ニュースレター2020 ❸ 民事訴訟法務
  
 
 
 債権保全の有効な手続き  民事保全法!
 
 不動産に対する仮差押え事件とは!!
 
 
 
 ニュースレター2020の第3回民事訴訟法務は、民事保全法を取上げます。その中で一番ポピュラーな事件は不動産に対する仮押え事件です。
 
 しかし、ポピュラーといっても皆さんは名称は聞いたことがある程度で、実際にどのような手続かを知っている人は少ないのではないでしょうか。
 
 当然です。実はこの民事保全法という手続きは民事執行法と並びイメージが付きにくい内容になるからです。法理論というよりは法制度上の純粋な手続になり、前提知識と適切な状況判断、そして正確な法律手続きが求められ、簡単ではなくとても労力と時間が掛かるものになります。正直いって、一般の方がこの手続きを使いこなし、自身の目的を達成できるかは疑問です。
 
 今回のニュースレターでは民事保全法の最もポピュラーな不動産に対する仮押え事件に焦点を当て、このような手続きが有るという知識を持って頂き、いざという時の備えのために見て下さい。そして、実際に必要な時には、法律業務の中で、民事訴訟法務を専門分野又は取扱分野としている法務事務所の司法書士にご相談して頂く事をお薦めします。
 
 できるだけイメージが付き易いように、解説の内容を取捨選択して、できるだけ平易な言葉を用い、その要説を事例に基づいて解説していきますので、宜しくお願いします。
 
 
 
 【事例】
 
 A氏は、Bに対し、2019年(平成31年)4月1日に100万円を2019年(令和元年)9月末日までに弁済するとの書面による約束で貸し渡した。ところが、Bは期限が到来しても弁済が無く、A氏が督促状を郵送しても支払わないので、どうしたらよいか困っている。A氏は、Bとの共通の知人から得た情報によると、Bの所有不動産として担保の付いていない不動産(避暑地の別荘)があることが判った。
 
 A氏は、情報収集のためネットで検索していると司法書士 W法務事務所のホームページを見付けた。そのホームページには専門分野として民事訴訟法務と掲載されていた。また、そのホームページにはオンライン無料法律相談のページがあったので、A氏は無料であったため、ダメ元で事実関係を記載して、そのオンライン問合せフォームで送信した。
 
 2日程経って、W法務事務所の司法書士Wよりメールで返信が届いた。その返信には、簡単な挨拶と司法書士Wがこの事案に対する法律判断のために必要な事項が箇条書きで書かれており、その事項について再度A氏が司法書士W宛に回答の返信をした。
 
 数日後、返信が届いた。それは基本的な金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求事件に対する対処の仕方が記載されていた。司法書士Wは、本件についての具体的な書面や状況の確認についての情報が限られているので、限界があるものの一般的であると断りながら、できるだけの回答を行った。内容は、貸金の請求方法や本事案の今後の見通し、リスク等が簡潔に記載されていた。
 
 A氏は、大体の自身の状況は解ったが、実際に貸金を返して貰うためには、自分一人では知識が不足している事や日常の仕事があり、難しさを感じていた。そしてA氏は、現在お金が必要になる状況が起こり、100万円の一部でも返して欲しいという事情があった。
 
 そこでA氏は、まず自身の貸金を確実に返して貰うためにはどうしたらよいかを質問をした。加えて、仮に仕事を依頼するとしたら、自身の事案はどの程度の費用が掛かるか知りたかったので、見積りの概算も併せてお願いをする返信をした。
 
 数日後、司法書士Wから民事保全法の不動産に対する仮押えがあるとの回答を得た。A氏は、この日までに思案した結果、ここは司法書士Wに仕事の依頼をしようと考えていた。返信された費用概算には、あくまでも現在の事案概要により算出したもので正式な見積もりではないが、相談内容の範囲では大きな差は無いであろうとの注釈が付いていた。A氏は、この費用概算を見て、司法書士Wへ更に具体的な相談をしたいとの意向を示し、正式な法律相談の日程について都合の良い日を幾つか挙げ、予約を申込んだ。
 
