ニュースレター2020 ❹ 民事訴訟法務
  
 
 
 債権回収の切り札! 強制執行
 
 民事執行法  不動産執行事件とは!!
 
 今回のニュースレター2020第4回では、民事執行法の不動産に対する強制競売について取上げます。
 
 強制執行の最も有名な手続きが、この不動産に対する強制執行である不動産執行です。不動産強制競売とも言いますが、この不動産執行は民事執行法の強制執行の中の金銭執行になります。
 
 しかし、ポピュラーといっても皆さんは名称は聞いた事が有る程度で、実際にどのような手続きかを知っている人は少ないのではないでしょうか。
 
 当然です。実はこの民事執行という手続きは民事保全と並びイメージが付きにくい内容になるからです。法理論というよりは法制度上の純粋な手続きになり、前提知識と適切な状況判断、そして正確な法律手続きが求められ、簡単ではなくとても労力と時間が掛かり、特に不動産執行はヘビーな種類になります。正直いって、一般の方がこの手続きを使いこなし、自身の目的を達成できるかは疑問です。
 
 今回のニュースレターでは、民事執行法の最もポピュラーな不動産執行に焦点を当て、このような手続きがあるという知識を持って頂き、いざという時の備えのために見て下さい。そして、実際に必要な時には、法律業務の中で、民事訴訟法務を専門分野又は取扱分野としている法務事務所の司法書士にご相談して頂く事をお薦めします。
 
 このニュースレターでは、前回のニュースレター2020第3回の事例の続きとして解説していきますが、内容自体はこの第4回のみで完結するように掲載していますので、興味のある方は前回のニュースレターもご確認下さい。
 
 できるだけイメージが付き易いように、解説の内容を取捨選択して、できるだけ平易な言葉を用い、その要説を事例に基づいて概説していきますので、宜しくお願いします。
  
 
 
 
 【事例】
 
 
●法律関係
 
 
      100万円返せ!
債権者A     →     債務者B
                 ↓
                所有不動産(別荘) 評価額 500万円
 
 
 
 A氏が司法書士 W法務事務所の司法書士Wに債権者代理人として不動産の仮押えを依頼し、債務者Bの責任財産に裁判所書記官から仮差押えの登記が嘱託され、債務者Bの責任財産に仮押えを執行し保全した。その後、A氏の訴訟代理人として司法書士Wが債務者Bに対し金銭消費貸借契約に基づく100万円の貸金返還請求訴訟及びその附帯請求を提起してから2カ月ほど経過した。
 
 この訴訟では予想通り債務者Bは第1回口頭弁論期日に出廷せず、答弁書も提出しなかったため、擬制自白が成立し、原告である債権者A氏の請求が全部認容され、勝訴した。いわゆる欠席裁判であった。
 
 判決は、第2回口頭弁論期日に調書判決が言い渡され、その後、控訴期間が経過し、判決は確定した。
 
 ※通常、本件のような事件の訴訟は6カ月から1年前後の期間が掛かります。本件事件では、被告(債務者B)が第1回口頭弁論期日に欠席し、答弁書も提出しなかったため、原告(債権者A氏)の主張を被告Bが認めたとみなされ、被告の擬制自白が成立したため、訴訟を提起してから判決言渡しまで3カ月程度でしたが、訴訟を選択した場合は概ね1年程度は想定していた方がいいでしょう。
 
 その判決書を見ながらA氏は司法書士Wとこれからの手続きについて話し合っている。
 
 A氏はこの間、司法書士Wと最初のカフェで2回打合せをした。1回目は最初の相談の日、そして2回目は債務者Bに対する訴訟の提起の前である。A氏はスマホや自宅のパソコンでメールをするので、確認書類も添付ファイルを利用し、必要な事はタイムリーに司法書士Wから連絡や報告があり、A氏からも都度相談をしながら今日まで手続きを進めてきた。
 
