ニュースレター2020 ➊ 個人経済再建法務
  
 
 
 個人経済再建法務 グレーゾーン金利の真相!
 
 多重債務者救済のための債務整理事件とは!!
 
 
 
 ニュースレター2020個人経済再建法務の第1回は、過払金返還請求事件と債務整理事件について取上げます。
 
 一世を風靡した過払バブルは何故起こったのか?
 
 多重債務者の救済はどのような法律的方策があるのか?
 
といったテーマでグレーゾーン金利の真相に迫ると共に、多重債務者の救済策の概要を解説していきます。
 
 複数の金融機関から少額とはいえない額の借入れをして、返済が殆どできない状況になっている方々がいます。いわゆる「多重債務者」です。この多重債務者の方々はこの借入れの返済で毎日の生活が困難になっているだけでなく、借入先からの督促に日々悩まされているとても厳しいい状況に陥っています。
 
 法律は、「お金のために人生が狂わされるのなら、そのお金の問題をその人の日常生活から取除き、平穏な日々を送れるようにする事が必要である」と考えています。
 
 お金は何かと交換する道具であり、人の人生以上に価値のあるものではないからです。この考え方は、人権を重んじる世界の国々で共通の考え方であり、命の尊さを大切に考える証です。
 
 この日本でも多重債務者の方々のために、次のような有効な方策があります。
 
 
●任意整理(私的整理)
 
●特定調停(特定調停法)
 
●個人破産(いわゆる自己破産。破産法)
 
●個人民事再生(民事再生法)
  
 
 このどれかの方策で、殆どの人は経済的再スタートを切る事ができます。尚、過払金とは、昔、金利が高い違法な時代に起きた現象で、払い過ぎた金利を取戻す事により、負担が重かった借入れ(債務)を軽減する事や払い過ぎた金利で既に債務が完済されていた場合は、現金が戻ってくる場合の払い過ぎたお金の事です。そして、過払金を取戻す権利の事を過払金返還請求権といいます。
 
 現在では、過払バブルも既にピークアウトし、終息しつつありますので、この過払金を主要原資にして借入れ額が大きく変わったり、無くなったり、高額なキャッシュが手に入ったりする事はもはやないでしょう。
 
 その昔、多重債務者の経済的再スタートの大きな役割を果たしたのが破産法です。そして、多重債務者の中に破産法の適用を受ける事への拒否感や法律上の支障がある人々にとって有効に機能する民事再生法が制定され、現代までより良いものへと改正されてきました。
 
 多重債務者の救済策として破産法が有力な手段として利用されていた頃、いわゆるバブル景気が起こり、世の中は金余り現象への突入していく事になりますが、大蔵省(現財務省で現在は省庁再編により銀行の監督官庁は金融庁になっています。)の総量規制により、バブルは崩壊します。この時代に規制緩和を追風に台頭したのが消費者金融でした。そしてグレーゾーン金利で巨額な売上げを出し、過払金返還請求時代へと時代は突入していきます。
 
 過払バブルは2009年(平成21年)をピークに減少に転じますが、この時代の多重債務者への救済策は過払金返還請求事件による債務の軽減や帳消し、更に高額な過払金の返還請求でした。しかし、現在では、二世代前に戻り、多重債務者救済は基本原則通り、任意整理、特定調停、個人破産、個人民事再生になっています。
 
 今回のニュースレター2020 ➊ 個人経済再建法務では、過払金返還請求事件を掘下げ、その原因となったグレーゾーン金利の真相に迫り、更に現代の多重債務者救済のための任意整理、特定調停、個人破産、個人民事再生(以下総じて「債務整理」といいます。)を概説します。
 
 
●金融社会と時代背景 
 
 時代(とき)はまさに、1985年9月22日に遡ります。財政赤字と貿易赤字の双子の赤字に見舞われていたアメリカ政府は、国際収支の不均衡の打開のため、また日本、イギリス、西ドイツ、フランスはアメリカ国内で高まる保護主義への圧力に対する危機感を感じ自由貿易を守るため、行き過ぎたドル高是正に対抗する手段として先進5カ国が外国為替市場に協調介入する事を合意しました。このニューヨークのプラザホテルで結んだ条約がいわゆる有名な「プラザ合意」です。アメリカにとって自国の貿易収支は、対日本の貿易赤字が大半であり、日本にとってはアメリカとの貿易摩擦問題の解消がその背景にあったのです。
 
