【ニュースレター2020 ❷ 刑事訴訟法務】
名誉及び損害の回復! 犯罪被害者の権利
刑事訴訟法に基づく告訴後の手続きとは!!
ニュースレター2020刑事訴訟法務の第2回は、告訴状を提出した後、事件はどのような手続きを経る事になるのかについて取上げます。
犯罪の被害に遭ったときに、捜査機関に告訴状を提出して犯人の処罰を求める事ができます。告訴状を捜査機関に提出したが、その後、その事件はどのような手続きを経ていくのかは殆どの方が分からない事と思います。今回は告訴人・告発人の責任や告訴状・告発状を提出した後の手続を概説します。
現在、また過去に犯罪に遭った方は、是非、参考にして下さい。
■告訴・告発をした人の責任
虚偽、つまり「嘘」の告訴・告発をした場合、刑事責任及び民事責任を問われる事になります。
●刑事責任
刑法172条(虚偽告訴等)
人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、3月以上10年以下の懲役に処する。
この虚偽告訴(告発)罪の保護法益は、第一次として、国家の(刑事)司法作用・懲戒作用の適正、第二次として、個人の私生活の平穏です。
「懲戒の処分」とは、公法上の監督機関に基づいて職務規律維持のために課される制裁の事をいい、公務員に対する懲戒の他、司法書士、弁護士、公証人等に対する懲戒、刑務所在監者に対する懲罰を含むと解されています。
構成要件としては、主観的要素としての「故意」、つまり他人に処分を受けさせる目的と、客観的要素としての「虚偽」、つまり客観的真実に反する事実、言換えれば現実には存在しない事実の申告が必要になります。虚偽告訴罪は、故意犯であり、目的犯になります。従って、犯罪事実の申告が過失で、つまり誤解であった場合は虚偽告訴罪は成立しません。
虚偽告訴(告発)罪は、他人を罪に陥れる目的を持って、又はそうなる事を予見しながら、客観的真実と相違している事実を認識し、又は客観的真実であるとの確信のない事実を捜査機関又は各種団体に申告した場合に成立します。
つまり、他人を罪に陥れる目的で、又はそうなる事を感じながら、客観的事実と相違した事実(現実に存在しない嘘の事実)、又は客観的真実であると確信のない事実(現実に存在しない事実であり嘘であると感じている事実)を捜査機関その他の各種団体に申告した場合、虚偽告訴(告発)罪が成立する事になります。すなわち、告訴(告発)人は、現実に存在しない事実(嘘)を認識しているか、又はその事実が現実に存在しない可能性(嘘の可能性)を認識している事が必要になります。
注意が必要なのは、嘘の事実又は嘘ではないかと感じている事実の申告先は、公的機関である捜査機関だけではなく、公法上の監督関係に基づいた一般の団体等であっても虚偽告訴(告発)罪が成立するという事です。
よく想定される事例は、電車の中等で「あの人に痴漢されました。あの人を逮捕してください。」という痴漢の被害でっちあげ事件やストーカーでっちあげ事件です。その他、「〇〇〇さんがあのお店で万引きをしていました」という窃盗のでっちあげ事件、ひったくりやひき逃げ等の全く存在しない事実のねつ造事件もあるでしょう。
しかし、虚偽告訴罪の構成要件である「虚偽」とは嘘の事ですが、告訴状・告発状の内容が告訴人・告発人の主観的認識と相違しているだけでは、虚偽告訴(告発)罪には問われません。あくまでも客観的な事実との相違、つまり「現実に存在しない嘘の事実」を申告した場合に限ります。これは、虚偽告訴(告発)罪の第一次の保護法益は、国家の(刑事)司法作用・懲戒作用の適正であり、犯罪事実が存在した以上、国家の刑事司法作用は害されないからです。
また、被害が明らかであるが、犯人の確信が持てないという事であれば被告訴人不詳として告訴・告発する事もできます。この申告は「現実に存在しない嘘の事実」ではないからです。
