ニュースレター2021 ❹ 福祉・相続法務
  
 
 
福 祉 法 務
 
あの制度とは違う!
 
最先端の法技術
 
家 族 民 事 信 託
 
入 門
 
ー 法定後見制度の落とし穴 ー 
  
 
 
 
 
 ニュースレター2021の福祉・相続法務の第4回は、福祉法務である家族民事信託と法定後見制度との比較に焦点を当てた家族民事信託の入門編です。今、何故家族民事信託なのか。何が最先端の法技術なのか。法定後見制度との関係で、家族民事信託のどこが優位なのかについて、その要説を概説します。
 
 現代は、超高齢社会です。そして、この超高齢社会における財産管理は、本人だけの問題ではなく家族をも巻き込んだとても暮らし辛い、生活に支障を来たす大問題として、気が付かないうちに皆さんの前に立ち塞がっているのです。
 
 その正体は、高齢者の「財産凍結問題」という困難な問題です。
 
 一体、長寿社会で、何故問題が起きるのでしょうか?
 
 今回のニュースレターでは、この財産凍結問題とその日常に潜む2つの落とし穴を解説すると共に、福祉法務である家族民事信託という有効な方法を知って頂き、現代の問題をどう切り抜けるかという対策を皆さんと共に考える機会になればと思います。
 
 尚、このニュースレターでは、民事信託に関する様々な用語が出てきますが、民事信託自体の種類や類型に関する名称及びそれに関係する用語は、一般的な用語ではなく、当事務所固有の使い方である事を予めご了承下さい。
 
 
 
 
現代社会は超高齢社会
 
 
 
●現代は超高齢社会
 
 65歳以上の高齢者の占める割合が全人口の7%を超えた社会が「高齢化社会」14%を超えた社会が「高齢社会」21%を超えた社会が「超高齢社会」です。因みに、日本老年学会と日本老年医学会では、65歳から74歳までが準高齢者、90歳以上が超高齢者という名称になっています。
 
 1970年の国勢調査では、65歳以上の高齢者の全人口に占める割合(高齢化率)は7.04%になり日本は高齢化社会に突入しました。その後、1994年の総務省統計局の人口推計によると高齢化率は14%を超え、高齢社会に入りました。そして、2007年には高齢化率は21%を超え、超高齢社会を迎えたのです。
 
 現代は、超高齢社会である事はよく知られています。内閣府の2017年(平成29年)版高齢社会白書によると、2016年10月1日現在の高齢化率は27.3%、高齢者数は3,459万人となっていふとの事です。
 
 現在の認知症高齢者の数は、400万人とも500万人とも言われており、その予備軍は400万人ではないかと推定されています。そして、内閣府の推計では、団塊の世代が75歳以上に達する2025年には、認知症高齢者が700万人になると推計されています。これがいわゆる「2025年問題」です。
 
 
 
現代は超高齢社会
 
2025年には認知症高齢者数は700万人と推計
 
これが「2025年問題」
 
 
 
●超高齢社会の落し穴
 
 長寿社会であるはずの現代社会で、何故問題があるのか? それは、私達の生活と法律との関係性にあります。私達は、普段、コンビニやスーパーで買い物をしたり、ラーメン屋やレストランで食事をしますが、事実上支障は感じません。
 
 ところが、高額のお金が必要になったり、自宅を売却したりする場合は違います。契約の場合、相手方と契約書を交わし、物とお金を交換して、お互いに利益を得ます。高額のお金や財産が契約の対象となった場合、契約当事者にはリスクが伴います。間違ったら、大損害になるからです。従って、契約当事者は必然的に慎重になり、相手方をよく見定めようとするのです。
 
 更に、私達の生活関係には、法律で規定された決まり事があります。高額のお金や財産を契約の対象とする場合、その契約当事者にその契約をする意思があるのか(契約締結自由の原則)、契約の相手方に間違いはないのか(相手方選択自由の原則)、契約内容を正しく理解しているか(契約内容自由の原則)、契約方法に異論はないか(契約方式自由の原則)、といった大事な事が法律上求められるのです。これを私的自治による契約自由の原則といいます。
 
 このように、高額のお金や財産を契約の対象とした場合、契約当事者のリスクと法律の規定によって、その契約当事者は拘束される事になります。契約は相手方がいて成立するものです。例え自分が良いと言っても相手方が承諾しなければ契約は成立しません。
 