 程無く司法書士Wから初回2時間の予約をした旨の返信が届いた。その返信には、予約当日には本事案の契約書その他揃えられる必要と思われる書類、債務者Bとの関係が判る資料を持参して欲しい旨記載され、また司法書士 W法務事務所のホームページの「取扱分野」の中の「報酬(費用)」メニュー及び「よくあるご質問」メニューを開き、内容を一読して欲しい旨書添えてあった。相談の場所は、A氏の自宅の最寄りの駅付近のカフェになった。
 
 予約の当日、駅前のカフェは道路に面した大きな窓と天井の高い店内が印象的なカジュアルな店であった。司法書士Wは、客が居ない白い壁際のテーブルの椅子に座ると相談の案件の資料や事情聴取ノートを出し準備をした。コーヒーを飲み、落着いた頃、A氏が入口のドアを開けて入ってきた。
 
 司法書士WはA氏に会釈をし、少し緊張気味のA氏に合図を送った。事前のメールで、A氏の予約当日の服装を確認していたので直ぐにA氏と判ったのだ。司法書士WはA氏と簡単な挨拶を交わし、A氏は初回相談料を支払い、司法書士Wは領収証をA氏に渡した。司法書士Wは、当事務所負担である事を告げ、A氏にコーヒーでいいですかと尋ね、A氏が頷くとコーヒーを注文した。
 
 些細な雑談をしているとコーヒーができ、司法書士Wは早速初回2時間の法律相談を開始した。A氏の事案については、事前にオンライン無料法律相談でそのあらましは解っていたので、司法書士Wは事前に聴取する要点を絞り、A氏との初回面談の中では、その事実関係についてはより詳しい聴取りをしていった。
 
 ます、司法書士Wは、A氏との初回の法律相談に当たって必要書類となる面談時事情聴取シートの記入をお願いすると共に、その間にBとの金銭消費貸借契約書に目を通した。そして、更に債務者Bの性格や親族関係、保証人の有無、仕事等A氏と債務者Bとの関係について聴き、何故債務者Bにお金を貸したのか等の経緯を聴きいた。債務者BはA氏よりお金を借りた事実を認めているようであるが、実際に訴訟になった際は、そのBの様子から否認に転ずる可能性を否定できない状況である事。その他の事実関係としては債務者Bは、他にも借金が有る可能性が有る事。また、勤務先の会社の経営が良く無く失業の危険が有る事。それからBには避暑地に過去に相続した別荘を所有している事等を聴取した。
 
 その後、司法書士Wは、本件事案についての法律的対処の方法や見通し、注意点について説明し、A氏からの事案処理に対する質問や心配事等について丁寧に答えた。
 
 そして、司法書士Wは、事実関係、証拠類を確認して、この貸金返還請求事件の見通しについて勝訴できるという印象を得た。仮に自身が事件処理に当たった場合、特に困難な事情も存在しない事から通常通りの事件処理で対応可能と判断できるとA氏に伝えた。但し、法律事件は、当初予想もつかない事実関係が出てきたり、訴訟になった場合、その判断は裁判所がする事、有利な証拠が有っても必ずしも勝訴できる保証は無い事、保全事件ではその担保(以下このニュースレターでは「保全保証金」という。)を失う危険が有る事等リスクの説明も併せてした。
 
 A氏は、司法書士Wに本事案の法律的解決のため、手を貸して貰えないかと聞いた。
 
 本事案に対する法律的問題の処理においては解決可能性が有ると考えた司法書士Wは、快くA氏に事前に聴取した本件事案に対する全体の事件処理を想定した2種類の費用概算を提示した。
 
