ニュースレター 2022 ❷ 民事訴訟法務
  
 
  
<ポイント解説>
 
労 働 事 件
 
未払い残業代請求の法律的対応!!
  
 
 
 
 今回のニュースレター2022第2回民事訴訟法務は、<ポント解説>労働事件 未払い残業代請求の法律的対応について取上げます。
 
 労働事件に関しては、2019年の【ニュースレター❹及び❺民事訴訟法務】にて、基礎知識と一つの法律的事件処理の流れを取上げましたが、今回はポイント解説と題して、労働事件の中で、未払い残業代の請求についての法律的対応方法に射程範囲を絞って、その要説を概説していきます。
 
 今回のテーマは、このニュースレターを見て頂ければ2019年の【ニュースレター❹及び❺民事訴訟法務】をご覧頂くなくても、ご理解頂けるように概説しています。2019年の【ニュースレター❹及び❺民事訴訟法務】については、興味のある方はご覧になってみて下さい。
 
 また、労使間の紛争は、個別的労使紛争集団的労使紛争に分類されますが、このニュースレターでは、個別的労使紛争に焦点を当てます。
 
 
 
 
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<CONTENTS> 
 
 
◆未払い残業代請求の前提知識
 
 ■労働事件とは
 
 ■賃金とは
 
 ■残業代の計算
 
 ■残業代の請求
 
 
◆実際の未払い残業代請求に対する対応
 
 ■現実の対応
 
 ■未払い残業代請求事件での執るべき対策
 
 

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未払い残業代請求の前提知識
 
 
 
 
労働事件とは 
 
 
 
●労働事件の種類
 
 
▼労働事案任意交渉事件
 
 労働者と使用者(会社等)が私的に交渉し、労働基準監督署や裁判所を利用せずに、当事者間で解決を目指す方法です。
 
 
▼労働基準監督署による是正勧告事件等
 
 未払い残業代がある場合、使用者に直接要求や話ができないとき、労働基準法等に基づき労働基準監督官に是正勧告等を求める方法です。
 
 労働基準監督官は、使用者の違法行為が、労働基準法等の犯罪に当たると判断した場合は、「特別司法警察員」として、犯罪捜査を行う権限があり、特に悪質な事案では、労働基準監督官が裁判官の許可を得た上で、使用者を逮捕する事さえできます。労働基準監督官は、言ってみれば労働者を守る警察官としての役割を果たしています。
 
 タイムカード等の証拠が揃っている場合には、労働訴訟に比べ時間短縮になる可能性があります。
 
 但し、労働基準監督官は労働基準法等の違反に対し、立件化できるだけであり、使用者が労働基準監督官の是正勧告を無視すれば、労働者は自ら未払い残業代の請求をしていかなければなりません。
 
 尚、これは法律上の取扱いであり、現実問題として、使用者側(会社等)に正当な理由がない限り、是正勧告の発出に至る前に、事実上、経営者は何らかの対応を取る事が多いのではないでしょうか。
 
 
▼労働保全事件
 
 未払い残業代の請求には、労働時間の立証が必要になります。労働者が日常タイムカードの写しや業務日誌、業務メモ等の記録を残している場合は別として、通常、労働時間を立証する証拠はその殆どが使用者の下に存在しています。特に、日常の出退勤等の業務管理を使用者が設置したコンピュータシステムで行っている場合は、そのログが必要になります。このような場合に、いきなり労働訴訟を提起すると、証拠隠滅の恐れがあるので、本案請求前に証拠保全を申立てる方法です。
 
 
▼労働審判事件
 
 労働審判制度は、労働審判法に基づき個別労働関係民事紛争に関し、裁判官1名(労働審判官)及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者2名(労働審判員)で組織する労働審判委員会が審理を行い、その中で調停の成立による解決を試み、その解決に至らない場合に、最後に労働審判を行い、労働事件の解決を目指す非訟手続きです。
 
