【ニュースレター2020 ❽ 民事訴訟法務】
賃貸人の切り札! 建物明渡し(タテアケ)の強制執行
民事執行法 建物明渡執行事件とは!!
今回のニュースレター2020の第8回は、民事執行法の建物明渡しに関する強制執行手続きについて取上げます。
司法書士の法務事務所では、個人経済再建法務(任意整理や過払金返還請求、個人破産事件等)に次いでポピュラーな事件になります。
しかし、ポピュラーと言っても皆さんは名称は聞いてことがある程度で、実際にどのような手続きかを知っている人は少ないのではないでしょうか。
この民事執行という手続きは民事保全法と並びイメージが付きにくい内容になるからです。法理論というよりは法制度上の純粋な手続きになり、前提知識と適切な状況判断、法律判断、そして正確な法律手続きが求められ、簡単ではなく労力と時間が掛かるものになります。
正直言って、一般の方がこの手続きを使いこなし、自身の目的を達成できるかは疑問です。今回のニュースレターでは、民事執行法の中で、アパート経営等をされている賃貸人の方にとって知っておきたい内容になります。このような手続きがあるという知識を持って頂き、いざという時の備えのために見て下さい。そして、実際に必要な時に、法務実務の取扱いの中で、民事訴訟法務を専門分野又は取扱分野としている法務事務所の司法書士にご相談して頂く事をお勧めします。
このニュースレターでは、前回のニュースレター2020第7回の事例の続きとして解説していきますが、内容自体はこの第8回のみで完結するように掲載していますので、興味のある方は第7回のニュースレターもご覧下さい。
<民事執行法の強制執行のポイント>
●強制執行の主な方法
確定した勝訴判決等(以下「債務名義」(さいむめいぎ)という。)の公文書に表示された請求権の実現を図る手続きです。
▼金銭執行
金銭執行は、実現されるべき請求権が金銭の支払いを目的とする場合の方法です。
〇不動産執行→強制競売及び強制管理
〇動産執行
〇債権その他の財産権執行
▼非金銭執行
非金銭執行は、実現されるべき請求権が金銭の支払いを目的としない場合の方法です。
〇物の引渡し等の執行→不動産の明渡し及び動産の引渡し
〇作為・不作為の執行
〇意思表示の擬制
●民事執行の概念
法律で認められた権利の内容を国家機関である裁判所又は執行官が強制的に実現する手続きです。
●強制執行の種類
〇不動産に対する強制執行(不動産執行)
〇動産に対する強制執行(動産執行)
〇債権その他の財産権に対する強制執行(債権執行等)
●占有者に対する不動産の引渡し等の強制執行における訴訟の類型
①土地明渡請求
②建物明渡請求
③建物収去土地明渡請求
④建物退去土地明渡請求
●建物の明渡しに関する強制執行の意義
この国では私達は、例え自身に権利があっても相手にその権利に基づき力ずくで何かをさせる事はできません。これを自力救済の禁止と言います。しかし、この状況では折角権利があってもただ権利が有るという状態が存在するのみで、事態は何も変わりません。そして、義務のある人が任意にその義務を果たさなければ、事実上、義務を負っていない状態になってしまいます。
権利は行使して初めて生かされるものです。そこで、私達の国では、個人の自力救済は禁止しますが、その代わりに国が認めた権利は、国の力(公権力)でその権利の行使を行えるようしました。この法律が民事執行法です。
国が認めた権利とは、裁判所が認めた権利の事です。その裁判所が認めた権利に基づき私達は権利を行使し、債務者に強制的に建物の明渡しをさせる事ができるのです。
民事執行法の中には、建物の明渡しに関する強制執行の方法が規定されています。この建物明渡しの強制執行は、私達の権利義務社会でとても大切な役割を担っています。
●建物明渡しの強制執行の手続き上の目標
(第1段階)
第1段階として、まず「建物明渡しの強制執行の実施の要件を充足」し、「建物明渡執行申立書」を起案します。そして、裁判所(以下「執行裁判所」という。)に「建物明渡しの強制執行の申立て」及び「動産執行の申立て」を行います。その後「予納」をし、「建物明渡決定」を発令して貰い、「債務者に建物明渡決定正本」を送達して建物明渡しの強制執行の効力を発生させるところまでが第1段階の目標です。
(第2段階)
その後、第2段階の目標は、「建物明渡執行申立書」を作成し、執行裁判所の執行官に「建物明渡執行を申立て」ます。その後、執行裁判所の「執行官と協議」の上、「催告日」に目的の建物に「公示書」及び「催告書」を貼付し、本執行日(「断行日」)に「動産執行」と共に「建物の明渡し」を行い、建物明渡しの強制執行を完了します。
<建物明渡しの強制執行の骨格>
●「建物明渡命令申立書」起案
