【REVIEW2021 ❼ 社会】
新型コロナウイルス感染症問題
トリアージ <後編>
― 真心(まごころ)を救命に -
■新型コロナウイルス感染症感染状況
<国内感染状況>
※YAHOO! JAPAN HP掲載
※2021年1月22日 23時45分更新分
データ提供:JX通信社/FASTALERT
●感染者数 357,096人
●新規感染者数 5,043人(前日比-613人)
●死亡者数 4,980人(前日比+108人)
<世界の感染状況>
※YAHOO! JAPAN HP掲載
※2021年1月22日10時00分更新分
※2021年1月21日現在WHO発表
米国ジョンズ・ホプキンズ大学のシステム科学工学センター
(CSSE:Center for Systems Science and Engineerring)
●感染者数 95,612,831人
●新規感染者数 610,413人(前日比+91,604)
●死亡者数 2,066,176人(前日比+14,569)
<東京都検査陽性患者の状況>
※東京都HP掲載
※2021年1月22日20時00分更新分 東京都
※チャーター機帰国者、クルーズ船乗客等は含まれていない。
※「重症」は、人工呼吸器管理(ECMOを含む)が必要な患者数を計上。
●陽性者数(累計) 91,834人
●入院者数 2,746人
▼重症者数 158人
▼軽症・中等症者数 2,588人
●宿泊療養者数 873人
●自宅療養者数 8,814人
●入院・療養等調整中者数 6,276人
●死亡者数(累計) 770人
「今は 『トリアージ』をすべき時
悪いけど 高齢者は後回し
生存確率が高く 回復力が強い そして平均余命がより長い
若年層を優先しなければ
おかしい!」
「高齢者の命の価値は軽くて当たり前」
「高齢者は予後が悪いって判ってるし
医療リソースが逼迫してるんだから当然!」
トリアージとは、災害時に多数の傷病者が同時に発生した場合、傷病者の緊急度や重症度に応じて適切な処置や搬送を行うために、傷病者に治療優先順位を決める事を言います。ある意味、死亡確認に近い判断がなされますので、非常に重大で繊細な仕事になります。最大の目標は、「助けられる命を全員助ける」です。
トリアージの最大の目的は
助けられる命を全員助ける事
医療上で言われる「トリアージ」とは、「負傷者選別」と言う意味です。語源は「選別」を意味するフランス語のトリアージュ(triage)から来ているとする説が有力と言われています。
「トリアージ」とは 「負傷者選別」の事
トリアージには、トリアージタグが用いられます。トリアージタグは、4種類の色で分類されたタグで、各々次のような意味があります。
●赤タグ
最優先の症例で緊急治療もしくは直ちに病院搬送が望ましい状態となります。生命の危機的状態にある症例で、気道閉塞または呼吸困難、重症熱傷、心外傷、大出血または止血困難、解放性胸部外傷、ショック等がこの病態になります。
●黄タグ
優先度第2位の状態で、赤タッグの対応が終了次第治療にあたる病態となります。2~3時間処置を遅らせても悪化しないと考えられる疾患で、熱傷、多発又は大骨折・開放骨折、脊髄損傷、意識のある頭部外傷等になります。通常なら優先的に治療されてもおかしくない疾患ですが、災害時は赤タッグが優先になります。
●緑タグ
優先度が低い状態で、軽症で医師以外でも手当てができると考えられる疾患です。小骨折、外傷、小範囲熱傷、(体表面積の10%以内、気道熱傷無し)などで、鎮痛剤や湿布、添え木での固定、消毒などを行います。歩行できる方は、間違いなくここに分類され事になります。
●黒タグ
死亡もしくは回復の見込みがない状態です。死亡診断と同等の判断になりますので、慎重に丁寧に判断することになります。呼吸をしていない、脈が触れない等生命兆候のない症例です。平時なら時間をかけて心肺蘇生術を行い、救命を目指します。災害時は最低限の処置しかしない事になりますが、これが災害時の在り方となります。
昨年末、報道番組で、関東のある医科大学付属医療センターの責任者が、「75歳以上は後期高齢者であり、人工呼吸器の使用は、ご家族と話合い、同意を得て、当センターでは人工呼吸器の使用をしない取扱をしている。」と言う趣旨の話を何かの正義感と共に苦渋の思いで語っていました。