 このプラザ合意により、当時1ドル240円台だった円ドルレート(円相場)は1987年末には120円台となり、急激な円高で不況に陥りました。いわゆる円高不況です。
 
 政府は、経常収支の不均衡と国民生活の質の向上を図るため、前川リポートを基礎に10年で430兆円もの大規模な公共投資を中心とた財政支出の拡大、又民間投資を強力に推進するため規制緩和政策を執り、大規模な内需拡大、市場開放、金融自由化等を柱に経済成長を果たそうとしました。更に日銀が低金利政策などの金融緩和を打ち出しました。
 
 しかし、急激な円高を背景としたこの政府日銀の財政政策、金融政策により、金余り現象が発生し、あのバブル景気が到来する事になるのです。
 
 国内の輸出産業は大打撃を被り、その下請け企業の業績は悪化の一途辿りました。国内の企業は設備投資を止め、人件費等の固定費を極力カットしてこの窮状を凌ぐ事になり、銀行経営も融資の行き場所が無くなり、厳しいい状態になりました。
 
 内需拡大の見通しは明るくなく、政府日銀の政策は奏功しないかのように思えました。しかし、円高の反射的作用として、日本人や日本企業の資産が大幅に上がり、世界の資材は相対的に価値が下がる事になり、国内では富裕層や上場企業が株や不動産に注目し、財テクが始まったのです。
 
 急速な円高は、海外旅行ブームや輸入産業の拡大を招き、賃金の安い国に工場を移転する企業が増加し、また投機が加速し空前の財テクブームとなりました。
 
 不動産や株は高騰し、国際企業はアメリカの有名企業や不動産、世界の高級絵画を買い漁りました。日経平均株価は1989年(平成元年)12月29日の大納会に、終値の史上最高値である38,915円87銭を付け、その絶頂を見ました。
 
 マハラジャ、ジュリセン、ロレックス、ブルガリ、カルティエ、エルメス、ユーロビート、ダンシングヒーロー(Eat You Up)、ワンレン、ボディコン、アッシー、メッシー、路上に出て1万円を見せ、深夜のタクシーを止め遠距離を帰宅する会社員、高額所得者は銀座のクラブで一晩に100万単位の札束をマラマキ、土地神話は更なる金融を生み出して、欲望は果てしのない彼方へと向かいました。そして、アメリカの社会学者の著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」はまさに日本の成功を世界に知らしめるベストセラーとなったのです。
 
 世界が羨む絶頂の中、1990年(平成2年)3月27日に「不動産融資総量規制」という一通の通達が、大蔵省(現財務省。省庁再編により現在の銀行監督庁は金融庁になっています。)銀行局長から全国の金融機関に発せられました。異常な投機的過熱を冷やすため土地取引に流れる融資の伸びを抑えるための通達です。これが有名な「総量規制」です。
 
 急激なブレーキを掛けられた日本経済は、その対応ができないまま、ハンドリングを狂わせ、日本経済は急降下しだしました。株価は暴落し、不動産価格は5分の1以下になり、多額の負債を抱える企業や人々が続出しました。特に最後に不動産を持っていた人は悲劇の極まりと化しました。追い貸しに追い貸しを重ねてきた金融機関には傷んだバランスシートを回復させるため、失われた10年とも失われた20年ともいわれる長い間、莫大な不良債権との戦いが待っていました。この一通の通達が人々の生活や人生を狂わせ、日本経済を長らく低迷させる事になろうとは、あの「優秀な」大蔵省銀行局は誰も考えもしない事であったと思います。
 
