ニュースレター2020 ➊ 生前法務・相続法務

 

 遺言の有用性
 
 
 トラブル回避の有効策!
 
 遺言書 それは安心と明日への願いのために!!
 
 
 
 ニュースレター2020生前法務・相続法務の第1回は、遺言の有用性について取上げます。
 
 相続が開始すると、家族に何が起きるのか、そして、その際の問題はどのようなものなのかについて、相続に伴うよくある問題を挙げ、円滑にそして円満に相続を終えるためには何が大切かを相続の基礎知識を踏まえ、概説していきます。
 
 
 
 <相続(遺産相続)の基礎知識>
 
 
■共同相続人にとっての相続とは
 
 本来、相続は家族や受遺者の間で問題なく行われる手続きであり、大多数の相続は皆、恙無く終了していると思います。
 
 しかし、一部に、どうしても相続人間の関係や受遺者の存在で、共同相続人だけでは相続手続きが進捗しない事があります。
 
 例えば、共同相続人間で長い間付合いがなかったり、被相続人との同居、非同居で認識に齟齬があったり、性格の不一致で共同相続人間での話合いが難しかったり、被相続人の遺産が比較的多く、また不動産等の高額資産を複数所有している等、共同相続人間で遺産の配分の仕方に疑義が生じ易いときに相続手続きが上手く進まず支障を来たす事が多くみられます。
 
 つまり、相続の紛争は、簡単に言って、
 
 共同相続人間での意思交換ができないとき
 
に起こる問題なのです。
 
これが、
 
 紛争を原因とする相続問題の正体
 
です。
 
 相続は、基本的に共同相続人間で進められるのが一番良い事であり、殆どの皆さんは自分達で行っていますが、中には例を挙げたように共同相続人間でのトラブルに発展してしまう場合があり、このような共同相続人間の紛争を回避する手段として法律的解決の重要性を認識して頂く事がとても大事になります。
 
 相続は関係者間で手続きができる事であり、大多数の皆さんには関係が無いと思いますが、自身の相続に心配のある方、また共同相続人の1人として、何を気を付けておかなければならないかをこの機会に確認して頂き、是非参考にして頂ければと思います。 
 
 
 
■(遺産)相続とは
 
 ある人が亡くなると、その人の財産はどうなるのでしょうか。まず、亡くなられた人に相続人が存在すれば、その相続人に亡くなられた人の財産が移転されます。この移転の事を法律上「承継」といいます。
 
 この「承継」には法律上の2つの意味があり、相続という事実(これを法律用語で「法律事実」といいます。)によって当然に移転する類型を「一般承継」といい、売買契約のように契約当事者の意思を伴う行為によって(これを法律用語で「法律行為」といいます。)売買契約の目的物が移転することを「特定承継」といいます。
 
 一般承継の「一般」は特に相続の場合等に使われる法律用語ですが、その意味は亡くなられた人の財産の全てが相続人に移転するという意味で、「包括承継」ともいいます。つまり、財産には所有権や預金債権といったプラスの財産も有れば、借金というマイナスの財産もありますので、「一般」の意味はプラスの財産もマイナスの財産も相続人に当然に移転するという事になります。
 
 但し、遺産分割の対象となる財産は、プラスの財産のみで、マイナスの財産は各相続人に当然に分割され、承継される事になります。
 
 
 
■法定相続
 
 相続財産は、予め法律によってその配分が定まっています。この法律に基づく相続の事を「法定相続」といいます。
 
 法定相続によって承継する相続人には、亡くなられた人(以下法律用語で「被相続人」といいます。)の遺産(相続財産)について、一定の割合でその承継内容が決まっています。
 
