法制度補完効果について簡単に解説していきます。
民事信託では、委託者、受託者、受益者の三者が必ず登場します。それは「私の財産を信頼するあなたに託すから、大切なあの人の事を頼みます。」という「十字軍の信託」に由来する信託法の理念的・中心的なスキームだからです。
委託者は財産を託す人、受託者は財産を託される人、受益者は委託者の財産で守ってあげる委託者にとってとても大切な人です。
そして、受託者は、自分の財産とは区別され託された財産を受益者のために管理及び運用して、受益者のために役割を果たします。例えば、受益者が介護老人ホームに転居する場合は、その託された財産の中の自宅を公的な機関の関与無しに売却さえ出来ますので、本人が判断能力を失っても全く心配はいりません。
気を付けなければならない事は、この信託方法は「商事信託」とは違うという事です。「信託」は危ないという先入観は「商事信託」の世界の話で(元本保証等安全な商事信託も有ります)、この「民事信託」は絶対的な信頼関係を基礎に、託された人にとって営利的な行為は一切行わず、受託者は委託者の大切な人のためだけに託された財産を管理及び運用、時にはその大切な人のために処分を行う信託方法なのです。
更に、その財産を完全に子供に移しませんので、その子供に対する贈与税も掛かりません。財産を完全に子供に写し、後はその子供が父親の面倒をみるというやり方も有りますが、この場合は財産を移した段階で子供に高額な贈与税が発生してしまうので得策では有りません。
この方法は、委託者と受益者が同一人物という形態の「自益信託」というスキームです。
この民事信託の効果として、公的な機関の関与は無く、それ迄と同じ生活が維持出来ます。更に、契約という書面で決め事を書き残しますので、関係当事者の意識の不一致も有りません。そして更に、必要が有ればこのスキームの外に居る人達にも説得力を持って説明出来る事になります。
お解りになりましたでしょうか?
判断能力を失ってからの対処方法は、極めて限られます。日常的に非常に不都合を強いられる事態に陥り、困難な状況になってしまいます。
ポイントは、認知症での判断能力を失う前に、「認知症対策」をしておく事に尽きます。
成年後見制度は、事実上本人やそのご家族の希望が通しずらい制度であり、遺言は財産承継の代表的な制度で、本人が亡くなった後の事は対処出来ますが、本人が生前に判断能力を失った時の事を考えるとき、成年後見制度や遺言だけでは不十分な状況を打開する手段として、民事信託を検討してみる事が必要でしょう。
医学の世界では「iPS細胞」が話題ですが、この民事信託は法律実務の世界での「iPS細胞」といっても過言では有りません。
それは、相談者の色々な問題を対処するための設計可能性が高く、それ迄の常識を変えてしまう技術なのですから。
