ニュースレター2020 ❸ 個人経済再建法務
  
 
 
 個人経済再建法務 究極の経済的再スタート!
 
 個人破産と免責許可決定とは!!  <制度編>
 
 
 
 
 ニュースレター2020個人経済再建法務第3回は、法律上の究極の経済的再スタートにつていです。それは、破産法に基づく個人の経済的清算と生活の再スタートをもたらす経済再建手続きである「個人破産」です。今回は、その「個人破産」の制度に焦点を当ててその要説を概説します。
 
 個人破産というと、ネガティブな印象を受ける方も多いと思いますが、法律上最も強力で有効な方法なのです。
 
 
 個人破産 = 一巻の終わり
 
 
 といったイメージで捉える方は間違いです。「破産」という言葉の意味から拒絶反応をもたらすのは、誰もが簡単に「破産」して欲しくはないという意味合いもあると私は考えます。それは、色々なステークホルダー(利害関係者)がいるわけですから当然ですね。
 
 しかし、破産法が存在する意味を考えたとき、本当にこの法律を適用するべき人まで、この手続きから遠ざけてしまう事はあってはならないのです。世間がどのように誤解しようと、今、助けが必要な人々は、「個人破産」について正しい理解をし、自身の人生を再スタートするという強い意志を持つ事が求められます。
 
 今回のニュースレターは、破産法とはどのような法制度で、どのような人がこの法律に適合した人達なのかを概説していきます。
 
 
 
 
●債務整理事件の種類
 
 複数の貸金業者からの借金(以下「借入れ」又は「債務」といいます。)で、返済が困難となった方を多重債務者といいます。また、一つの借入先からの多額の借入れに返済が困難となった方もこの多重債務者の一つの類型となるでしょう。この多重債務者は、毎月の収入との関係で、生活が困窮しており、貸金業者(債権者)からの督促で、精神的にも疲労している状況である事が予想できます。このような債務者を救済する方法として、我が国では次の4つの方法があります。
 
〇任意整理(私的手続き)
 
 各貸金業者と個別に交渉し、借入額の減額、将来利息のカット、返済計画の作成(これをリスケジューリング=リスケ=「債務返済の繰延べ」といいます。)により、完済を目指す方法です。債務者個人というより、訴訟代理人が各債権者と個別に交渉をし、和解を目指します。各債務額が140万円以内であれば、司法書士の「訴訟代理法務」を利用する事により、任意整理手続きが可能になります。残念ながら、私的手続といっても、債務者が個人的に貸金業者に申出ても、多くの場合、話を聴いて貰えないでしょう。貸金業者も仕事です。殆どの場合、「単なる話合い」には応じず、決められた通りに返済して貰う事を第一に考えまず。任意整理手続きとは異なりますが、不思議な事に、過払金が発生ししている場合であっても、殆どの貸金業者は個人的な話合いには応じません。例え過払い金の存在を認めていてもです。
 
〇特定調停(特定調停法)
 
 特定調停法に基づき、簡易裁判所で、特定調停官及び特定調停委員の仲介の下、債権者と債務者が将来利息のカット、返済計画の作成をし、完済を目指す方法(リスケジューリング)です。債務者が個人で債権者と交渉をする方法としては、中立・公正な調停委員が仲介役を果たしますので有効でしょう。特定調停法上、決められた書面の作成及び提出が必要になりますが、別途、司法書士の「個人経済再建支援法務」を依頼する事により、書類作成を中心とする特定調停の支援により、申立人の負担を軽減する事ができます。
 
〇個人破産(破産法)
 
 破産法に基づき、地方裁判所に対し、破産手続開始の申立てをし、裁判所から破産手続開始決定を受け、現在の債務を清算します。そして、免責許可の申立てをし、裁判所の免責許可決定により、残債務の支払い義務の清算及び免責決定確定により喪失した法律上の制限が当然に復権される手続きです。多重債務者の経済的再建策では最も強力な効果があります。この手続きでは、破産法に基づき書類の作成及び提出が必要になりますが、別途、司法書士の「個人経済再建支援法務」を依頼する事により、書類作成を中心とする個人破産手続支援により、申立人の負担を相当程度軽減する事できます。
 
