【ニュースレター 2021 ➊ 不動産登記法務】
売主(債務者)の味方!
任 意 売 却
入 門
- 住宅ローン延滞の競売回避策 任意売却事件とは -
ニュースレター2021第1回不動産登記法務は、売主の味方、住宅ローン延滞の競売回避策 不動産任意売却事件についての入門編です。差押えによる不動産強制競売を避け、売主のイニシアチブで住宅ローン延滞による不動産強制競売を回避する本人と家族のための有効策、それが不動産任意売却です。
「任意売却」という用語は聞いた事がある方も多いと思いますが、その意義についてはハッキリ解らない方も少なくないのではないしょうか。
今回は、不動産任意売却(通称「任意売却」といいます。)とはどのような手続きなのか、そして、何より誰のための手続きで、他の手続きとは何が違うのか、更に、任意売却が近年、注目されている理由について、その要説を概説していきます。
特に、現在、住宅ローンの返済が困難となっている方は、是非、ご覧下さい。
■任意売却事件とは
●任意売却の目的
住宅ローンの延滞において、債務者の過酷な状況をより増幅させる不動産強制競売に至る前に又は不動産強制競売期間のある時点までに、債務者である売主の利益保護を最優先で図る事により、債権者の最大限の権利保護に寄与すると共に、債務者が次の新しい生活に強力に踏み出せる環境を形成する事を目的としています。
●任意売却の本質
「任意売却」は、住宅ローンの支払いが困難となっている債務者の不動産を任意に売却する事によって、住宅ローン等を借入れた債権者に対し債務全額の弁済をせず、債務者に借入れ債務(以下「債務」といいます。)が残る方法の売却をいいます。
住宅ローン延滞が前提となっている困難な状況にある債務者やそのご家族は、現在の生活を防衛する事が先決です。現在の生活を防衛するためには、住み続けた家の処分方法が大きな問題となって行く手を阻みます。
この家にいつまで住み続けられるのか? 不動産強制競売で強制的に退去させられる日はいつなのか? 家族、特に小さな子供にとって、強制競売が心の傷として残ってしまわないか? 家が強制競売された後の自身や家族はどうなるのか? といった事が精神構造に影響を及ぼし、債務の支払いの督促やその支払い、生活費の捻出と共に身動きが付かない状況に陥ってしまいます。
「任意売却」とは、「任意」に不動産を「売却」するという意味です。任意とは「本人の意に任せる」という意味で、売主自身がイニシアチブを取って、この困難な状況を打開する方法という意味です。
不動産任意売却の世界において、「任意」の対義語は「強制」です。つまり、不動産強制競売という裁判所が主体となって主宰する不動産の売却方法ではなく、その不動産の所有者が自身の計画した方法で自身の不動産を売却するところにその本質があります。
因みに、一般的な不動産売買は、強いて表現するならば「通常売買」、「通常売却」といってもいいでしょう。
一般的な不動産売買、つまり通常売却は、その売却代金を資本にして更に次に住む住宅を購入したり、事業や生活に活かすために行う事が殆どですが、任意売却は、住宅ローンの支払いが困難となっている債務者が、不動産を売却する事により、債務が完済されず、依然として債務の支払いが継続するところに違いがあります。
従って、誰でも任意売却ができるのではなく、住宅ローンの支払いが困難になっていない人は、いくら住宅ローンの支払いが厳しくても任意売却はできません。この場合は、通常の不動産売買により自身の不動産を通常売却する方法になります。
不動産任意売却とは
不動産強制競売のように裁判所が介入する強制的な売却ではなく
売主本人がイニシアチブを持って不動産を売却する
売主本人(債務者)と家族を守るためにする積極的な経済再建策
●任意売却の意義
任意売却は、近年需要が増加しています。しかし、任意売却という方法は、不動産業界で自律的に開発された手法であり、法制度としての手続きではありません。そのため、債務者から金銭を騙し取る等、一部の悪徳業者により、任意売却業務全体が裁判所や債権者から不信感を抱かれてしまっている状況は否めない事実でしょう。
任意売却を効果的に行うためには、任意売却の目的と本質を正しく理解し、任意売却スキーム全体を成功に導く構造が必要です。そして、その核心は、債務者であり不動産の売主の利益保護にあります。何故なら、このスキームは、売主がイニシアチブを取り、債務者自身の利益保護を最優先に考え、そのスキームの中で債務者の救済と債権者の利益を最大限にする事を図ると共に、最終的に債務者の明日への経済的再建に資するようにするために実施するからです。
