【ニュースレター2021 ❷ 生前・相続法務】
福 祉 法 務
遺言と遺言執行
あなたの死後の代理人 遺言執行者の重要性
-遺言書と遺言執行者の指定はセットで!!-
ニュースレター2021生前・相続法務の第2回は、遺言執行の重要性につて取上げます。
ご本人の遺志が叶うようにするための遺言書はとても大切です。しかし、この遺言を執行する人の事を忘れがちになっています。遺言書は、生前に作成する事はできますが、その遺言で遺した遺志は誰が実現するのでしょうか。
遺言書がその効力を発揮する時は、もう遺言書を作成したご本人はこの世に存在していません。
遺言書の作成だけでは不十分なのです。この事の重要性がハッキリと理解されていない方が多いのではないでしょうか。
遺言書の作成 = 不十分
そこで大事になってくるのが「遺言執行者」です。
相続対策は、遺言書、遺言執行者、そしてエンゲージメントノートです。
遺言執行の局面は、遺言書を作成したご本人が存在していない段階での話になります。
遺言書 = 生前
遺言執行 = 死後
遺言者の遺志を貫徹させるためには、どうしても生前と死後をセットで考えて、備えておく必要があります。
遺言書作成 + 遺言執行者指定 = 必要条件
今回のニュースレターでは、超高齢社会の中でとても大事な遺言執行につていその要説を概説していきます。
是非、ご覧下さい。
●日本は世界一の超高齢社会
2020年(令和2年)7月1日現在(確定値)では、日本の総人口は、約1億2,583万6,000人で前年同月に比べ減少(▲42,900人 (▲0.34%))しています。
15歳未満の人口は、15,070,000人で、前年同月に比べ減少(▲209,000人 (▲1.37%)となっています。
15~64歳の人口は、74,645,000人で,前年同月に比べ減少(▲534,000人 ▲0.71%)となっています。
65歳以上の人口は、36,115,000人で,前年同月に比べ増加 (314,000人 (0.88%)となっています。
(総務省統計局 「人口推計(令和2年(2020年)7月確定値,令和2年(2020年)12月概算値)(2020年12月21日)公表」より)
2020年9月15日現在の高齢者の人口は、総人口が減少する中で、3,617万人と過去最多となり、総人口に占める割合は28.7%と過去最高になっています。また、日本の高齢者人口の割合は、世界で最高との事です(201の国・地域中)。
男女別にみると、男性は1,573万人(男性人口の25.7%)、女性は2,044万人(女性人口の31.6%)と、女性が男性より471万人多くなっています。
年齢階級別にみると、いわゆる「団塊の世代(第1次ベビーブーム期)」(1947年~1949年生まれ)を含む70歳以上の人口は2,791万人(総人口の22.2%)で、前年に比べ、78万人増(0.7ポイント上昇)となりました。また、75歳以上の人口は1,871万人(同14.9%)で、前年に比べ、24万人増(0.3ポイント上昇)、80歳以上人口は1,160万人(同9.2%)で、36万人増(0.3ポイント上昇)となっています。
総人口に占める高齢者人口の割合の推移をみると、1950年(4.9%)以降一貫して上昇が続いており、1985年に10%、2005年に20%を超え、2020年は28.7%となりました。 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、この割合は今後も上昇を続け、第2次ベビーブーム期(1971年~1974年)に生まれた世代が65歳以上となる2040年には、35.3%になると見込まれています。
2020年の高齢者の総人口に占める割合を比較すると、日本(28.7%)は世界で最も高く、次いでイタリア(23.3%)、ポルトガル(22.8%)、フィンランド(22.6%)等となっています。
(2019年(令和2年)9月2日 統計トピックスNo.126 統計からみた我が国の高齢者 -「敬老の日」にちなんで- 総務省統計局 報道資料より )
●何故、遺言書が必要なのか?