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●建物明渡しに関する強制執行申立て要件確認
※①①判決正本の債務者(元賃借人である建物占有者)(以下「執行債務者」という、)への送達。②執行文の付与。
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●「判決送達証明申請書」作成により「判決送達証明書」の交付申請
※「判決送達証明申請書」により「判決送達証明書」を取得します。
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●「執行文付与申立」作成により執行文付与
※「執行文付与申立」により執行文の付与を受けます。
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●「建物明渡命令申立書」起案
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●建物明渡執行及び動産執行の申立て
※執行裁判所に対し建物明渡執行の申立て及び動産執行の申立てをします。
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●予納
※建物明渡命令の申立て後、予め必要な費用(建物明渡命令申立書手数料、郵券)を納付します。この予めの費用の納付を「予納」(よのう)と言います。
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●執行裁判所から建物明渡決定発令
※予納後、建物明渡決定が発令されます。
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●「建物明渡執行申立書」作成
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●執行裁判所の執行官室へ建物明渡執行を申立て
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●明渡催告日に執行期日の公示書と催告書を掲示(※建物明渡執行準備行為)
※執行官が実際に建物へ行き、建物明渡執行の期日の公示書等を掲示します。
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●建物明渡執行
※建物明渡しの執行当日(本執行当日)、執行債務者(元賃借人である建物占有者)その他の占有者による建物の占有を解いて、執行債権者たる賃貸人に占有を移転します。
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●建物明渡しの強制執行完了
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●建物明渡執行完了後、未払い賃借料と遅延損害金について債権執行の申立て
※事件によって異なりますが、一般的にこのような事件の場合は、賃借人の資力は悪化していると想定されますので、実際としては賃貸人は未払い賃料の回収や賃料相当額の損害賠償までは放棄する事も少なくないでしょう。
ちなみに、「執行裁判所」とはそういう名称の裁判所が有るわけではなく、強制執行を受付けて執行する機関という意味で、特に便宜上「執行裁判所」という名称を使います。
それでは、具体的な事例に基づき、民事執行法上の建物明渡しの強制執行について見ていきましょう。
【事例】
●法律関係
建物を明渡せ!
賃貸人A → 賃借人B
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A所有の建物占有
賃貸人A氏が司法書士 W法務事務所の司法書士Wに賃料不払いによる建物明渡しのための占有移転禁止の仮処分を依頼し、その後、A氏の訴訟代理人として司法書士Wが債務者(賃借人)Bに対し賃貸借契約の解除による建物明渡請求訴訟を提起してから3カ月ほど経過した。
この訴訟の第1回口頭弁論期日では、被告Bから「訴状記載の請求の趣旨」に対する答弁として「請求を棄却する」、「訴訟費用は、原告の負担とする。」旨、「訴状記載の請求の原因」については、その認否が記載がされた答弁書が提出された。第2回口頭弁論期日にて裁判官から和解勧試もあったが、条件が合わず判決になった。原告Aの請求が全部認容され、勝訴した。その後控訴期間が経過し、判決は確定した。司法書士Wに本件事件を依頼してから6カ月余りが経過し、年明けとなった。