 
〇個人民事再生法(民事再生法)
 
 民事再生法に基づき、地方裁判所に対し、個人民事再生手続の申立てをし、大幅に債務額を軽減し、一定程度の債務を返済計画に従って弁済していく事(リスケジューリング)により完済を目指す方法です。この手続きは、住宅ローンを残したい、つまり自宅を手放したくないという債務者の思いや、債務者の職種が破産手続きをする事により欠格事由に該当し、破産法を利用できない方、破産法に拒絶感の有る方等に有効です。但し、債務者に安定し、継続した収入がある事が要件となります。簡単にいうと、生活していけるだけの収入がある方や例えば社会的地位との関係で、個人破産という方法を選択したくない方、富裕層の方々等、現在の借入れの返済があるがために窮している方が主に対象になるでしょう。この手続きも、民事再生法に基づき書類の作成及び提出が必要になりますが、別途、司法書士の「個人経済再建支援法務」による書類作成を中心とする個人民事再生手続支援により、申立人の負担を相当程度軽減する事ができます。
 
 
 
 それでは、債務整理事件の中で、破産法につてい概説していきます。
 
 
 ◆破産法
 
 破産手続とは、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等を清算する手続きです。債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適切かつ公平な清算を図る共に、債務者について経済的生活の再生の機会の確保を図る事をその目的としています。
 
 
■破産手続の流れ
 
 
●破産手続きの申立て要件
 
 個人破産手続を申立てるには、充足しなければならない要件があります。
 
 
 要件=「債務者が支払不能にあるとき」
 
 
 債務者が支払いを停止したときは、支払不能にあるものと推定されます。
 
 
●破産手続開始の申立て
 
 破産手続は、地方裁判所に対する破産手続開始の申立てをし、裁判所が開始決定をする事により始まります。破産の申立て当事者は、債権者又は債務者です。債務者自らが破産手続開始の申立てをする破産の事を「自己破産」といいます。このニュースレターで取上げる消費者破産は、この自己破産(以下「個人破産」といいます。)になります。破産の申立てには、最高裁判所規則で定める事項を記載した書面でしなければなりません。
 
 
●管轄裁判所
 
 債務者の住所地(居所)の地方裁判所が管轄裁判所(債務者の普通裁判籍の所在地の地方裁判所。「普通裁判籍」とは、主に債務者の住所地の事をいいます。)になります。破産手続についての管轄は、全て専属管轄であり、合意管轄、つまり当事者の合意により管轄を定める事はできません。
 
 
●破産手続開始申立ての審理
 
 破産手続開始の申立てがなされると、裁判所は破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、一定の場合を除き、破産手続開始の決定をします。一定の場合とは、破産手続き費用の予納がないとき、不当な目的で破産手続開始の申立てがなされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないときです。
 
 破産手続開始の原因となる事実の有無についての審理は、口頭弁論を経ないでする事ができる事になっています。そして、現在では、その殆どが口頭弁論や口頭審尋(これを「破産審尋」又は「債務者審尋」といいます。)は行われず、書面審理のみで審理をする事が通例となっています。
 
 
●破産手続開始の原因
 
 どのような場合に、債務者は破産手続開始を申立てる事ができるのかですが、それは次の場合です。
 
 「債務者が支払不能にあるとき」
 
 
「支払不能」の意味
 
 「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済する事ができない状態をいいます。一時的にお金が無い場合は、支払不能に該当しません。支払い不能状態は、客観的状態である事が必要で、債務者自らの主観的な判断では評価されません。
 
 
▼支払不能の一般的基準
 
 一般的に、手取り収入から必要最小限度の生活費を控除した額(これを「可処分所得」といいます。)で、毎月の返済ができない場合は、借入れのために返済を繰返さざるを得ず、いわゆる自転車操業の状態となるので、支払不能となります。
 
