【ニュースレター2020 ❻ 民事訴訟法務】
債権回収の強い味方! 債権に対する強制執行
民事執行法 債権執行事件とは!!
今回のニュースレター2020民事訴訟法務の第6回では、民事執行法の債権に対する強制執行手続きについて取上げます。
強制執行で一番ポピュラーな方法として有名な手続きが不動産に対する強制競売ですが、次いで利用されているのがこの債権に対する強制執行になります。
しかし、ポピュラーと言っても皆さんは名称は聞いてことが有る程度で、実際にどのような手続きかを知っている人は少ないのではないでしょうか。
当然です。実はこの民事執行という手続きは民事保全と並びイメージが付きにくい内容になるからです。法理論というよりは法制度上の純粋な手続きになり、前提知識と適切な状況判断、そして正確な法律手続きが求められ、簡単ではなく労力と時間が掛かるものになります。
正直言って、一般の方がこの手続きを使いこなし、自身の目的を達成できるかは疑問です。今回のニュースレターでは、民事執行法の債権執行をご紹介し、このような手続きがあるという知識を持って頂き、いざという時の備えのために見て下さい。そして、実際に必要な時に、法律実務の取扱分野の中で、民事訴訟法務を専門分野としている法務事務所の司法書士にご相談して頂く事をお勧めします。
このニュースレターでは、前回のニュースレター第5回の事例の続きとして解説していきますが、内容自体はこの第6回のみで完結するように掲載していますので、興味のある方は前回のニュースレターもご確認下さい。
<債権執行(民事執行法の債権に対する強制執行)のポイント>
●強制執行の主な方法
確定した勝訴判決等(以下「債務名義」(さいむめいぎ)という。)の公文書に表示された請求権の実現を図る手続き。
▼金銭執行
金銭執行は、実現されるべき請求権が金銭の支払いを目的とする場合の方法です。
〇不動産執行→強制競売及び強制管理
〇動産執行
〇債権その他の財産権執行
▼非金銭執行
非金銭執行は、実現されるべき請求権が金銭の支払いを目的としない場合の方法です。
〇物の引渡し等の執行→不動産の明渡し及び動産の引渡し
〇作為・不作為の執行
〇意思表示の擬制
●民事執行の概念
法律で認められた権利の内容を国家機関である裁判所又は執行官が強制的に実現する手続きです。
●強制執行の種類
〇不動産に対する強制執行(不動産執行)
〇動産に対する強制執行(動産執行)
〇債権その他の財産権に対する強制執行(債権執行等)
●債権に対する強制執行の主な類型
〇預金債権に対する強制執行(第三債務者は銀行)
〇売買債権に対する強制執行(第三債務者は買主)
〇賃料債権に対する強制執行(第三債務者はアパート等の賃借主)
〇売掛金債権に対する強制執行(第三債務者は取引先等の会社)
〇給与債権に対する強制執行(第三債務者は雇用主)
●債権執行(債権に対する強制執行)の意義
この国では私達は、たとえ自身に権利があっても相手にその権利に基づき力ずくで何かをさせる事はできません。これを自力救済の禁止といいます。しかし、この状況では折角権利があってもただ権利があるという状態が存在するのみで、事態は何も変わりません。そして、義務のある人が任意にその義務を果たさなければ、事実上、義務を負っていない状態になってしまいます。
権利は行使して初めて生かされるものです。そこで、私たちの国では、個人の自力救済は禁止しますが、その代わりに国が認めた権利は、国の力(公権力)でその権利の行使を行えるようしました。この法律が民事執行法です。
国が認めた権利とは、裁判所が認めた権利の事です。その裁判所が認めた権利に基づき私達は権利を行使し、債務者に強制的に弁済をさせる事ができるのです。
民事執行法の中には、債権に対する強制執行の方法が規定されています。この債権執行は、私たちの権利義務社会でとても大切な役割を担っています。
●執行機関
執行機関とは、民事執行の実施を担当する国家機関であり、民事上は裁判所及び執行官に限定されています。
民事執行のうち裁判所が執行機関となるのは、権利関係の判断を中心とする観念的処分に適する種類の執行であり、不動産執行、債権執行等で、執行官が執行機関となるのは、実力行使を伴う事実的行為を中心とした処分に適する種類の執行であり、動産執行、不動産の明渡しの強制執行、動産の引渡しの強制執行等です。