虚偽告訴(告発)罪はどの段階で成立するかですが、虚偽の内容の告訴状・告発状が捜査機関その他各種団体に到達し、捜査官その他の担当者にその内容が認識できる状態になっていれば、その段階で虚偽告訴(告発)罪は成立します。つまり、捜査官が告訴状・告発状等を受理し、捜査に着手しているかどうかは虚偽告訴(告発)罪の成否に関係がありません。
この虚偽告訴(告発)罪は、無実の人に冤罪をもたらし、長期間の逮捕、拘留、逮捕・拘留期限の22日間の連日の取調べ、更に拘留延長が裁判所によって認められれば20日間、更に再度の拘留延長の可能性、公判まで長期の拘留もあり、当人の精神的破壊による苦悩、社会的信用は破綻、仕事は退職せざるを得ず、家族は仕事場や学校にいられず、離婚、家族離散等の多大な人権侵害を生じさせる重罪です。
痴漢冤罪事件等は、虚偽告訴をした人間の後日の謝罪で許す等、一時の感情による対処は、冤罪に巻込まれた当人、その家族の困難、更に虚偽告訴(告発)罪に対する正当な告訴権を持つ犯罪被害者の逡巡等社会的影響を与えるため、刑事責任、民事責任を確実に追及する正義を持って対処する事が求められます。
●民事責任
虚偽告訴(告発)罪に問われ得るような行為をした場合、慰謝料請求等の損害賠償請求の方法で民事上の責任を問われる可能性があります。
実際に、告訴等に理由がない事を認識しながら、被告訴人に苦痛を与える事を目的とした場合、民事事件を有利に解決させる手段として虚偽の申告をした場合等、濫用的告訴等であるとして告訴人が民事上(又は刑事上)の責任を問われる可能性があるとの事です。
また、民事上の責任は、告訴(告発)が過失に基づくものであっても、つまり、単に誤解であっても、その責任を免れる事はできません。告訴・告発をされた人は捜査の対象となる事で名誉等を害され、取調べでは精神的苦痛・経済的損害を被り、誤解では済まされないからです。従って、告訴・告発を行う場合、十分な調査、更に慎重な検討の上、望む必要があります。
■告訴・告発後の手続き
●告訴状・告発状受理後の捜査
告訴状・告発状の受理は、捜査機関の捜査の端緒となり、それによって操作が開始・実行される事にになります。
既に捜査を開始している事件については、告訴状・告発状の受理により、捜査がより進展する事が期待できます。
告訴・告発に関する法律は、刑事訴訟法が中心となりますが、その他には検察審査会法や国家公安委員会も告訴・告発に関する規定を制定しています。
国家公安委員会が制定した犯罪捜査規範には、司法警察員が告訴等の有った事件については、特に速やかに捜査を行うべき事が定められています。
●告訴・告発事件の捜査の担当機関
司法警察員は、犯罪があると思慮するときは、犯人及び証拠を捜査すると刑事訴訟法に定められています。同じく刑事訴訟法には、検察官は、必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査する事ができると共に、司法警察員を指揮して捜査の補助をさせる事ができると定めれられています。
告訴・告発がされた場合、それを受理した司法警察員や検察官が所属している捜査機関が捜査をする事が原則となっています。
●司法警察員から検察官への送致
司法警察員に対して告訴状・告発状が提出された場合、司法警察員は速やかに関係書類及び証拠物を検察官に送付すべき義務を負うと刑事訴訟法に規定されています。
通常、司法警察員は、必ず検察官に事件を送付する事が刑事訴訟法上義務付けられていますが、告訴・告発事件は、告訴状・告発状を受理した司法警察員は特に速やかに関係書類や証拠物を検察官に送付しなければならない事になっています。
この検察官への送致義務の対象となる事件は、告訴状・告発状が提出され、受理された事件の全てであり、例外はありません。
●移送の通知
検察官や警察本部長又は警察署長が告訴・告発事件を他の検察庁や関係警察に移送した場合には、刑事訴訟法上又は犯罪捜査規範上、告訴人・告発人に通知する事となっています。