 この生活費の算出方法ですが、一般的な世帯が消費する様々な生活に必要な物資の合計額であり、極端に生活レベルを落として算出しなければならないものではありません。感覚としては、毎月収入があり、借入れの返済がなければ普通に生活できる場合、その返済額により、必要以上に生活費が圧縮され、生活が困難となっている方が該当するでしょう。生活費は、その人その人の生活状況で変わってきます。他人の暮らしと比べるものではありません。
 
 
●破産手続の種類
 
 破産手続には、個別の裁判所の運用を含め4種類あります。
 
 
▼破産管財人選任型(破産特定管財人選任型。破産管財事件、通常管財事件、特定管財事件ともいいます。)
 
 破産手続は、債務者に属する一切の財産(例外があります)を破産管財人が管理し、その財産を換価して、債権者に配当する手続です。従って、裁判所は破産手続開始決定と同時に破産管財人を選任します。尚、破産法上、この債務者の財産、つまり破産財産は一つの集合体として破産者の管理及び処分権を離れ、破産管財人に専属します。この破産財産の集合体を破産法上「破産財団」といいます。
 
 
▼破産少額管財人選任型(破産少額管財事件)
 
 申立人が破産少額管財人選任型での手続きを希望する場合や破産手続開始の申立人に20万円以上の財産がある場合、破産少額管財人選任型になります。また、破産法上、破産管財人選任型でなければ破産同時廃止型になりますが、破産同時廃止型の可能性が高いが、特に資産・免責調査が必要な場合にも破産少額管財人選任型が適用されます。
 
 この方法は、破産法上の制度ではなく東京地方裁判所が運用上行っている方法になります。通常の破産管財人選任型の手続きの負担を軽減する制度です。利点は通常の破産管財人選任型より費用負担が少ない事、手続が簡略化されている事、裁判所としては免責調査型の管財事件での不正防止ができる事です。
 
 破産手続開始の申立てをする際に申立人は手続に掛かる費用を予め裁判所に納めなければなりません(これを「予納」(よのう)といいます。)。この予納金の内容は、手数料、官報広告費、郵便切手代、破産管財人への報酬等になります。特に、破産管財人の費用(報酬)の事を引継予納金といいます。
 
 また、通常、半年から1年程掛かる管財事件もこの破産少額破産管財人選任型では概ね2~3カ月程度で終了します。破産同時廃止型では管財人が選任されず、通常の破産管財人選任型(破産特定管財人選任型ともいいます。)では資産・免責調査が行われますが、費用や期間が掛かり、手続き自体複雑化します。そこで、破産少額管財人選任型では、この二つの問題を解決し、債務者に破産制度を利用しやすくするため少額破産管財人を選任する事になります。
 
 尚、この破産少額管財人選任型は破産法の規定をより現実に近づけるために東京地方裁判所が運用している方法です。この破産少額管財人選任型手続きを希望する場合は、申立代理人として弁護士が受任している場合に限られています。また、この運用を採用していない裁判所もあります。
 
  
▼破産同時廃止型(破産同時廃止事件)
 
 破産財団をもって破産手続きの費用を支弁するのに不足すると認められるときは、破産管財人による管理・処分ができないため、言換えると、破産管財人が必要無いため裁判所は破産手続開始決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければなりません。消費者破産である個人破産の場合、債務者に見るべき財産(家財道具等を除く。)を有していない事が殆どであるので、多くは破産管財人が選任されず、同時廃止型の手続で処理されます。
 
 消費者、つまり個人の破産手続きの場合、逆に言うと、破産管財人選任型は費用が掛かるため、破産手続開始の申立てをする際は、一定の財産(家財道具等)を除き、財産が無い方が手続は簡単になり、申立人の負担も軽減される事になります。
 
 
▼破産同時廃止のための按分弁済型(破産同時廃止按分弁済事件)
 