 そしてそのバブル崩壊後、台頭してきたのが消費者金融です。お金が回らなくなった経済社会の中で、生活に苦しむ人々が増加した事、また規制緩和によるテレビコマーシャルの大幅な解禁も相俟って消費者金融は人々に身近になり、それまでの暗いイメージは見事に払拭されました。今でも、人々の夢や勇気とオーバーラップさせたアップテンポのバックグラウンドミュージックでテレビ画面一杯に踊るダンサー達の生命の躍動を感じさせるテレビコマーシャルは、消費者金融の1つのイメージとなって記憶に残っている人も多い事と思います。当時の大手貸金業者の金利(実質年率)は、目的ローンで13.5%から17.5%、目的自由ローンで23.36%から27.375%、遅延損害金29.2%という高いものでした。
 
 何故、貸金業者の規制がこの時緩和されたのか・・・。もしかしたら、貸金業者の大手スポンサーはメガバンクで、貸出先に困ったいた自行の預金を貸金業者に貸出す事により、間接的にバランスシートの改善を図っていたのかもしれません。
 
 しかし、高金利での借入れは、徐々に人々の生活や家族、人生を狂わせ始めました。まとめ貸しである、他の貸金業者からの複数の借入れを自社の貸金で返済させ、債務者を一つの消費者金融での借入れにさせる貸方は、100万円単位の札束が夜な夜な貸金業者から貸金業者へと行きかう日常になっていました。そして、返済に窮した借主への取立て、高金利、押し貸し(貸し込み競争)等で自殺者まで出る事態になり、多重債務は社会問題化しました。
 
 市場経済社会では、「責任」の意味が変わって捉えられるときがあります。人は、自身の言動に責任を負わなければなりません。日々の生活の中で誰でもお金が必要になる時があります。消費者金融は、そんな人々に対し、小口の資金を融通し、マネー経済の中で困っている人達を助けてきたとも言えます。しかし、「本人の意に任せる」というスタンス、つまり「自己責任論」は、相手を破滅に導くビジネスモデルとなり、さぞ寝覚めの悪いものになっていた事でしょう。
 
 そんな中、2006年(平成18年)1月13日に最高裁判所が判決を出しました。この判決により、利息制限法所定の利率を超える契約での借主の弁済は、有効な利息の弁済とはいえず、旧貸金業規制法43条(みなし弁済)の適用が否定されたのです。この判決により、それまで利息制限法を超える金利でお金を借りていた借主に過払金返還請求権が存在する事が明らかとなり、いわゆる過払バブルが発生する事になります。これまでに返還された過払金の額は10兆円とも言われており、司法書士の法務事務所や弁護士の法律事務所はこの返還手続きに多大な貢献をしたことになるのです。
 
 一世を風靡した過払金返還請求事件は、2009年(平成21年)をピークに減少に転じ、現在では過払バブルは終焉を迎えつつあります。
 
 そして、借主の収入に対する借入総額を規制した新貸金業法の施行がなされた今もなお、多重債務者は存在しているのです。
 
 
  
●債務整理事件の種類
 
 消費者金融やクレジット会社からの借入れにより、生活が困難となっている人に対する救済策が債務整理です。債務整理には、次の4種類の方法があり、借入れしている人(債務者)の借入れ額、収入、支出、仕事、住宅ローンの有無、消費者金融や信販会社、クレジット会社数、取立ての現状、延滞状況、現在及び過去の借入れ状況、債務者の希望等により、適切な処方箋を書き、司法書士や弁護士は対処していきます。
 
任意整理(私的手続)
 
 借入先(債権者)との個人的、個別的な交渉で、借入額(債務額)を減額し、利息を免除して、返済計画(リスケージュル)を立て、債権者と債務者との私的な合意で完済を目指す方法です。司法書士等の受任通知により、債務者への貸金業者からの督促は停止します。
 
 返済期間は原則3年、例外5年で、債務者の収入との関係で、返済できるか否かがポイントになります。また、債権者との私的な交渉のため、債務額の減額や利息のカット、リスケジュールが合意できない場合、この処方箋は使えません。
 
特定調停(特定調停法)
 