 つまり、事実上、日常の買物では、求められない厳格な制約が契約当事者には課される事になるのです。
 
 これは、個人の尊重、つまり自己決定権の尊重という基本的人権から導かれる理念ですが、全て個人は、個人として尊重されるという人権から、その個人の意思決定は尊重されるべきものであるといった考え方です。
 
 しかし、疑問点がここから出てきます。それでは、その個人に意思能力(以下「判断能力」といいます。)が無かった場合、尊重される意思も存在しないため、個人として尊重されないのではないかという疑問です。これは、あくまでも法律上の契約の話で、生命や身体の話ではありませんが、少なくても、契約の相手方は、契約の当事者として選択できない状況になってしまいます。
 
 つまり、判断能力が減退又は喪失した人の法律的行為には厳格な制限が掛かり、必然的に契約ができない状況に陥ってしまうという事です。
 
 これが、超高齢社会での1つ目の落し穴です。本人が元気なうちは、何一つ不自由でない生活を送っていたのに、突然認知症発症により、それまでの生活に支障を来たす事になるのです。
 
 
 
●財産凍結現象と財産凍結問題は
 
 例えば、家の修繕です。自宅に本人のための手摺(てすり)を備付ける事もできなくなる可能性があります。ましてや、自宅の改修や売却等は殆ど不可能でしょう。その本人が、高齢者介護施設に入居する場合も、家族は本人名義の自宅を売却する事ができなくなり、デッドロックに陥る事になってしまいます。
 
 本人名義の預金口座も、金融機関に認知症である事が知れると、その口座は凍結になり、口座取引は一切できなくなってしまいます。
 
 この本人名義の財産が塩漬け状態になる現象がいわゆる「財産凍結」という現象です。
 
 そして、ここから惹き起こされる問題が「財産凍結問題」です。この財産凍結問題とは、本人が元気なうちに本人の了解を得て本人の財産を使用できたのに、本人が認知症を発症し、判断能力が減退又は喪失した後は、本人の意思を確認する事ができないため、本人の財産が凍結状態になり、家族であっても使用する事ができなくなってしまう現象です。
 
 例えば、父親(子供の父親の父親=祖父)が孫のために学用品を買い揃えてあげたいと前から話していた場合、本人(祖父)が認知症になっていますので、その判断ができているかの判定が子供(子供の父親)には付かないため、一切のお金の援助が父親(祖父)から不可能になってしまうという家族が抱える現代の社会問題の事です。
 
 この現象は、現代の社会生活の中で、例外無く一般の家族にもたらされる一種の社会病理現象と言っても過言ではありません。
 
 
 
超高齢社会の病理現象
 
それは
 
「財産凍結問題」
 
 
 
●自己決定権の尊重という人権
 
 何故、我々の社会には、本人に判断能力が必要とされているのでしょうか。それは、この国は自由を最も尊い価値とする個人の尊重の国だからです。
 
 ローマ時代から中世ヨーロッパ、近代そして現代と人間というものに対する価値が進化してきた中で、この考え方は生まれました。そして世界は、君主や国家ではなく、個人が大事であり、人間そのものこそが重要で、人間は存在しているだけで価値があるという人権思想に到達したのです。
 
 個人が尊重されるためには何が必要でしょうか? それは「自由」です。
 
 日本国憲法において、個人の尊重が規定されている有名な憲法第13条の後段には幸福追求権が規定されており、個人が幸福を追求する事を権利として保障しています。自分の幸福は自分で決める事ができる。それを追い求める過程を人権として保障しているのです。
 
 
 
個人の尊重 → 幸福追求権の保障 → 自己決定権の尊重
 
 
 
 ここで、憲法が保障している事は「幸福権」ではないという事です。それは、個人を尊重した場合、その個人は皆違います。憲法は何が幸福なのかはその個人に委ねたのです。また、「幸福」はその個人にとって、人生の過程であり、結果ではありません。もし、結果だけを価値とするならば、人の最後は「死」です。死自体に価値がある事になってしまい、生きるという観念が無駄になってしまいます。人生は、結果ではなく、人生を生きる過程に価値があるのです。「結果」は最後に向合う事実であり、その事実は単に皆同じ価値である「死」でしかないのです。
 
 憲法とは、国家権力を制限して、国民の人権を保障する法と定義できます。そして、その根幹は個人の尊重という考え方です。日本本国憲法には基本的人権の尊重、国民主権(民主主義)、平和主義(戦争放棄)の3つの基本原理(日本国憲法の三大原理)がありますが、この三大原理を支える根本思想こそが個人の尊重なのです。
 