 例えば、破産管財人に引継ぐ現金(報酬)が最低20万円とされている場合、概ね20万円が一定の基準となります。破産手続開始の申立て時の債務者の資産が20万円未満の場合には原則として破産同時廃止型になります。しかし、債務者が20万円以上の財産を持っている場合であっても、全て破産少額管財人選任型として処理されるわけでなありません。当該財産が、簡易・迅速に換価・按分弁済が出来る事が明らかな場合には、わざわざ破産管財人を選任しなくても、債務者が任意に按分弁済をする方が簡易・迅速な破産手続の実現のために望ましいからであって、簡易・迅速に換価・債権者への按分弁済が実現できないような財産の場合(売掛金や不動産等)には原則通り破産少額管財人選任型を採用するという運用がされる場合もあります。この選択は、最も債務者にとって有効であり、破産法の制度趣旨にも適っているといえます。
 
 つまり、予納金の内、引継予納金は破産管財人の報酬であり、できるだけこのような費用を破産申立人に支払わせる事がないようにする事が合理的な運用となるのです。また、個人にとっても個人破産申立ての際には、この事を十分に検討する事が必要となるでしょう。
 
 
●免責許可決定の申立て
 
 破産法上の根幹をなす手続です。免責とは、破産者の残債務について、破産者が弁済する責任を免れる制度です。個人である債務者は、破産手続開始の申立てがあった日から破産手続開始決定が確定した日以後1月を経過する日までの間に、破産手続開始の申し立てをした裁判所(これを「破産裁判所」といいます。)に対し、、免責許可の申立てをする事ができます。これが手続きの流れの中で、原則的な順序になりますが、債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、当該申立てと同時に免責許可の申立てをしたものとみなされますので、破産実務上、破産手続開始の申立てとは別に、明示的に免責許可の申立てをする必要はありません。
 
 つまり、債務者が免責許可の申立てを併せた破産手続開始の申立てをすれば、あとは裁判所の手続に乗り、決められた手続きの進行に従って進捗していきます。
 
 
●破産手続に必要な費用
 
 破産手続開始の申立てに必要な費用の主たるものは次の通りです。この破産費用については、もともと経済的困窮状態の方が対象になる制度であり、更に経済的再建のための費用が掛かるという状況は合理性に欠けるという疑問もあるかと思います。しかし、現実問題として、この破産手続をする事により、借入れ(債務)を清算し、新たなスタートを切るための費用であり、債務者にとっては極めて有益な出費なのです。破産制度を利用する人々は、色々な方法でこの費用を捻出して、経済的再スタートを実現しています。司法書士も債務者に無理のない方法を検討しながら、できるだけソフトランディングできるようその経験を活かしご相談を承ります。
 
 
▼予納金、その他の実費
 
 予納金とは、破産申立人が申立時に裁判所に納める費用です。種類としては、裁判所用(官報公告料)、引継予納金(管財事件の場合)、郵便切手用、収入印紙用等になります。
 
 
▼司法書士費用、弁護士費用
 
 債務者個人が破産制度を利用して、破産手続をする場合は発生しません。この司法書士費用、弁護士費用は別途、債務者が司法書士や弁護士にその手続きを依頼した場合に生じます。
 
 司法書士費用では、債務者個人が破産手続をする場合で、破産法上の書面の作成や提出が必要になりますが、その書面を破産申立人と相談を承り、協議もしながら破産申立人に代わって作成し、破産手続を支援するための費用です。法務事務所によって対応方法や費用は異なります。一般的に、法律事務所の費用より法務事務所の費用の方が比較的低額の場合が多いです。
 
 弁護士費用では、債務者の代理人として、破産法上の書類を作成し、また債務者(破産者)の代理人として裁判所に出向いて手続きをします。但し、この手続上、債務者(破産者)自身が出席を求められる場合もあります。法律事務所によって対応方法や費用は異なります。
  