 特定調停法は、1999年(平成11年)に制定された民事調停法の特別法です。特定調停は、支払不能に陥る恐れのある債務者等の経済的再生に資するための手続きです。原則として、全ての債権者との間で債務の支払い等の調整を求める調停を簡易裁判所に申立て、簡易裁判所において債務者と各債権者が調停委員を交えて支払額や支払条件、担保関係の変更等について話合う事により債権者との間でこれらについて調停を成立させ、債務者は調停によって定められた債務者にとって有利な返済条件に従って返済をしていく事により債務者の救済を図る手続きになります。
 
 調停委員会が提示する調停条項案は、将来利息を発生させないものとなるのが一般的です。また、調停申立て後は、貸金業者からの督促は通常停止されます。調停が成立すると、債権者は債務名義を取得する事となる事から、調停条項に従って弁済をしなければ、債務者は強制執行を受ける恐れがあります。
 
 
個人破産(破産法)
 
 いわゆる自己破産です。破産法という法律上の手続きの中で、債務者の債務を清算し、その後免責する方法です。破産法の当事者は債権者と債務者ですが、債務者自身が破産を申し立てる場合を「自己破産」といいます。このニュースレターでは、個人破産は自己破産を想定して解説していきます。司法書士等の受任通知により、債務者への貸金業者からの督促は停止します。この手続は、それまでの債務額をゼロにする究極の債務者再建策です。
 
 「自己破産」というイメージに拒否感を持っている債務者や破産法に対する誤解のある債務者、自宅は所有し続けたいという思いのある債務者、自身の職種が破産との関係で欠格事由に該当する債務者には採用が難しくなります。
 
個人民事再生(民事再生法)
 
 民事再生法上の手続きで、個人民事再生は民事再生法の特則として機能します。処方箋としては、任意整理での解決が困難であり、また債務者が住宅ローンだけは残したい、つまり自宅は所有し続けたいという希望があったり、個人破産が仕事上の欠格事由となる職種に当たる人々に対し、この個人民事再生は有効に機能します。司法書士等の受任通知により、債務者への貸金業者からの督促は停止します。
 
 任意整理や個人破産より手続きが複雑で、一般の人々にとっては条文だけではとても理解できない程の難解なところがあり、債務整理事件により異なりますが、一般的に任意整理や個人破産より費用と時間が掛かります。また、この続きの債務者は、一定程度の継続した、安定的な収入がある事が条件になります。
 
 
●債務整理事件の選択基準概要
 
 司法書士や弁護士は、債務者への事実関係の事情聴取、債務者の事情や希望により、債務者との話合いでどの手続きを採用するかを決めていきますが、簡単にいって、大きな目安は次の通りになります。
 
〇債務額が多額で、債務者の収入を基準に債権者との交渉で合意に達する期待が低い場合は任意整理は困難となります。つまり、債権者との交渉は、債務額の減額、将来利息のカットを交渉し、原則3年以内での完済ができるか否かがメルクマールになります。
 
 従って、債務者の収入で公租公課を控除し、また生活上での必要経費を除いた額(可処分所得)が、あまり残らない方は任意整理での完済は生活を維持し、自由な生活を取戻すためのリスケジュールは厳しいのではないでしょうか。
 
〇住宅ローンは無く、またあっても自宅の所有維持は望まない場合、債務者の職種が破産手続き決定により欠格事由に該当しない場合、自己破産に拒否感が無い場合は究極の選択として、個人破産が望ましいでしょう。
 
 従って、任意整理では困難さがあり、住宅ローンも残すことを希望しない場合、本来的な債務者の経済的再建を果たす事ができる個人破産が有効です。
 
〇特定調停は、基本的に債務者本人が各債権者と交渉する意向の有る場合に有効です。債務者代理人を依頼せず、自身で交渉する意向のある人にとっては、適していると思います。一人でといっても、簡易裁判所の調停委員が仲裁役として参加しますでの、一般の方でも少し基礎知識を勉強し、自身の債務整理の方針をしっかりと立て、交渉に臨めれば目的は達成できるはずです。
 
 従って、債権者との合意ができるかがポイントとなります。また、過払金が発生している場合にも、過払金の返還手続きはこの特定調停手続きの射程範囲外となりますので、別途過払金返還請求訴訟を提起しなりません。そのため、過払金が発生している場合は、特定調停の採用は事実上検討の余地が出てきます。尚、特定調停申立代理人を依頼しなくて、債務者本人が特定調停に臨む場合にも、司法書士の「本人訴訟支援法務」で、特定調停関係の書類作成を中心に司法書士から支援を得る方法もあります。
 
