【ニュースレター2020 ❷ 民事訴訟法務】
ネット被害! 発信者情報開示請求と
名誉毀損による損害賠償請求事件とは!!
ニュースレター2020第2回民事訴訟法務は、今、話題のインターネット上の名誉毀損事件について、その具体的な対処方法を取上げます。ネット上での見えない相手の名誉毀損に対し、果たしてどのようにして法的責任を追及するのか? それはどのような手続きなのか? 今回は具体的な方法について概説していきます。
現代は、インターネット社会です。誰もが自身でホームページを開設でき、またSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で友人と会話ができたり、世の中に自身の意見や情報を簡単に発信できます。しかし、どうしてパソコンやタブレット、スマホでキーを入力してエンターキーを押すだけで相手や世の中、更に世界に自身の情報が発信できるのかについて知っている人は少ないのではないでしょうか? インターネットを介した会話や情報発信はとても楽しく、日常生活では利便性が高く欠かせないものです。
その反面、友好的な内容ではない投稿が人々を苦しめているのが現状です。匿名で相手の悪口や非難、誹謗中傷を送信するといった行為は、その内容を受信した人にとってはとても苦痛であり、精神的にダメージを負う事も珍しくありません。中には非常に深刻な事態に陥る事もあります。
そんな時、どう対処してよいのか分からず、我慢するしかないと思っている人がたくさんいます。特に、ビジネス上のいわれない匿名での誹謗中傷は、営業的損害や社会的イメージの低下に繋がる風評被害に結び付き、当事者としてはただ我慢するという対処では済まされない問題です。そして更に、家族に対する誹謗中傷は耐えがたい問題です。
このような問題に対し、侵害投稿をした相手を特定して、法的責任を追及する事はできます。
問題となる主な法的責任は、民事事件では、「名誉毀損」、「プライバシー侵害」、「営業妨害」であり、記事の訂正や削除、謝罪文掲載とその慰謝料としての損害賠償請求で、また刑事事件では、「名誉毀損罪」や「業務妨害罪」、「不正競争防止法違反」によって責任を追及していく事になります。
インターネット上の表現で問題とされる代表的な場合は、内容が誹謗中傷である場合、又は私生活上の秘密を暴露する場合が考えられるでしょう。前者は名誉棄損であるか否か、後者はプライバシー侵害に当たるか否かが問題となります。
それでは、今回は民事上の「名誉毀損」に対する被害者の加害者に対する具体的な対処方法を見ていきましょう。
<インターネット上での誹謗中傷等による名誉棄損に対する被害者の対処方法>
■名誉毀損の考え方
●民法上の請求かプロバイダ責任制限法上の請求か
プロバイダ責任制限法とは、通常であれば違法な表現行為によって責任を負うべきサイト管理会社やプロバイダに対し、その責任を制限(緩和)し、その制限の代わりに一定の条件の下で、被害者がその違法な表現行為をした発信者の情報の開示を請求できる事を定めた法律です。
被害者が自身の名誉を毀損されたと思った場合、まず法律はプロバイダ責任制限法に基づき対処し、その後民法の一般不法行為責任を追及していく事になります。
プロバイダ責任制限法を根拠に発信者の情報開示を請求していきますが、開示請求の要件は次の通りです。
①侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害された事が明らかであるとき。
②当該発信者情報が当該開示を請求する者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
この①及び②の要件のいずれも満たした場合に、発信者情報開示請求をする事ができます。
ここで、②の「正当な理由」は損害賠償等の請求権行使の目的があれば広く認められているので、実際は①の「権利が侵害されたことが明らかであるとき」という要件が問題となります。
●「権利侵害の明白性」
発信者情報開示請求には、発信者のプライバシー権及び表現の自由の権利と被害者の権利回復を図る権利とのバランスを取る必要があります。そこで、被害者には、「権利侵害の明白性」が求められます。「権利侵害の明白性」とは、不法行為の成立を阻却する事由の存在を伺わせるような事情が存在しない事が必要であるという事です。
●「真実性の抗弁」及び「相当性の抗弁」