 この労働事件審判手続きは、他の民事調停や特定調停手続き、家事事件審判手続きに比べ、最も利用されているポピュラーな手続きであるところが特徴です。民事第一審訴訟(過払金返還請求訴訟除く)の平均審理期間は約9月程度であるのに対し、労働事件訴訟は13カ月程度と1.5倍と言われており、労働事件訴訟は長期化する傾向にあります。労働審判事件は、原則3回以内の期日で事件の審理を終結する事により、迅速かつ適正な紛争解決の実現を目的とする方法です。
 
 労働審判事件の中では、約70%が調停成立により、15%程度が労働審判により終局しているようです。労働審判事件では、労働者の地位確認及び賃金手当等請求事件の占める割合が大部分を占めており、労働事件全体でも労働審判事件で終局的解決が図られているのが現状です。
 
 尚、労働事件訴訟の提起前の労働事件審判手続きは、審判前置主義は採用されていないため不要です。
 
 
▼労働訴訟事件
 
 労働者と使用者との間で、主張の対立が激しく、他の方法で解決が困難な場合の訴訟手続きです。労働事件は他の訴訟の種類と異なり、労働者、使用者が先鋭化し易く、時間と労力が掛かる場合も想定されます。労働者としては、訴訟の中で、和解を目指すのも一つの方法です。
 
 
 
●労働事件の紛争類型
 
 
▼労働契約の存否に関するもの(解雇、雇止め等)
 
 
▼労働契約の条件に関するもの(昇進、昇格、降格、配置転換等)
 
 
▼労働契約上の事故に関する者(労災、セクハラ、パワハラ等)
 
 
▼賃金の支払いに関するもの(未払い残業代請求等)
 
 
 
●未払い残業代で主に必要になる法律
 
 
▼労働基準法
 
 
▼労働契約法
 
 
▼労働基準法施行規則
 
 
 
 
賃金とは
 
 
 
●労働基準法上の労働者を守るための制限
 
 労働基準法では労働者を守るため、次の3つの制限を規定しています。但し、労働者の代表と使用者との協定で、原則、その協定の範囲内であれば、労働時間の延長(時間外労働)や休日労働(法定休日労働)をさせる事ができます。そして、この場合は、割増賃金(いわゆる残業代)を支払わなければならない事になります。
 
 
▼使用者は労働者に1日8時間を超えて労働させてはならない。
 
 
▼使用者は労働者を週に40時間を超えて労働させてはならない。
 
 
▼使用者は労働者に原則として、毎週少なくとも1回(1日)の休日を与えなければならない。
 
 
 
●残業代とは
 
 
▼法律上(労働基準法上)の割増賃金とは、次の4種類になります。
 
 「残業代」という用語は法律用語ではありません。法律上、「残業代」は日常用語として次の4種類の「賃金」の総称として用いられていると解釈されます。
 
 尚、労働基準法上の用語としての「賃金」は、会社員等のサラリーマンが日常使用する用語としての「給料」と基本的に同じ意味になります。
 
深夜労働に対する割増賃金
 
 22時から翌日の5時の間で労働をしたときの賃金で、割増率は25%以上です。
 
法定休日労働に対する割増賃金
 
 法定休日に労働をしたときの賃金で、割増率は35%以上です。
 
時間外労働に対する割増賃金
 
 時間外労働をしたときの賃金で、割増率は25%以上です。但し、月60時間超は50%以上になります。
 
〇法内残業に対する賃金
 
 所定労働時間を超えた労働をしたときの賃金で、通常賃金と同じです。
 
 
 
●法内残業とは
 
 労働契約で取決めた所定労働時間を超えるが、労働基準法の上限(1日8時間、1週間40時間)以下の範囲には収まっている残業を法内残業いいます。
 
 尚、所定労働時間に対して、実際に労働した時間の事を「実労働時間」といいます。
 
 
 