信頼している医師から、ある日突然このような申出がされたご家族は、大変なショックであり、傷付いた心情は計り知れません。愛する親族の死を無理やり選択させられた人の心の傷は、一生消える事はないでしょう。
応召義務
医師には、法律上の応召義務、すなわち、医師の職にある者が診療行為を求められたときに、正当な事由が無い限りこれを拒んではならないとする法令で定められた公法上の義務があります。
そして、「正当な事由」ですが、何が「正当な事由」であるかは、それぞれの具体的な場合において社会通念上 健全と認められる道徳的な判断によるべきものと解されています。 (昭和24年9月10日付医発第752号厚生省医務局長通知)
更に、この「正当な事由」とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られると解されています。(昭和30年8月12日付医収第755号長野県衛生部長あて厚生省医務局医務課長回答)
また、そもそも我国は、国民が国民皆保険制度によって医療を支え、国民にその医療を提供するシステムを構築しています。医師や病院は、国民一人ひとりが支えているこの国民皆保険制度に基づき成立しているのです。
現在、新型コロナウイルス感染症の猛威で、緊急事態宣言が11都府県に発出されており、それに先立ち、日本医師会会長は事実上の医療崩壊を宣言しました。
このような中、病院や医師は感染急拡大に伴う新型コロナウイルス感染症患者の急増に医療の逼迫した状態にあり、例えば、東京都の自宅療養者及び入院・宿泊療養等調整者は合計で16,000人を大幅に超えています。
医師は、医学の基礎知識を備え、その各々の専門分野で更なる医学の知識と経験を蓄えたスペシャリストです。しかし、医師は全知全能の神ではありません。そして、医師の中には、医学的な知識だけを優先してきた臨床医もいるでしょう。そのような「人間」は、時として人の命までも自由に取扱えると曲解してしまう事も有得ます。
そしてその独善的な正義感は、高齢者より若者、身障者より健常者と、あの旧優生保護法が意図した優生思想に近似していきます。
優生思想に近似
しかし、医師は人間であり、神ではありません。人の命の選別は人間にはできないのです。医師は、医学や臨床医療の世界では専門性がありますが、その他の分野では一般人と同じです。もっと謙虚な姿勢が必要なのです。
医師は人間であり 神ではない
人間には 命の選別はできない
「トリアージ」とは、「負傷者選別」であり、「命の選別」ではありません。本来的にいうこの「トリアージ」という用語を「命の選別」と訳したり、意義としたりする著作物は世界に無いのではないでしょうか。「トリアージ」に基づき、この新型コロナウイルス感染症の特徴を鑑みると、まず重症化しやすい高齢者から治療する事が正しい判断となります。
トリアージ
それは まず
重症化し易い高齢者から治療する事が
正しい判断
そして、医師は目の前にいる患者を治療するために全力を上げなければならないのです。それが、医師の使命です。つまり、後から来るかもしれない患者のために、今、目の前にいる患者の命を犠牲にする事があってはならないという事です。
例えば、75歳の新型コロナウイルス感染症患者が重症化し、人工呼吸器の装着が必要になったとします。しかし、ある医療センターで勤務している医師で、この重症化した75歳の患者の主治医は、この患者に人工呼吸器を装着する事を拒否しました。その理由は、この患者が75歳であり、後期高齢者で、もう何年も生きる事が期待できない事、更に、患者の家族に同意を取っているからと考えたからです。そして、今ある人工呼吸器を次に救急搬送されるかもしれない10代の若者に使う事の方が余程合理的であり、医学の果たす道だと考えたとしましょう。
この結果、75歳の患者は亡くなりました。そして、想定したとおり、30歳代の若者が救急搬送され、呼吸困難な状態にあります。この医師は、自分が考えた通り、人工呼吸器を装着させ、何とか回復し、命を取留めました。医師は喜び、退院の日に玄関まで見送りに来てくれました。
さて、この医師の判断は適切であったでしょうか? 人間は神ではありません。一見、この医師が考えた事が功を奏したように人間には見えますが、果たしてそうでしょうか?