 A氏は、少し考えた末、司法書士Wにこの事案の解決のために仕事の依頼をした。司法書士Wは、この事案を事件化する事に賛成し、司法書士として2つの法律上の業務がある旨を説明した。
 
 1つは「本人訴訟支援法務」、もう1つは「訴訟代理法務」である。
 
 「本人訴訟支援法務」とは、一般的な法律相談の他、依頼者の意思決定の基、依頼者に代わり、依頼者からの事情聴取をしながら裁判所等に提出する訴状や答弁書等の書類の作成代行を中心に、司法書士が依頼者の裁判手続き等を支援する法律上の業務である事。そして、司法書士の「本人訴訟支援」は、裁判所等に提出する書類作成に関しては、取扱う事件に制限は無い事
 
 「訴訟代理法務」とは一般的な法律相談の他、簡易裁判所管轄で、訴額140万円以内の事件において、司法書士が依頼者の訴訟代理人として、依頼者と協議をしながら、司法書士自身が主体的に裁判手続きをする民事上における法律上の業務である事。
 
 一般的に、「訴訟代理法務」に比べ「本人訴訟支援法務」の方が、裁判手続きに掛かる費用が低額で済み、法律問題の解決を図れるという特長がある事。本人訴訟支援法務」の事件対象は、比較的複雑でない生活関係、家族関係(身分関係)、仕事関係、迷惑行為等の不法行為関係といった日常的に生じる法律的事件に有効である事。 
 
 本件事件の場合、民事執行法に基づく強制執行事件は法律上「本人訴訟支援事件」になる事を付加え、「訴訟代理事件」より、基本的に報酬は低く抑えられる事が多い旨を伝えた。
 
 A氏は、少し考えて、この事件は「訴訟代理法務」を希望した。司法書士費用(報酬)は法律問題の解決や訴訟手続きをする以上、必要になる事、更にBからの100万円の返金がされれば、その金額からも司法書士の費用は支払う事ができる事、少しでも返金があればA氏の現状は助かる事、何もしなければ100万円は返して貰えない事がその理由であった。 
 
 司法書士Wは快く応じ、できるだけの事はすると応え、この事件を受任した。依頼者A氏と司法書士Wとの訴訟代理委任契約書等に双方が署名押印をして、A氏は本件事件の着手金を支払い、本件事件は正式に委任契約が成立し、効力が生じた。
 
 尚、民事保全手続きについては、司法書士Wが状況を調査の上、申立て可能かを追ってA氏に連絡する事とし、後日民事保全手続きを申立てるか否かを決定する事になった。
 
 今回の事件で、司法書士Wがまず着目したのはB所有の別荘である。また、債務者Bの借金が他にも有る可能性が将来障害になると危惧した。それから債務者Bは失業の可能性がある事。このまま放置するとA氏に損害が発生する危険が有るとの心証を得たので、民事保全法上の不動産に対する仮押えを検討する事とした。まず、司法書士WがBに対し受任通知兼催告書を配達証明書付内容証明郵便で郵送し、Bの反応を見る(この方法は仮差押え前の催告となるため、債務者Bが機転が利く人物であればリスクが伴いますので注意が必要です。)。返信や支払う様子が無いようであれば、B所有の不動産に対し仮差押えをした後、Bに対し更に督促状にて督促し、Bが任意に弁済しないのであれば訴訟提起をして勝訴判決を得て、強制執行をするとの戦略を立案し、A氏に伝え、A氏は満足そうに同意した。
 
 
 ※一般的に、債務者の所有不動産に仮差押えをした段階で、債権者との和解が成立する事も多いと思います。債務者としては、自身の不動産に法律上の手続きである仮差押えが入ること自体、脅威であり、また不本意だからです。その意味で、民事保全法上の手続きは、事実上、債務者に対する心理的圧迫を生じさせる意義もあるのです。
 