 
〇住宅ローンを残したい、自宅の所有を維持したい、債務者の職種が破産に影響する場合、破産に拒否感がある場合は、個人民事再生を選択する事になります。但し、債務者に一定程度の収入が、継続的、安定的に有る場合が条件になります。
 
 従って、可処分所得がある程度あり、又は高額所得者で、ただ現在多重債務のため生活に窮している方に個人再生は適しています
 
 
●グレーゾーン金利の真相
 
 この国には、利率に関する法律が2つあります。一つは利息制限法、もう一つが出資法です。利息制限法の上限利率は15%から20%でしたが、出資法は上限利率が29.2%を上限とする法律でした。利息制限法を超える利率に刑事上の罰則規定は無く、出資法の29.2%を超える利率を設定した場合に初めて刑事上の罰則が適用される法律関係になっていたため、当時の貸金業者は出資法上の29.2%を上限とする金利を定め、借主から金利を取っていました。
 
 利息制限法では、第1条第1項において、金銭消費貸借契約の利息の上限をその元本の額に応じ、10万円未満の場合年20%、10万円以上100万円未満の場合年18%、100万円以上の場合年15%と定めており、その超過部分については無効としています。この利息制限法は民事法であり、違反した場合の刑事罰はありません。
 
 尚、旧利息制限法の同条第2項で、「債務者は、前項の超過部分を任意に支払つたときは、同項の規定にかかわらず、その返還を請求することができない。」 と規定していますが、この趣旨は、「制限超過部分について、その支払いを裁判上は請求することはできないが、裁判外では請求でき、これを債務者が任意に支払ったときは有効な利息の支払いになる」という、それまでの判例における旧利息制限法の解釈に従って定めたものと解されています。このように、利息制限法は私法上無効となる上限金利を定め、借手の保護を図ろうとしたものですが、当時の国会審議の内容等から、実質的には銀行向けの上限金利規制として制定された色彩が強くあると言われています。そこでこれだけでは高金利による貸付けを抑制するには不十分であるとして、利息制限法の制定に引続き、出資法が制定され、違反した場合に刑罰を科すもうひとつの上限金利が規定される事になりました。
 
 つまり、利息制限法には違反するが、出資法には違反しない利率の存在です同じ利率の制限が2つ存在し、裁判上は無効ですが、裁判外での貸金業者から借主に対する請求は事実上有効であり、借主の任意の弁済は法律上有効で、刑事上の処罰の対象とはならない利率が存在したという事です。この実体法上、有効と無効が併存する複雑な法律関係、これがいわゆる「グレーゾーン金利」の正体です。
 
 しかし、29.2%という利率の設定は、利息制限法に違反する違法行為である事には変わりありません。つまり、刑事上の罰則規定は存在しませんが、民事上の不当利得に基づく損害賠償の対象になる可能性はあったのです。
 
 従って、利息制限法を超える定めで金融業務をしていた貸金業者は、借主からの請求により利息制限法に基づく適正な借入額に是正しなければならず、また払い過ぎた額は返還しなければならない潜在的な問題は残っていました。
 
 それでは、何故、貸金業者はこのような利息制限法違反の定めを置いた契約で、平然と金融業務を行えたのでしょうか。それが、このグレーゾン金利の真相になります。
 
 この不思議な構造の背景には旧貸金業規制法第43条の存在があったのです。この第43条の要件を満たす場合、例え利息制限法に違反した利率の定めをしていたとしても、「有効な利息の債務の弁済とみなす」と規定されていました。
 
 旧貸金業規制法第43条の要件は次の通りです。
 
 ①業者が貸金業者としての登録を受けている事。
 ②業者が貸付を行う際に、資金業規制法第17条で定める書面を交付している事。
 ③業者が弁済を受ける際に、貸金業規制法第18条で定める書面を交付している事。
 ④利息制限法を超える約定利息を、債務者が利息と認識したうえで支払った事。
 ⑤利息制限法を超える約定利息を、債務者が利息として任意に支払った事。
 