通常の不動産売却において、宅地建物取引士の主な役割は買主の利益保護です。重要項説明書は買主のために作成されます。しかし、任意売却の目的は、買主の利益を侵害せずに、債務者(売主)の利益保護を最優先にし、利害関係者である債権者の利益を最大限にする事を目指します。
勿論、任意売却は通常売却と同じ売買契約によって不動産取引きがなされますので、買主側の不動産仲介業者によっても不動産売買契約書は精査され、宅地建物取引士によって重要事項は買主に説明されます。但し、通常売却との違いは、買主に本件不動産取引きが任意売却である事を説明する事が付加されます。
この構造により、売主は任意売却により、買主は宅地建物取引士により、更に債権者は任意売却の中で全体としてその利益が守られ、最大化する事ができます。
ここで、売主に対する利益保護の観点からは、単に任意売却を選択するだけでなく、現実的に利益を守る事ができる任意売却を専門分野又は取扱分野としている不動産仲介業者が不動産売買の仲介をすると同時に、公正な不動産取引きを担保するための任意売却を専門分野又は取扱分野としてる法務事務所の司法書士が必要になるでしょう。
弁護士は、債務者と債権者等との法律的な交渉を行います。弁護士は一般的に、債務者と債権者とが債権債務の存在の有無やその額について争いがある場合、また債権者が任意売却に強く反対している場合、債務者が不動産からの立退きを拒否しているような場合に、その法律的紛争を解決するために関与します。この任意売却自体は、売主自身、買主そして債権者が協議により、同じ方向で合意を目指す方法になりますので、必ずしも関係者に法律的紛争が存在しているわけでは有りませんが、法律的紛争が潜在しているような事態に至った場合に備えて、弁護士が任意売却に関与する場合があります。
司法書士は、不動産登記法務の専門家です。そして、司法書士は、公正な不動産取引きを通して、売主、買主の権利を擁護する法律専門実務家です。任意売却を専門分野又な取扱分野としている司法書士の役割は、売主、買主、更には債権者の権利を中立、公正、独立の立場で擁護する法律専門実務家として、任意売却に関与します。この事により、売主、買主、そして債権者の権利が擁護され、公正な不動産取引きを実現する事ができます。
この中立、公正、独立の司法書士の職責を担保するため、司法書士の選定及び委任は、債務者(売主)及び買主の方自身が行はわなければなりません。関係者又は誰かの紹介で会った事もない司法書士に委任する事は避ける事が賢明です。司法書士は、任意売却の関係者ではなく、あくまでも委任された契約当事者の不動産登記法務の専門家である代理人として、依頼者の事を第一に考え、法律問題を解決します。
また、この他に、不動産仲介業者が任意売却について経験が少ない場合でも、任意売却業務に精通した知識を客観的に認められた民間資格者である任意売却取扱主任者が、関与する事により不動産仲介業者の任意売却業務を補完する事も期待されます。
●任意売却の関係者
住宅ローン延滞を前提とする任意売却では、当然の事ながら通常売却よりも多くの関係者が存在します。関係者には、次のように債権者が複数存在するところに任意売却の特殊性があります。
<任意売却の関係者>
※太字は一般的な関係者を示します。
※任意売却事件では、任意売却事件を取扱う不動産仲介業者の宅地建物取引士の中には任意売却取扱主任者資格を有する人も多く、また任意売却事件を専門分野としている司法書士も任意売却取扱主任者資格を有して、特有の専門知識と経験を基に、各々専門家として関与する事件も増加しています。
▼売主(債務者本人)
▼売主側不動産仲介業者及び宅地建物取引士(兼任意売却取扱主任者)
▼買主
▼買主側不動産仲介業者及び宅地建物取引士
▼債権者(一般的には1社から3社程度)
▼任意売却取扱主任者
▼弁護士
▼司法書士(兼任意売却取扱主任者)
●任意売却を有効化する真相
任意売却は、その性質上、債務者に債務が残ってしまう売却方法です。債権者としては、貸した債務は全額、利子を付けて返済して欲しいと考えるのが普通です。
しかし、任意売却では不動産を売却したとしても住宅ローンは残ってしまいます。この事を踏まえると債務者である売主のイニシアチブで不動産は売却できないのではないか? 債権者の同意は得られないのではないか? といった素朴な疑問があります。