※通常、訴訟は6カ月から1年前後の期間が掛かります。本件事件では、仮処分の執行後、訴訟を提起してから判決言渡しまで3カ月余りでしたが、訴訟を選択した場合は概ね1年程度は想定した方がいいでしょう。尚、本件事件では訴訟上の和解が成立せず、判決となりましたが、建物明渡請求事件の場合、賃貸人は早期の解決を望んでいる場合が多いので、訴訟になった場合でも、それは和解のための戦術で、多少和解の内容が賃貸人にとって不利であっても、最初から和解を試みる事になるのが一般的であると考えます。
※建物賃貸借契約の場合、借地借家法が適用になるので、賃料不払いを原因とする賃貸人からの解除に対し、賃貸人と賃借人の間で、信頼関係の破壊の事実が存在しなければ当該解除は無効となります。本件事件では、訴訟上で「信頼関係不破壊の抗弁」が被告(賃借人)から提出されなかったので、その分訴訟が早く終結し、裁判官は判決を言い渡す事になりました。この原因には、被告に訴訟代理人が就いていなかった事が挙げられるでしょう。建物賃貸借契約の賃料不払いによる建物明渡請求事件では、そもそも賃借人に訴訟を係属させる資金が無く、訴訟代理人を依頼できる状況ではない事が少なくあいません。
判決は、第3回口頭弁論期日に判決が言い渡され、その判決書を見ながらA氏は司法書士Wとこれからの手続きについて話し合っている。
司法書士Wはまず、いきなり強制執行ではなく、督促状を送り、債務者Bが任意に建物を明渡してくれれば建物明渡しに関する強制執行という手続きをしなくて済み、時間と労力が節約できる旨話した。A氏も時間や費用を掛けたくなかったので、司法書士Wの助言に同意した。
A氏は、再度司法書士Wに費用概算を確認した上で、司法書士Wに引続きこの事件処理を依頼した。司法書士Wも快く受任した。
司法書士Wからの督促状に対し、今回は債務者Bから返信があった。その内容は、やはり今すぐには退去できないとの事であった。
司法書士Wは、この返信をA氏に見せ、判断を仰いだ。
※ここで、A氏がこの債務者Bからの回答を基本的に承諾すれば、つまり、賃借料の支払いに関するA氏の譲歩があり、A氏と債務者Bとが合意に達すればこの事件は和解という事になり終了します。勿論、司法書士Wは和解書を作成し、債務者Bの印鑑登録証明書を付けて、両者はその和解書に署名押印する事になります。
但し、建物明渡請求事件の場合、債務者の金銭的余裕が無い事が殆どであり、また賃貸人にしてみれば、債務者が占有している限り新たな賃借人との契約ができず、収入の目途が立たないばかりか、引続き損害が発生し続ける事態になるため、訴訟までした後に和解はなかな難しい面があるでしょう。
やむを得ない事とは言え、債務者(元賃借人である建物占有者)にとっても居住場所を奪われる事になるので、賃貸人、賃借人双方にとって苦しい決断が迫られます。
因みに、このような事が無いよう、賃貸人は日常、前もって福祉の窓口で話を聴いておく事や生活保護の要件及び手続き等について整理しておく事、公営住宅の募集及び申込み方法を確認しておく事、更に、常日頃から相談できる司法書士を作っておき、顧問契約をしておく事が有効な対策となるでしょう。
それでは、ここから建物明渡しに関する強制執行手続きの流れについて、その要説を概説していきます。
<建物明渡しに関する強制執行手続きの流れ>
●「建物明渡請求訴訟」の提起により勝訴判決を獲得
※この勝訴判決の事を「債務名義」(さいむめいぎ)といいます。
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●控訴期間経過後、判決確定
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●建物明渡しに関する強制執行申立て要件確認
※①判決正本の執行債務者(元賃借人である建物占有者)への送達。②執行文の付与。
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●建物明渡命令(強制執行)申立ての準備手続き
※①本案裁判所宛債務名義の被告への「判決送達証明申請書」による送達証明書の交付申請、②本案裁判所宛に確定証明書付判決執行文の付与手続き
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●「判決送達証明申請書」作成により「判決送達証明書」の交付申請
※「判決送達証明申請書」により「判決送達証明書」を取得します。
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●「執行文付与申立」作成により執行文付与の申請
※「執行文付与申立」により執行文を取得します。
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●「建物明渡命令申立書」起案
※添付書類記載例
〇執行力のある債務名義(確定判決)の正本
〇債務者に対する判決正本達証明書
〇建物登記事項証明書
