【ニュースレター ➊ 民事信託法務】
願いが叶う! 画期的な法技術 民事信託!!
あの制度とは違う!
最先端の認知症による財産凍結問題対策
民事信託とは!
いよいよこのホームページでも堂々登場です!!
ニュースレター2020第1回民事信託法務は、今、注目を浴びている「民事信託」について掲載します。
民事信託は、その昔、大正11年に旧信託法がこの日本で初めて制定された事に始まります。そして、世の中のニーズに応え、平成18年に全面的に改正され、新信託法として制定されました。
世の中には信託銀行といった金融機関が有りますが、この信託銀行も信託法、そして信託法の特別法である信託業法によって経営されるビジネスとしての信託方法です。この信託方法をいわゆる商事信託と言います。
今、トピックなのは、この商事信託とは対比概念であるいわゆる民事信託という信託方法です。この信託方法は、財産の所有権者(委託者)が、その財産の名義(信託財産の管理・運用・処分権のみ)を信頼する者へ移し、その者(受託者)が、自己の営利を目的とせず、大切な人(信託財産から利益を得る権利=受益権、その受益権の権利者=受益権者)のために財産を管理及び運用並びに処分する事が出来る方法、つまり公的な機関の関与が無い個々人(会社ではない法人)間の「信託」になります。
民事信託は一言で言って
「私の財産を信頼するあなたに託すから、大切なあの人の事を頼みます。」
という行為と言えるでしょう。
現代社会は高齢化社会で、この事から起こる問題の中に認知症による判断能力の低下又は喪失問題が有ります。この問題により、その人の財産が凍結され、家族でさえも利用出来なくなってしまうのが、いわゆる「財産凍結」という現象です。
判断能力を失ってからの方法としては法定後見制度が、判断能力を失う前にする方法としては任意後見制度が各々用意されていますが、法定成年後見制度も任意後見制度も公的な制度であり、前者は法定後見人、裁判所が、後者は裁判所、任意後見監督人が関与し、いずれもその家族にとっては使い勝手が悪く、いざという時に支障をきたしかねない方法で、特に法定後見制度は評判が悪いのが実情です。
そうした中、注目されるのが財産管理方法である「民事信託」です。この民事信託は、例えば、家族が絶対化する信頼のもと、愛する家族のために財産を託し、託された人はその大切な人のためだけに託された財産を管理及び運用並びに時には処分する事が出来る制度(信託行為)で、第三者はこのスキームには存在せず、これ迄の法律では出来なかった法律行為により、新たな法律上の効果を発生さる事が可能になる画期的な法技術なのです。
気を付けなければならない事は、この信託方法は「商事信託」とは違うという事です。「信託」は危ないという先入観は「商事信託」の世界の話で(元本保証等安全な商事信託も有ります)、この「民事信託」は絶対的な信頼関係を基礎に、託された人にとって営利的な行為は一切行わず、受託者は委託者の大切な人のためだけに託された財産を管理及び運用、時にはその大切な人のために処分を行う信託方法です。
又、不動産を信託財産にした場合、受託者にその名義が移転してしまう事になるので、その不動産をお持ちの方は抵抗感を感じる場合も有るかと思いますが、不動産名義は受託者になりますが、信託財産である旨の特別の登記が入りますので、第三者からみて当該不動産は、信託財産である事が明確に判るため、勝手に売却される事はないよう安全性は施されています。
例えば、財産を託す委託者を父親、財産を託される受託者がその子、委託者の財産で守られる大切な人を受益者とします。そして信託スキームでは、受益者を父親として設計するのです。その結果、父親の自宅や現金及び預金、有価証券等は全てそれまで通り父親のために管理及び運用並びに処分する事が出来るようになります。父親が認知症で判断能力を失ったとしても、受託者である信頼する肉親の子が代わって法律上の行為をしますので、「財産凍結」という事態を避けられる事になるのです。
この方法は、委託者と受益者が同一人物という形態の「自益信託」というスキームです。