しかし、そうではありません。債権者は積極的に協力するところが多くあります。それは、「任意」と「強制」の違いです。不動産強制競売では、裁判所という不動産売買の専門家がその知識や経験に基づいて不動産の売却をするのではなく、法律の規定に従って、公正に売却する事を主眼にして裁判所の裁判官を初め、担当書記官及び担当執行官が執行する制度です。この不動産強制競売では、積極的な広告活動やセールスは行われませんので、折角価値のある不動産も相場より低額で売却されてしまう事が一般的です。買受人も、通常売買のように目的不動産の詳細な情報を不動産仲介業者から提供される事もなく、場合によっては買った不動産に他人が占有しているような事も無いとはいえません。
つまり、債権者は目的不動産が不動産強制競売より高額で売却できれば、債権の回収には文句をいう必要もないのです。そのため、多くの債権者は任意売却に積極的に関与します。この事により、債務者である売主は金銭面で多くの恩恵を得る事ができるのです。
●債務者にとっての任意売却の利益と強制競売の欠点
▼任意売却の利点
〇通常売却と同じなので、市場価格に近い価格で不動産を売却でき、強制競売での売却基準価格を下回る可能性は極めて低いため、債務(借入れ)残高をできるだけ多く減らす事ができます。
〇任意売却は、売却代金の中から引越し等に係る費用の一部を控除する事ができる可能性が高いです。そのため、費用の自己負担を抑制できる可能性があります。
〇任意売却は、通常売却と同じ不動産売却方法なので、経済状況を近隣に知られずに済みます。
〇任意売却の契約時期や引越し時期等の希望について、債権者等に相談する事ができます。
〇任意売却後、残った債務残高の返済方法の希望について、債権者に相談する事ができます。
▼強制競売の欠点
〇市場価格に近い価格で売却できる保証はなく、一般的に一部の人気地域以外は市場価格を下回る可能性が高いといえるでしょう。
〇落札者から引越しに掛かる費用を負担して貰えない可能性が高く、その場合は引越費用は自己負担で用意しなければなりません。
〇競売申立費用(数十万以上)や遅延損害金(年率15%前後)が債務残高に加算されてしまいます。
〇裁判所で広告(公開)されてしまうので、近隣に自宅が競売に掛けられている事が知れ渡ってしまう可能性があります。
〇売却日は、裁判所が強制的に決めてしまいます。引越し時期は落札決定から約1カ月以内が一般的で、それまでに引越せない場合は明渡しの強制執行になってしまう可能性があります。
●任意売却と期限の利益の喪失
任意売却は、通常、期限の利益の喪失がされた債権に対して行います。
期限の利益とは、債務を将来のある時点までの分割で返済する事ができる債務者の利益をいいます。一般的に住宅ローンを3カ月から6カ月延滞した場合、当初の住宅ローン契約でされた分割返済での合意が消滅し、債務者が一括返済をしなければならない不利益を期限の利益の喪失といいます。
■任意売却の手続き
●任意売却の大きなポイント
▼債務者からの相談
任意売却は、不動産所有者である債務者が住宅ローンの返済に困窮したときから始まります。具体的には、債務者が住宅ローンの支払いを延滞した段階からです。そして、債務者が継続的に住宅ローンの支払いができない状況に陥った事が要件になります。
住宅ローンの場合、3カ月から6カ月で住宅ローンの分割返済による支払方法が無効となります。そして、債務者に代わり、住宅ローンの保証会社又は債権回収会社が銀行等の債権者に残債務を代位弁済し、債務者の債権者が銀行等からその保証会社又は債権回収会社に変わります。
保証会社又は債権回収会社は、債権回収のため、債務者に対し督促状や催告書を郵送し、債務の返済を請求します。この期間を過ぎると不動産の強制競売を申立て、債権の回収に執りかかります。このままでは、不動産が強制競売になりますので、任意売却を検討し始めなければなりません。実際の場合は、住宅ローンの延滞が始まった段階よりも少し早い困窮状態で、任意売却を検討する事が賢明です。
任意売却の手続きでは、任意売却に精通している不動産仲介業者(宅地建物取引士兼任意売却取扱主任者)や任意売却を専門分野又は取扱分野としている司法書士(兼任意売却取扱主任者)が、債務者からの相談を端緒として任意売却事案を覚知します。
ここでポイントなのは、この任意売却は不動産の売買契約に基づく売却ですが、実は売主の方の債務整理の一環という事です。売主の方は、自宅を売却して自身の問題が終了するわけではありません。任意売却を専門分野にしている仲介業者は、任意売却自体には精通していますが、債務整理の専門家ではなりません。従って、この任意売却を単なる不動産の売却と捉えるのではなく、最終目的の経済的再建を果たすための戦術の一つと考えて、戦略的目標である自身の経済的再建を最終目的とするべきです。そのためには、まず任意売却及び債務整理を専門分野又は取扱分野としてる法務事務所の司法書士にご相談して頂く事が賢明です。司法書士は、不動産登記法務の専門家であり、法律問題全般を扱う身近な暮らしの中の法律専門実務家なのです。