 そして、今回が3回目だ。いよいよ債務者Bに対する貸金の返還に着手する段階に来た。今回は当初の戦略の確認と民事執行法上の強制執行をするための段取りがテーマである。
 
 A氏は、民事保全法上の債務者B所有の責任財産である避暑地の別荘に対し、仮差押えを行い、民事訴訟を提起して、確定勝訴判決まで得た事にホッとしていた。何しろA氏にとっては初めての経験であったため、自身にとって先の見通しが付かなかった事が最大の心労であった。司法書士Wに「訴訟代理法務」を依頼し、訴訟代理人として本件事件の対処をして貰っているが、一人で法律的な問題解決に臨むには、司法書士の「本人訴訟支援法務」で法律専門実務家からの支援が最低限必要になる事を痛感していた。
 
 しかし、民事訴訟は通常1年程度は想定しておかなければならないとの司法書士Wの教示に覚悟はしていたものの、想定外に早く終了した事はA氏にとっては幸いであった。
 
 司法書士Wは、民事訴訟が早く終わった事について、債務者Bにとっても初めての出来事であったと想定でき、又、自身の不動産に仮差押えがされ、戦意を喪失したのかもしれないとの話があった。特に、本件のような事件では、債務者(被告)に対し訴訟代理人が就く事も難しく、更に依頼出来たとしても、その訴訟代理人費用を払う事もままならないという事であったのであろう。確かに債務者Bにとっては、A氏から金銭を借りた事は事実であるので、争っても無駄な事であった。
 
 A氏は司法書士Wに対し、今後の事を聴いた。
 
 司法書士Wはまず、いきなり強制執行ではなく、督促状を送り、債務者Bが貸金の100万円を任意に支払ってくれれば、不動産の強制執行という大掛かりな手続きをしなくて済み、時間と労力、執行費用が節約できる旨話した。A氏も時間や費用を掛けたくなかったので、司法書士Wの助言に同意した。
 
 この不動産執行については、民事執行法上の規定に無いものの、執行裁判所では現在、許可代理人の要件について極めて限定的な運用がされており、特に司法書士資格を有する第三者に対しも代理権の許可がなされない取扱いになっているため、民事執行手続きに精通している司法書士資格を有する第三者が、許可代理人に許可されない事は、依頼者の権利擁護という面から疑義があり、又、一般国民にとっても、国民のする裁判手続きという観点からも、裁判所の強制執行手続きに対する運用は不十分な状況になっていると言わざるを得ない事を説明し、A氏に改めて理解を求めた。
 
 A氏は、怪訝そうな顔つきで、本案訴訟で代理権が有るのに何故権利関係が確定し、その債務名義に沿ってするだけの民事執行法上の代理人に司法書士がなる事が認められないのかと不思議そうに頭を傾げた。
 
 更にA氏は強制執行の部分だけまた改めて代理人を探し、一から説明をしなければならない労力と時間、更に強制執行の代理人報酬も高額になる事から他に方法はないかと司法書士Wに尋ねた。そこで、改めて司法書士Wは本件事件を受任した際に説明した司法書士の「本人訴訟支援法務」を提案した。A氏は、この方法であれば、高額な代理人費用を払わなくても済み、面倒な説明等も再度しなくてよく、自身の目的が達成できると考えた。
 
 A氏は司法書士Wに今後の費用概算を再度確認した上で、司法書士Wに引続きこの事件処理を依頼した。司法書士Wも快く受任した。A氏と司法書士Wは本人訴訟支援委任契約書に署名・押印し、仮差押え事件からの継続委任として、正式に本人訴訟支援委任契約が成立し、効力が生じた。
 
 司法書士Wは、債務者Bとの裁判外の和解交渉のため督促状を作成し、債務者Bへ郵送した。数日後、今回は債務者Bから返信があった。その内容は、100万円を一括で弁済する事は現状困難である事、分割払いで利息も含め5年で弁済したい旨回答があった。
 
 司法書士Wは、この返信をメールでA氏に連絡し、判断を仰いだ。
 
 ※ここで、A氏がこの債務者Bからの申出を基本的に承諾すれば、つまり、弁済期間の短縮等若干の交渉の後、債務弁済契約を締結し、A氏と債務者Bとが合意に達すればこの事件は和解という事になり終了します。勿論、司法書士Wは和解書を作成し、債務者は印鑑証明書を付け、両者は署名押印する事になります。つまり、その和解書には合意当事者は拘束されるので、A氏に貸金返還請求権が有る事は既に勝訴判決により確定しており、債務者Bはその和解に反した場合は不動産を失う事になる事も和解の内容になるからです。
 