そして、委託者兼受益者である本人が亡くなった時にこの民事信託を終了させる設計にしておき、その信託契約の中で、信託財産である残余財産の移転先を規定しておけば、委託者の思いの通り死後の信託財産の帰属者等を決める事が出来、事実上、財産承継とう面では、遺言書を作成したのと同じ効果を発揮させる事が出来るのです。遺言書と違い検認も不要です。更に、税の面でも贈与税ではなく相続税になりますので、節税効果も有ります。ただし、遺留分については配慮が必要です。
又、贈与税や相続税は実際に利益を得る受益者に掛かりますが、委託者を受益者にしておけば財産の実質的移動が無いので、信託開始時に贈与税が発生する事も有りません。
この方法は、本人が生前にどの様な事態になっても、その家族にとって財産管理上はあたかも最後迄健康で、お亡くなりになった状況を作り出すことが出来ます。
更に、その財産を完全に子供に移しませんので、その子供に対する贈与税も掛かりません。財産を完全に子供に移し、後はその子供が父親の面倒をみるというやり方も有りますが、この場合は財産を移した段階で子供に高額な贈与税が発生してしまうので得策では有りません。
「遺言」は、本人の死後に機能し、効果を発揮する方法です。今、問題になっている判断能力による財産凍結問題は、本人の生前に直面する本人と家族の問題です。
判断能力を失ってからの対処方法は、極めて限られます。日常的に非常に不都合を強いられる事態に陥り、困難な状況になってしまいます。
ポイントは、認知症での判断能力を失う前に、「財産凍結問題対策」をしておく事に尽きます。
法定後見制度(いわゆる成年後見制度)は、事実上本人やそのご家族の希望が通しずらい制度であり、遺言は財産承継の代表的な制度で、本人が亡くなった後の事は対処出来ますが、本人が生前に判断能力を失った時の事を考えるとき、法定後見制度や遺言だけでは不十分な状況を打開する手段として、民事信託を検討してみる事が必要でしょう。
何故なら、この民事信託自体、積極的に利用する価値の有る方法だからです。
<財産凍結問題と民事信託 要説>
更に知りたいという方のために、民事信託を「財産凍結問題」に焦点を当てて、少し詳しく解説します。関心の有る方はどうぞ!
●平成18年 新 信託法制定
信託法(公益信託二関スル法律、民法の特別法)は、日本では1922年(大正11年)4月20日(大正11年法律第62号)に制定(裁可)され、1922年(大正11年)4月21日公布、1923年(大正12年)1月1日に施行されました。
その後、2006年(平成18年)12月8日(平成18年法律第108号、民法の特別法)に改正、2006年(平成18年)12月15日公布、自己信託に関する規定を除き、2007年(平成19年)9月30日に施行されました。
自己信託は新信託法施行日より1年延期された2008年(平成20年)9月30日より施行されています(新信託法附則2)。自己信託の施行日が1年延長された理由は、旧信託法時代に自己信託を認めると信託財産は倒産隔離される機能が有る事から、執行免脱など悪用されるのではないかとの疑念で、「委託者=受託者」となることは出来ないとするのが通説になっており、濫用の懸念があった事によるためのようです。
しかし、欧米では一般的に利用されている信託方法であり、この改正で日本でも可能になりました。延期された理由の他は、税務・会計制度の整備をしておかなければならなかったという事情も有る様です。
1922年(大正11年)に制定された信託法は、84年ぶりに全面改正されたことから、改正以前の信託法を旧信託法、新しくなった信託法を新信託法と呼ばれています。
日本で初めて信託の制度が定められたのは、1905年(明治38年法律第52号)制定(裁可)及び公布の担保附社債信託法(通称・略称 担信法)で、その後、投資家保護のため1922年(大正11年)に信託業法(大正11年法律第65号、信託法の特別法)が制定(裁可)、これに伴い、1922年(大正11年)に信託一般に関する旧信託法が制定(裁可)されました。