●債権執行(債権に対する強制執行)の手続き上の目標
(第1段階)
第1段階として、まず「債権に対する強制執行の申立ての要件を充足」し、債権執行を行う裁判所(以下「執行裁判所」という。)に「債権差押命令申立書」の起案をし、「債権に対する強制執行の申立て」を行い、その後「予納」をし、「債権差押決定」を発令して貰い、「第三債務者に債権差押命令正本」を送達し、債権執行の効力を発生させるところまでが目標です。
(第2段階)
その後、第2段階の目標は、債務者に「債権差押命令正本」を送達し、「取立権」発生後、第三債務者から「陳述書」の到着、執行裁判所から債務者に関する「通知書」が到着し、実際に「第三債務者に対する取立権を行使」し、第三債務者から「取立通知に関する返信」が到着、その取立通知書に沿って第三債務者がこの手続きに応じられるよう「必要書類」を送付後、第三債務者から「指定口座に入金」された事を確認します。その後、執行裁判所に「取立届」(通知書コピー添付)を送付し完了します。
<債権執行(債権に対する強制執行)の骨格>
●債権に対する強制執行申立て要件充足
※①執行文の付与
②判決正本の債務者(以下「執行債務者」という。)への送達。
↓
●「債権差押命令申立書」起案
↓
●執行裁判所に対し債権に対する差押えの申立て
↓
●予納
※予め必要な費用を納付します。
↓
●「債権差押命令」発令
↓
●第三債務者に「債権差押命令正本」が送達(債権執行の効力発生)
※第三債務者の債務者への弁済等の処分が禁止されます。
↓
●債務者に「債権差押命令正本」が送達されてから1週間が経過
↓
●取立権発生
↓
●発令後、第三債務者から「陳述書」が到着
↓●執行裁判所から債務者への送達に関する「通知書」が到着
※この「通知書」によって、債務者への「債権差押命令正本」の送達の日が判明し、債権者は取立権が発生したかどうかを確認する事ができます。
↓
●第三債務者に対する取立権行使
※第三債務者に「取立通知」と「通知書コピー」を送付。債権者に債権差押命令正本が送達されてから1週間を経過した事が効力発生要件となるので、取立権行使に当たっては第三債務者に送達に関する「通知書」を示して取立てを行うことになります。
↓
●数日後、第三債務者から「取立通知の返信」が到着
↓
●その返信内容に沿い、第三債務者に必要書類を送付
↓
●第三債務者より指定口座に入金の確認
↓
●事後処理として、「取立届」を執行裁判所に提出
↓
●民事執行法の債権執行(債権に対する強制執行)の手続き完了
つまり、債務名義に基づき執行裁判所に対し債権差押命令の申立てをし、債務者の第三債務者に対する債権を差押えて貰い、債権者がその差押債権を取立てて自身の弁済に充てる事で満足を得るという流れになります。
ちなみに、「執行裁判所」とは、そういう名称の裁判所があるわけではなく、強制執行を受付けて執行する機関という意味で、特に「執行裁判所」という名称(法律用語)を使います。
それでは、具体的な事例に基づき民事執行法上の債権執行(債権に対する強制執行)について見ていきましょう。
【事例】
●法律関係
100万円返せ!
債権者A → 債務者B
↓
銀行(第三債務者)
銀行に対する預金債権 債権額(預金額)不明
A氏が司法書士 W法務事務所の司法書士Wに債権者代理人として債務者Bの銀行預金債権に対して仮押えを依頼し、債務者Bの責任財産に対し管轄裁判所担当書記官から債権仮差押決定正本が送達され、債務者Bの責任財産に仮押えを執行し保全した。その後、A氏の訴訟代理人として司法書士Wが債務者Bに対し金銭消費貸借契約に基づく100万円の貸金返還請求訴訟及びその附帯請求を提起してから5カ月程経過した。
この訴訟では裁判官から和解勧告も出されたが合意に達せず、原告A氏の請求が全部認容された。
判決は、第4回口頭弁論期日に判決が言い渡され、その後、控訴期間が経過し、判決は確定した。
※通常、本件のような事件の訴訟は6カ月から1年前後の期間が掛かります。本件事件では、証拠類も調っており、立証も十分になされ、また被告Bからの反論や抗弁も十分ではなかったので、事実関係での厳しい争いにならなかったため訴訟提起してから判決言渡しまで5カ月程度でしたが、訴訟を選択した場合は概ね1年程度は想定していた方がいいでしょう。
その判決書を見ながらA氏は司法書士Wとこれからの手続きについて話し合っている。