 一般的に、強制執行まで至らず、債権者、債務者間での話合いによる合意(和解)で事件が解決するケースが殆どであるのが実情であると思います。債務者もここまで来ては債務を逃れる術はもう無いでしょう。
 
 
 
 A氏はまだ時間が掛かる事に難色を示した。そこで、A氏は司法書士Wの本人訴訟支援のサポートによって、戦略通り不動産執行に着手する事にした。
 
 
 
 それでは、司法書士WがA氏の貸金返還請求事件(以下「本件事件」という。)について、どのように債務者Bの責任財産に対し強制執行(不動産執行)をし、債務者BにA氏の貸金を返還させたのかについてその要説を概説していきます。
 
 
 
 
 <民事執行法の強制執行のポイント>
 
 
●強制執行の主な方法
 
 確定した勝訴判決等(以下「債務名義」(さいむめいぎ)という。)の公文書に表示された請求権の実現を図る手続き。
 
 ▼金銭執行
 
 金銭執行は、実現されるべき請求権が金銭の支払いを目的とする場合の方法です
 
  〇不動産執行→強制競売及び強制管理
  〇動産執行
  〇債権その他の財産権執行
 
 ▼非金銭執行
 
 非金銭執行は、実現されるべき請求権が金銭の支払いを目的としない場合の方法です。
 
  〇物の引渡し等の執行→不動産の明渡し及び動産の引渡し
  〇作為・不作為の執行
  〇意思表示の擬制
 
 
●民事執行の概念
 
 裁判所で確定勝訴判決を得る等、法律で認められた権利の内容を国家機関である裁判所又は執行官が強制的に実現する手続きです。
 
 
●強制執行(金銭執行)の種類
 
 〇不動産に対する強制執行(不動産執行)
 〇動産に対する強制執行(動産執行)
 〇債権その他の財産権に対する強制執行(債権執行等)
 
 
●不動産に対する強制執行の意義
 
 この国では私達は、たとえ自身に権利があっても相手にその権利に基づき力ずくで何かをさせる事はできません。これを自力救済の禁止といいます。しかし、この状況では折角権利があってもただ権利があるという状態が存在するのみで、事態は何も変わりません。そして、義務のある人が任意にその義務を果たさなければ、事実上、義務を負っていない状態になってしまいす。
 
 権利は行使して初めて生かされるものです(つまり、権利は持っているだけでは機能しないという事)。そこで、私たちの国では、個人の自力救済は禁止しますが、その代わりに国が認めた権利は、国の力(公権力)でその権利の行使を行えるようしました。この法律が民事執行法です。
 
 国が認めた権利とは、裁判所が認めた権利等法律によって認められた権利の事です。この民事執行法によって最終的に私達は権利を行使する事ができるのです。
 
 民事執行法の中には、不動産の強制執行の方法が規定されています。不動産執行、不動産強制競売、不動産競売ともいうこの不動産に対する強制執行は、私たちの権利義務社会でとても大切な役割を担っています。
 
 
●執行機関
 
 執行機関とは、民事執行の実施を担当する国家機関であり、民事上、現行法では裁判所及び執行官に限定されています。
 
 民事執行のうち裁判所が執行機関となるのは、権利関係の判断を中心とする観念的処分に適する種類の執行で、不動産執行、債権執行等であり、執行官が執行機関となるのは、実力行使を伴う事実的行為を中心とした処分に適する種類の執行であり、動産執行、不動産の明渡し、動産の引渡しの強制執行等です。
 