●除外賃金とは
 
 割増賃金の計算の基礎には、「基本給」の他に全ての「手当」も算入するのが原則です。但し、割増賃金(残業代)の計算の基礎から除外する賃金があります。
 
 賃金には、割増賃金の算出に関係して基礎賃金除外賃金があります。賃金算出の基礎となる基礎賃金を給料との関係で固定給と言ったりします。
 
 賃金の種類に賃金割増賃金があり、賃金(固定給)と割増賃金(残業代)の計算の関係で基礎賃金(固定給)と除外賃金があるという事になります。
 
 除外賃金には、簡単に言って次の3種類があります。
 
 
 ▼仕事の内容や量とは無関係な、労働者の個人的な事情により支給される賃金(家族手当、通勤手当、子女教育手当、住宅手当等)
 
 
 ▼臨時に支払わるる賃金(結婚手当等)
 
 
 ▼1カ月を超える期間毎に支払われる賃金(予め支給額が確定していない賞与等)
 
 
 尚、賃金とは、使用者が労働者に対して、労働に対する報酬として支払う対価のことをいいます。労働基準法では「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と定義されています。
 
 
 
 
■残業代の計算
 
 
 
●残業代の計算方法
 
 「割増賃金」すなわち残業代はどのようにして計算するのでしょうか。
 
 そのポイントは「時間単価」を求める事に有ります。時間単価が算出出来れば全て解決です。
 
 また、「時間単価」の算出時には「所定労働時間」が基準になるのに対し、「割増賃金」すなわち残業代の算出時には「実労働時間」が基準になります。
 
 更に、「月平均の所定労働時間」、「年間の所定労働日数」といった概念を前提に具体的な「時間単価」「割増賃金」、すなわち残業代を算出していきます。
 
 少し複雑な計算になりますが、戦略目標は、残業代です。そして、その残業代を求めるには「所定労働時間」により「時間単価」を、そして「実労働時間」により「割増賃金」を各々算出します。
 
 設例に従って具体的に残業代を計算していきましょう。
 
 
 
【設例】
 
 
 就業規則に「所定労働時間は7時間、土曜日、日曜日、国民の祝日が休日」と定められている会社で、ある労働者の労働契約で定められた賃金(所定賃金=固定給額)「1カ月20万円」(月給制)であった場合において、ある月に20時間の時間外労働をした場合について検討します。
 
 
 
 <戦略目標と戦術>
 
 
 割増賃金(残業代)の算出では、まず第一目標で年間所定労働日数を算出し、幾つかの戦術を経て、最終の目標である必要事項の時間単価を算出します。
 
 次に、時間外労働時間(残業時間)を算出し、最終の戦略目標である時間外労働の割増賃金(残業代)を算出します。
 
 つまり、戦略目標の割増賃金(残業代)を算出するには、まず時間単価の算出を目指さなければなりません。順序としては年間所定労働日数月平均所定労働日数月平均所定労働時間、最終の目標である必要事項の時間単価の算出となります。
 
 
 
残業代(時間外労働割増賃金)の算出には
 
 
まず 時間単価 の算出が必要
 
 
時間単価が判れば 全て解決
 
 
 
 <時間単価の算出>
 
 
 時間単価の算出はまず、「年間の所定労働日数」を求める事が第一の目標になりますが、例えば、ある月の労働日数が20日であった場合、この月の所定労働時間は140時間(7時間×20日)になります。
 
 労働基準法上、1日の労働時間は8時間、1週間の労働時間は40時間を超えてはなりません。就業規則で1週間の所定労働時間が40時間以上となっていた場合は、1週間の所定労働時間を40時間と設定されているとみなして計算しますので注意して下さい。
 
 従って、この会社の場合、1時間当たりの時間単価は、
 
 
 時間単価=月所定賃金(固定給額)÷月所定労働時間←時間単価の公式の原型
 
  すなわち
 
 時間単価=200,000円÷140時間
 
 
 で、 1,428.57円となります。
 
 つまり、月の所定労働時間が分かれば、時間単価は算出できます
 
 ここで問題となるのは、割増賃金(残業代)は1カ月単位で算出します。しかし、1年間の各々の月の労働日数は一定ではありません。そこで、「月平均所定労働日数」という考え方を使います。
 