ここからは司法書士による手続として記載します。
▼相談者からの事情聴取
まず最初にしなければならない事は、相談事案の事実確認です。残債務はどの程度なのか、債権者は何人なのか、現在の債務者の収入はどうなのか、債務者の気持ち(意思)はどのようなものなのか等を確認するところから始まります。
▼相談者の問題に対する解決のための方針決定
そして、任意売却が有効と判断した場合、大きな方針を立てます。1つは、任意売却後の残債務の返済方法、もう一つは、自己破産(以下「個人破産」といいます。)をするかです。
残債務の返済の場合、債権者との再建計画の協議になります。債務整理の場合は、3年以内、例外として5年を超えない範囲での返済計画の策定が望ましいです。しかし、住宅ローンの場合、残財務は通常の額ではない場合も多いので、返済計画も5年を超える場合も想定されます。但し、この場合でも最長は7年となるでしょう。何故なら、7年以上を掛けて債務を返済する場合、相当程度の期間に亘り債務の支払いに窮する生活が待っている事と、何より任意売却を選んで生活の再スターとを切る目的が没却されてしまう事、仮に任意売却直後に個人破産を選択した場合、7年で再度の個人破産が法律上は可能になるにも拘らず(法律上は一般人と同じ復権がなされたにも拘らず)、返済を続けた場合、依然として過去の債務の返済と共に長期間生活をする事に実際としてあまり意味をなさないからです。
住宅ローンの個人破産の場合、一般的ですが、10年で金融事故情報歴が抹消され、新たな住宅ローンが組めるようになります。それに対し、返済する場合は、完済して、更に10年を経過しなければ新たな住宅ローンが組めないだけでなく、完済後5年経過しなけらばクレジットカードすら作成できない状況になってしまいます。
住宅ローンが原因の場合、通常の債務整理の考え方ではなく、積極的に個人破産を選択する事が債務者やその家族にとって有効であると言えるでしょう。個人破産の正しい理解が必要になる局面です。個人破産は究極的な個人経済再建策なのです。
個人破産については、当事務所HPのニュースレターで個人経済再建法務として取上げていますので、是非ご覧下さい。
今回のニュースレターは、個人破産前の任意売却に焦点を当てて更に概説を続けます。
▼司法書士が任意売却の法律顧問として受任
相談者からの事情聴取後、任意売却を相談者が選択し、司法書士もその選択に妥当性があると判断した場合、相談者から手続きの委任があれば、本件を事件化し、司法書士は法律顧問としてこの案件を受任します。
▼司法書士による任意売却取扱不動産仲介業者の紹介
司法書士は、相談者からの事情聴取を踏まえ、本件に適した不動産仲介業者を依頼者に紹介します。
▼売主と関係者で協議
売主を中心に、不動産仲介業者の担当者及び宅地建物取引士(兼任意売却取扱主任者)そして司法書士(兼任意売却取扱主任者)で、情報の共有と今後の任意売却の計画について協議します。この際、本件が任意売却である事を踏まえ、買主の権利の擁護及び保証会社等の債権者への最大限の利益保護は基礎的内容となります。
▼任意売却の準備
売主と関係者との協議や司法書士からの助言を踏まえ、売主は、保証会社等に対し任意売却の希望を申出、同意を求めるための協議を開始し、不動産仲介業者は任意売却のための準備に入ります。
▼任意売却の着手
保証会社等との協議が調い、同意が得られたら実際の任意売却に着手します。
▼任意売却成立
任意売却により不動産を売却します。
▼買主名義に抵当権抹消及び所有権移転を完了
保証会社名義の抵当権移転登記を抹消し、買主名義にする所有権移転登記を申請します。
▼任意売却終了
任意売却自体は、基本的に通常の不動産売買と同じです。売主は、不動産強制競売より恩恵のある任意売却により、引越しを完了し、家族と共に戦略目標である経済的再建のため次の債務整理手続きへフェーズを移します。
●任意売却での控除項目
任意売却では、不動産強制競売と異なり、不動産の売買代金から任意売却で不動産を売却するに際し、必要経費や必要経費に準ずる費用を予め控除する事ができます。この事により、債務者(売主)の金銭的負担が大幅に軽減されます。任意売却での売買価格から控除できる費用は債権者によって違いますが、基本的には次の通りです。尚、引越費用の控除額は、引越費用全額ではなく約20万円から30万円が通常です。引越費用の一部控除は、本来、債務者が債権者に弁済しなければならない不動産売買代金から債権者の好意でなされるもののため、債務者はその事を正確に理解する必要があります。一部インターネット上での虚偽情報には注意して下さい。