▼相続に関する法的争いの実情
まず、全国の家庭裁判所での遺産の価格別遺産分割事件は次の通りとなっています。
2019年(令和元年)の遺産の価格別統計では、
1,000万円以下 → 33.88%
1,000万円超から5,000万円以下 → 42.87%
に対し、遺産の価格が
1億円超から5億円以下 → 6,78%
5億円超 → 0.58%
と圧倒的に遺産分割調停・訴訟の対象となった遺産の価格は、5,000万円以下の事件が多い事が判ります。
つまり、2019年に遺産の価格で法的争いが生じた価格は、
5,000万円以下の事件 → 76.75%
1億円超の事件 → 7.36%
であり、遺産分割における法的紛争の真の原因が遺産多寡とは無関係である事を示しています。
そして、この傾向は、2019年(令和元年)だけでなく、毎年同じ傾向を示しています。
尚、この数値は、遺産の価格の算定が不能であった事件及び分割をしなかった事件は除かれたいます。
(裁判所 司法統計 「家事令和元年 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く) 遺産の内容別遺産の価額別 全家庭裁判所」より)
相続の争いは、相続財産の大小ではなく、相続人間の感情的又は平等意識から発生した事である事を理解する必要があります。
争続の真の原因は 遺産の多寡とは無関係
▼少子高齢化の加速と認知症
2020年9月現在の日本の高齢者(65歳以上)の総人口に占める割合は28.70%になっています。そして、2025年には30.0%、2040年には35.3%に達すると推計されています。
つまり、現在は4人に1人、近い将来は3人に1人が高齢者になる事になります。
(国立社会保障・人口問題研究所 「日本の将来推計人口 (平成29年推計)」より)
また、高齢者の認知症有病率の推計では、2025年には20%で5人に1人、2040年には24.6%と4人に1人の割合で認知症の方が増加する推計も出されています。
(内閣府 「平成29年版高齢社会白書(概要版)」より)
現在 日本の4人に1人が高齢者
▼少子高齢社会が直面する相続問題
超高齢社会は、平均余命と健康寿命との関係で、非常に困難な状況に直面します。
つまり、高齢化とは、人間の寿命は昔に比べ長生きしますが、その健康期間の後に訪れる高齢期間の間に人は何らかの病と暮らす事になります。すなわち、「高齢化」とは、健康であった期間の後に何らかの病と一緒に暮らす期間という意味といってもいいでしょう。
この病の中に、認知症等の精神疾患があった場合、法律的行為は一切できなくなってしまいます。また、認知症にならなくても身体の介護状態になる可能性もあります。
この場合、少子高齢化社会の中で、問題となるのが相続です。
〇自身が要介護や認知症になった場合
財産の管理は誰に任せるのかといった問題です。
更に
〇相続人が要介護や認知症になった場合
遺産分割はどうするのか、遺言を遺しても誰が遺言を執行するのかといった問題です。
また、
〇相続人がいない場合
誰に自分の財産を相続させるのか、遺言の執行は誰がするのかといった問題です。
▼単独世帯(いわゆる「お一人様」世帯)
単独世帯との関係では孤独死と孤立死の問題があります。
孤独死とは、家族や友人等誰も気づかれる事なく一人で死んでいく事です。
孤立死とは、一人で亡くなったかどうかではなく、社会的に孤立した状態で亡くなり、死後発見される事です。
孤独死は、生涯独身や子供がいない夫婦、子供がいても遠方に住んでいて配偶者が亡くなっている場合等が孤独死になりやすいといわれています。
孤立死は、引きこもり家族がいる場合に、地域から孤立し、両親と引きこもりの家族がともども孤立死する事もあります。特に、配偶者を亡くした男性や引きこもり、ニートの人が両親を亡くすと孤立死に陥りやすいとされています。
単独世帯の割合は、2020年(令和2年)に35.74%、2030年(令和12年)には37.86%、2040年(令和22年)には39.29%と5人に2人が孤独死や孤立死になる可能性のある単独世帯になると推計されています。
(国立社会保障・人口問題研究所 「日本の世帯数の将来推計(全国推計)2018(平成30)年推計」より)
このような事から、次のような相続に対する問題があります。
〇相続対策として遺言公正証書を遺した場合
誰がその遺言を執行するのかが問題となります。
〇高齢になっときや認知症になった時
財産管理はどうするのかが問題となります。
〇相続人がいない場合
誰が死後の手続きを行うのかが問題となります。
●遺言書及び遺言執行者が必要な場合
何故、遺言書や遺言執行者が必要になるのでしょうか。
それでは、具体的な場面で検討していきましょう。
▼遺言書が必要な場合(遺産分割協議難航又は困難=法律上の理由)
〇例えば、前妻との間に子供(相続人)がいる場合です。これは、遺産分割協議が困難となる可能性があります。この場合、相続人の間で軋轢が生じる可能性があります。
〇相続人が高齢又は認知症、知的障害者の場合です。これは、遺産分割協議が困難となります。何故なら、意思能力に問題がある場合、法律上の行為はできませんので、家庭裁判所に成年後見人の選任の申立てが必要であり、時間と労力が掛かります。
〇相続人の中に行くへ不明者がいる場合です。この場合も、遺産分割協議は困難となります。何故なら、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立てが必要であり、時間と労力が掛かります。
〇相続人間の仲が悪い場合です。この場合も、遺産分割協議は困難となるでしょう。家庭裁判所に遺産分割調停を申立てる必要があり、時間と労力が掛かります。