 
▼法律扶助制度
 
 日本司法支援センター(通称 法テラス)では、多重債務を負った方のための司法書士費用、弁護士費用、予納金の立替を行う法律扶助制度を用意しています。法ラスは、貧困のために司法書士費用、弁護士費用、裁判費用、を捻出できない人のたの政府出資の法人です。支援を受けるためには、収入を疎明する資料(確定申告書、納税証明書、源泉徴収票、給与明細書等)と住民票が必要です。法律扶助の援助要件は、「収入基準」と「資産基準」があります。単身者複数世帯の場合で場合分けされているだけで、いずれもそんなに複雑ではありませんので、詳細は法テラスにご確認下さい。尚、東京司法書士会は法テラスの指定場所会場となっていますので、法テラスでの具体的な相談は、東京司法書士会の相談会会場でも行う事ができます。
 
 
●本来的自由財産と拡張自由財産
 
 破産手続は、債権者に対する破産者の財産の分配という側面と同時に、破産者の経済的更生の実現という大きな目的があります。従って、破産者の経済的更生のために必要な一定の財産については、破産管財人によっても換価処分し得ないものとし、債務者の自由処分が認められる財産があり、これを「自由財産」といいます。尚、破産手続開始後の原因に基づき債務者が取得する財産については、特に「本来的自由財産」と言います。「自由財産」は、破産手続開始決定後に取得した財産(これを「新得財産」ともいいます。)、差押禁止財産や99万円以下の現金等のがあります。
 
 これに対し、「拡張自由財産」とは、自由財産拡張手続きにより、自由財産を破産法上の自由財産の範囲よりも拡張して、破産者の経済的更生・生活の確保を実現しようとする制度で、2004年(平成16年)の破産法改正によって新しく認めれらた制度で、破産者の申立て又は職権にで、自由財産の範囲を拡張する事ができるとされたいます。
 
 
●本来的自由財産の種類
 
 破産財団に属しない債務者の財産の事を自由財産といいますが、特に破産手続開始決定時点との関係で区別した概念として破産手続開始前の財産を「自由財産」、当然に自由財産となる破産手続開始後の財産の事を特に「本来的自由財産」いい、破産鉄続き開始決定後に取得した財産を「新得財産」といいます。自由財産となる種類の主なものは次の通りです。
 
 つまり、破産したからといって、債務者の全ての財産が失われるわけではありません。現金や生活に必要な家財道具等は、破産後も所有し続ける事ができるのです。
 
 尚、破産手続開始前に所有していた債務者の財産である個々の種類の自由財産は、基本的に全て合せて自由財産となります。例えば、金銭が99万円あるため、99万円を超える家財道具は破産財団に吸収されるといった事はありません。これは、破産制度は、債務者の経済的再建を目的としているため、破産手続開始、免責決定が確定した後に、債務者の生活が困難になる事を防ぐためです。
  
▼金銭(現金)99万円(自由財産)
 ※ここでいう「金銭」とは原則として現金の事であり、預金等の形で残っている場合には、本条の適用はありません。
 
▼金銭以外の差押禁止禁止財産(自由財産)
 
 ▽債務者等の1カ月間の生活に必要な食料や燃料
 
 ▽生活に欠く事ができない衣服、寝具、家具、台所用品、畳及び建具
 
 ▽農業漁業専従者の農機具、漁具等
 
▼民事執行法上の差押禁止債権(自由財産)
 
 ▽給料債権 → 給料から法定控除額を控除した残額の4分の3相当部分。但し、給料から法定控除額を控除した残額が44万円を超える場合は、33万円。
 
 ▽退職金債権の4分の3等
 
▼特別法上の差押禁止債権(自由財産)
 
 ▽老齢年金を受ける権利
 
 ▽生活保護を受ける権利等
 
▼新得財産(破産手続開始決定時以後に新たに取得した財産=本来的自由財産)
 
▼裁判所によって自由財産の拡張が認められた財産(拡張自由財産)
 