 
 「月平均所定労働日数」は、1年間の所定労働日数の合計を12で除し、その年の「1カ月当たりの所定労働日数の平均値」を算出します。この例では、1年間の所定労働日数は248日とします。
 
 尚、一般的に、割切れないときは少数点第二位までとして計算します。
 
 
 
 「1年間の所定労働日数」=1月から12月までの所定労働日数の合計
 
 
  1年間の所定労働日数=248日
 
 
 「月平均所定労働日数」=1年間の所定労働日数÷12
 
 
  月平均所定労働日数=248日÷12=20.666・・・
 
 
 「月平均所定労働時間」=月平均所定労働日数×7
 
 
  月平均所定労働時間=20.666・・・×7=144.666・・・時間
 
 
 ※この会社の就業規則には、「所定労働時間は7時間、土曜日、日曜日、国民の祝日が休日」と定められています。
 
 
 
 で求められます。
 
 従って、1時間当たりの賃金である時間単価は
 
 
 「時間単価」=月所定労働賃金(固定給額)÷月平均所定労働時間←時間単価の公式
 
 
  時間単価=200,000円÷144.666・・・時間
 
      =1,382.494・・・円
 
 
  ゆえに、時間単価は
 
 
       1.382円
 
 
  となります。
 
 
 ※一般的に、1円未満の端数が出るときは、「50銭以上切上げ、50銭未満切捨て」で計算します。
 
 
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[時間単価の公式]
 
 
「時間単価」=月所定労働賃金(固定給額)÷月平均所定労働時間
 
 ※「月所定労働時間」を「月平均所定労働時間」に変換するところがポイント。
 
 
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 <残業代(時間外労働割増賃金=割増賃金)>
 
  
 「割増賃金(残業代)」=時間外労働時間×時間単価×時間外労働の割増率
 
  ↑割増賃金の公式
 
 
  割増賃金(残業代)=20時間×1.382円×1.25
 
           =34,550円
 
 
 となり、割増賃金(残業代)は
 
 
  34,550円
 
 
 となります。 
 
 
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残業代(時間外労働割増賃金)の公式
 
 
「残業代」=時間外労働時間×時間単価×時間外労働の割増率 
 
 ※「時間単価」が算出できれば、後は簡単。
 
 
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 <残業代(時間外労働割増賃金=割増賃金)算出のポイント>
 
 
 「年間所定労働日数」の算出が第一目標。
 
 「時間単価」の算出を最終目標とします。
 
 「月平均所定労働時間」は、「1年間の所定労働日数」を算出し、次に「1日の所定労働時間」を基に「1年間の所定労働時間」を算出して、それを12で割り「月平均所定労働時間」を求めます。
 
 そして、「時間単価」は、「月所定賃金(固定給額)」「月平均所定労働時間」で割り、目標の「時間単価」を求めます。
 
 
 【年間の所定労働日数】=1月から12月までの所定労働日数の合計
 
 
 【月平均の所定労働日数】=年間の所定労働日数を12で除する
 
 
 【月平均の所定労働時間】=月平均の所定労働日数に1日の所定労働時間を乗ずる
 
 
 【時間単価】=月所定労働賃金(固定給額)を月平均の所定労働時間で除する
 
 
 【残業代(割増賃金)】=時間単価に残業時間を乗じ、1.25を乗ずる
 
 
 
 
■残業代の請求 
 
 
 
●残業代の請求方法
 
 使用者への残業代の請求方法は、次の4つになります。
 
 
使用者(会社等)への任意交渉
 
 
労働基準監督署への相談と是正勧告
 
 
労働審判による調停又は労働審判
 
 
労働訴訟による判決又は裁判上の和解(又は裁判外の和解)
 
 
 
●残業代(所定労働割増賃金=割増賃金)請求権の消滅時効
 
 労働基準法上、残業代(割増賃金)を請求する権利は、本来の支払日から5年間を経過すると「時効」によって消滅します(新労働基準法施行日 2020年(平成31年)4月1日)。
 