時代の変化に伴い、福祉や扶養などに民事信託のニーズも高まってきた中、第3次小泉改造内閣のもと小泉構造改革で、2004年(平成16年)に法務大臣から法制審議会に信託法の全面改正に関する諮問がなされ、2004年10月1日より2006年(平成18年)1月20日までの間、法制審議会信託法部会において合計30回の審議がされ、2006年2月8日に同審議会総会から法務大臣へ答申(信託法改正要綱)が出されました。この答申を受けて2006年3月13日に国会提出された信託法改正案は、第1次安倍内閣で全面改正され新信託法として2006年(平成18年)制定される事になりました。
又、2007年(平成19年)度に税制改正がなされ、新信託法に対応した税制が拡充及び整備されました。
因みに、アメリカ合衆国の中流階層以上では、相続を円滑に行う事を目的とした「生前信託(living trust)」を設計及び契約することが一般的であると言われています。
●「信託」というものの本質
信託法は、国際社会では既に一般化している財産管理方法であり、その起源の通説は、中世ヨーロッパの十字軍であると言われています。
それは、国家の命令を受けた十字軍の兵士が、異国の地へと出征する際、その兵士が最も信頼する人に兵士の家族の事を頼む習慣が有り、その迫られた状況の中、この信託は誕生したと言われているのです。
信託法では、兵士を委託者、信頼され託された人を受託者、兵士の家族が受益者となります。
つまり、信託の本質は、深い愛情と絶対的な信頼関係を基礎にした、委託者から受益者に対する条件付贈与又は相続財産の先渡し(=死因贈与)である事が解ります。
ここで、受託者(信頼関係のもと財産を託された人)は、その財産の管理及び運用権限者並びに処分権限者であり、受益者のためだけに委託者との約束を遂行する役割を果たすのです。
この様なことから、一言で言って信託とは、
「私の財産を信頼するあなたに託すから、大切なあの人の事を頼みます。」
といった内容の契約行為であるという事が言えます。
信託とは愛する人のためにする行為であり、そのことによってその愛する人に恩恵が生まれる、託する人の願が叶う、愛する人を守る事が出来る行為だという事です。
●信託法の利用方法は?
現在、信託法を基礎にした利用方法は、大きく2つ有ります。一つは、この信託法をビジネスとして活用している方法。もう一つは、ビジネスとせず、身近な人のためにこの信託法を活用しようとする方法です。
前者は、株式会社等の営利を目的にした会社が受託者となって委託者、つまり顧客のために託された財産を運用及び管理並びに処分する方法です。後者は、主に個人が、ある個人に対し、他の個人が受託者となって、そのある個人のために、個人的な信頼関係を基礎として、託された財産を管理及び運用並びに処分する方法になります。
前者が商事信託、後者が民事信託と言われています。家族信託という言い方もされますが、その形態は、一般的に、ある家族又は親族の一人が、ある特定の家族又は親族のために、その家族又は親族の中の人に財産を託する形態、つまり、委託者、受託者、受益者が全て家族又は親族、或いは受託者が委託者の家族又は親族という繋がりが成立している中で形成される信託を言い表す用語として使われているようです。他にも、「福祉信託」、「個人信託」、「ペット信託」等々の用語が色々な局面で使用されています。「民事信託」は、この「家族信託」等を含む概念ですので、このニュースレターでは、より広い概念の「民事信託」という日常用語又は業界用語を使って解説していきます。
因みに、「商事信託」も「民事信託」も「家族信託」等も全て法律上の用語では有りません。特に、受託者が営利を目的としない信託方法を表現する用語の中で「民事信託」という用語が一番古く、「商事信託」、「営業信託」といった用語の対比語として、信託法改正が論議されていた頃に使われたのが最初だと言われています。
そうした中、「民事信託」の類義語として「家族信託」、「福祉信託」、「個人信託」、「ペット信託」等々の用語が、各々の信託形態を表す用語として派生的に生まれたと考えられます。