無事退院したこの30歳代の若者は、翌年交通事故で死にました。ところが、あの75歳の高齢者が100歳まで生きたとしたら、どちらの命を助けた方が良かったのでしょうか?
つまり、医師は医師の使命を全身全霊を持って果たす事そのものに意義があります。全てを知っている神ではないのです。
更に、この医療センターの亡くなった75歳の患者の医師は、高齢者に対する人工呼吸器の装着を辞退させる方法として、患者の家族の同意を得たと考えていました。しかし、この同意に問題があるのです。医師は医学の専門家であり、その他は一般人と同じです。
法律的に見ると、まず病院は病を治療するところであり、医師は患者を治す事にその使命があります。つまり、患者の家族は、この趣旨とは真逆の申出をある日突然されたのであり、しかも密室で、誰にも頼れない状況下に置かれたと想定できます。
重症の患者の家族は、精神的にも弱っており、頼りにしていた医師からのこのような突然の申出に酷く困惑した事は想像に難くありません。人の命に直接関わりのある決断を迫るシチュエーションとしては有り得ず、このような状況下でされた家族の同意は、法律的には無効とされる可能性が高いと考えます。例え、この密室で提示された書面に患者の家族が署名しようとも関係ありません。
そして、この医師の執った行動は、当然のことながら医師の本来の使命に反する行為であり、診療関係では債務不履行が、事実関係では不法行為が成立する可能性が極めて高いと言っていいでしょう。勿論、医師法上、医師免許に対する行政処分の対象ともなり得ます。更に付加えれば、故意に人工呼吸器の装着をしなかったので、殺人罪の容疑も掛かると考えます。
現在、非常に大きな病院でも医師の独善的な思い込みによる治療の放棄の事実が囁かれています。患者のご家族は、突然される死刑宣告に似た医師からの申出に対し、落ち着いて対処する必要があります。
そして、本来の趣旨とは違う想定外の申出がされた時は、必ず患者側からの依頼による法律専門実務家の予防法務を専門分野とする司法書士や弁護士が、人権擁護の観点から立会い、誤解を伴った間違った同意や不本意な同意がされないよう十分気を付ける事が必要です。法律専門実務家の司法書士等は、この密室の会議の前に、必ず、ご家族に対して、患者の権利や医師の使命、義務、責務といった法律的な説明をします。特に、何らかの初めて見る書面には署名をしないようにと助言する事でしょう。
患者のご家族は 突然される死刑宣告に似た医師からの申出に対し
落着いて対処する必要がる
勿論、人間である医師が同じ人間である患者にする突然の死刑宣告のような申出に対しては、きっぱりと断り、人工呼吸器の装着を早急にするように強く求める事に何の躊躇(ためらい)いも必要無い事は言うまでもありません。
患者には 適切な医療を受ける権利がある
尚、不意を突くこのような出来事に対しての立会同席者ですが、司法書士の場合は、登記系や企業法務系、成年後見・信託系ではなく、民事事件系を専門分野としている法務事務所の司法書士に相談する事が必要である事を付加えます。
医師法は、どこの病院でどの医師に診察を受けても、同じ診療がなされるように制定されています。個々の現場で、各々独自の考え方、すなわち独善的な正義感で医療が行われたとしたら、それは受診する病院によって死ぬ運命や生きる運命が決まってしまう結果となってしまいます。法律は、そのようや事態を避け、個々の医師が独善的な判断で、恣意的な医療をしないように予め制定されているのです。
そして、人間には誰でもコップ一杯の人権があります。それは、子供であろうと大人であろうと、若年者であろうと高齢者であろうと、男性であろうと女性であろうと、更には、健常者であろうと精神障がい者や身体障がい者であろうと、みんな全て同じです。
人間には 誰でもコップ一杯の人権がある
それは、みんな誰でも同じ
「トリアージ」とは 「命の選別」ではなく
「負傷者選別」の事
医師の皆さんは、自身に備わっている専門性を遺憾無く発揮して頂き、年齢その他の独善的な判断には関与する事なく、是非、一人でも多くの患者とそのご家族を救って下さい。
真心の救命で
(2021年1月23日(土) リリース)