●告訴状・告発状の受理後の告訴人等の協力
検察官や司法警察員は、告訴・告発事実を十分に把握するため、告訴人・告発人から事情聴取をする事があります。また、告訴人・告発人は、告訴状・告発状の提出の際、添付する事ができなかった証拠等を捜査機関に提供する事もできます。
更に、事情聴取の際に供述調書が作成される事があり、その場合は後日の公判で証拠として提出される場合もあるため、供述には最新の注意を持って、冷静にまた慎重に事情聴取に応じる事が重要です。この供述調書には、署名押印をする事になっています。
●検察官による起訴・不起訴処分
検察官は、捜査の結果、犯罪が明らかとなった場合には原則として公訴の提起をします。この公訴提起の事を起訴といいますが、検察官に起訴の義務はありません。これを起訴便宜主義といいますが、起訴・不起訴の判断は検察官の裁量に委ねられています。
不起訴処分の場合の理由は、「起訴猶予」、「嫌疑不十分(証拠不十分)」、「罪とならず(無罪)」の3種類に分かれます。
●不起訴理由の告知制度
不起訴処分の告知方法は、法的には口頭でもよいとされていますが、実際には「不起訴処分理由告知書」という定型書式によりなされる事になっています。
この告知には、裁定理由は内容をされておらず、裁定主文のみが内容となっています。但し、告訴人・告発人が被害者やその親族等であれば、被害者等通知制度を用いて不起訴裁定の理由の骨子の通知を受ける事も可能です。
●不起訴処分に対する不服申立て
告訴状・告発状を提出した事件が検察官によって不起訴処分となった場合に、その決定に不服があるときは、検察審査会への審査申立てや上級検察上の長に対する不服申立ての方法があります。
●検察審査会への審査申立て
告訴状・告発状を提出した事件が不起訴処分となったため、検察審査会に申立てをするときは、理由を明示した申立書を担当検察官の所属する検察庁の所在地を受持つ検察審査会に、その処分の当否の審査を申立てる事ができます。
検察審査会は、不起訴処分の当否について非公開の会議を開いて検討し、「不起訴相当」、「起訴相当」、「不起訴不当」の議決をし、その議決の要旨を事務局の掲示板で公表すると共に、書面で審査申立人に対して通知します。
「起訴相当」の議決がされた事件については、強制的に起訴される場合があります。
尚、検察審査会の議決に対し不服がある場合、再度の告訴状・告発状の提出自体は可能ですが、新しい証拠が提出される等の事情変更がない限り、再度不起訴処分になる可能性が高く、その再度の不起訴処分に対しては、更に検察審査会に対し、審査の申立てをする事はできません。
いかがでしたでしょうか?
告訴状の提出後の手続きは、検査官や司法警察員の捜査、検察官の起訴・不起訴処分であり、不起訴処分に対する不服申立てには検察審査会への審査申立て等があります。
犯罪に遭ったとき、けして泣き寝入りをする事のないよう、犯人の処罰を求めて、できるだけの事は手を尽くしたいものです。
今回のニュースレターにより、被害者の救済に繋がる一つの端緒となれば幸いです。
告訴は正当な権利です あたなの強い意志さえあればできます
※「刑事訴訟法務」とは
「刑事訴訟法務」とは、刑事被害者の人権擁護及び名誉や損害の回復を目的とする法律支援実務です。
※「犯罪被害者支援」とは
「犯罪被害者支援」とは、司法書士の「刑事訴訟法務」において、一般的な法律相談の他、依頼者の意思決定の基、司法書士が依頼者から犯罪事件の事情聴取をし、検察庁等に提出する告訴状・告発状・検察審査会申立書の作成代行を通して、犯罪被害者の支援をする法律上の業務です。
訴訟費用が比較的低額で、自身の処罰感情をよく反映できる司法書士の「犯罪被害者支援法務」により、被害者の人権擁護及び名誉や損害の回復を支援します。
(2020年8月12日(水) リリース)