 
●拡張自由財産の意義と種類
 
 破産法上認められる自由財産で中心となるのは現金99万円です。しかし、99万円の現金の保持を認めるだけでは、無職者や破産者の扶養に入っている家族が多くいる場合等は、破産者の経済的更生・再スタートのためには不十分な場合もあります。また、給与が銀行口座に振込まれる等生活者の財産は預貯金等現金以外の形で保有されている事が多いです。このような場合、自由財産拡張制度を活用して、現金99万円を超える財産や現金以外の形で存在する財産についても自由財産として、破産管財人の換価・処分の対象外にする事が必要とされるので、このような制度が定められました。
 
 自由財産拡張制度には、①本来型拡張と②項目選択型拡張の2つの種類があります。尚、実際として、①は認められる条件は厳しいのに対して、②が認められる条件は比較的緩やかといわれています。
 
 拡張の申立て時期は、拡張を認めるための合理的理由や説明を示し、破産手続開始の申立てと同時に申立てます。
 
 
①本来型拡張(量的拡張)
 
 本来型拡張とは、自由財産として認められている99万円の現金を超えて自由財産の範囲を拡張する場合の事です。
 
②項目選択型拡張(項目的拡張)
 
 項目選択型拡張とは、99万円を超える価格の自由財産の拡張を求めるものではないですが、自由財産として法律上認められている99万円の現金その他の差押禁止財産以外の種類(項目)のの財産(例えば、預貯金、保険等)をも自由財産の範囲に拡張する場合の事です。
  
 
●破産管財選任型と破産同時廃止型の振分け基準
 
 破産管財人選任型(破産少額管財人選任型含む。)と破産同時廃止型の振分け基準は次のようになっています。
 
 裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足と認めるときは、破産手続開始の決定と同時に破産手続廃止の決定をしなければならない。
 
 従って、「破産手続の費用を支弁するのに不足すると認める」場合がその基準となります。
 
 例えば、破産少額管財人選任型の引継予納金の額が最低20万円だとすると、「破産手続の費用を支弁するのに不足すると認める」場合の判断基準も20万円以上の財産の有無になるため、破産申立人の財産が20万円以上ある場合は、破産少額管財人選任型になる場合があります。
 
 破産手続の種類で解説しましたが、破産申立人としては、生活に困窮しており、この破産手続での出費もできるだけ抑えたい事情があり、この判断基準に必ずしも該当しなくても破産管財人選任型ではなく破産同時廃止型での手続で処理される場合があります。
 
 20万円を支払うだけの財産が無い場合には、破産同時廃止型の手続きになります。この判断基準を「20万円基準」と言ったりします。
 
 尚、この20万円基準には当然ですが、基本的には自由財産は含まれません。20万円以上の自由財産と認められる財産があったとしても、20万円の判断基準の対象にはなりません。
 
 ※破産手続開始決定時点での破産申立人の財産の内、99万円以内の現金は破産法上自由財産とされています。また、民事執行法施行令第1条は「標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」(民事執行法131条3号)として66万円であるとしています。つまり、法は、標準的な世帯における1カ月の必要生計費を33万円と解しています。従って、一般的に1カ月33万円の現金は生活の維持に最低限必要となると解釈できます。この規定との関係で、特定の地方裁判所での運用では、破産申立人の財産が33万円を超える場合、破産少額管財人選任型となる場合があるようです。この運用は、破産法上の自由財産である現金99万円以内は、破産者の生活再建に必要な現金で、破産財団に属さないという法律の趣旨との関係で、破産手続開始の申立人に不利であり、破産法の制度趣旨からも問題があると言わざるを得ないと考えます。特定の地方裁判所の運用上の立場としては、自由財産は破産財団に含まれず、債権者の配当原資にならないだけであって、破産者の将来の生活の再建のための破産手続の費用にはなると解しているとしたら、破産者の現実の経済的再建を考慮していない過酷な運用ではないでしょうか。
 