〇相続人の中に未成年者がいる場合です。この場合も、遺産分割協議は困難となります。家庭裁判所に未成年者の特別代理人の選任を申立てる必要があり、時間と労力が掛かります。
〇遺言で認知する場合です。この場合は、法律上、遺言書が必要になります。
〇遺言で相続人の排除やその取消しをする場合です。この場合も、法律上、遺言書が必要になります。
〇遺言が無い場合です。これは非常にシンプルで日常の事かもしれませんが、法定相続人が複数存在する場合、相続開始後、共同相続人の間で遺産分割協議をしなければなりません。しかし、世の中で発生している「争続」の殆どは、実は遺産分割協議が原因になります。従って、遺産分割協議を回避する事が賢明であり、その法律的解決策が遺言になるのです。
▼遺言執行者が必要な場合(遺言執行難航又は困難=事実上の理由)
〇相続人が遠方に居住している場合です。この場合、遺言書が存在しなくても法定相続が可能です。従って、相続上は問題となりませんが、その遺言を執行する者がいないので、事実上、相続手続きは困難となります。
〇前妻との間に子(相続人)がいる場合です。この場合、相続人間の軋轢は別として、法定相続が可能なので、相続上は問題となりません。しかし、その前妻の子との間の関係で相続手続きが支障なくできるかという事実上の問題が障害となります。
〇相続人が高齢又は認知症、知的障がい等の場合です。この場合、法定相続が可能なので、相続上は問題はありませんが、実際にその遺言を実現する事が困難となります。
〇相続人間の仲が悪い場合です。この場合も、例え遺言書が無くても法定相続が可能なので、相続上は問題となりません。しかし、このような場合、相続人の誰が事実上の遺言を執行するのかで、相続人全員の合意は困難となるでしょう。
〇遺言で認知する場合です。この場合、法律上、遺言書の作成とその遺言書の中で遺言執行者を指定しなければなりません。
〇遺言で相続人の廃除やその取消しをする場合です。この場合も、法律上、遺言書の作成とその遺言書の中で遺言執行者を指定しなければなりません。
〇相続人が不存在で、遺言で遺贈をする場合です。この場合、遺贈自体は法律上、問題ありませんが、誰がその遺言を執行かという事実上の問題があり、手続きできません。
●何故、遺言執行者が必要なのか?
このように、遺言書を作成しただけでは、最終的な目的は達成する事はできません。遺言書の作成で満足してしまう原因は、次のような事が考えられます。
つまり、
遺言書 = 生前
遺言執行 = 死後
という理解がされていない事が挙げられます。
すなわち、
折角遺言書を作成しても、実際にその遺言通りの遺志を遂げる局面では、当人である本人はこの世に存在していないという事です。
折角遺言書を作成しても
遺志を実現する時
遺言者である本人はこの世にいない
これは、当然ですが、例え遺言書を公正証書で作成しても避ける事ができません。誤解のないようにして下さい。
尚、遺言書には代表的な様式として、遺言自筆証書と遺言公正証書の2種類があります。2018年(平成30年)7月6日(金)に民法の相続法が改正され、同年7月13日に公布されました。その法律の中で、2019年(令和元年)7月1日(月)から施行されている相続等の効力に関する見直しで、法定相続分を超える部分の承継は、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗する事ができないとの規定が新設されたので、遺産に不動産がある場合で、遺言で指定された法定相続分を超える部分を承継した相続人は、直ちに自己名義に相続登記をしなければならなくなりました。そのため、遺言自筆証書は、検認手続を要するので注意が必要になります。
また、遺言執行者は、「遺言を執行する者」であり、遺言の存在を前提としているため、そもそも遺言自体が存在していない場合は、遺言執行者を観念できない事に注意を要します。
遺言を考える場合、必ず、自分の生前と死後の事をセットで考える事が必要になります。
そして、前述している事からお若い利になっている事と思いますが、遺言執行者の指定は遺言が前提になるという事です。
遺言執行者は 遺言者である本人の 事実上の死後の代理人
そして
遺言執行者の指定をするには
遺言をしなければならない
遺言書と遺言執行者の指定はセット
という事をこの機会に是非、認識して頂ければと思います。
●生前整理と相続対策の必要性
相続で問題となったり、争いが生じたりする原因は、遺産の多寡ではないという事。それは、少子高齢社会や未婚率の増加、核家族化による孤独死・孤立死、また親子の高齢化、更には法律や人々の意識の変化によって起こる争族等様々です。
自身が想像しているより複雑な現実もあります。
いわゆるエンディングノートに象徴される生前整理は、死後の相続人のための相続対策としても大切です。
そして、
その相続対策の要
それは
遺言書の作成と遺言執行者の指定です
いかがでしたでしょうか。
人は、終わりを考えたくありません。だから、考える必要もないと思います。永遠に自身の人生を謳歌したいと思うのは自然な事です。
当事務所では、エンディングノートというノートはありません。あるのは、家族に対する「愛情」、「思いやり」といった本人と家族との絆としての意味であり、本人自身が積極的に家族と結びつくためにする「エンゲージメントノート」です。
自身の人生の一つの役割として、相続対策をしてみてはいかがでしょうか?
遺言書や遺言執行につていのご相談は、生前・相続法務を専門分野又は取扱分野としている法務事務所の司法書士にご相談して頂く事をお勧めします。
あなたの安心と明日への願いのために
※司法書士は、法律問題全般を扱う身近な暮らしの中の法律専門実務家です。
(2021年5月4日(火)リリース)