 この点、旧民法では、一般的な債権の消滅時効を10年と定めつつ、特定の種類の債権については、特例としてそれより短い消滅時効を定めていました(「短期消滅時効」)。その規定の中で、月又はこれより短い時期によって定めた使用人(労働者の事です。)の給料に係る債権、つまり、従業員が雇い主に対して月給、週給、日給を請求する権利については、消滅時効は1年と定められていました。しかし、労働者にとって給料等の重要や権利の消滅時効が1年では短すぎるため、労働基準法でそれより長い「2年」と定める事によって、労働者の保護を図っています。
 
 債権の消滅時効は、改正民法(平成29年法律第44号)(2017年(平成29年)5月26日改正、同年6月2日公布、2020年(平成31年)4月1日施行)で、債権の種類が種々であると分かりずらいとの事で、「債権者が権利を行使する事ができる事を知った時から5年が経過すれば消滅時効が完成するものとして統一されました。
 
 これに伴い、労働基準法の賃金を請求する権利の消滅時効も「5年」に改正(新労働基準法)されました。
 
 しかし、新労働基準法施行以前の賃金や割増賃金が発生していた場合は、旧労働基準法の規定が適用されると解されるため、賃金請求権の消滅時効は「2年」である事に注意が必要です。
 
 
 
●時効の更新と完成猶予
 
 民法改正により、旧民法で使われていた「時効の中断」や「時効の停止」という用語は、「時効の更新」、「時効の完成猶予」に各々変わりました。旧民法での用語に比べ改正民王(現民法)の方が法律用語で示される意義がより適切になり、解り易くなりました。
 
 時効の完成猶予と更新ですが、まず時効の完成猶予とは、ある権利の時効について、法律上、時効の完成事由が生じたら、一旦、その権利の時効の完成が猶予されるという状態になり、時効の完成が猶予された権利の存在が法律上、確定した時点から、時効期間が更新され、その後、10年間時効は完成しないという法律上決まった関係の事です。
 
 時効の更新や時効の完成猶予という概念は、権利が消滅する事による不都合を解消しようとする制度なので、今回のニュースレターでは労働者側(債権者側)に用意されたものです。残業代を請求する場合も残業代請求権という権利(債権)を会社側(使用者側)に行使して行く事になりますが、この残業代請求権も5年間行使しなければ5年経過した分から逐次時効により権利が消滅していきます。
 
 労働者は、自身の残業代の請求権が消滅しないように時効の更新や時効の完成猶予といった制度を使用していかなければなりません。
 
 
 
 <旧民法と改正民法の時効に関する法律用語>
 
 ▼時効の中断  ⇒  時効の更新
 
 ▼時効の停止  ⇒  時効の完成猶予
 
 
※民法改正 2017年(平成29年)5月26日改正、同年6月2日公布、2020年(平成31年)4月1日施行。
 
 
▼時効の更新事由
 
 〇確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したとき
 
 〇権利の承認があったとき
 
 〇強制執行
 
 〇担保権の実行
 
 
▼時効の完成猶予事由
 
 〇裁判上の請求
 
 〇支払督促
 
 〇和解(民事訴訟法)又は調停(民事調停法)
 
 〇破産手続参加又は更生手続参加、更生手続参加
 
 
 尚、仮差押え又は仮処分、催告等は、時効の完成猶予事由になりますが、時効の更新事由にはなりません。
 
 つまり、仮差押え等で一旦時効の完成を阻止しますが、更に、これを更新したいときは、その猶予期間中に、裁判所の請求等をするか、相手方から権利の承認を得る必要があります。
 
 
 
 
 
◆実際の未払い残業代請求に対する対応
 
 
 
 
■現実の対応
 
 
 