 
 それでは、司法書士WがA氏の貸金返還請求事件(以下「本件事件」という。)について、どのように債務者Bの責任財産を保全し、A氏に損害が生じないようにしたかについてその要説を概説していきます。
 
 
 
 <民事保全法のポイント>
 
 
●民事保全法の意義
 
 民事保全法とは、民事訴訟の本案の権利ないし権利関係の保全を目的とする仮差押え及び係争物に関する仮処分と、民事訴訟で解決すべき権利関係につき判決が確定するまで仮の状態を定めるための仮の地位を定める仮処分とからなる制度です。
 
 
●民事保全法の存在理由
 
 民事執行法上の強制執行を補完し又は原告の権利を暫定的に守るためにするものです。
 
 
●民事保全の方法
 
 〇仮差押え→金銭債権の支払いを保全するための手続
 〇仮処分 →金銭債権以外の債権を保全するための手続き
 
 
●民事保全の種類
 
 〇仮差押え→①不動産に対する仮差押え
       ②動産に対する仮差押え
       ③債権に対する仮差押え
 
 仮差押えとは、金銭債権についての将来の強制執行が奏功するよう、債務者の責任財産に対しその処分を制限しておく制度です。つまり、責任財産保全の効力があります。将来の強制執行の保全を目的としています。
 
 〇仮処分 →①係争物に関する仮処分
        (a)占有移転禁止の仮処分
        (b)建物収去土地明渡しを保全するための建物処分禁止の仮処分
        (c)不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分
        等
 
 係争物に関する仮処分とは、非金銭債権についての将来の強制執行が奏功するよう、債務者に財産等の現状維持を命ずる措置です。つまり、目的財産現状保全の効力があります。将来の強制執行の保全を目的としています。
 
       ②仮の地位を定める仮処分
        (a)建物明渡断行の仮処分
        (b)社員の地位を保全するための処分禁止の仮処分
        (c)抵当権実行禁止の仮処分
        (d)金員仮払いの仮処分
        等
 
 仮の地位を定める仮処分とは、民事訴訟で解決すべき権利関係につき、判決が確定するまでの間、仮の状態を定めて貰うための処分です。つまり、法律関係現状保全又は仮の状態を設定する効力があります。 強制執行の保全とは関係の無い、現状保全的又は仮状態設定措置です。
 
 
 ●民事保全手続きの構造
 
 民事保全法の手続きは、保全命令に関する手続きと保全執行に関する手続きの二段階構造になっています。
 
 民事保全の命令、すなわち保全命令は、保全命令裁判所に保全されるべき権利(これを「被保全権利」又は被保全債権といいます。)の存在を一応認定した上で保全命令を発令する手続きです。
 
 民事保全の執行、すなわち保全執行は、保全執行裁判所が保全命令を執行する手続きです。
 
 保全命令手続きと保全執行手続きとの関係は、判決手続き(民事訴訟法)と強制執行手続き(民事執行法)の関係に対応しています。強制執行は確定した勝訴判決(これを「債務名義」(さいむめいぎ)といいます。)によって執行しますが、その意味で保全命令は「保全名義」とも呼ばれる事があります。
 
 なお、「保全命令裁判所」や「保全執行裁判所」という裁判所が特別に存在するわけではなく、手続き上の区別として各々の名称を用語として使用しているだけで、民事保全手続きの管轄裁判所については、保全命令事件は、訴訟(本案)の管轄裁判所又は仮に差押えるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所であり、保全執行事件は、裁判所が行う保全執行に関しては、執行処分を行うべき裁判所をもって保全執行裁判所とし、執行官の執行処分に関してはその執行官の所属する地方裁判所が保全執行裁判所となります。具体的にどの管轄の裁判所又は執行官が執行処分を行うべきがについては、各々の保全執行ごとに規定されています。
 
 この保全執行の執行機関は、民事訴訟法の裁判所に対する民事執行法上の執行機関(執行裁判所)と同じです。多くの保全執行では、裁判所が執行機関となります。執行官が執行機関となる場合は、動産の仮差押えや占有移転禁止の仮処分等の実力を用いる執行処分となります。
 