 
●不動産執行の管轄裁判所
 
 不動産執行については、その所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄します。 
 
 
●不動産執行(不動産に対する強制執行)手続きの概略
 
〇訴訟により確定勝訴判決を獲得
 ※この確定勝訴判決の事を「債務名義」(さいむめいぎ)といいます。
〇不動産に対する強制執行申立て要件充足
 ※①執行文の付与、②判決正本の債務者(以下「執行債務者」という。)への送達
〇「不動産競売申立書」の起案
〇不動産競売申立書により執行裁判所に強制執行の申立て
〇不動産競売の申立て後、予め必要な費用を納付
 ※この予めの費用の納付を「予納」(よのう)といいます。
〇強制競売開始決定発令
 ※予納後、執行裁判所で強制競売の開始が宣言されます。
〇執行債権者に強制競売開始決定正本を交付
〇執行裁判所から登記所へ対象不動産に対する差押えの登記が嘱託され、実行
 ※不動産は持運びできませんので、不動産の権利関係は登記所で管理しています。
〇強制競売開始決定が執行債務者に送達
〇現況調査等の実施
 ※対象不動産の売却価格等を決める資料として現況調査等がされます。
〇入札等
 ※実際に入札等で売却を実施します。
〇買受人が決まり、代金の納付
 ※買受人が対象不動産の所有権を取得します。
〇買受人名義に登記を嘱託
 ※買受人に対象不動産の登記名義を移します。これで買受人が対象不動産の完全な所有権を取得した事になります。
〇配当手続き実施
 ※売却代金で債権者に配当をします。これで、執行債権者は自身の金銭の支払いを目的とする請求権の弁済を得る事ができます。
 
 
 
 
 <不動産執行(不動産の強制執行)のイメージ>
 
 
 (第1段階)
 
 イメージとしては、第1段階はまず「強制競売の開始決定の要件を充足」、「不動産競売申立書」の起案をし、不動産執行を行う裁判所(以下「執行裁判所」という。)にまず「不動産競売の申立て」を行い、その後「予納」をし、「強制競売開始決定」を発令して貰い、「対象不動産に差押えの登記を嘱託」して、「執行債務者にて強制競売開始決定」が送達されるところまでが目標です。
 
 そして、執行裁判所にて「対象不動産の調査」を経て、実際の「売却」を実施します。
 
 (第2段階)
 
 第2段階の目標は、執行裁判所から「期間入札の通知書」が到着後、「売却」が実施され、「買受人が決定」後、買受人は「代金の納付」をし、買受人名義に「対象不動産の登記の嘱託」をして貰い、最後に売却代金で「債権者に配当」するところまでです。
 
 
 
 
 <不動産執行(不動産に対する強制執行、不動産強制競売)の骨格と執行目標>
 
 
●不動産の強制執行申立ての要件充足
 ※①執行文の付与、②債務名義等の執行債務者への送達
●「不動産強制競売申立書」起案
●不動産競売申立て
●予納
●強制競売開始決定発令
●執行債権者に強制競売開始決定正本を交付
●対象不動産に差押えの登記を嘱託
●強制競売開始決定を執行債務者に送達
●対象不動産の調査等の実施
●売却実施命令発令
●執行債権者に期間入札の通知書到達
●入札
●買受人の決定
●代金の納付
●執行裁判所担当書記官が買受人名義に登記を嘱託
●執行債権者に配当実施
 
 
 
 つまり、まず「不動産に差押え」をし、裁判所の不動産に対する調査を待って、競売により買受人が代金を納付した後、その「配当」を受ける事が目標になるのです。 
 
 ちなみに、「執行裁判所」という名称の裁判所があるわけではなく、強制執行を受付けて実行する機関という意味で、特に便宜上「執行裁判所」という名称を使います。また、「登記所」とは実際は法務局の事です。不動産の登記は通常売主や買主の申請によって行いますが、この国が関与する強制執行では執行裁判所の担当書記官が登記所に登記の嘱託をして実行します。
 
 
 
 
 <本件事件の法律関係と戦略>
 
 
●法律関係
 
 
      100万円返せ!
債権者A     →     債務者B
                 ↓
                所有不動産(別荘) 評価額 500万円
 
 
 
●民事執行法上の不動産に対する強制執行(不動産執行)により、貸金の返還を達成する。
 
 
 