 それでは、現実に、未払い残業代の請求をするには、どのような事項が必要であり、注意しなければならないかを概説します。
 
 
●未払い残業代請求事案の情報収集と事実関係の確認
 
 未払い残業代の請求事案では、何といっても出退勤等の実労働時間を証明する証拠が決定的なものになります。それでは、証拠となり得るものの例を挙げます。
 
 
▼タイムカードのコピーやスマートフォンで撮影したタイムカードの画像等
 
 
▼パソコンのログイン、ログアウト時刻の記録
 
 
▼業務日誌や業務週報
 
 
▼業務メモ(業務日誌、業務ノート、手帳等)
 
 ※残業した場合、どのような理由で残業したのか、どのような仕事をしたのか等の記録
 
 
▼電子メールの送受信記録
 
 
▼シフト表
 
 
▼店舗の開店・閉店時刻を示す書類
 
 
▼警備会社のセキュリティ記録
 
 
▼車の運行日誌等
 
 
▼家族とのSNSでの送受信データ
 
 
▼給与明細書
 
 
▼就業規則、賃金規程(小規模事業者等事業の規模によっては作成義務が無い場合があります。)
 
 
▼労働契約書(雇用契約書)
 
 
 
●選択肢としての証拠保全手続き
 
 「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならない。」(労働基準法第109条)
 
 未払い残業代の請求事案では、その証拠の多くは使用者側にあります。そこで、労働基準法では、労働関係での紛争に備え、使用者に対して労働関係書類の保管を義務付けました。
 
 労働者で実労働時間の証明をするための証拠が不足している場合は、法律上の証拠の保全方法として次の手続きがあります。いずれも、労働者の置かれている状況等により、効果的に利用する事になります。
 
 
▼訴え提起前の証拠保全手続き
 
 使用者が証拠隠滅の恐れがある場合、有効に機能します。
 
 
▼訴訟上の文書送付嘱託
 
 訴訟提起後、口頭弁論期日等で、相手方に対し、開示できる証拠の裁判所への提出を申したてる場合です。
 
 
 
●法律的請求方法の選択
 
 労働事件では、既に上述しました通り、次の5つの請求方法があります。
 
 
▼労働事案任意交渉事件
 
 労働者自身で使用者と交渉する場合や司法書士等の代理人が交渉する場合があります。違法性の強い使用者の場合はともかく、また労働者と使用者との関係性にもよりますが、通常の会社等の使用者の場合は、司法書士が労働者からの依頼を受任した旨の使用者宛の配達証明書付内容証明郵便受任通知により、交渉が捗り、和解が成立する場合もあります。
 
 
▼労働基準監督署による是正勧告事件等
 
 実労働時間を証明する証拠がある場合、労働者自身が労働基準監督署に相談に行き、労働基準監督署が介入する事により、交渉が捗り、和解が成立する場合もあります。司法書士等に依頼し、労働者の代理人として、また労働者と共に、労働基準監督署の介入を得て事態を解決する事もできます。
 
 
▼労働保全事件
 
 労働者に実労働時間を証明する証拠が無い場合で、法律的手続きの支援が必要な労働者から委任を受けた司法書士が証拠保全申立書の作成等により労働者を法律的に支援し、必要な証拠の収集を行います。
 
 
▼労働審判事件
 
 労働事件における裁判手続きでは、最も多く利用されている方法です。労働審判手続きでは、原則期日は最大3回までで、訴訟に比べ短期間で解決が期待できる利点があります。この労働審判手続きでは、当事者である労働者及び使用者の出席が必要になります。労働審判手続内で、当事者間に解決内容についての合意(調停)が成立すれば、労働審判手続きは終了します。調停が成立しない場合は、労働審判委員会が「労働審判」を出します。双方がこの「労働審判」を受入れれば終了ですが、双方に「異議申立て」の権利が認められており、どちらかが異議を申立てれれば、自動的に訴訟に移行する仕組みになっています。
 
 労働審判委員会では、審判官と有識者である審判員2人が労働者の状況も鑑み、積極的調停を試みますので、和解を前提に使用者と交渉する場合は、一つの方法である思います。
 
 法律手続の支援が必要な労働者からの委任を受けた司法書士が労働審判申立書の作成等により(司法書士の本人訴訟支援)、労働者を法律的に支援し、交渉が出来るだけ有利に進むよう(法律を知らない事により労働者が不利益を受けないよう)権利擁護します。
 