〇抵当権抹消登記費用
※買主名義への所有権移転登記や買主と金融機関との間で締結した抵当権設定登記費用は買主負担であり、そもそも控除の問題とは関係ありません。
〇後順位債権者の抵当権抹消費用(担保権抹消承諾費用)
〇マンション管理費用
〇マンション修繕費用
〇引越費用(上限有り)
〇リフォーム費用及びハウスクリーニング費用(販売促進費用として認められない場合もあります。)
〇不動産仲介手数料
●任意売却と連帯保証人
任意売却は、売主の経済的再建が戦略目標であり、債務整理前の準備段階であって、そもそも債務の完済スキームではありません。任意売却の中では、債権者が債権額以下の弁済で担保権の抹消に応じただけです。従って、任意売却後も残債務がある場合は、時効を除き、支払いを求められます。債務者に連帯保証人がある場合、任意売却による残債務については、その連帯保証人に請求される場合があります。法律上、請求の局面では連帯保証人と債務者本人は同じ立場と理解して下さい。
任意売却手続きの継続中、債務者本人だけでなく連帯保証人に対しても同時に債務の支払いを請求してくる債権者や連帯保証人の自宅に抵当権の設定を要求してくる債権者がいる場合が想定されます。任意売却は、売主やその家族の権利擁護が目的です。任意売却における債務者の権利が正当に守られていない場合は、直ぐに任意売却の関係者でる司法書士や仲介業者に伝えて下さい。
尚、任意売却の際、債権者から残債務の請求をされる関係者は、連帯保証人や連帯債務者です。生計を一緒にする家族であっても、法律上、金銭的責任を負う事はありませんのでご安心下さい。但し、債務者がお亡くなりになった場合は、相続の問題になりますので、債務を残したまま死亡し、妻や子供が債務者の資産及び債務について相続したとき、又は原則死亡後3カ月以内に相続放棄の手続きを行わなかったときは、その相続人である妻や子供が債務を負う事があります。
●任意売却の手続きの流れ
▼債務者の住宅ローンの支払い滞納開始
↓ ※約3カ月から6カ月経過
▼期限の利益喪失
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▼保証会社又は債権回収会社による代位弁済
※基本的に期限の利益喪失後代位弁済完了までは任意売却の着手はできません。しかし、売主(債務者)としては、住宅ローン返済に窮している事が一般的なので、任意売却も視野に入れた早い段階から手続きや相談先の確認や不明点についての調査をする事が賢明です。
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▼代位弁済後、債務者本人等から任意売却の申出
※代位弁済後、債権者(代位弁済をした保証会社又は債権回収会社)へ任意売却の申出の意思を債務者本人又は司法書士や不動産仲介会社(任意売却取扱主任者)が債務者本人に代行して通知します。但し、司法書士や不動産仲介会社が通知をしても本人との直接の意思確認が必要になります。)
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▼保証会社等の任意売却に対する同意
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▼債権者(保証会社又は債権回収会社)から申出書の様式を取寄せ
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▼不動産仲介会社等が任意売却に要する書類の作成を代行し提出
※関係書類には、価格査定書、室内外の写真、住宅地図等があります。
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▼債権者から売出価格の通知が到着
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▼不動産仲介会社にて販売活動開始
※不動産機構(レインズ)、自社のホームページ等に登録し、販売促進。
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▼不動産仲介会社が債権者に対し、販売活動を報告
※毎月1回提出します。需要が低く、反響が悪い場合は値下交渉をします。
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▼買主の申込み
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▼不動産仲介会社は債権者に対し、買付証明書(購入申込書)及び配分案を提出