 
 <不動産執行(不動産に対する強制執行)の流れ>
 
 
●不動産の強制執行の戦略確認
 ※債務者への不動産仮押決定正本が奏功し、債務者との交渉が決裂した場合は、戦略通り、訴訟(本案訴訟)を提起後、確定勝訴判決(以下「債務名義」という。)を得て、執行裁判所に不動産執行(不動産の強制競売)の申立て(本執行)をする。
 ※民事保全法上の不動産の仮差押えをした後、本案の訴訟提起までの期間に対しては、債務者の申立てがあるときは、保全命令裁判所による保全命令取消しまでの期間(2週間以上)が規定されていますが(民事保全法37条)、本案訴訟の判決確定後から不動産執行までの期間に保全命令取消しに対する法令上の期間制限はありません。
●債務者Bとの交渉不成立
●訴訟裁判所に訴訟提起
●第1回口頭弁論期日開廷。被告(債務者B)は出廷せず、答弁書も提出しなかった事により、擬制自白が成立し、第2回口頭弁論期日に調書判決により原告Aの請求全部認容判決が言渡され、控訴期間経過後判決は確定した。
●債務名義取得
●不動産の強制競売申立の要件確認
 ※①執行分の付与、②債務名義等の執行債務者(債務者B)への送達
●本執行申立て準備手続き
 ※①本案裁判所宛債務名義の被告への送達証明書の交付申請のための「判決送達証明申請書」を作成
 、②執行文の付与手続きのため「執行文付与申立」を作成
●送達証明書の交付申請
※「判決送達証明書」の取得
●執行分付与の申請
※「執行文付与申立」により執行文取得
↓ 
●「供託原因消滅証明書申請書」作成
※「供託原因消滅証明書申請書」に供託書正本の写しを合綴し、申請します。
●保全裁判所に担保(保全保証金)取消決定申立て
 ※「担保取消決定申立書」に「供託原因消滅証明書」、供託原因消滅証明書の「請書」(請書日付空欄)、「保全命令の取下書」(保全命令事件に既済処理のため実務上添付)、委任状を添付し担保取消決定の申立てをします。
●保全命令裁判所にて申立書及び添付書類の審査後、問題無ければ「担保取消決定」を発令
●「担保取消決定」正本を債務者に送達
●債務者からの即時抗告が1週間以内にされなければ「担保取消決定」が確定
●担保取消決定申立人である担保提供者又はその申立代理人に「供託原因消滅証明書」を交付
●供託所にて保全保証金の取戻し
●供託所に保全保証金の取戻請求
※供託所に①供託金払渡請求書に供託原因消滅証明書、委任状を添付して提出します。
●保全保証金を取戻し
●不動産執行の手続きの流れを事前に確認及び事件見通し確認
 
 
※不動産執行の流れ
 
〇「不動産強制競売申立書」起案
〇執行裁判所に強制競売の申立て
 ※執行裁判所に「不動産競売申立書」に①執行文の付与された判決正本、②判決正本の執行債務者への送達証明書を添付する。
〇不動産競売の申立て後、予め必要な費用を納付
 ※この予めの費用の納付を「予納」(よのう)といいます。
〇強制競売開始決定発令
 ※予納完了後、執行裁判所で強制競売の開始決定が発令されます。
〇対象不動産に差押登記の実行
 ※執行裁判所の担当書記官から登記所へ対象不動産に対する差押えの登記が嘱託され、実行されます。不動産は持運びできませんので、不動産の権利関係は登記所で管理しています。
〇強制競売開始決定が執行債務者に送達
〇現況調査の実施
 ※執行官が対象不動産の現地調査を行い、「現況調査報告書」を作成します。対象不動産の売却価格等を決める資料として現況調査がされます。
〇評価書作成
※現況調査報告書をもとに評価人が「評価書」を作成します。
〇裁判所が「売却基準価格」を決定
※現況調査書及び評価書をもとに裁判所が売却基準価格を決定します。
〇「物件明細書」作成。
※現況調査報告書及び評価書をもとに裁判所担当書記官が「物件明細書」を作成します。
〇期間入札及び開札期日等を決定
〇競売不動産の3点セットを公開。
※競売不動産3点セット(「現況調査報告書」、「評価書」、「物件明細書」)を公開します。
〇売却実施命令発令
〇期間入札公告実施
〇開札
〇入札等
 ※実際に入札等で売却を実施します。
〇最高価買受人に売却許可決定を発令
※売却許可決定が発令できない場合は売却不許可決定が発令されます。
〇買受人決定
〇代金納付
※代金納付日に買受人が売却代金を納付します。この事により買受人が対象不動産の所有権を取得します。
〇買受人名義に登記を嘱託
 ※買受人に対象不動産の登記名義を移します。
〇配当等の期日が指定され、配当表等を作成
〇配当期日が開かれ、執行債権者に配当を実施
 ※売却代金で債権者に配当をします。
 