 保全命令機関と保全執行機関が便宜上同じ場合があります。その場合は、保全命令裁判所の保全命令発令後、改めて保全執行裁判所に保全執行への申立ては不要になります。
 
 本件事件では、不動産に対する仮差押え事件なので、保全命令裁判所が保全執行裁判所となり、仮差押えの登記は保全執行裁判所の担当書記官が嘱託により執行します。
 
 
●民事保全手続きへの要請
 
 ①緊急性
  保全命令は、口頭弁論を経ないで発令することができ、証拠は疎明で足ります。また、保全執行手続きでは、原則として執行文の付与は不要です。
 
 ※「疎明」とは、一応確からしいとの推測を裁判官に抱かせる内容の事実をいいます。ちなみに、「証明」は、合理的な疑いを差し挟まない程度に真実らしいと裁判官に確信を抱かせる事実をいいます。「疎明」は「証明」より立証方法が緩和されています。主に、「疎明」は、民事保全法上の事実で、「証明」は民事訴訟法上の事実です。
 
 ②暫定性
  権利又は法律関係を最終的に確定し、実現する手続きではないです。ただし、いわゆる断行の仮処分のように単なる暫定的措置とはいえない保全処分もあります。
 
 ③付随性
  民事保全は、訴訟(本案)及びそこで確定した権利関係を実現する強制執行の手続きの存在を予定しています。
 
 ④密行性
  債権者の手続きを相手方に察知されると、財産の譲渡や隠匿等の妨害手段を講じられる危険性があります。これを防止し、債務者に内密に手続きを進める必要性の事です。
 
 
●民事保全命令の発令要件
 
 〇保全命令の申立ての趣旨に当たる事実の存在の主張
 〇保全すべき権利(被保全権利又は被保全債権)の存在の疎明
 〇保全の必要性の存在の疎明
 
 
 本件事件の場合は、保全の方法は仮差押えで、種類は仮差押えの中の「不動産に対する仮差押え」を採用します。
 
 
 
 (第1段階)
 
 イメージとしては、第1段階として不動産の仮押えはまず「保全命令発令要件充足」後、「不動産仮差押命令申立書」を起案し、保全命令裁判所に「不動産に対する仮差押え命令を申立て」をし、「裁判官面接」を経て、「保全保証金を供託」して、保全命令である「不動産仮差押命令」を発令して貰い、「不動産仮差押決定正本」が債権者に交付されます。
 
 
 (第2段階)
 
 第2段階は、保全執行裁判所の担当書記官が管轄登記所に対象不動産に対し「仮差押えの登記を嘱託」して実行し、執行します。その後、登記が完了した後に債務者に対し「不動産仮差押決定正本」が送達されという流れで行います。
 
 
 
 <不動産に対する仮差押え手続きの骨格>
 
 
●不動産仮差押命令発令要件充足
 ※①保全命令の申立ての趣旨に当たる事実の存在の主張
  ②被保全債権の存在
  ③保全の必要性の存在
●「不動産仮差押命令申立書」起案
●不動産仮差押命令の申立て
●裁判官面接(実施しない裁判所有り)
●保全保証金供託
●保全命令発令
●保全執行
 ※対象不動産に仮差押えの登記を嘱託して登記を実行し執行
 
 
 つまり、簡単にいうと不動産は持運びできないので、保全方法は登記になるため、保全執行裁判所に対し、「対象不動産に仮差押えの登記」をしてもらうのが目標になるのです。
 
 
 