 例えば、父親(被相続人)、母親(被相続人の配偶者)、長男、長女の4人家族であるとした場合、各法定相続人の相続分は次の通りになります。
 
 母親(配偶者) → 4分の2
 長男      → 4分の1
 長女      → 4分の1
 
 この相続分によって、父親(被相続人)の遺産を分けます。
 
 しかし、ちょっと待ってください。ここでご疑問になった方もいるかと思います。「分ける」といっても、それは割合であり、例えば、遺産が不動産と車、預貯金であった場合、割合的に所有する形になり、特定の共同相続人の1人に承継させる事ができないではないか、といった疑問です。不動産を母親、長男、長女の3人で所有(共同所有状態=以下法律用語で「共有」といいます。)する事に異論がないのであればいいですが、長男が母親と同居し、長女は結婚して家を離れるといった場合、長女は住まない家の持分を持っているより、家は母親と同居する長男に譲る代わりに、預貯金で遺産を承継したいという希望を持つのは容易に想像できる事です。
 
 つまり、法律で決まっている承継内容は相続財産の割合であって、個人単位の具体的な相続財産の所有の仕方は決められていないのです。
 
 それでは、どうすればハッキリと各相続人間で、遺産を分ける事ができるのかですが、それが共同相続人間でする「遺産分割協議」です。
 
 相続が開始し、各共同相続人間で遺産分割協議をして、最終的に相続財産の承継が決まるのです。
 
 
 
■遺産分割とは
 
 例えば、相続人が複数いる場合、一般承継された相続財産を個別具体的に各共同相続人に帰属させ、共同所有状態を解消する協議です。
 
 この遺産分割協議は、共同相続人全員が参加し、合意しなければ確定しません。遺産が多く、また共同相続人が多い場合は、時に困難な状況になる事は想像に難くないと思います。
 
 
 
■遺言とは
 
 法定相続人が法律に従ってする相続を法定相続といいましたが、実は、相続による遺産の承継方法は、被相続人が基本的に決められます。法律上決められている法定相続は、遺言が存在しない場合の規定なのです。
 
 遺言相続は、法律により厳格な要式行為である遺言によって果たされます。この遺言が無い場合は、法律の規定によって各法定相続人に配分される事になります。
 
 つまり、遺言が無ければ、残された共同相続人(法定相続人)間に法律の規定によって、その割合が承継されますが、各共同相続人(法定相続人)が具体的にどの遺産を取得するかは遺産分割協議により決めなくてはならないという事になります。
 
 因みに、被相続人が遺言をせず、法定相続人がいない場合は、最終的に国庫に帰属してしまう事になります。被相続人の不動産や預貯金等は被相続人の意思とは関係なく国庫に帰属します。従って、遺言をする事は、とても大事な事になります。
 
 
 
■共同相続人とは
 
 財産を所有していた方が亡くなると、その遺産は相続財産となり、亡くなられた方が亡くなられた瞬間に相続が開始します。そして、相続人が複数人存在する場合は、その相続財産は共同相続人の共同所有状態の財産(以下法律用語で「共有財産」といいます。)となります。相続開始後、遺産分割が終了するまでの期間の遺産(相続財産)は相続人全員(以下法律用語で「共同相続人」といいます。)の共有財産となるのです。
 
 遺言が存在する場合はその遺言通りに相続財産が配分(以下法律用語で「分割」といいます。)され、遺言が存在しない場合は、共同相続人間の遺産分割協議により相続財産を分割します。
 
 遺言が存在する場合は、遺言によって指定された者へ相続財産が当然に承継されますので(以下法律用語で「遺産分割方法の指定」といいます。)、遺産分割は不要であり、被相続人が亡くなられた瞬間に法律上(実体法上)は相続が終了し、後は法律上(手続法上)必要になる不動産の登記、腕時計やカメラの引渡し、事実上必要になる戸籍調査や遺産目録の作成、葬儀の手配等の手続きを行い完了します。
 
 但し、遺言の内容が相続人に対し具体的な各相続財産の指定をしたものではなく、抽象的な相続財産の割合(以下法律用語で「相続分」といいます。)を指定した内容である場合、具体的な各相続財産は未だ共有状態(以下法律用語で「遺産共有」といいます。)となったままですので、割合的に承継した抽象的相続財産を具体的に誰がどのように承継するのかについて決めるため、共同相続人間で更に遺産分割協議が必要になります。遺産分割協議により、共同相続人は初めて相続財産を具体的に承継する事ができるのです。この遺産分割協議の結果、ある相続財産を複数人の相続人で承継し(以下法律用語で「物権共有」といいます)、共有財産とする事も可能です。
 