〇建物明渡命令申立書副本
〇委任状
※添付書類
〇当事者目録
〇物件目録
〇委任状
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●執行裁判所へ建物明渡執行の申立て及び動産執行の申立て
※執行裁判所により、その手続きは同じではありませんが、建物明渡執行と動産執行を同時に申立てる場合は、執行裁判所の執行官に対し建物明渡執行の申立て及び動産執行の申立てを行います。建物明渡の強制執行は、強制執行期日(「断行期日」という。)に建物内の動産を全て撤去してしまわないと完了しません。
一般的に、明渡しの強制執行では、まず明渡催告日(本執行の準備行為)に執行官と執行補助者、場合によっては執行債権者代理人(依頼されている司法書士W)も立会い現場の部屋へ行き、ドアに施錠されていれば開錠し、中へ入ります。そして執行官は部屋にとのような動産が有るか、それは有価値なのか無価値なのか、大きさはどの程度なのか、といった調査をすると共に動産目録を作成します。部屋に賃借人が居れば動産の取扱いについて話しますが、本件事件ではいない事を想定しています。
建物明渡しの強制執行の場合、その部屋の中に残置物が有る事を想定し、この残置物に対する対処の仕方も併せて検討しておかなければなりません。明渡しについて債務名義を得る際、賃料滞納の場合はその請求権、つまり金銭債権についても債務名義を得ているのが通常です。例えば、この債務名義を利用して、明渡執行申立書には動産執行の申立ても同時にできるようになっています。
建物明渡執行(本執行)では、この動産執行により、賃借人の生活上必要と思われるもの(差押禁止動産)や無価値の残置物以外は建物明渡執行の際、動産執行で差押えを行います。また執行官の決定により、即時売却で債権者がその場でその動産を買受ける場合も有り、その場合は買受動産はその場に置いておける利点があります。
動産執行では、執行官室や倉庫に保管してある目的動産を一定期間(差押日から早ければ1週間、遅くても1カ月以内)後、売却し、債権者に配当します。売却方法ですが、比較的高価な物、及びそのような高価な物が複数ある場合は、一件、一件の売却になり、高価ではない物は一括して売却の対象になる事が多いです。また、このような売却対象の物はそもそも通常殆ど価値が無いため、買受人が存在しない場合は、事実上、債権者が買受けて処分する事が多いようです。
部屋の残置物は原則として全て撤去し、一旦、債権者の費用で執行官室の金庫や申立債権者の費用で執行官が用意した倉庫等へ搬出しますが、差押禁止動産や無価値の動産といった動産執行の対象とならない動産、いわゆる目的外動産については、執行官室の金庫等に入らない物は、一旦、債権者の費用で執行官が用意した倉庫等に一定期間保管されます。そして、債務者が引取りに来ないもので経済的価値のある動産は売却し(建物明渡執行の日から早ければ1週間未満の日を残置物の売却期日として指定し、残置物を競売り等で一括売却する)、無価値の動産は廃棄処分になります。目的外動産は、動産執行の対象にはならないので、差押えという概念は無い事に注意して下さい。但し、動産執行の目的動産と目的外動産の取扱いについては、基本的動産執行の規定を準用していますでの、同じと考えていいです。
また、一般的ではありますが、本件のような事件では、債務者の部屋に高価な動産が残置されている事は殆ど稀であり、目的外動産以外の残置物に対しては、執行債務者に引渡せる見込みがないと執行官が判断した時は、建物明渡執行(本執行)当日に残置物の殆ど全ては即時売却か廃棄処分になるでしょう。
また、開錠費用、鍵交換費用、倉庫費用、人件費、廃棄費用等は執行債権者である賃貸人の負担となります。後日、元賃借人に求償したとしても回収できな事が少なくないでしょう。
因みに、建物明渡執行事件では、賃借人は資力が無い事が殆どであり、賃貸人である執行債権者は、延滞賃料や遅延損害金、賃料相当額の損害賠償を放棄する事も多いと言えるでしょう。賃貸人からしてみては、それでも新たな賃借人を見付ける事の方が大事な問題なのです。
尚、動産執行の申立てを行わない場合は、建物明渡執行の範囲で、建物内の動産に対する手続きを行います。すなわち、建物内の家財道具類等の日用品その他の残置物を原則として、全て一旦債権者である賃貸人の費用で執行官が用意した倉庫に移し、執行官がその動産の引取りを元賃借人に催告します。一定期間(1カ月程度)に元賃借人が引取りに来ない動産は、原則として全て競売り等により一括売却します(建物内の残置物は元賃借人が所有権者であり、勝手に売却したり、廃棄したりはできません。)。但し、この動産は殆どが無価値に近い動産である事が多いため(原則として、売却を前提とした手続きであるので、どんな動産でも値を付けられる物は一応値を付けます。言換えると、値を付けないと売却という手続きを観念できません。)、買受人が集まらない事も想定され、その場合は債権者である賃借人が自身で買受人となり、動産の所有権を取得する事となります。その後、動産の所有権者である債権者の賃貸人は、自由に動産を処分する事ができます。因みに、一括売却された代金は、供託され、元賃借人に返還される扱いになります。