商事信託は、皆さんご存じの通り、信託銀行等で活用されています。今、ちょっとしたブームを起こしているのは民事信託です。
では、どのような活用の仕方や利点があるのでしょうか。
民事信託は「財産管理方法」の一つである事がそのポイントです。第2のポインとは、民事信託は今迄常識とされていた法制度の根本を大きく変える存在であるという事、第3にその活用方法は当事者が自由に決められるという事が挙げられるでしょう。
民事信託は、財産管理の方法であり、これ迄の法制度ではどうしても自分の意思が貫徹出来ない状況に居る方に適した方法である言えます。そのため、これまで通りの法制度で問題なければ利用する必要は有りません。
又、財産管理方法ですので、身の回りの事に対する行為は民事信託の世界には入りません。従って、身上監護は、別途任意後見制度等を利用する事になります。
●高齢化社会と財産凍結問題
昨年にもテレビで「財産凍結問題」について特集されていましたが、実は、民事信託が今注目を浴びる一つの大きな理由がここに有ります。
それを理解するには一つの大事な視点と現代社会を前提としなければなりません。何故なら、その視点を前提としなければこの問題の本質を理解出来ないからです。
この社会は「自己決定権の尊重」を基本にする基本的人権の尊重を基本原則とした国に在ります。簡単に言いますと、個人の意思が最も大事で、その個人の意思を出来るだけ尊重する事、国の立場から言うと、自分の事は自分で決める自由を保障しなければならないという事です。
もう一つの前提は、現代は高齢化社会であるという事です。厚生労働省の発表によると、平成24年の65歳以上の高齢者人口は3,079万人で、認知症高齢者数は約462万人、正常と認知症の中間の人(MCIの人)は約400万人と推計されています。この推計を基にすると、約7人に1人が認知症患者、約4人に1人が何らかの認知症に関係のある高齢者という事になります(厚生労働省 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応(H25.5報告)及び「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ以上の高齢者数につて(H24.8公表)より)。
又、内閣府の発表によると、団塊の世代が75歳以上になる2025年には、約700万人が認知症患者と推計され、その年の65歳以上の高齢者人口の約5人に1人に達すると見込まれています(内閣府 平成29年版高齢社会白書より)。
この二つの事実が財産凍結問題を惹き起こす原因となります。つまり、その昔と違い、人の寿命が延び高齢化になると健康であった期間の後、人間には色々と健康面で病気が出てきます。その一つが認知症における精神障碍です。簡単に言うと「判断能力の低下又は喪失」です。つまり、人が長生きする長寿社会そのものは大変良い事ですが、何らかの病気と伴に生活する期間がその昔に比べ長くなったという事です。
前述しました通り、この国は、基本的人権の尊重を基本原則としています。自分の事は自分で決められる自由を保障しています。
しかし、その反面自分の事を自分で決められなくなった人は、その人の事を他の人は決められないという問題に突き当たります。そして、その人が財産を持っていて、家族が居る場合、その人の判断能力が低下又は喪失していると、その人の財産を使える事が出来ず、塩漬け状態になってしまいます。この状況がいわゆる「財産凍結」という現象です。
この現象が、400万人とも500万人とも言われる認知症に関係の有る人々の家族に大きな障害となって押寄せているのが現代の社会なんです。
つまり、人間は、認知症になってしまったら、それまで自由に使えていた自分の財産を使えなくなってしまうのはもとより、その家族の方々の生活にも大きな影響を及ぼす結果となってしまうという事です。例えば、認知症になった方を介護出来ない状況になった場合、家族は介護施設の入居を考えると思いますが、その費用をその認知症になった方の財産から捻出するのにも、出来なくなる可能性に陥ります。