 つまり、遺言が存在し、更にその遺言で具体的な相続財産の指定がなされない限り、その遺産(相続財産)の遺産分割協議が終わるまでは、相続財産を相続する複数の相続人は共同相続人となり、相続する財産は共同相続人の共有財産という扱いになるのです。
 
 
 
■法定相続人
 
 法定相続人とは、法律の規定に従って予め決められた相続財産の一定の割合の相続分を承継する人の事です。法定相続人は、相続が開始する前の段階では推定相続人と呼ばれます。相続開始後、遺産分割の前までは、法定相続人が共同相続人となります。遺産分割後は、各相続財産は各共同相続人に分割されますので、単に相続人という用語になります。
 
 尚、ある法定相続人が相続放棄をした場合、その者は法定相続人には変わりありませんが、共同相続人ではなくなります。
 
 相続財産の具体的な承継の指定がされた遺言が存在する場合は、法定相続人への相続財産の承継はされず、その被相続人の遺志に従って、当然に各相続人(受遺者)に分割承継されるのです。従って、この場合、法定相続人や共同相続人といった法律関係は問題となりません。
 
 但し、法定相続人には、法律で決められた相続財産の一定の取得割合(以下法律用語で「遺留分」といい、遺留分を持っている法定相続人を「遺留分権利者」といいます。)があります。遺言によってもこの遺留分を侵害する事はできません。
 
 尚、遺留分を主張する法定相続人(以下法律用語で「遺留分侵害額請求権の権利者」といいます。)は、自己の遺留分が侵害された事を主張する事によって初めて保護される事に注意が必要です(自動的に遺留分を取得できるのではなく、遺留分を侵害している相手に主張して初めて認められる権利なのです(権利は行使によって効力を発揮します))。
 
 
 
■被相続人の遺志を実現する遺言の重要性と対処の仕方
 
 相続問題を考える時、相続の開始前後の対処方法は次の通りです。
 
 (相続開始前) 遺言(被相続人が自由に決められ、後日の協議等の合議は不要。)
 
 (相続開始後) 遺産分割協議(共同相続人全員で合意が形成されなければ、原則として相続は終了しない。)
 
 つまり、相続問題では、共同相続人(受遺者)への相続財産の分割承継を前提に、被相続人が事前に対処しておくか、共同相続人が事後に対処するかという問題になります。
 
 一般に、相続トラブルでは、事後処理で多くの問題が生じるところにその特徴があります。
 
 そのため、遺言の有用性、重要性が提唱されているのです。 
 
 
 
■法定相続と遺言相続
 
 法定相続では、相続財産が複数有り、相続人が複数存在する場合、共同相続人間で必ず遺産分割が必要になりました。しかし、遺産分割協議は、原則として共同相続人全員が協議し、全員が合意しなければ決まりません。相続人の数が多い場合や相続財産が複数あり、しかも高額の場合は、協議に時間と労力が費やされます。特に、共同相続人間で話合いができない状態の場合は、遺産分割は暗礁に乗上げ、困難な状況に陥ります。
 
 この問題を事前に回避できるのが「遺言相続」です。遺言は、被相続人が亡くなった後の関係を規定する行為のため、法律上、厳格な要式行為となっています。この遺言を遺言書として作成しておく事により、遺産分割協議をせずに、しかも相続が開始した瞬間に法律上(実体法上)、各相続人に相続財産が承継し、遺産相続が終了するとても有用性のある方法となるのです。
 
 遺言相続では、遺産分割協議を必要としないため、共同相続人間の協議はもとより、この後記載する特別受益や寄与分を考慮したみなし相続財産の算定といった問題も発生しません。
 
 但し、遺留分は遺言によっても侵害する事はできない事に注意が必要です。
 
 
 