 
 
●「不動産競売申立書」起案
 ※不動産競売申立書の添付書類の記載内容
  ①執行力ある判決の正本
  ②判決正本の執行債務者への送達証明書
  ③不動産登記事項証明書
  ④公課証明書
  ⑤特別売却に関する意見書
 
 ※添付書類
  ①当事者目録
  ②物件明細書
  ③意見書
  ④上申書
   ※仮差押命令申立事件からの本執行移行である旨。
  ⑤不動産強制競売事件の進行に関する照会書※東京地方裁判所のみ
●不動産競売に必要な費用の確認
 ※必要な費用の種類。
  ①予納金
  ②申立手数料
  ③郵便切手
  ④執行債務者宛の住所等が記載された封筒
  ⑤差押登記のための登録免許税
●強制競売の申立て
 ※執行裁判所に不動産競売申立書を提出して申立てを行います。
 ※執行裁判所に「不動産競売申立書」に①執行文の付与された判決正本、②判決正本の執行債務者への送達証明書を添付する。
●予納金納付
 ※不動産競売申立の受理後、執行裁判所より「保管金提出書」が送付されるので、それに基づいて納付します。
●不動産競売開始決定発令
 ※予納金の納付後、2週間から1カ月程で不動産競売開始決定が発令されます。
●対象不動産に差押登記嘱託
 ※執行裁判所担当書記官から対象不動産に対し差押えの登記が嘱託されます。
 ※裁判所担当書記官からの差押登記の嘱託は、他の登記申請や嘱託申請と同じで、嘱託時点での登記完了予定日に実行され、特別に早く登記がされる事はありません。
●執行債務者に強制競売開始決定送達
 ※強制競売開始決定が発令された後は、「期間入札の通知」まで執行裁判所から連絡や通知はなく、通常の執行手続き上要求される行為も有りません。
●執行官、評価人、裁判所担当書記官による対象不動産の調査等の実施。
●競売不動産3点セット公開
 ※現況調査書、評価書、物件明細書の公開をします。
●売却実施命令発令
 ※3点セットの作成が完了すると売却実施命令が発令されます。
●期間入札の公告実施
 ※売却実施命令が発令されると期間入札の公告がされます。申立債権者には、期間入札の通知書が送付されます。
●「期間入札の通知書」が到達
 ※執行債権者宛に「期間入札の通知書」が到達。
●開札
●売却許可決定を発令
 ※最高価買受人に売却許可決定を発令します。正式に買受人が決定します。尚、売却許可決定が発令できない場合は売却不許可決定を発令します。
●代金納付日に買受人が売却代金を納付
 ※この代金納付により買受人が対象不動産の所有権を取得します。
●執行裁判所担当書記官が買受人名義に登記名義を嘱託
 ※この登記の実行により、買受人は対象不動産の完全な所有権を取得します。
●配当等の期日指定及び配当表の作成
※代金納付がされ配当原資が形成されると、配当等の手続きに進みます。申立債権者には「呼出状」が送付されます。「配当見込額照会書」を送付すれば「配当等見込額照会書」が返信される。
●申立債権者宛に「呼出状」が到達
●配当実施
※配当期日が開かれ、執行債権者(申立債権者)等に配当が実施されます。
 
 
 
 
 
 長く続いた不動産強制競売も完了し、A氏は無事自身の債権の弁済を得る事ができた。
 
 
 いつものカフェで、A氏は司法書士Wに成功報酬を支払い、お礼を言って、ほっとした気持ちで司法書士Wと別れた。司法書士Wはカフェを出るA氏を見送り、本件事件のファイルをカバンに入れた。
 