●法律関係
 
       100万円返せ!
 債権者A     →     債務者B
                 ↓
 
                 所有不動産(別荘) 評価額 500万円
 
 
●貸金返還請求事件戦略事実
 
 ▼債権者Aが債務者Bに対し金銭消費貸借契約を締結し100万円を貸渡した。
 ▼債務者Bの領収書が存在する。
 ▼弁済期日の合意と弁済期日の到来の事実の存在。
 ▼期限を過ぎても弁済しない。
 ▼債務者Bは他にも多額な借金が有るようだ。
 ▼債務者Bの勤務している会社は人員整理を予定しており、失業の可能性がある。
 ▼債務者Bには所有の不動産(避暑地の別荘)がある。
 ▼債務者Bは、債権者Aから金銭を借受けた事実は認めているが、訴訟になった際債務否認に転じる可能性を否定できない。
 ▼本件事件の金銭消費貸借契約書等の証拠類が存在する。
 
 
●貸金返還請求事件戦略策定
 
 ①債務者Bに対し受任通知兼催告書を配達証明書付内容証明郵便で郵送する。
 ②債務者Bの反応を見る。返信や支払いが無い場合は次のステップへ進む。
 ③債務者Bの所有不動産に対し仮差押えをする。
 ④債務者Bに督促する。
 ⑤債務者Bが任意に弁済しない場合は、金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求訴訟を提起する。
 ⑥確定勝訴判決(以下「債務名義」(「さいむめいぎ」)という。)を得る。
 ⑦債務者Bに督促をする。
 ⑧債務者Bが任意に弁済しない場合は、債務者Bの仮差押え不動産に強制執行をする。
 ⑧債権者Aの債務者Bに対する貸金の返還を達成する。
 
 
 