 <相続の様々な法律関係>
 
 
■代襲相続と数次相続
 
 相続には、2つの類型があります。1つは、「代襲相続」です。そしてもう一つが「数次相続」になります。
 
 代襲相続は、例えば、祖父(被相続人)が亡くなった時、相続人がその子息である父親であった場合で、その父親が既に亡くなっていたような場合に、その子供が父親に代わって祖父(被相続人)の相続財産を相続する場合をいいます。
 
 数次相続は、例えば、祖父(被相続人)が亡くなって、相続人がその子息である父親であった場合で、その財産の承継手続きが法律上済んでいない間に、相続人である父親が亡くなってしまったという場合で、相続人の子供が父親が承継した祖父の相続財産と子供が承継する父親の相続財産を子供が相続する時の事をいいます。
 
 数次相続は、つまり、第1回目の相続手続きが終了していない間に、第2回目の相続が開始した場合をいいますが、期間を経ないで連続的に相続が開始した場合は別として、長い間第1回目の相続手続きを放置しているような場合は、避けなければなりません。
 
 何故なら、第1回目の相続が遺言相続なのか法定相続なのか、また贈与や遺贈があったのか、更に法定相続人の探索が必要になったり、相続財産が不動産であれば、権利関係の存否が不明瞭になる等、相続人にとって得する事が少ないからです。
 
 
 
■特別受益とは
 
 「特別受益」とは、被相続人が生前或いは遺言によってある法定相続人に自身の財産を贈与等で譲渡していた場合、この譲渡された財産を法律用語で「特別受益」といいます。相続時には、この財産を相続分の前渡しとみなして、他の法定相続人との衡平の観点から、相続時にその財産を相続財産に加えて、相続財産を算定しますこの算定する際の方法を法律用語で「特別受益の持戻し」といいます。
 
 尚、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が配偶者へ居住用不動産の遺贈又は贈与をしたときは、被相続人はその遺贈等を相続財産の先渡しとはしない旨の意思を表示したものと法律上推定されます。高齢化社会における配偶者の暮らしの安心を担保するが趣旨であり、結果として、相続時に配偶者はより多くの遺産を取得する事ができます(2019年7月1日施行 改正民法)。
 
 
 
■寄与分とは
 
 「寄与分」とは、共同相続人中に遺産の維持、増加に特別の寄与をした者がいる場合、その者に相続分を多く取得させる事をします。この寄与をした者が取得する事ができる相続分を法律用語で「寄与分」といいます。相続人間の実質的衡平を図る事を目的にしている制度です。
 
 
 
■遺贈とは
 
 被相続人が遺言によって、相続財産の全部又は一部をある者(これを法律用語で「受遺者」といいます。)に譲渡する行為を法律用語で「遺贈」といいます。遺贈の相手は、法定相続人であっても構いませんが、一般的には第三者が受遺者になります。
 
 
 
■配偶者居住権
 
 被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物(これを「居住建物」という。)に相続開始時に居住していた場合において、遺産分割時に居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利(これを「配偶者居住権」という。)取得したとき又は配偶者居住権を遺贈の目的とされたときは、配偶者は配偶者居住権を取得します。この他、「配偶者短期居住権」も新設されました(2020年4月1日施行 改正民法)。
 
 
 
■遺言自筆証書と遺言公正証書
 
 通常、一般的に作成される遺言書に2種類あります。1つは遺言自筆証書、もう1つは遺言公正証書です。
 
 遺言自筆証書は、法律上厳格な要式行為となっており、次の3つの要件を満たさなければ適法とはされません。
 
 ①遺言者が全てを自書する事
 ②遺言書を作成した日を記載する事
 ③遺言者が署名押印する事
 
 但し、自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録(これを法律用語で「財産目録」といいます。)を添付するときは,その目録については自書する必要はありません。自書によらない財産目録を添付する場合には,遺言者は,その財産目録の各頁に署名押印をしなければならないこととされています。
 