名誉毀損の場合には、不法行為の成立阻却事由である「真実性の抗弁」(発信者が発信した情報の内容は、その事実に公共性があり、又、その目的は公益性があるという前提で、摘示された事実が真実である事の事実の主張及び証拠によいる立証)で違法性が阻却され、更に「相当性の抗弁」(「真実性の抗弁」が立証できない場合、発信者において発信した情報が真実であると信ずる相当の理由がある事の事実の主張及び証拠による立証)で責任が阻却されるので、名誉毀損(不法行為)の成立が否定される事になります。
尚、「真実性の抗弁」についての真実性の証明は、高度の蓋然性が必要であり、その基準時(認定時)は訴訟の場合口頭弁論終結時であり、「相当性の抗弁」についての相当性の証明は、ある程度厳格に判断され、その基準時は表現行為の時となります。
つまり、仮に、被害者の主張立証により名誉毀損が認められた場合に、それに対して、発信者は「真実性」について主張立証しなければならず、例え「「真実性」について立証できなくても、少なくとも「相当性」につい主張立証できなければ、発信者の正当性は認められず、被害者に対する名誉毀損の事実により責任を問われる事になるという事です。
従って、どちらかというと、発信者は綿密な情報発信をしなければ、名誉棄損については被害者に有利な法律判断がなされるという事になります。これは、そもそも名誉毀損という違法性のある行為をされた側とした側で、された側の方が尊重される状況であり、一般常識からしても妥当性がある内容ではないでしょうか。
■名誉毀損記事の主な削除方法
名誉毀損記事の削除方法は次の通りです。
(1)ウェブページからの削除依頼
(2)ガイドラインに則った削除依頼
(3)法的手段による削除請求
●ウェブページからの削除依頼
この方法は、名誉毀損の記事が掲載されたウェブページの発信者メールアドレス等から発信者宛に名誉毀損記事の削除依頼をする方法です。利点は手軽で費用は殆ど掛かりません。欠点は被害者の削除依頼の理由を正確に伝えなくてはならず、また発信者が誠実に対応しない場合も考えられます。著作権侵害等客観的に了知される削除依頼の場合、記事の削除は比較的容易になされているようです。しかし、それ以外の投稿記事では、記事自体に対し客観的な評価が難しい場合があるため削除はされずらい傾向があると考えられます。
●ガイドラインに則った削除依頼
一般社団法人テレコムサービス協会というICT企業が多く所属する団体が作成したガイドラインに則って送信防止措置依頼をする方法です。利点は決められた様式に従って依頼するので時間があればできます。欠点はウェブページからの削除依頼と同様に被害者の削除依頼理由を正確に伝える必要がり、成果が上がりずらい状況のようです。著作権侵害等客観的に了知される削除依頼の場合、記事の削除は比較的容易になされているようです。
●法的手段による削除依頼
この方法が現実的には最も有効な方法となっているのではないでしょうか。何故なら、記事の削除依頼という行為は、前述したとおり発信者と被害者との権利の衝突であり、特に憲法で認められた表現の自由に直接関係する内容である事、又、発信者は容易に削除依頼に応じない事が多く、サイト管理・運営会社やプロバイダはその発信者の同意がなければ独断で名誉毀損とされた記事を削除できず、更に、自身の事業に直接影響がある事が理由であると考えられます。
■基本的な法律的手続き
裁判所を利用した法律的続きには、基本的に民事保全法に基づく仮処分、民事訴訟法に基づく訴訟提起、民事執行法に基づく強制執行の3つかあります。
●民事保全法に基づく仮処分
民事保全法に基づく仮処分の概要は、通常の訴訟をして、結論がでるまでの間に、被害者に被害が拡大してしまう恐れがある場合、取敢えず、その被害の発生を回避するための法律的な暫定的措置を講ずると共にまず発信者情報の開示を求めます。
●民事訴訟法による訴訟提起
相手方との任意の話合いができない場合、裁判所で訴訟により解決する方法です。民事保全法上の仮処分と共に開示された一部の発信者情報を基に、サイト管理・運営会社等に投稿記事の発信者の住所や氏名の開示を請求します。
●民事執行法による強制執行
裁判所での訴訟の結果、原告の権利が認められた場合、その権利を国家権力により強制的に執行し、その実現を図る手段です。任意に削除及び損害賠償をしない場合、訴訟の勝訴判決に基づき強制執行をします。
■実際の裁判手続き
【1】訴訟外の交渉
まず、発信者やサイト管理会社、プロバイダと任意に交渉し、直接削除を求め、又は発信者情報開示を求めます。
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【2】民事保全法上の仮処分及び発信者情報開示請求