 労働審判事件は、まず会社側等と事前に話合い(交渉)を穏当に行い、任意で和解が出来ない争点(労働者と会社側との意見の相違点)を明らかにした段階で進めた方がいいでしょう。何も事前の交渉が無い状態では、3回というスピード解決には支障が有る場合が多いと考えられる事、また、任意に交渉していく段階で和解になる可能性も有るからです。
 
 
▼労働訴訟事件
 
 労働事件訴訟です。本人が訴訟を提起して(本人訴訟)、会社側と裁判をする方法です。この本人訴訟支援では、司法書士による裁判書類作成等の本人訴訟支援により、依頼者である労働者の法律的支援が可能です。また、訴訟代理人に依頼すれば、依頼者本人は、原告本人尋問(当事者尋問)を除き、原則として期日に出頭する必要はありません。司法書士の場合は、請求額が140万円以内であれば、訴訟代理人として労働者を代理する事が出来ます。
 
 尚、残業代未払い割増賃金)請求で、民事訴訟を利用すると、本来の未払い額の他に、「付加金」の支払いを受けられる可能性があります。付加金とは、労働基準法を遵守しなかった使用者に対して、制裁としての支払いが命じられる金銭の事です。
  
 
 
 法律的請求方法は、労働者がどのような状況にあるかが大きな要素になります。労働者が就業中なのか、既に退職しているのか、既に退職している場合でも、次の仕事は決まっているのか、また、次の就業先で働いているのか等色々な場合があるでしょう。特に、未払い残業代の請求先である使用者の会社で、引続き継続して勤務したいと考えている場合は、法律問題(権利関係)は別として、事実上慎重にならざるを得ないでしょう。
 
 逆に、既に退職しており、次の職場が決まっている場合は、関係修復の機会を探る必要が無いので、思い切ったスタンスで未払い残業代の請求に望めます。
 
 
 
 
■未払い残業代請求事件での執るべき対策
 
 
 
 これまで未払い残業代を請求するために必要な事項について見てきましたが、最後に実際に未払い残業代を請求するための対策をまとめます。
 
 
 
●証拠の保全(確保)
 
 未払い残業代の請求をする上で、大事な事は実労働時間を証明できる証拠があるか、という事です。
 
 その意味では、就業中より、何が起きてもいいように、常日頃から出退勤の時間が分かる記録やその写しを保管しておきましょう。労働事件の特徴として、証拠さえあれば、比較的時間を掛けずに未払い残業代の請求に成功する事ができます。
 
 
 
●消滅時効に要注意
 
 未払い残業代の請求権についての消滅時効は、新労働基準法施行日の2019年(平成31年)4月1日前の賃金請求権の消滅時効では「2年」であり、施行以降「5年」です。
 
 在職期間が長い方の場合、毎月1カ月分ずつ残業代(割増賃金)が時効により消滅してしまっていいる可能性があります。
 
 また、退職後に残業代(割増賃金)を請求すると考えている方の場合であっても、司法書士等の法律専門実務家への相談は退職前の早い時期からしておく事が良いでしょう。
 
 退職後に司法書士等の法律専門実務家を探し始めても、信頼できる司法書士等が見付かるか判りません。更に、司法書士等も事実関係の確認からその事件毎の内容に合った請求方法の調査・検討に時間を要します。
 
 近い将来、残業代(割増賃金)の請求を意図している場合は、出来るだけ早く、余裕を持って行動を起こす事が懸命です。
  
 
 
●残業代(割増賃金)の未払いは法律違反
 
 労働基準法により、残業代(割増賃金)の支払いを怠った場合、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)及び労働基準法第119条第1号(罰則))
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 いかがでしたでしょうか。
 
 
 
 労働事件は、他の法律事件と異なり色々な概念が整理されており、合理的に構成された法制度の下、問題の解決に当たる事が出来ます。
 
 
 