 
 これが世に言う「みなし弁済」規定です。この要件を満たして任意に利息を支払った場合には、利息制限法に定める利息の超過部分も元本の弁済に充当されず返還を請求できない事を規定していたのです。
 
 しかし、この規定は貸主、つまり貸金業者が借主からの弁済の都度、受取証書(18条書面、いわゆる受領書。)の交付をしなければならない事が条件となっていたので、あの便利な自動契約機や無人貸付返済機(いわゆるATM)を利用したビジネスモデルを創り上げた貸金業者にとっては、事業を行う上で大きな負担になっていたはずであり、とてもこのみなし弁済の規定を利用してビジネスができるはずもなかった事は容易に想像できます。
 
 ところが、このみなし弁済規定を可能にした法令があったのです。それが貸金業規制法施行規則第15条2項です。この規定は、本来、契約書面、領収書面には、貸金業法第17条、第18条が定める事項が全て記載されていいなければならないと規定されていますが、無人貸付返済機(ATM)の利用明細に貸金業規制法上定められた事項の全部が記載されていなくても、利用明細に基本契約書の契約番号を記載し、他の事項は基本契約書を援用する事により、資金業規制法上の第18条(受領書)の要件は全て満たされるものとしてみなすという規定だったのです。
 
 この規則は金融庁(内閣府)が所管していたものでしたが、この規定により当時の貸金業者は、みなし弁済の規定を援用して、利息制限法を超える利息を公然と売上に計上していたのでした。今にして思えば、何故、貸金業者を取締る立場の金融庁がこのような規則を是としたのかは不明です。尚、旧貸金業規制法は、1983年(昭和58年)制定から都度の改正まで全て議員立法となっています。
 
 こうした経緯により、グレーゾーン金利が公然と正当化され、消費者金融は莫大な利益を出していったのです。
 
 しかし、あとに最高裁の2006年(平成18年)1月13日判決により、過払金の存在が明らかとなり、過払金請求事件による過払バブルが発生する事になっていきます。
 
 そして、2006年(平成18年)12月13日に貸金業法が大改正になり、2007年(平成19年)12月19日から段階的に施行され(法律名が「貸金業の規制等に関する法律」(略称「貸金業規制法」)から「貸金業法」になる。)、2010年(平成22年)6月18日に全面施行に至り、貸金業者は借主の年収の3分の1を超えて融資する事が禁じられました。
 
 また、旧利息制限法第1条第2項の規定は、2006年(平成18年)12月13日改正時削除されました。
 
 こうして消費者信用の最大の問題とされていた過剰与信問題は状況を変えていく事になるのです。
 
 
●三大ノンバンク
  
 ノンバンクとは、銀行のように預金の受入れを行わず、与信業務のみを行う会社です。与信業務とは、お金を貸す、商品の代金の立替え、金融の保証といった信用(お金の価値そのもの。対比語は現物。)を供与する業務の事です。金融とは「資金融通」の事ですが、金融業はバンクとノンバンクに区別されます。銀行・信用金庫・信用組合・JAはバンク、消費者金融会社、信販会社、クレジット会社、リース会社、不動産金融専門会社、事業者専門金融会社はノンバンクになります。そして、その中で消費者金融会社、信販会社、クレジット会社を三大ノンバンクといいます。バンクの代表的存在が銀行で銀行法の適用を受け、ノンバンクは貸金業法の適用を受けます。そのためノンバンクを貸金業といったりもします。
 
 信販会社も個人向け融資を業務としていますが、消費者金融会社はカードローン形式で貸付を行うのに対し、信販会社は証書貸付で貸付を行います。
 
 カードローン形式では、利用者はカードローン枠を設定し、その枠内で何度でも貸し借りを繰返す事ができます。これに対し、証書貸付けは、最初にまとまった金銭を借入れて、毎月決まった額を返済していきます。同じ契約で再度の借入れはできません。
 