更に言えば、建物明渡請求事件では、その多くが建物明渡執行手続まで至る例は多くはないでしょう。仮処分命令が発令された段階、又は本案訴訟で判決が確定するまでの段階で、債務者から任意に明渡しに応ずる事が想定されます。もっと言えば、司法書士から配達証明記録付内容証明郵便受任通知が郵送された段階で、賃貸人と賃借人との和解(示談)が成立し、任意に建物の明渡しが実現される事も少なくありません。
言うまでも無い事ですが、賃貸人としては、賃借人(占有者)が任意に建物を退去した方が、期間も短縮でき、又損害は低くて済みます。
従って、建物明渡請求事件では、賃貸人又は賃貸人代理人はできるだけ賃借人と任意に交渉し、穏当に対処する事が賢明と言えるでしょう。多少の損失は問題にせず、できるだけ早く賃借人に退去して貰い、新たな賃借人を見付ける事を目指すべきです。
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●予納
※建物明渡命令の申立て後、予め必要な費用(建物明渡命令申立書手数料、郵券)を納付する。この予めの費用の納付を「予納」(よのう)といいます。
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●執行裁判所から建物明渡決定発令
※予納後、建物明渡決定が発令されます。
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●「建物明渡執行申立書」作成
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●執行裁判所の執行官室へ建物明渡執行の申立て
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●建物明渡催告日(強制執行準備行為)
※明渡催告日では、一般的に執行官と執行補助者、そして執行債権者代理人は、合鍵で部屋に入り、占有者の特定、部屋の中の動産類を確認し、執行期日の公示書と催告書を掲示し、作業を終えます。
※場合にもよりますが、執行実務上、明渡催告日から20日から1カ月程度で建物明渡しの強制執行(断行日)の日を迎えます。
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●建物明渡執行
※本件事件では、建物明渡執行の申立てと同時に動産執行の申立ても行っています。
※建物明渡し執行(本執行)当日、つまり断行日は、執行官、執行補助者、債権者執行代理人等が部屋に入り、無価値の動産を廃棄し、執行官が即時売却を決定した動産は執行債権者代理人が買受け、その他の差押禁止動産や廃棄しなかった無価値の動産を搬出して倉庫(又は執行官室の金庫等)に移して、建物明渡強制執行の目的である債務者たる元賃借人その他の占有者による建物の占有を解いて、執行債権者たる賃貸人の占有に移転させることで終了します。
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●動産執行により保管動産競売
※倉庫保管(又は執行官室の金庫等)の動産は、早ければ断行日から1週間後に競売り等で一括競売され、売得金は執行債権者に配当されます。
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●建物明渡執行完了
※本件事件の中心的問題は解決しました。
※一般的に、債務者Bに対する未払い賃料等の請求は、放棄する事が多いと思います。しかし、仮に、A氏が債務者Bに対し、未払い賃料や遅延損害金、無権原占有期間の賃料相当額損害賠償を請求するとした場合は、次の流れになります。
〇A氏と司法書士Wの今後の戦略会議
※建物明渡執行完了後、債務者への債権の取立てのため、賃貸人である債権者A氏と司法書士Wは、民事執行法上の財産開示手続きをし、未払い賃借料と遅延損害金、賃料相当額の損害賠償請求について、債権執行の申立てを検討。
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〇民事執行法上の強制執行申立てを決定
※A氏は、「本人訴訟支援法務」として引続き司法書士Wに強制執行手続きに関する書面の作成を依頼した。