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▼全債権者承諾後、不動産仲介会社が不動産売買契約書を作成
※任意売却には、住宅ローン自体の債権者の他、後順位抵当権を有する債権者等がおり、不動産売買契約を成立させるためには、全債権者の承諾が必要不可欠です。
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▼不動産任意売却関係書類を各債権者に提出
※任意売却関係書類には、代金決済予定日報告書、控除費用明細書、売買契約書、通称「エビデンス」という各債権者の残高証明書、抹消費用見積書、引越費用見積書、賃貸契約見積書等があります。
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▼債務者(売主)が引越し完了
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▼不動産決済日
※「決済」とは、不動産取引きにおいて、不動産売買代金の残金の決済をし、債務を払い、担保権を抹消し、売主名義から買主名義にする所有権移転登記申請情報や買主のための抵当権設定登記申請情報に添付する情報の取付けを行う不動産業界用語です。
※任意売却の不動産残代金決済当日は、原則、債務者(所有者である売主)、買主、全債権者、不動産仲介業者、司法書士等が一堂に会します。
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▼公正な不動産取引きを担保するための司法書士の決済立会い
※売主は、不動産の権利証等所有権移転登記申請に必要な重要書類を引渡し、買主は、不動産売買代金の残代金の支払いを準備をします。司法書士がこの取引が公正にされるよう売主及び買主に対する登記申請の意思確認をし、登記申請情報及びその添付情報に基づき真正性を確認した後、残代金の支払いや融資の実行を宣言します。この司法書士の決済の立会い業務により、売主、買主、金融機関等の債権者の権利が擁護されます。
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▼不動産決済終了
※不動産仲介会社は、売買契約書原本確認の他にエビデンス等も提出します。
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▼司法書士による登記の申請
※司法書士による債権者の抵当権の抹消登記、買主名義への所有権移転登記、金融機関のための抵当権設定登記の申請をします。
↓
▼任意売却完了
この後、債務者は、残債務の支払い計画を策定し、支払いを継続するか、個人破産のための手続きに入ります。
▼任意売却と債務者の生活再建
そもそも任意売却をする理由は、現在の債務の支払いが困難な状況を脱するためです。
この目的からすると、債務者の最終的な理想は、債務の無いゼロからのスタートの実現にあります。
そのため、任意売却を検討する際は、最終的に自身や家族が経済的再スタートを切れるような戦略的なスキームを構築しておく事が必要であり、何より重要です。
残債務が支払可能なのか、リスケージュルは策定できるのか、個人破産の場合、どのような方法で任意売却を行えば、自身にとって最も良い状況を形成する事ができるのか、といった戦略的思考は欠かせません。
個人破産を採用するにしても、個人破産手続きについての知識が必要です。
このように「任意売却」は、単に不動産売買だけの知識や経験では不十分であり、債務整理といった大きな枠組みでの横断的な専門知識と経験が必要になります。
いかがでしたでしょうか。
任意売却は、単に不動産売買の亜流ではないという事をご理解頂けましたでしょうか。誰にでもできる事ではなく、任意売却の正確な意義を理解し、その専門知識と経験が必要不可欠であり、何より売主の権利擁護という本来の制度趣旨を心得ている事が何より大事です。
本当の専門実務家とは、1つの専門的知識だけを排他的に披露するのではなく、その分野での横断的な専門知識と経験を持ち、現実的な問題解決能力のある者をいいます。
住宅ローンでお困りの方は、任意売却を専門分野又は取扱分野としている法務事務所の司法書士にご相談下さい。
司法書士の助言があなたを守ります = ESCROW AGENT
自分自身を守るため 司法書士はあなた自身で選ばなければなりません
※司法書士は不動産登記法務の専門家です。そして司法書士は公正な不動産取引きを通して、依頼者の権利を擁護する法律専門実務家です。
(2021年5月6日(木) リリース)