 その他、遺言自筆証書に財産目録を「添付」する際は、契印する事は遺言書の一体性を明らかにする観点から望ましいものであると考えられます。また、遺言自筆証書に財産目録を「添付」する場合に、自書によらない財産目録は本文が記載された遺言自筆証書とは別の用紙で作成される必要があり、本文と同一の用紙に自書によらない記載をすることはできないので注意が必要です。
 
 これに対し、遺言公正証書は、本文(案)を事前に作成しておき、公証人役場で作成する方法の遺言です。この方法では、証人2人が必要で、公証人が遺言の文案に従って作成しますので、法律上適式に作成される事が担保され、原本は公証人役場で保管され、紛失の心配もありません。 公証人に手数料が掛かりますが、遺言者自身が作成した際の法律上の不適法な遺言書の作成を回避でき安全であり、また遺言書検認も不要である等当事務所としてもお勧めします。
 
 尚、証人2人は、遺言者に心当たりが無い場合や遺言の内容を秘密にしておきたい場合等必要な場合は、公証人役場で紹介して頂ける場合もありますので、実際の作成場面では当事務所でも確認させて頂きます。
 
 また、証人には、その委任の趣旨から法律上の守秘義務がある事は当然です。その趣旨を担保するため、公証人役場での遺言作成時には遺言の作成の事実や遺言の内容を口外しない事を宣誓させた上で立会いをして頂いた方が良いでしょう。因みに、公証人には法律上の守秘義務があり、また公証人を補助する書記は、職務上知り得た秘密を他に漏らさない事を宣誓した上で採用されていますので、不用意に秘密事項が漏えいする事は無いでしょう。
 
 
 
■遺言書検認
 
 「遺言書検認」とは、期間制限はありませんが、遺言書の保管者は相続の開始を知った後、「遅滞なく」遺言書を家庭裁判所に提出して検認を受けなければなりません。検認は、簡単に言うと遺言書の証拠保全手続きで、遺言の内容の効力について保証するものではありません。
 
 申立ての際は、遺言者の出生時から死亡時までの全ての戸籍事項証明書(除籍、改製原戸籍含む)、相続人全員の戸籍事項証明書及び相続人以外で遺贈を受けた受遺者の戸籍事項証明書を提出する必要があります。その他、事案によってはこの他にも資料の提出が必要な場合があります。
 
 
 
■法務局における遺言自筆証書の保管制度の制定
 
 遺言書保管所(法務大臣が指定する法務局)にて、遺言自筆証書の保管ができるようになります。この他、相続人等は保管の有無の調査や写しの請求、閲覧も可能になります。この制度を利用する事により、遺言書の検認が不要になります(2020年7月10日施行 遺言書保管法制定)。
 
 
 
■遺言執行と遺言執行者
 
 遺言執行とは、被相続人が遺言で指定した内容に従って、現実に法律的手続きによって相続人に帰属させる手続きの事です。この遺言執行をする役割を果たすのが遺言執行者です。
 
 現実に、相続が開始した場合、相続人は基本的に何もせずに遺言執行者の手続きを待っていればいいとこになります。仮に、遺言はしたが、遺言執行者を指定していない場合、相続人の中の有る者が他の相続人に相続財産を承継させる事務を行いますが、相続財産の中に預貯金通帳や不動産、有価証券等が存在する場合、その遺産の承継事務が終了するまで、その相続人が管理する事になるので、他の相続人の中には不服を申立てる者も現れる可能性も有り、遺言執行者を指定しない場合は、その問題も検討しておく事が必要でしょう。
 
 遺言執行者は、中立・公正・独立の存在で、特定の相続人や受遺者の味方をする者ではなく、あくまでも被相続人の遺言の内容(遺言者の真実の意思)を実際に、実現する遺言執行事務を任務としています。
 
 遺言者が、大切な妻や子供のために遺言書を書いていても、実はそれだけでは完全ではありません。遺言者が亡くなった後に、誰かが遺言者の遺志を実現するために行動をおこさなければ、最終的に遺言者の本懐は遂げられないのです。
 
 遺言執行者は、一部の共同相続人の思惑によって、また遺言書の紛失等の事情によって、遺言がその内容の通りに実現されないという事態を回避するために存在しているといっても過言ではありません。
 