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〇司法書士Wは強制執行申立書を起案
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〇この後は、通常の債務者Bに対する民事執行法上の強制執行の手続きになります。
長く続いた一連の訴訟事件も終了し、A氏は無事賃貸アパートの明渡しを完了した。
金曜日の夕方、いつものカフェで、A氏は、司法書士Wに成功報酬を支払い、お礼を言った。
「最後に空いていた部屋は、新しい賃借人も見つかり、何とかなりそうです。また何かあったら宜しくお願いします。」とA氏が聞くと、司法書士Wも「喜んで。」と応えた。
あの後、司法書士Wが聞いた話によると、Bは、親の居る田舎に帰ったとの事だそうだ。
ほっとしたようにA氏はカフェを出て行った。司法書士Wも一つの事件を解決でき、気分は良かった。足取りも軽いA氏の後ろ姿を見送ると、司法書士Wは「本件事件完了」と記入し、本件事件ファイルをカバンに入れた。
真冬の寒さに出ていく前に、もう一杯コーヒーを飲むためウエイトレスに向かって手を上げた。明日も仕事だが、あの頃と違って、現在(いま)は自由な毎日だ。
ベルトのスマホフォルスターの事務所用スマートフォンに着信が入った。オンライン無料法律相談か・・・。今度はどんな事案なのだろう、と思いながら、確認するのは熱いコーヒーを飲んでからにしようと街の喧騒をガラス越しに眺めていた。
コートの襟を立て、足早に行き交うスーツ姿のサラリーマン達が、例年(いつも)より冷え込んだ今年の冬の街をせわしそうに行き交っていた。
※この【事例】は架空のものであり、実際の事件とは異なります。
いかがでしたでしょうか。
このような手続きで建物明渡の強制執行(不動産に対する強制執行)は行われます。強制執行手続きは、各執行裁判所により、その手続き内容が異なります。今回の事例は、あくまでも一つの一般的な事例を取上げてみました。
非常に込み入った内容であり、しかもイメージも付き難いと思いますが、一つひとつの手続きではなく、まず全体のイメージを掴んで頂き、その後要所要所のポイントを理解して頂くと解り易いのではないでしょうか。
尚、今回のニューレターの趣旨により、債権差押命令申立書の起案内容や添付書類、供託手続きの法律関係等の詳細までは敢えて触れませんでした。
複雑な法律手続きは司法書士に任せ、皆さんは契約書、明細書、領収書等の証拠を書面で作成して、保管しておく事を強くお勧めします。
事案のご相談やご依頼は、民事訴訟法務を専門分野又は取扱分野としている司法書士の法務事務所にご相談下さい。
今回のこの知識を活かして頂き、皆さんの法律的解決の一助となれば幸いです。
最後は法律的解決しかありません あなたには最後の手段が残っています
※「民事訴訟法務」とは
「民事訴訟法務」とは、訴訟費用が比較的低額で、自身の権利の主張に有用な「本人訴訟支援」を原則に、依頼者の権利の実現を目的とした法律支援実務です。司法書士の「本人訴訟支援法務」は「訴訟代理法務」と異なり、裁判所等に提出する書類作成関係に関しては、取扱う事件に制限はありません。また、簡易裁判所管轄で、訴額が140万円以内であれば、「訴訟代理人」としての受任も可能です。
※「本人訴訟支援法務」とは
「本人訴訟支援法務」とは、一般的な法律相談の他、依頼者の意思決定の基、依頼者に代わり、依頼者から事情聴取をしながら裁判所等に提出する訴状や答弁書等の書類作成を中心に、法律専門実務家である司法書士が、いかに依頼者の権利が正当に判断されなければならないかをその書類作成に基づき裁判手続き等を通じて支援する法律上の業務です。そして、司法書士の「本人訴訟支援務」は、裁判所等に提出する書類作成に関しては、取扱う事件に制限はありません。
「訴訟代理法務」とは、一般的な法律相談の他、簡易裁判所管轄で、訴額140万円以内の事件において、司法書士が依頼者の訴訟代理人として、依頼者と協議をしながら、司法書士自身が主体的に裁判手続きをする民事上における法律上の業務です。
一般的に、「訴訟代理法務」に比べ「本人訴訟支援法務」の方が、裁判手続きに掛かる費用が低額で済み、法律問題の解決を図る事ができます。「本人訴訟支援法務」の事件対象は、比較的複雑でない生活関係、家族関係(身分関係)、仕事関係、迷惑行為等の不法行為関係といった日常的に生じる法律事件に有効です。
※「認定司法書士」とは
訴訟代理資格を修得するための特別の研修を修了し、その認定試験に合格した簡裁訴訟代理等関係業務法務大臣認定司法書士の事を言います。民事における法律事件に関する訴訟代理の専門性は保証されます。
※「簡裁訴訟代理等関係業務」とは
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