この様な場合、認知症になった人を保護する制度として法定後見制度が有ります。この制度自体は、この高齢化社会の時代に認知症になって判断能力が低下又は喪失した方のためにより良く生活出来るようにと制定された制度ですが、その反面、制度の趣旨として判断能力が低下した人を守る制度なので、出来るだけその方の財産を減らさない様にという方向性でその作用します。従って、積極的に財産を支出して、より良く生活していくという考えた方に消極的な制度となるのです。判断能力が低下した父親のために良かれと思って考えた事も法定成年後見人、更にはその許可を与える裁判所から「NO」と言われる事が少なく無い状況で、現在、評判が非常に悪い制度になってしまっています。
では、認知症になる前、判断能力の低下又は喪失していない段階で対処すればどうでしょうか。確かに良い視点です。判断能力が低下してしまう前に利用出来る制度として任意後見制度が有ります。この制度は、法定後見制度と異なり、まだ判断能力が低下する前に、その人の意思で自分が認知症になって判断能力が低下した以後、その人との間でどの様な事をするかについて契約をしておくものです。
従って、この任意後見制度は、本人が認知症になり判断能力が低下した段階から開始する事になります。この方法では、いざ本人が認知症になり判断能力が低下した時に、この任意後見制度も任意後見監督人という立場の人を裁判所に選任して貰わなくてはならず、例えば、自宅を直ぐに処分したいと思っても迅速性に欠ける事もあり、こちらも評判があまり良くないです。
法定後見制度も任意後見制度も共通している事は、利用者やその家族にとって使い勝手が悪い事が挙げられるでしょう。
因みに、「遺言」を作成しておけば何とかなるとお考えの方がいましたら、それも困難です。この遺言という制度は、本人が亡くなった後に機能する方法です。今、問題になっているのはその本人が生きている間に起こる問題なのです。
つまり、自己決定権が尊重されるこの国で、高齢化時代において、認知症になり判断能力が低下又は喪失した場合の有効な手立てがないという事です。
これがいわゆる人の生前に起きる「財産凍結問題」の正体です。
そこで、今迄には無かった方法が求められるようになりました。それが、画期的な法技術である民事信託です。
「願いが叶う 愛する人を守る事が出来る」この法技術は、とても利便性が高く、この高齢化時代に抜群の効果を発揮します。
民事信託は、前述した通り非常に適用性に優れており、この認知症による判断能力の低下又は喪失問題に対する対処の他にも多種多様な効果が有りますが、ここでは個人の生前の判断能力の低下又は喪失問題に焦点を当てて解説していきます。
民事信託は、その効果の面で大きく分けて2つの効果が有ります。いずれも今までの法律的な常識を超える効果です。
一つは、人の生前に機能し、能力を発揮する現在の法制度を補完する効果。もう一つは、人の死後に機能し、能力を発揮するそれ迄の法制度を超える効果です。
民事信託には、法制度の補完効果(法制度だけでは不十分な部分を補完して十分な能力を発揮させる効果)、そして、法制度の超越効果(法制度を十分に適用しても限界が有り、その限界を超える新たな能力を発揮させるための効果)の二つが有るという事です。
この効果を併合して一つのスキームとして設計する事も勿論可能です。今回のニュースレターでは、これ迄記載してきました個人の判断能力の低下又は喪失に焦点を絞って、最低限支障を回避出来る、個人の生前に機能し、能力を発揮する民事信託の法制度補完効果についてその要説を解説していきます。
民事信託では、委託者、受託者、受益者の三者が必ず登場します。それは「私の財産を信頼するあなたに託すから、大切なあの人の事を頼みます。」という「十字軍の信託」に由来する信託法の理念的・中心的なスキームだからです。
委託者は財産を託す人、受託者は財産を託される人、受益者は委託者の財産で守ってあげる委託者にとってとても大切な人です。