 
●免責許可決定手続
 
 消費者破産(個人破産)の場合において、破産を申立てる債務者の最も重要な目的は債務の免責を得る事です。つまり、債務者にとって、免責とは、破産手続開始決定時における債務者の債務を帳消しにし、経済的再建への道を開く事にあるからです。
 
 免責許可の手続は、破産手続開始の申立てをすれば免責許可の申立てをしたものとされるので(免責許可のみなし申立て)、破産手続開始の申立てとは別に、免責許可の申立てをする必要はありません。
 
 免責許可の申立ての効果として、強制執行の停止等があります。免責許可の申立てについての裁判が確定するまでの間は、破産者の財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分等が禁止され、既になされた手続きは中止されます。つまり、破産手続の申立てをすれば、免責許可のみなし申立てにより、申立て受理後は、債務者に対する保全執行や強制執行等の効力が全て停止する事になります。
 
 免責についての審理では、免責不許可事由の有無の調査、免責についての意見申述、破産管財人や破産債権者の意見申述期間の広告、免責審尋(裁量的実施)を経て、免責許可の決定がされます。
 
 免責許可の決定の効力は、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れ、復権(資格制限等の解消)が果たされます。
 
 
●免責不許可事由
 
 免責不許可事由は、破産法によって明確に規定されており、免責不許可事由が認められない場合には、裁判所は免責許可決定をしなければなりません。
 
 また、免責不許可事由が存在すると認められる場合でも、その程度が比較的軽微で、破産者の経済的更生のためには免責を認める必要がある場合には裁量により免責を許可すべき事になっています(裁量免責)。
 
 免責不許可事由は下記の通りです。
 
 
▼免責不許可事由における注意するべき事例
 
①財産を財産目録に記載しなかった場合。
 
②破産申立て直前のクレジットカードでの高額な商品の購入とその直後の換金。
 
③特定の債権者に対してだけ、支払時期が到来していないのにその全額を弁済したり、唯一の資産である不動産に1番抵当権を設定する行為。
 
④社会通念を逸脱する程度に不相応な消費的支出、賭博、投機行為等により、多額の負債を負い、又は財産の大部分を失った事によって支払不能状態に至った事。
 
⑤客観的に支払不能状態にある者が、その事実を債権者に告知する事なく、借入れを行う事等。
 
⑥帳簿などがあるのに隠したり、虚偽の記載をした利した事。
 
⑦破産者が債権者を害する目的で特定の債権者名を意図的に記載しなったり、架空
の債権者名を記載したりして、債権者一覧表全体が虚偽のものと評価される場合等。
 
⑧免責審尋期日に虚偽の説明を裁判所に行う場合や、免責審尋期日に不出頭を繰返し、また、免責不許可事由についての報告書に虚偽の記載をした場合等。
 
⑨破産管財人に引渡すべき書類や財産を引渡さなかったりして、管財業務を芳崖した事等。
 
⑩過去に破産をした場合で、その免責許可の決定が確定した日から7年以内に免責許可の申立てをした事等。
 
⑪破産者が破産に関する説明義務、重要な財産の開示義務、面積不許可事由についての裁判所や破産管財人の調査に対する協力義務を拒む場合等。
 
 
▼破産法上の免責不許可事由
 
 上記も中で、注意が必要な事項の事例は次の通りです。
 
①債権者を害する目的で、破産財団に属し、または属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をした事。
 
②破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分した事。
 
③特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別な利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその奉納若しくは時期が債務者の義務に属しないものをした事。
 
④浪費又は賭博その他の射幸行為をした事によって著しく財産を減少させ、又は、過大な債務を負担した事。
 
⑤破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実がある事を知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得した事。
 