発信者が匿名で特定できない場合、又はサイト管理・運営会社やプロバイダが発信者情報の開示に任意に応じない場合、民事保全法によりサイト管理・運営会社又はプロバイダに対し、発信者情報開示請求及び記事の削除を求めるため民事保全法上の仮処分を申立てます。
仮処分の申立てが受理された場合、仮処分に基づき発信者情報はIPアドレス及びタイムスタンプのみ開示されます。
タイムスタンプとは、ある時刻にその電子データが存在していた事と、それ以降改ざんされていないことを証明する技術の事です。タイムスタンプに記載されている情報とオリジナルの電子データから得られる情報を比較することで、タイムスタンプの付された時刻から改ざんされていないことを確実かつ簡単に確認することができます。
この民事保全法上の仮処分は、被害者に対する侵害記事が裁判手続きの間、第三者から閲覧可能な状態になっている事を防止するための手続きです。従って、記事の削除じついていは、現在の閲覧可能状態を問題視しなければ申立てる必要はありません。尚、仮処分段階で投稿記事の一時閲覧防止措置が認められるかは、その記事の侵害内容、例えば、人権侵害の明白性、記事の違法性等を考慮し判断されます。
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【3】民事訴訟法上の発信者情報開示請求訴訟
IPアドレスを基にプロバイダを特定し、プロバイダに対し発信者の住所、氏名を開示する事を求める訴訟を提起します。
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【4】民事訴訟法上の損害賠償請求訴訟
開示された発信者の住所、氏名を基に、発信者に対して名誉毀損記事の削除請求と損害賠償請求の訴訟を提起します。
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【5】民事執行法上の強制執行
発信者が任意に削除及び損害賠償をしない場合、確定した請求認容判決に基づき強制執行をします。
上記のようなプロセスで、被害者は発信者への記事削除及び損害賠償請求を行います。
ここで注意する事は、インターネット上の名誉毀損においての被害者の対処の方法は①記事の削除請求、②損害賠償請求の2つです。①のみを請求しても②も併せて請求しても選択は自由になります。
【1】の交渉の相手方は、第一義的には発信者に削除依頼を行い、発信者に匿名性があり、直接連絡ができない場合には、記事を掲載している会社であるサイト管理・運営会社に対して行い、その目的は記事の削除又は発信者情報の開示です。
【2】の発信者情報開示仮処分の相手方は、サイト管理・運営会社です。
【3】の発信者情報開示請求訴訟の相手方は、プロバイダ(インターネットサービスプロバイダ又はコンテンツサービスプロバイダ)になります。
ここで、何故【2】の相手方と【3】の相手方が異なるかですが、削除の対象記事を掲載しているサイト運営・管理会社の利用者は、必ずしも本名でそのサイトに登録しているとは限らないからです。ハンドルネームで利用を申込み、そのサイト管理・運営会社が発行するIDとパスワードでログインして利用している可能性が高い事、又、プロバイダであれば必ずその利用者は自身が利用するプロバイダと正式な契約をしている事から、まずその名誉毀損記事が現実に掲載しているサイト管理・運営会社から発信者のIPアドレスとタイムスタンプを取得し、そのIPアドレスを基にプロバイダに発信者の特定をするための開示請求訴訟を提起するという順番になります。
そして、最後に【4】で、特定された発信者に対し実際の記事削除請求と損賠賠償請求をしていく事になります。
【5】更に、発信者が任意に削除及び損害賠償をしない場合には、民事訴訟の勝訴判決に基づき民事執行法による強制執行をして最終的な権利の実現をしていく事になります。
■名誉毀損記事への対処について
このようにして、実際の名誉毀損記事に対する削除請求と損害賠償請求を行っていきます。
名誉毀損記事は被害者にとってとても許せるものではないでしょう。理由もないインターネット上からの侵害行為に対し、黙っている必要もないはずです。
しかし、実際の手続は、憲法上の表現の自由やサイト管理・運営会社の事業利益、発信者の思想やポリシー等も相まって被害者の主張との権利の衝突が起き、そんな中削除請求はサイト管理・運営会社への任意の依頼のみで削除が実現する事もあり、比較的容易に目的を達成する場合もありますが、損賠賠償請求は3段階もの訴訟手続きを経る必要があり、時間と労力、それに費用が掛かる事も考慮しなければなりません。