 但し、信販会社のクレジットカードも消費者金融会社と同じにショッピングクレジット枠とは別にカードローン枠でのキャッシングも行っている会社もあります。
 
〇消費者金融会社
 
 預金の受入れをせずに個人向けに金銭を貸付けて、金利を収益にするノンバンクです。信販会社のような立替業務は行っていません。
 
〇信販会社
 
 信販会社とは、預金の受入れをせずに信用を供与する会社の事です。信用供与とは、お金を貸したり(融資)、立て替えたり(ショッピングクレジット)、他からの借り入れを保証(与信保証)したりすることです。
 
〇クレジットカード会社
 
 クレジットカードを発行している会社の事です。発行形態は2種類で、家電量販店等が信販会社と提携して発行するクレジットカードを提携カード、信販会社自身が自社ブランドで発行するクレジットカートをプロパーカードといいます。
 
 提携カード型には、銀行系、百貨店系、量販店系、流通系等があります。
 
 
●イシュイング(Issuing)とアクワイアリング(acquirer)
 
 クレジットカード会社の業務には、主にイシュイング業務アクワイアリング業務の2つがあります。
 
 イシュイング業務とは、カード発行業務の事で、アクワイアリング業務とは加盟店契約業務又は加盟店獲得業務の事です。
 
 日本のクレジットカード会社の殆どは、イシュイング業務とアクワイアリング業務の両方の事業を行っていると言われています。
 
 VISAカード、マスターカード、JCBは三大国際ブランドとして有名ですが、VISAカードとマスターカードは実はカード発行会社ではなく、加盟店契約会社です。世界各国のVISAブランド、マスターカードブランドの加盟店で利用できるライセンスを提供してます。このライセンスの提供を受けたVISAやマスターカードとの提携カード会社が発行するVISAブランドカード、マスターカードブランドカードは、VISA加盟店、マスターカード加盟店で利用ができ、VISAやマスターカードのサービスを受けられるようになります。
 
 これに対し、JCBは、カード発行とライセンス提供の2つの事業を行っています。
 
 因みに、VISA、JCB、MasterCardの3大国際ブランドに、アメリカン・エキスプレス、ダイナースクラブ、銀聯(ギンレン)、ディスカバーを加えたものが7大国際ブランドと言われています。
 
 
●信用事故情報とは
 
 消費者金融会社や信販会社を利用している人が、支払い延滞、債務整理、差押え等が有った場合、その情報が信用情報機関に登録される事になります。この情報をいわゆる「信用事故情報」といいます。例えば、延滞しときに情報が付いたりします。そして、3回程度連続して延滞した場合、新規にカードが作れなくなる等制限があります。
 
 尚、既に延滞している方、特に3回以上連続して延滞した経験の有る方は、既に信用事故情報が付いていると考えられます。又、債務整理を行った場合も信用事故情報が付きます。信用事故情報が付いた場合、5年間、カード作成申込時の審査が通らなくなる可能性が高いと考えられます。その他、この信用事故情報は、信用情報機関によって、その管理が異なっていますので、一概に言う事はできないため、自身の情報がどのようになっているかは、その信用情報機関に問合せてみる必要があります。
 
 この信用事故情報ですが、あくまでも現在の債務者の生活が第一ですので、多重債務者の方は、あまりシビアーに考えなくてもよいと思います。
 
   
●最高裁判所判決(2006年(平成18年)1月13日最高裁判所第二小法廷判決)
 
 貸金業規制法第43条1項は、貸金業者が業として行う金銭消費貸借上の利息の契約に基づき、債務者が利息として支払った金銭の額が、利息制限法の上限金利を超える場合、貸金業者が、貸金業規制法上定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守しているときには、その支払が任意に行われた場合に限って、例外的に、利息制限法1条1項の規定にかかわらず、制限超過部分の支払を有効な利息の債務の弁済とみなす旨を定めています。
 
 グレーゾーン金利の問題で、最高裁で画期的な判決が出されました。
 
 〇「期限の利益喪失約款の下なされた超過利息の支払いは、任意になされたものとはいえず、有効な利息の支払いとはみなされない。」とし、
 
 〇「金融庁が定めた貸金業規制法施行規則第15条2項のうち、当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって、法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は、他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから、内閣府令(貸金業規制法施行規則)に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。」としました。
 