 しかし、その反面、一つひとつの用語に理解が欠かせず、初めは難しく感じる方も少なくないのではないでしょうか。
 
 
 
 割増賃金、つまり残業代は労働者にとって、自身の労働の対価であり、請求して当然の権利です。
 
 
 
 今回のニュースレターを参考にして頂き、この機会に支払って貰っていない残業代がありましら、是非、法律的対処を検討していて下さい。
 
 
 
 残業代の請求には、消滅時効が有ります。退職されている方でしたら直ぐに、現在も就業さている方でしたら出来るだけ早く残業代についての法律的知識を勉強して頂き、その請求を検討する必要があります。
 
 
 
 今回のニュースレターで取上げたケースの他にも色々なケースも有りますので、疑問点が有りましたら、労働事件を専門分野又は取扱分野としてる法務事務所の司法書士にご相談してみてはいかがでしょうか。
 
 
 
 
   
 
 
 
 
 
 最後は法律的解決しかありません あなたには最後の手段が残っています
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「民事訴訟法務」とは
 
 「民事訴訟法務」とは、訴訟費用が比較的低額で、自身の権利の主張が有用な「本人訴訟支援」を原則に、簡易裁判所における訴訟代理権に基づく「訴訟代理法務」により、依頼者の権利の実現を目的とした法律支援実務です。 
 司法書士の「本人訴訟支援法務」は、「訴訟代理法務」とは異なり、裁判所等に提出する書類作成関係に関しては、取扱う事件に制限は有りません。
 また、簡易裁判所管轄で、訴額が140万円以内であれば、訴訟代理人としての受任も可能です。
 
 
 
「本人訴訟支援法務」「訴訟代理法務」とは
 
 「本人訴訟支援」とは、一般的な法律相談の他、法律専門実務である司法書士が、依頼者の意思決定に基づき、依頼者に代わり、依頼者から事情聴取をしならが裁判所等に提出する訴状や答弁書等の書類作成を中心に、いかに依頼者の権利が正当に判断されなければならないかを権利援護者として、裁判手続等を通して支援する法律上の業務です。そして、司法書士の「本人訴訟支援」は、裁判所等に提出する書類作成に関しては、取扱う事件に制限は有りません。
 「訴訟代理法務」とは、一般的な法律相談の他、簡易裁判所管轄で、訴額140万円以内の事件において、司法書士が依頼者の訴訟代理人として、依頼者と協議をしながら、司法書士自身が主体的に裁判手続きをする民事上における法律上の業務です。
 一般的に、「訴訟代理法務」に比べて「本人訴訟支援法務」の方が、裁判手続に掛かる費用が低額で済み、法律問題の解決を図る事が出来ます。「本人訴訟支援法務」の事件対象は、比較的複雑でない生活関係、家族関係(身分関係)、仕事関係、事故関係、迷惑行為等の不法行為関係といった日常的に生じる法律事件に有効です。
 
 
 
「認定司法書士」とは
 
 「認定司法書士」とは、訴訟代理資格を修得するための特別の研修を修了し、その認定試験に合格した簡裁訴訟代理等関係業務法務大臣認定司法書士の事を言います。民事における法律事件に関する訴訟代理の専門性は公式に認められています。
 
 
 
「簡裁訴訟代理等関係業務」とは
 
 「簡裁訴訟代理等関係業務」とは、簡易裁判所において取扱う事が出来る民事事件(訴訟の目的の価格が140万円以内の事件)についての訴訟代理業務等であり、主な業務は次の通りです。
 
 ①民事訴訟手続き
 ②民事訴訟法上の和解の手続き
 ③民事訴訟法上の支払い督促手続き
 ④民事訴訟法上の訴え提起前における証拠保全手続き
 ⑤民事保全法上の手続き
 ⑥民事調停法上の手続き
 ⑦民事執行上の少額訴訟債権執行手続き
 ⑧民事に関する紛争の相談、仲裁手続き、裁判外の和解手続き
 
 
 
 
 
 
 
(2022年5月2日(月) リリース)