 
 カフェを出た司法書士Wのスマートフォンに、オンライン無料法律相談の知らせが入った。
 
 
 夏の終わりの日差しは、弱まる様子は感じられなかった。
 
 
 
 
 ※この【事例】は架空のものであり、実際の事件とは異なります。
 
 
 
 
 
 いかがでしたでしょうか。
 
 
 このような手続きで不動産執行は行われます。非常に込み入った内容であり、しかもイメージが付き難いと思いますが、一つひとつの手続きではなく、まず全体のイメージを掴んで頂き、その後要所要所のポイントを理解して頂くと解り易いのではないでしょうか。
 
 
 しかし、一般の方には非常に難解であり、手続き自体困難さも感じる方も多いでしょう。
 
 
 尚、 今回のニュースレターの趣旨により、不動産強制競売申立書の起案内容や添付書類、供託の法律関係等の個々の手続きの詳細までは敢えて触れませんでした。
 
 
 複雑な法律手続は司法書士に任せて頂き、皆さんは契約書明細書領収書等の証拠を書面で作成し、保管しておく事を強くお勧めします。
 
 
 
 事案の相談や依頼は、民事訴訟法務を専門分野又は取扱分野にしている法務事務所にご相談下さい。
 
 
 
 この知識を活かして頂き、皆さんの遭われている問題の法律的解決の一助となれば幸いです。
 
 
 
 
 
 最後は法律的解決しがありません  あなたには最後の手段が残っています
 
 
 
 
 
 
 
「民事訴訟法務」とは
 
 「民事訴訟法務」とは、訴訟費用が比較的低額で、自身の権利の主張に有用な「本人訴訟支援」を原則に、依頼者の権利の実現を目的とした法律支援実務です。司法書士の「本人訴訟支援」「訴訟代理」と異なり、裁判所等に提出する書類作成関係に関しては、取扱う事件に制限はありません。また、簡易裁判所管轄で、訴額が140万円以内であれば、「訴訟代理人」としての受任も可能です。
 
 
 
「本人訴訟支援」とは
 
 「本人訴訟支援」とは、一般的な法律相談の他、依頼者の意思決定の基、依頼者に代わり、依頼者からの事情聴取をしながら裁判所等に提出する訴状や答弁書等の書類の作成代行を中心に、司法書士が依頼者の裁判手続き等を支援する法律上の業務です。司法書士の「本人訴訟支援」は、裁判所等に提出する書類作成に関しては、取扱う事件に制限はありません
 
 「訴訟代理」とは、一般的な法律相談の他、簡易裁判所管轄で、訴額140万円以内の事件において、司法書士が依頼者の訴訟代理人として、依頼者と協議をしながら、司法書士自身が主体的に裁判手続きをする民事上における法律上の業務です。
 
 一般的に、「訴訟代理」に比べ「本人訴訟支援」の方が、裁判手続きに掛かる費用が低額で済み、法律問題の解決を図る事ができます。「本人訴訟支援」の事件対象は、比較的複雑でない生活関係、家族関係(身分関係)、仕事関係、迷惑行為等の不法行為関係といった日常的に生じる法律的事件に有効です。 
 
 
 
認定司法書士とは
 
 訴訟代理資格を得るための特別な試験に合格した、簡裁訴訟代理等関係業務法務大臣認定司法書士の事を言います。
 
 
 
簡裁訴訟代理等関係業務とは
 
 簡裁訴訟代理等関係業務とは、簡易裁判所において取扱う事ができる民事事件(訴訟の目的の価格が140万円以内の事件)についての代理業務等であり、主な業務は次の通りです。
 
 民事訴訟手続き
 ②民事訴訟法上の和解の手続き
 ③民事訴訟法上の支払い督促手続き
 ④民事訴訟法上の訴え提起前における証拠保全手続き
 ⑤民事保全法上の手続き
 ⑥民事調停法上の手続き
 ⑦民事執行法上の少額訴訟債権執行手続き
 ⑧民事に関する紛争の相談、仲裁手続き、裁判外の和解手続き 
 
 
 
(2020年8月7日(金) リリース)