A氏はこの間、司法書士Wと最初のカフェで2回打合せをした。1回目は最初の相談の日、そして2回目は債務者Bに対する訴訟の提起の前である。A氏はスマホや自宅のパソコンでメールをするので、確認書類も添付ファイルを利用し、必要な事はタイムリーに司法書士Wからメールで連絡や報告があり、A氏からも都度相談をしながら今日まで手続きを進めてきた。
そして、今回が3回目だ。見晴らしのいい2階のテラス席で、いよいよ債務者Bに対する貸金の返還に着手する会議である。今回は当初の戦略の確認と民事執行法上の強制執行をするための段取りが議題である。
A氏は、民事保全法上の債務者Bの責任財産である銀行預金債権に対し仮差押えを行い、民事訴訟を提起して、確定勝訴判決まで得た事にホッとしていた。何しろA氏にとっては初めての経験であったため、自身にとって先の見通しが付かなかった事が最大の心労であった。司法書士Wに「訴訟代理法務」を依頼し、訴訟代理人として本件事件の対処をして貰っているが、一人で法律的な問題解決に臨むには、司法書士の「本人訴訟支援法務」で法律専門実務家からの支援が最低限必要になる事を痛感していた。
しかし、民事訴訟は通常1年程度は想定しておかなければならないとの司法書士Wの当初の教示に覚悟はしていたものの、想定外に早く終了した事はA氏にとっては幸いであった。
司法書士Wは、民事訴訟が早く終わった事について、債務者Bにとっても初めての出来事であったと想定でき、又、自身の銀行預金債権に仮差押えがされ、戦意を喪失したのかもしれないとの話があった。特に、本件のような事件では、債務者(被告)に対し訴訟代理人が就く事も難しく、更に依頼出来たとしても、その訴訟代理人に費用を払う事もままならないという事であったのであろう。確かに債務者Bにとっては、A氏から金銭を借りた事は事実であるので、争っても無駄な事であった。
A氏は司法書士Wに対し、今後の事を聴いた。
司法書士Wはまず、いきなり強制執行ではなく、督促状を送り、債務者Bが貸金の100万円を任意に支払ってくれれば、銀行預金債権に対する強制執行という手続きをしなくて済み、時間と労力、執行費用が節約できる旨話した。A氏も時間や費用を掛けたくなかったので、司法書士Wの助言に同意した。
この債権執行については、民事執行法上の規定に無いものの、執行裁判所では現在、許可代理人の要件について極めて限定的な運用がされており、特に司法書士資格を有する第三者に対しも代理権の許可がなされない取扱いになっているため、民事執行手続きに精通している司法書士資格を有する第三者が、許可代理人に許可されない事は、依頼者の権利擁護という面から疑義があり、又、一般国民にとって、国民のする裁判手続きという観点からも、裁判所の強制執行手続きに対する運用は不十分な状況になっていると言わざるを得ない事を説明し、A氏に改めて理解を求めた。
A氏は、怪訝そうな顔つきで、本案訴訟で代理権が有るのに何故権利関係が確定し、その債務名義に沿ってするだけの民事執行法上の代理人に司法書士がなる事が認められないのかと不思議そうに頭を傾げた。まして、一般国民ではなく、法律専門実務家である司法書士資格のある者に許可しない事は不合理であると感じるのは自分だけではないであろうと思った。
更にA氏は強制執行の部分だけまた改めて代理人を探し、一から説明をしなければならない労力と時間、更に強制執行の代理人報酬も高額になる事から他に方法はないかと司法書士Wに尋ねた。そこで、改めて司法書士Wは本件事件を受任した際に説明した司法書士の「本人訴訟支援法務」を提案した。A氏は、この方法であれば、高額な代理人費用を払わなくても済み、面倒な説明等も繰返さないでよく、自身の目的が達成できると考えた。
A氏は司法書士Wに今後の費用概算を再度確認した上で、司法書士Wに引続きこの事件処理を依頼した。司法書士Wも快く受任した。A氏と司法書士Wは、委任契約書に署名・押印して、仮差押え事件からの継続委任として、正式に本人訴訟支援委任契約が成立し、効力が生じた。
司法書士Wは、債務者Bとの裁判外の和解交渉のため督促状を作成し、債務者Bへ郵送した。数日後、今回は債務者Bから返信があった。その内容は、100万円を一括で弁済する事は現状困難である事、分割払いで利息も含め4年で弁済したい旨回答があった。
司法書士Wは、この返信をメールでA氏に連絡し、判断を仰いだ。