【ニュースレター2020 ❹ 民事訴訟法務】
債権回収の切り札! 強制執行
民事執行法 不動産執行事件とは!!
今回のニュースレター2020第4回では、民事執行法の不動産に対する強制競売について取上げます。
強制執行の最も有名な手続きが、この不動産に対する強制執行である不動産執行です。不動産強制競売とも言いますが、この不動産執行は民事執行法の強制執行の中の金銭執行になります。
しかし、ポピュラーといっても皆さんは名称は聞いた事が有る程度で、実際にどのような手続きかを知っている人は少ないのではないでしょうか。
当然です。実はこの民事執行という手続きは民事保全と並びイメージが付きにくい内容になるからです。法理論というよりは法制度上の純粋な手続きになり、前提知識と適切な状況判断、そして正確な法律手続きが求められ、簡単ではなくとても労力と時間が掛かり、特に不動産執行はヘビーな種類になります。正直いって、一般の方がこの手続きを使いこなし、自身の目的を達成できるかは疑問です。
今回のニュースレターでは、民事執行法の最もポピュラーな不動産執行に焦点を当て、このような手続きがあるという知識を持って頂き、いざという時の備えのために見て下さい。そして、実際に必要な時には、法律業務の中で、民事訴訟法務を専門分野又は取扱分野としている法務事務所の司法書士にご相談して頂く事をお薦めします。
このニュースレターでは、前回のニュースレター2020第3回の事例の続きとして解説していきますが、内容自体はこの第4回のみで完結するように掲載していますので、興味のある方は前回のニュースレターもご確認下さい。
できるだけイメージが付き易いように、解説の内容を取捨選択して、できるだけ平易な言葉を用い、その要説を事例に基づいて概説していきますので、宜しくお願いします。
【事例】
●法律関係
100万円返せ!
債権者A → 債務者B
↓
所有不動産(別荘) 評価額 500万円
A氏が司法書士 W法務事務所の司法書士Wに債権者代理人として不動産の仮押えを依頼し、債務者Bの責任財産に裁判所書記官から仮差押えの登記が嘱託され、債務者Bの責任財産に仮押えを執行し保全した。その後、A氏の訴訟代理人として司法書士Wが債務者Bに対し金銭消費貸借契約に基づく100万円の貸金返還請求訴訟及びその附帯請求を提起してから2カ月ほど経過した。
この訴訟では予想通り債務者Bは第1回口頭弁論期日に出廷せず、答弁書も提出しなかったため、擬制自白が成立し、原告である債権者A氏の請求が全部認容され、勝訴した。いわゆる欠席裁判であった。
判決は、第2回口頭弁論期日に調書判決が言い渡され、その後、控訴期間が経過し、判決は確定した。
※通常、本件のような事件の訴訟は6カ月から1年前後の期間が掛かります。本件事件では、被告(債務者B)が第1回口頭弁論期日に欠席し、答弁書も提出しなかったため、原告(債権者A氏)の主張を被告Bが認めたとみなされ、被告の擬制自白が成立したため、訴訟を提起してから判決言渡しまで3カ月程度でしたが、訴訟を選択した場合は概ね1年程度は想定していた方がいいでしょう。
その判決書を見ながらA氏は司法書士Wとこれからの手続きについて話し合っている。
A氏はこの間、司法書士Wと最初のカフェで2回打合せをした。1回目は最初の相談の日、そして2回目は債務者Bに対する訴訟の提起の前である。A氏はスマホや自宅のパソコンでメールをするので、確認書類も添付ファイルを利用し、必要な事はタイムリーに司法書士Wから連絡や報告があり、A氏からも都度相談をしながら今日まで手続きを進めてきた。
そして、今回が3回目だ。いよいよ債務者Bに対する貸金の返還に着手する段階に来た。今回は当初の戦略の確認と民事執行法上の強制執行をするための段取りがテーマである。
A氏は、民事保全法上の債務者B所有の責任財産である避暑地の別荘に対し、仮差押えを行い、民事訴訟を提起して、確定勝訴判決まで得た事にホッとしていた。何しろA氏にとっては初めての経験であったため、自身にとって先の見通しが付かなかった事が最大の心労であった。司法書士Wに「訴訟代理法務」を依頼し、訴訟代理人として本件事件の対処をして貰っているが、一人で法律的な問題解決に臨むには、司法書士の「本人訴訟支援法務」で法律専門実務家からの支援が最低限必要になる事を痛感していた。
しかし、民事訴訟は通常1年程度は想定しておかなければならないとの司法書士Wの教示に覚悟はしていたものの、想定外に早く終了した事はA氏にとっては幸いであった。
司法書士Wは、民事訴訟が早く終わった事について、債務者Bにとっても初めての出来事であったと想定でき、又、自身の不動産に仮差押えがされ、戦意を喪失したのかもしれないとの話があった。特に、本件のような事件では、債務者(被告)に対し訴訟代理人が就く事も難しく、更に依頼出来たとしても、その訴訟代理人費用を払う事もままならないという事であったのであろう。確かに債務者Bにとっては、A氏から金銭を借りた事は事実であるので、争っても無駄な事であった。
A氏は司法書士Wに対し、今後の事を聴いた。
司法書士Wはまず、いきなり強制執行ではなく、督促状を送り、債務者Bが貸金の100万円を任意に支払ってくれれば、不動産の強制執行という大掛かりな手続きをしなくて済み、時間と労力、執行費用が節約できる旨話した。A氏も時間や費用を掛けたくなかったので、司法書士Wの助言に同意した。
この不動産執行については、民事執行法上の規定に無いものの、執行裁判所では現在、許可代理人の要件について極めて限定的な運用がされており、特に司法書士資格を有する第三者に対しも代理権の許可がなされない取扱いになっているため、民事執行手続きに精通している司法書士資格を有する第三者が、許可代理人に許可されない事は、依頼者の権利擁護という面から疑義があり、又、一般国民にとっても、国民のする裁判手続きという観点からも、裁判所の強制執行手続きに対する運用は不十分な状況になっていると言わざるを得ない事を説明し、A氏に改めて理解を求めた。
A氏は、怪訝そうな顔つきで、本案訴訟で代理権が有るのに何故権利関係が確定し、その債務名義に沿ってするだけの民事執行法上の代理人に司法書士がなる事が認められないのかと不思議そうに頭を傾げた。
更にA氏は強制執行の部分だけまた改めて代理人を探し、一から説明をしなければならない労力と時間、更に強制執行の代理人報酬も高額になる事から他に方法はないかと司法書士Wに尋ねた。そこで、改めて司法書士Wは本件事件を受任した際に説明した司法書士の「本人訴訟支援法務」を提案した。A氏は、この方法であれば、高額な代理人費用を払わなくても済み、面倒な説明等も再度しなくてよく、自身の目的が達成できると考えた。
A氏は司法書士Wに今後の費用概算を再度確認した上で、司法書士Wに引続きこの事件処理を依頼した。司法書士Wも快く受任した。A氏と司法書士Wは本人訴訟支援委任契約書に署名・押印し、仮差押え事件からの継続委任として、正式に本人訴訟支援委任契約が成立し、効力が生じた。
司法書士Wは、債務者Bとの裁判外の和解交渉のため督促状を作成し、債務者Bへ郵送した。数日後、今回は債務者Bから返信があった。その内容は、100万円を一括で弁済する事は現状困難である事、分割払いで利息も含め5年で弁済したい旨回答があった。
司法書士Wは、この返信をメールでA氏に連絡し、判断を仰いだ。