⑥業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠匿し、偽造し、又は変造委した事。
 
⑦虚偽の債権者名簿(債権者一覧表)を提出した事。
 
⑧破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をした事。
 
⑨不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害した事。
 
⑩次の㋐から㋒迄に定める日から7年以内に免責許可の申立てがあった事。
 ㋐免責許可の決定が確定した事 → 当該免責許可決定の確定の日
 ㋑民事再生法239条1項に規定する給与所得者等再生における再生計画遂行された事 → 当該再生計画認可の決定の確定の日
 ㋒民事再生法235条1項に規定する免責の決定が確定した事 → 当該免責の決定にかかる再生計画の決定の確定の日
 
⑪破産法40条1項1号、41条又は250条2項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反した事。
 
 
 
 
 
 
 いかがでしたでしょうか。
 
 
 破産法の世界は、皆さんの認識していた内容と異なる事が少なくなかったのではないでしょうか。
 
 
 破産法は、その名称こそショッキングですが、制度の目的の大きな一つは、あくまでの債務者の経済的再建なのです。
 
 
 
 今、助けが必要な人々は、「個人破産」について正しい理解をし、自身の人生を再スタートするという強い意志を持つ事が求められます。
 
 
 
 何故なら、人生は1回限りだからです
 
 
 
 この機会に改めて、破産法についての認識を新たにして頂き、この法制度によって人生の再スタートが切れるのだという事を知ってして下さい。
 
 
 そして、多重債務者の方は、個人経済再建法務を専門分野又は取扱分野としている法務事務所の司法書士にごご相談をしてみてはいかがでしょうか。
 
 
 
 昨日までの自分とは違う明日に巡り合えるかもしれません。
 
 
 
 
 
 人の人生は幾つになってもやり直しがききます
 
 
 
 けっして遅いという事はありません
 
  
 
 
 
 
「個人経済再建法務」とは
 
 「倒産法」という名称は法律用語でもなく、また法の制度趣旨を適切に表している言葉でもないため、当事務所では、個人の倒産法に基づく法律上の倒産手続きを「個人経済再建法務」としています。
 
 
 
「個人経済再建支援法務」とは
 
 「個人経済再建法務」は、個人経済再建支援法務」又は「裁判手続代理法務」の2種類の法律上の業務からなります
 
 「個人経済再建支援法務」とは、一般的な法律相談の他、依頼者の意思決定の基、依頼者に代わり、依頼者からの事情聴取をしながら裁判所等に提出する書類の作成を中心に、司法書士が依頼者の裁判手続き等を支援する法律上の業務です。司法書士の「個人経済再建支援法務」は、裁判所等に提出する書類作成に関しては、取扱う事件に制限はありません
 
 「裁判手続代理法務」とは、一般的な法律相談の他、簡易裁判所管轄で、訴額140万円以内の事件において、司法書士が依頼者の裁判手続代理人として、依頼者と協議をしながら、司法書士自身が主体的に裁判手続きをする民事上における法律上の業務です。
 
 一般的に、「裁判手続代理法務」に比べ「個人経済再建支援法務」の方が、裁判手続きに掛かる費用が低額で済み、法律問題の解決を図る事ができます。
 
 
 
「認定司法書士」とは
 
 訴訟代理資格を修得するための特別の研修を修了し、その認定試験に合格した簡裁訴訟代理等関係業務法務大臣認定司法書士の事を言います。民事における法律事件に関する訴訟代理の専門性は保証されます。
 
 
 
「簡裁訴訟代理等関係業務」とは
 
 簡裁訴訟代理等関係業務とは、簡易裁判所において取扱う事ができる民事事件(訴訟の目的の価格が140万円以内の事件)についての代理業務等であり、主な業務は次の通りです。
 
 民事訴訟手続き
 ②民事訴訟法上の和解の手続き
 ③民事訴訟法上の支払い督促手続き
 ④民事訴訟法上の訴え提起前における証拠保全手続き
 ⑤民事保全法上の手続き
 ⑥民事調停法上の手続き
 ⑦民事執行法上の少額訴訟債権執行手続き
 ⑧民事に関する紛争の相談、仲裁手続き、裁判外の和解手続き 
 
 
 
 
 
(2020年11月13日(金) リリース)