そして、受託者は、自分の財産とは区別され託された財産を受益者のために管理及び運用更に処分して、受益者のために役割を果たします。例えば、受益者が介護老人ホームに転居する場合は、その託された財産の中の自宅を公的な機関の関与無しに売却さえ出来ますので、本人が判断能力を失っても全く心配はいりません。
気を付けなければならない事は、この信託方法は「商事信託」とは違うという事です。「信託」は危ないという先入観は「商事信託」の世界の話で(元本保証等安全な商事信託も有ります)、この「民事信託」は絶対的な信頼関係を基礎に、託された人にとって営利的な行為は一切行わず、受託者は委託者の大切な人のためだけに託された財産を管理及び運用、時にはその大切な人のために処分を行う信託方法なのです。
又、不動産を信託財産にした場合、受託者にその名義が移転してしまう事になるので、その不動産をお持ちの方は抵抗感を感じる場合も有るかと思いますが、不動産の名義は受託者になりますが、信託財産である旨の特別の登記が入りますので、第三者からみて当該不動産は、信託財産である事が明確に判るため、勝手に売却される事はなく、安全性は担保れています。
更に、その財産を完全に子供に移しませんので、その子供に対する贈与税も掛かりません。財産を完全に子供に写し、後はその子供が父親の面倒をみるというやり方も有りますが、この場合は財産を移した段階で子供に高額な贈与税が発生してしまうので得策では有りません。
例えば、委託者は父親、受託者はその子供、受益者を父親としたスキームを設計します。このようなスキームでは、受託者が受益者を裏切る事は考えられず、現代の信託の在り方の一つとの形態であり、信託が発祥したあの十字軍の絶対的な信頼と深い愛情のカタチの現代版です。 この方法は、委託者と受益者が同一人物という形態の「自益信託」というスキームです。
この民事信託の効果として、公的な機関の関与は無く、それ迄と同じ生活が維持出来ます。更に、契約という書面で決め事(契約)を書き残しますので、関係当事者の意識の不一致も有りません。そして更に、必要が有ればこのスキームの外に居る人達にも説得力を持って説明出来る事になります。
例えば、その財産に関係の有る人達への疑問にも答える事が出来ますし、金融機関や不動産会社に対しても基本的に面倒な手続きはいりません。
そして、委託者兼受益者である本人が亡くなった時にこの民事信託を終了させる設計にしておき、その信託契約の中で、信託財産である残余財産の移転先を規定しておけば、委託者の思いの通り死後の信託財産の帰属者等を決める事が出来、事実上、財産承継という面では、遺言書を作成したのと同じ効果を発揮させる事が出来るのです。このスキームがいわゆる遺言代用信託です。そしてそれは、遺言書とは違い検認も不要です。更に、税の面でも贈与税ではなく相続税になりますので、節税効果も有ります。ただし、遺留分については配慮が必要です。
又、贈与税や相続税は税法上、実際に利益を得る受益者に掛かりますが、委託者を受益者にしておけば財産の実質的移転が無いので、信託開始時に贈与税が発生する事も有りません。
お解りになりましたでしょうか?
判断能力を失ってからの対処方法は、極めて限られます。日常的に非常に不都合を強いられる事態に陥り、困難な状況になってしまいます。
ポイントは、認知症での判断能力を失う前に、「財産凍結問題対策」をしておく事に尽きます。
法定後見制度は、事実上本人やそのご家族の希望が通しずらい制度であり、遺言は財産承継の代表的な制度で、本人が亡くなった後の事は対処出来ますが、本人が生前に判断能力を失った時の事を考えるとき、成年後見制度や遺言だけでは不十分な状況を打開する手段として、民事信託を検討してみる事が必要でしょう。
何故なら、この民事信託自体、積極的に利用する価値の有る方法だからです。
医学の世界では「iPS細胞」が話題ですが、この民事信託は法律実務の世界での「iPS細胞」といっても過言では有りません。
それは、相談者の色々な問題を対処するための設計可能性が高く、それ迄の常識を変えてしまう技術なのですから。
(2019年11月6日(水) リリース)
(2020年5月4日(月)更新 リリース)