 <不動産に対する仮差押事件の流れ>
 
 
事情聴取
 ※相談者Aからの事情聴取を行う。
●保全状況
 ※債務者B所有の不動産には担保権は付いていないので、保全性は十分にある。
●被保全債権の存在を確認
 ※本件事件では「金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権」である。債務者Bの債務否認等の事実は無く、また金銭消費貸借契約書も領収書も存在しているので証拠関係は調っている。
●保全の必要性の存在を確認
 ※債務者Bは他に借金が有り、また、失業の可能性もある。今、債務者Bの責任財産である不動産を保全しないと債権者Aに損害が生じる危険がある。 
●不動産仮押え命令発令の要件充足
 ※①保全命令の申立ての趣旨に当たる事実の存在の主張及び②被保全債権の存在と③保全の必要性の存在を具備
●対象物件確認
 ※実際に債務者B所有の不動産が存在しているか確認する。
●保全保証金算定
 ※ここが一つ目のポイントです。保全手続きは未だ訴訟を提起していない段階で行います。つまり、債務者Bの所有不動産に無断で仮差押えの登記をしてしまう行為です。債務者Bとしては自身の不動産に仮押えの登記が実行されると、事実上売却はできず、財産権の大きな侵害になります。そこで、そうした債務者Bのために法は債権者Aに、もしAの主張しいることが裁判所で認められない場合、Bに対する損害を賠償させる仕組みを作りました。それが「担保、いわゆる保全保証金」です(このニュースレターでは、単に「担保」といわず、「保全保証金」という用語を他の担保と概念を区別するために使用しています)。原則、債権者は保全手続きをする条件として予め保全保証金を立てなければなりません。 本件事件の場合もこの保全保証金が必要になります。
 保全保証金の額は、各々の事件によって異なりますが、一般的に対象不動産の評価額の約10%から30%になるでしょう。
●訴訟の勝訴見通し精査
 ※ここがもう一つのポイント。保全手続き自体に債権者の目的はありません。最終の戦略目標は貸金の返還です。そのため、実際に訴訟で勝訴しなければ保全手続きを採用した意味が無い事はもとより、保全保証金も失う事になり損失は大きいです。
●民事保全手続きの申立て決定
●「不動産仮差押命令申立書」起案
 ※疎明方法(疎甲号証)記載例※「疎甲号証」は疎明資料番号の事です。
  ▼金銭消費貸借契約書
  ▼債務者の印鑑証明書
  ▼内容証明郵便期限の利益喪失通知及び同配達証明書
  ▼債権明細書
  ▼領収書
  ▼保全保証金に関する算定根拠の上申書
  ▼報告書※本件事件の事情、事実関係、債権者の危険等債権者が記述した書類
 ※添付書類記載例
  ▼疎甲号証写し
  ▼不動産登記全部事項証明書
  ▼固定資産評価証明書
  ▼委任状
 ※添付書類
  ▼当事者目録
  ▼請求債権目録
  ▼物件目録
●不動産仮押え命令の申立て
 ※保全命令事件の管轄裁判所は、「実際に訴訟を提起する管轄裁判所」又は「仮に差押えるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所」になります。
●裁判官面接(実施しない裁判所有り)
 ※発令方法の決定
  担保や条件等の裁判官からの告知及び確定
●供託所(法務局)での供託手続き
 ※事前に次の書類を準備しておく
  ▼供託委任状(供託用)
  ▼供託委任状(取戻用)※訴訟で勝訴後、保全保証金を取戻しますが、便宜上、供託用の委任状と同時に取戻用の委任状も作成しておきます。
●供託所で供託後、「供託書正本」を受取り
●保全執行裁判所での保全保証金受入れ手続き
 ※提出書類
  ▼供託書正本
  ▼予納郵券
  ▼目録類
   ▽保全命令決定用
    ・当事者目録
    ・請求債権目録
    ・物件目録
   ▽保全執行用(登記嘱託用)※不動産に対する仮差押え事件の保全命令裁判所と保全執行裁判所は同一のため、保全命令決定用の他に保全執行用も併せて提出します。
    ・物件目録(決定用物件目録の流用可)
    ・登記権利者・義務者目録
  ▼登録免許税
●不動産仮差押命令発令
 ※保全保証金の受入れ手続きが完了後発令されます。発令時期は各事件、各裁判所により異なりますが、午前中に手続きした場合、午後に発令されるケースが多いでしょう。
●保全執行裁判所担当書記官より対象不動産に仮差押えの登記が嘱託
 ※保全執行は、債務者に対し保全命令が送達される前であっても執行する事ができます(民事保全の緊急性、密行性の要請)。
●保全債権者代理人に仮差押決定正本を交付
 ※申立当日か翌日に不動産仮差押決定正本を受取る事ができます。
●対象不動産の不動産登記全部事項証明書取得
 ※仮差押正本の交付を受けてから(仮差押えの登記の嘱託後)、仮押え登記が実行されているかを確認します。
  裁判所担当書記官からの登記の嘱託がされ、その時点から「登記完了予定日」までの実際にその仮差押えの登記が実行される期間は、通常の登記申請の場合と同じで、裁判所担当書記官からの嘱託登記だからという事で早まる事はなく、登記所は申請や嘱託のされた順番により登記を実行していきます。
  因みに、取得した不動産登記全部事項証明書により、仮差押え登記前に障害となる登記が存在した場合は、詐害行為取消訴訟を至急検討する事になります。
●保全執行裁判所の担当書記官より不動産仮差押決定正本が債務者に送達
 ※債務者Bに仮差押決定正本が送達されます。この時点で初めて債務者は自身の不動産に仮差押えがされた事を知ります。
●保全執行裁判所宛保全債務者への不動産仮差押決定正本送達を確認する。
 ※債務者への送達が奏功しない場合は、所在調査や再送達の上申、公示送達等の手続きを執る必要があります。
●民事保全手続き完了
 
 
 
 以上により、債務者Bの責任財産である所有不動産に保全債権者Aの仮押え登記が完了し、無事保全債権者Aの保全債務者Bに対する貸金返還請求権のための強制執行の保全はなされました。
 
 
 ※この【事例】は架空のものであり、実際の事件とは異なります。
 
 
 