 相続人にとっても、大切な人の死に直面し、埋葬の手配等で心身共に困憊し、打ちひしがれているときに時、戸籍を揃えたり、戸籍調査をしたり、遺産目録を作成したり、金融機関や登記所に行って手続きをしたり、そのための専門家を探したりといった事実上とても困難な状況を強いられるため、その事務を代行してくれる遺言執行者の存在は大変有難いものでしょう。
 
 遺言執行者は、特別の資格は必要ありません。未成年者及び破産者を除き、誰でも就職する事ができます。但し、現実的には、遺言、遺産相続、戸籍調査、遺産目録作成、遺言執行、金融機関の払戻し手続き、登記等の一連の流れは法律上の事務の遂行となりますので、法律専門の実務家で、相続法務を専門分野としている資格者を指定しておく事が無難でしょう。
 
 尚、この遺言執行者は、遺言で指定しなければならず、相続開始後に選任する事ができない事、また、その名称の通り「遺言者の遺言を執行する者」であり、文字通り遺言の存在を前提にしている事により、遺言が不存在の場合は遺言執行者を観念できませんので注意が必要です。
 
 
 
■登記
 
 相続財産に不動産が含まれている場合は、その不動産を承継する相続人名義にするため相続人又は遺言執行者が単独申請による相続を原因とする所有権移転の登記が必要になります
 
 また、遺贈がある場合、遺贈は法律上、単独行為ですが、遺贈者(被相続人)の意思表示を伴う処分行為となりますので、登記法上は遺贈者(その相続人又は遺言執行者)と受遺者との共同申請による遺贈を原因とする所有権移転の登記を申請します。
 
 遺言により承継した財産の中に不動産がある場合は、その相続人(受遺者)は名義変更(所有権移転)の登記をしておく事を強くお勧めします。不動産は持運びできない高額な財産であり、登記制度によって管理されています。自身に登記をしておかない場合、第三者がその不動産の所有権を主張したり、また知らない間に売却されて第三者が所有権を持った不動産になっていしまう恐れがあり、大変危険な事です。
 
 
 
■遺留分と遺留分侵害額請求
 
 相続財産は、被相続人が遺言・贈与により処分可能な割合(これを法律用語で「可譲分」(自由分)といいます。)と自由に処分ができない遺留分とに分かれます。
 
 可譲分が遺留分を侵害する遺言がなされたとしても、直ちに遺言そのものが無効になるものではなく、遺留分を侵害された法定相続人の遺留分侵害額請求の問題になるだけです。つまり、遺留分を侵害された法定相続人が受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた共同相続人を含む。)及び受贈者、それらの包括承継人に対し遺留分侵害額請求権を行使して、遺留分権利者の権利を現実に主張していく事になります。
 
 遺留分とは、被相続人との関係で、より近しい法定相続人が法律の規定によって予め遺産に対する権利として持っている一定の相続財産割合の事です。この法定相続人の事を「遺留分権利者」といいます。遺留分制度は、被相続人から見て他の法定相続人との関係で自身の生計上の独立性が高くなく、経済上の補完関係にある期待を保護するための制度です。
 
 遺留分権利者は、被相続人の配偶者、子、直系尊属になります。従って、被相続人の兄弟姉妹は、被相続人と同じく既に各々独立して生計を立てていますので、遺留分は無く遺留分権利者ではありません。
 
 遺留分権利者にとってこの遺留分は、遺言によっても侵害する事ができない唯一の権利であり、相続においては何よりも優先される大事な権利です。
 
 
 
■相続と裁判
 
 一般的に通常裁判所が権利の存在の確定に当たりますが、相続関係等身分関係が関わる事件の紛争処理は、家庭裁判所が管轄します。経済事件は通常裁判所、身分関係(家族関係)事件は家庭裁判所の管轄という事です。
 