従って、サイト上での被害の場合、先の見通しを立てて実行に移すことが大切であり、自身の最終的目標は記事の削除請求なのか、それと共に損害賠償請求もするのかをハッキリ最初の段階で確定してから始める事べきです(殆どの場合、訴訟的の場合損害賠償請求も併せて行います)。
この名誉毀損による損害は、その事件にもよりますが、事業に対する場合に比べ個人的な内容である場合は精神的苦痛に対する慰謝料という事になり、発信者の賠償額も数十万程度(各々の事件により異なりますが、大体10万円から30万円程度)である場合が多いようです。
それでも相手の行為に対して許す事ができないという場合も当然あるでしょう。その場合は、できるだけ任意の請求も訴訟手続きも自身で行うような戦略が訴訟費用の面でも良いのではないでしょうか。
しかし、裁判手続きや申立て書面等の書類作成は一般の人では難しい面もあります。そんな時は、司法書士の本人訴訟支援もありますので、民事訴訟法務を専門分野にしている司法書士に是非相談してみて下さい。
尚、Twitter等で名誉毀損記事をそのままリツイートされた場合、そのリツイートした人も発信者と同じ名誉毀損行為と認定される可能性が高いので、元々の発信者だけでなく、リツイートした人の数も合せて訴訟を提起する事で、その人数分損害賠償請求額が増額する事になります。従って、被害者としては経済的な面で積極的に責任追及し易い状況になるでしょう。
注意が必要な事は、いつどのSNSで誰がどのような名誉毀損記事を発信したのかを立証できなければなりませんので、発信者等の責任を追及する場合は、必ずスクリーンショットやハードコピー(画面コピー)等で証拠を残しておく事が非常に大事になります。
また、更に重要な事は、サイト管理・運営会社やプロバイダーは、SNSの投稿記事のログ(投稿記事の履歴や情報の記録)の保存期間は、その多くが3カ月程度であるため、名誉毀損記事を発見した時点で、随時その記事の証拠を取っておく事が賢明です。
いかがでしたでしょうか?
必要以上に我慢する必要はありません。訴訟を提起された相手方(情報発信者=加害者)も時間や労力、訴訟費用等を要し、更に被害者に対する損害賠償もしなければならず、被害者より過酷な状況に置かれる事になるのです。
どうしても許せないときは自身の権利を行使して下さい。遠慮はいりません。
最後は法律的解決しかありません あなたには最後の手段が残っています
※「民事訴訟法務」とは
「民事訴訟法務」とは、訴訟費用が比較的低額で、自身の権利の主張に有用な「本人訴訟支援」を原則に、依頼者の権利の実現を目的とした法律支援実務です。司法書士の「本人訴訟支援」は「訴訟代理」と異なり、裁判所等に提出する書類作成関係に関しては、取扱う事件に制限はありません。また、簡易裁判所管轄で、訴額が140万円以内であれば、「訴訟代理人」としての受任も可能です。
※「本人訴訟支援」とは
「本人訴訟支援」とは、一般的な法律相談の他、依頼者の意思決定の基、依頼者に代わり、依頼者からの事情聴取をしながら裁判所等に提出する訴状や答弁書、準備書面等の書類の作成代行を中心に、司法書士が依頼者の裁判手続き等を支援する法律上の業務です。
「訴訟代理」とは、一般的な法律相談の他、司法書士が依頼者の訴訟代理人として、依頼者と協議をしながら、簡易裁判所において、訴額140万円以内の事件に対し、司法書士自身が主体的に裁判手続きをする民事上における法律上の業務です。
一般的に、「訴訟代理」に比べ「本人訴訟支援」の方が、裁判手続きに掛かる費用が低額で済み、法律問題の解決を図る事ができます。「本人訴訟支援」の事件対象は、比較的複雑でない生活関係、家族関係(身分関係)、仕事関係、迷惑行為等の不法行為関係といった日常的に生じる法律的事件に有効です。
※「認定司法書士」とは
訴訟代理資格を得るための特別な試験に合格した、簡裁訴訟代理等関係業務法務大臣認定司法書士の事をいいます。
※「簡裁訴訟代理等関係業務」とは
簡裁訴訟代理等関係業務とは、簡易裁判所において取扱う事ができる民事事件(訴訟の目的の価格が140万円以内の事件)についての訴訟代理業務等であり、主な業務は次の通りです。
①民事訴訟手続き
②民事訴訟法上の和解の手続き
③民事訴訟法上の支払い督促手続き
④民事訴訟法上の訴え提起前における証拠保全手続き
⑤民事保全法上の手続き
⑥民事調停法上の手続き
⑦民事執行法上の少額訴訟債権執行手続き
⑧民事に関する紛争の相談、仲裁手続き、裁判外の和解手続き
(2020年7月6日(月) リリース)