 この判決により、貸金業者が拠り所にしていた根拠が全て崩壊し、法律上、債務者に過払金返還請求権の存在が明らかとなったのです。
 
 
●多重債務者の方々の救済策と経済的再建の重要性
 
 「借りたものは返す」といった考え方は常識的な意識だと思います。しかし、多重債務者問題は、そう簡単な問題ではありません。それは「貸手責任」という考え方があるからです。消費者金融はお金を貸してその利息で売上を計上し、利益を出すビジネスです。つまり、お金を貸さなければ事業は成り立たないのです。
 
 そして、「自己責任」という言葉があります。この「自己責任」でその事業は正当化される事になりますが、それにも限度があります。借りても返せない人に自己責任という言葉でお金を貸す行為は、さすがに責任が問われるのです。そして、その責任に対しては法は手を差伸べません。
 
 更に、お金は物と交換する道具に過ぎません。人の命や人生はプライスレスです。
 
 そうしている間に大切な人生という時間が過ぎていきます。
 
 そして、人の人生は幾つになってもやり直しがききます。けっして遅いという事はありません。
 
 
 
 
 
 
 いかがでしたでしょうか?
 
 
 
 金融社会も色々な時代背景と変遷がありました。
 
 
 
 そして、「自己責任」という概念の他に「貸手責任」という概念がある事もご理解頂けたのではないでしょうか。
 
 
 
 債務過剰でお困りの方は、個人経済再建法務を専門分野又は取扱分野としている司法書士の法務事務所にご相談してみてはいかがでしょうか。
 
 
 
 
 
 
 一人ではどうにもならない事があります
 
 
 
人生のトラップにはまり 失敗しても 再チャレンジすればいいのです
 
 
 
 
  
 
 
 
「個人経済再建法務」とは
 
 「倒産法」という名称は法律用語でもなく、また法の制度趣旨を適切に表している言葉でもないため、当事務所では、個人の倒産法に基づく法律上の倒産手続きを「個人経済再建法務」としています。
 
 
「個人経済再建支援法務」とは
 
 個人経済再建法務の任意整理事件における司法書士の法律上の業務は、「個人経済再建支援法務」又は「裁判手続代理法務」です。
 
 「個人経済再建支援法務」とは、一般的な法律相談の他、依頼者の意思決定の基、依頼者に代わり、依頼者からの事情聴取をしながら裁判所等に提出する書類の作成を中心に、司法書士が依頼者の裁判手続き等を支援する法律上の業務です。司法書士の「個人経済再建支援法務」は、裁判所等に提出する書類作成に関しては、取扱う事件に制限はありません
 
 「裁判手続代理法務」とは、一般的な法律相談の他、簡易裁判所管轄で、訴額140万円以内の事件において、司法書士が依頼者の裁判手続代理人として、依頼者と協議をしながら、司法書士自身が主体的に裁判手続きをする民事上における法律上の業務です。
 
 一般的に、「裁判手続代理法務」に比べ「個人経済再建支援法務」の方が、裁判手続きに掛かる費用が低額で済み、法律問題の解決を図る事ができます。
 
 
認定司法書士とは
 
 訴訟代理資格を得るための特別な試験に合格した、簡裁訴訟代理等関係業務法務大臣認定司法書士の事を言います。
 
 
簡裁訴訟代理等関係業務とは
 
 簡裁訴訟代理等関係業務とは、簡易裁判所において取扱う事ができる民事事件(訴訟の目的の価格が140万円以内の事件)についての代理業務等であり、主な業務は次の通りです。
 
 民事訴訟手続き
 ②民事訴訟法上の和解の手続き
 ③民事訴訟法上の支払い督促手続き
 ④民事訴訟法上の訴え提起前における証拠保全手続き
 ⑤民事保全法上の手続き
 ⑥民事調停法上の手続き
 ⑦民事執行法上の少額訴訟債権執行手続き
 ⑧民事に関する紛争の相談、仲裁手続き、裁判外の和解手続き 
 
 
  
(2020年9月14日(月) リリース)