 通常裁判所は、法的紛争の当事者に権利義務の処分が許されていますが、相続事件や離婚事件等の身分関係は、当事者が自由にその関係を決める事は社会生活上も困難なため、家庭裁判所が後見的に当事者の主張(事実)や立証(証拠)を基にその権利関係を判断する事になっています。
 
 簡単に言うと、例えば、親子関係が争われている場合、通常訴訟での経済事件のように、その親子関係の存否を当事者に任せるわけにはいかないという事です。
 
 従って、通常訴訟では民事調停法や民事訴訟法に基づき裁判が行われますが、身分関係事件では、訴訟事件は民事訴訟法の特別法である人事訴訟法で、非訟事件は民事訴訟法の特別法である家事事件手続法に基づき裁判が行われます。
 
 なお、家事事件とは、訴訟手続きではなく家事審判事件と家事調停事件の事をいいます。
 
 また、相続関係事件で紛争が発生した場合、その全ての紛争が家事事件の対象となるものではありませんが、家事事件の対象とされている場合は、調停事件として裁判がなされ、不成立の場合は審判事件に移行します。これを調停前置主義といいます。
 
 更に、家事審判事件での裁判所の審判に不服がある場合は、人事訴訟法に基づき、家庭裁判所で訴訟事件として争う事ができます。
 
 家庭裁判所での判決に不服がある場合は、控訴、そしてその控訴審でも不服がある場合は上告と三審制で権利関係の確定を目指す事になります。
 
 このように、相続関係で争いが生じた場合、裁判手続きによってその権利関係が確定しますが、それには時間と労力、更に裁判費用といった高額のコストを覚悟しなければならなくなります。
 
 そして、それ以上に親族間に精神的な傷が生まれてしまう結果となり、とても円満な相続とはいかない事が多いでしょう。
 
 
 
■遺言の有用性と遺言執行の重要性
 
 遺言をする事により、基本的にまず遺産分割協議が必要なくなります。後日、共同相続人間での遺産に対する紛争の恐れを未然に防ぐ事ができるのです。
 
 更に、遺言で遺言執行者を指定しておけば、被相続人の遺志である遺言の内容を公正に実現する事ができます。遺言執行者を指定しておかない場合、共同相続人の誰かが他の共同相続人の承継した相続財産についても代表して手続きをする事になりますが、必ずしも他の共同相続人の一部は、その行為を是としない場合があり、折角、被相続人が遺言を遺したのに、遺産相続手続きが暗礁に乗上げてしまう場合もあります。
 
 
 
 
 <相続の問題と対処方法>
 
 
■相続時、円滑に、円満に遺産相続を終えるためには
 
 一般的に相続はそのご家族にとって各々固有の問題を孕んでおり事情は異なりますが、もし何か心配であればまず遺言書を作成しておく事です。
 
 事前に決めておく事によって、遺言書を作成した人が亡くなった後に、親族間で紛争が起こる事も避けられます。
 
 
 
 相続の紛争は、簡単に言って、
 
 
 
 共同相続人間での意思交換ができないときに起こる問題
 
 
 
なのです。
 
 
 
 これが、
 
 
 
  紛争を原因とする相続問題の正体
 
 
 
です。
 
 
 
 相続の開始前後で次の手続きが必要になります。
 
 
 
 (相続開始前) 遺言(被相続人の自由に決められ、後日の協議等の合議は不要。)
 
 
 
 (相続開始後) 遺産分割協議(共同相続人全員で合意が形成されなければ、原則として相続は終了しない。)
 
 
 
 相続問題では、共同相続人(受遺者)への相続財産の分割承継を前提に、被相続人が事前に対処しておくか、共同相続人が事後に対処するかという問題です。
 
 
 しかし、何も準備をしないで無関心に相続が開始した際は、相続人間で法的紛争にまで拡大しかねない状況にもなります。
 
 
 最も有用なのは遺言です。それは、相続人間での争いを回避できる大変有効な方法です。
 
 
 
 相続開始前の遺言により、相続を円滑、円満に終える事ができるのです。
 
 
 
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 遺言書  それは安心と明日への願いのために
 
 
 
 
(2020年5月20日(水) リリース)