 
 いかがでしたでしょうか。
 
 
 
 今回の事件は基本的な事件を題材にしましたが、実際も個人間のお金の貸し借りでは そんなに複雑なケースは多くなく、今回のニュースレターは参考になるのではないでしょうか。
 
 
 一番注意が必要なのは、今回のケースでは「金銭消費貸借契約書」や「領収書」が存在した事です。訴訟になった場合、必ず「証拠」が求められます。逆にいうと、「証拠」さえ有れば保全手続きも訴訟手続きも、更に強制執行も容易になります。
 
 
 尚、今回のニューレターの趣旨により、不動産仮差押命令申立書の起案内容や添付書類、保全保証金の供託に関する法律関係につていは省略しました。
 
 
 複雑は法律上の手続は司法書士に任せ、皆さんは契約書、明細書、領収書等の証拠を書面で作成して、保管しておく事を強くお勧めします。
 
 
 事案の相談や依頼は、民事訴訟法務を専門分野又は取扱分野にしている法務事務所にご相談下さい。
 
 
 
 この知識を活かして頂き、皆さんの法律的解決の一助となれば幸いです。
 
 
 
 
 
 
 最後は法律的解決しかありません  あなたには最後の手段が残っています
 
 
 
 
 
 
 
「民事訴訟法務」とは
 
 「民事訴訟法務」とは、訴訟費用が比較的低額で、自身の権利の主張に有用な「本人訴訟支援」を原則に、依頼者の権利の実現を目的とした法律支援実務です。司法書士の「本人訴訟支援」「訴訟代理」と異なり、裁判所等に提出する書類作成関係に関しては、取扱う事件に制限はありません。また、簡易裁判所管轄で、訴額が140万円以内であれば、「訴訟代理人」としての受任も可能です。
 
 
 
「本人訴訟支援」とは
 
 「本人訴訟支援」とは、一般的な法律相談の他、依頼者の意思決定の基、依頼者に代わり、依頼者からの事情聴取をしながら裁判所等に提出する訴状や答弁書等の書類の作成代行を中心に、司法書士が依頼者の裁判手続き等を支援する法律上の業務です。司法書士の「本人訴訟支援」は、裁判所等に提出する書類作成に関しては、取扱う事件に制限はありません
 
 「訴訟代理」とは、一般的な法律相談の他、簡易裁判所管轄で、訴額140万円以内の事件において、司法書士が依頼者の訴訟代理人として、依頼者と協議をしながら、司法書士自身が主体的に裁判手続きをする民事上における法律上の業務です。
 
 一般的に、「訴訟代理」に比べ「本人訴訟支援」の方が、裁判手続きに掛かる費用が低額で済み、法律問題の解決を図る事ができます。「本人訴訟支援」の事件対象は、比較的複雑でない生活関係、家族関係(身分関係)、仕事関係、迷惑行為等の不法行為関係といった日常的に生じる法律的事件に有効です。 
 
 
 
「認定司法書士」とは
 
 訴訟代理資格を得るための特別な試験に合格した、簡裁訴訟代理等関係業務法務大臣認定司法書士の事をいいます。
 
 
 
「簡裁訴訟代理等関係業務」とは
 
 簡裁訴訟代理等関係業務とは、簡易裁判所において取扱う事ができる民事事件(訴訟の目的の価格が140万円以内の事件)についての訴訟代理業務等であり、主な業務は次の通りです。
 
 民事訴訟手続き
 ②民事訴訟法上の和解の手続き
 ③民事訴訟法上の支払い督促手続き
 ④民事訴訟法上の訴え提起前における証拠保全手続き
 ⑤民事保全法上の手続き
 ⑥民事調停法上の手続き
 ⑦民事執行法上の少額訴訟債権執行手続き
 ⑧民事に関する紛争の相談、仲裁手続き、裁判外の和解手続き
 
 
 
(2020年8月5日(水) リリース)