 この理念に基づき、自己決定権の尊重という考え方が個人の権利を支えています。
 
 
 
 
法定後見制度とは
 
 
 
●法定後見制度とは
 
 現在、我が国では、認知症高齢者の方が、法律社会の中でこのような不自由な生活を送る事がないよう、1999年(平成11年)に民法が改正され、成年後見制度(法定後見制度)が創設されました。そして、2000年(平成12年)4月1日に施行されています。このニュースレターでは、任意後見制度との対比から成年後見制度を法定後見制度という表現にする事にします。
 
 また、この法定後見制度とは別に任意後見契約法が1999年(平成11年)に制定され、同じく2000年(平成12年)4月1日から施行されました。
 
 つまり、認知症高齢者の福祉を目的に現在2つの制度が存在している事になります。
 
 一つは、法定後見制度で、もう一つは任意後見制度です。この2つの関係ですが、法定後見制度は法律に従ってその内容が決まるのに対し、任意後見制度は認知症を発症する前の高齢者本人が内容を決める事ができるという制度になっています。この意味から、成年後見制度を「法定後見制度」といい、その法定された制度との対立概念で、「任意後見制度」という言い方で区別もされています。
 
 日本には、「法定後見制度」「任意後見制度」が存在するという事です。
 
 この2つの制度で我が国は来たるべき高齢社会に備えたという事になります。
 
 ここでは、法定後見制度について、その制度趣旨と現在の問題を概説します。
 
 法定後見制度は、認知症高齢者の判断能力の程度によって、補助人、保佐人、成年後見人の3類型の中から、家庭裁判所が選任しますが、現在、成年後見人の選任の類型が一番多くなっています。このニュースレターでは、任意後見制度との区別から、法律の規定に従って選任される成年後見制度を法定後見制度と呼び、その中で選任される3者の中で一番多い成年後見人を代表例に法定後見人という用語で解説していきます。
 
 まず、法定後見制度は、高齢者が認知症になる前に自身でその制度の内容を決定できる任意後見制度と違い、予め法律によって定まっており、その法律の決まりに従って制度を利用していく形態になります。
 
 この形態は、認知症になり本人の判断能力が減退又は喪失した後の高齢者本人の財産を適正に守り、日常生活を支障無く暮らして行けるようにするためのもので、高齢者の家族や親族からの不当な介入による財産の侵害を避け、公正な制度として適切に運用されており、決して高齢者本人やその家族に不利益を与えるものではありません。
 
 しかし、現状、利用率が圧倒的に低く、テレビ番組でも取上げているように、その少ない利用者やその家族からもとても評判が悪い制度になってしまっています。
 
 その理由は、法定後見制度には、判断能力が減退又は喪失した高齢者の代わりに、家庭裁判所が本人や家族の請求により選任する高齢者の財産管理や日常の法律行為をする成年後見人(法定代理人である法定後見人)が就任します。
 
 そして、この法定後見人が、以後本人である高齢者の財産管理及び日常の法律行為を代理して行うのです。人の財産管理や日常の法律行為の代理人であるので、法定後見人には主に法律専門実務家が選任される事が多いです。
 
 この法定後見人が認知症の高齢者の財産管理や日常の法律行為を代理して行ってくれるので、この法定後見制度が機能すれば、高齢者が認知症になった後も支障無く生活ができ、この超高齢社会でも問題無く高齢者の生活が保障される筈でした。
 
 
 
●法定後見制度の落し穴
 
 しかし、現実はそうではなかったのです。まず第一に、高齢者は認知症になった時、高齢者のために家族が家庭裁判所に法定後見制度利用の申立てをしなければなりませんが、それまで家庭裁判所はおろか裁判所自体に行った事が無い家族が、突然、裁判所へ請求をしなければならない事になり、困惑と理解に時間が掛かる事です。
 
 そして、家庭裁判所に法定後見制度の申立てをする場合、家庭裁判所はその高齢者の生活状況を前提に法定後見人(成年後見人等)を選任しますが、この法定後見人に誰を選任するかは家庭裁判所が決めます。つまり、家族がこの法定後見人選任の審判に関与する事ができません。この事は、家族から見れば、今まで家族水入らずで生活してきたのに、突然会った事もない法定後見人という人が現れ、成年被後見人である自分の父親等の財産の管理を始める事になります。それ以後は、家族と言えどもこの法定後見人の承諾がなければ、一切自分の父親のお金を使用する事はできません。
 
 例えば、自宅の改修工事を希望する場合も、以前なら父親や家族の選んだ工務店に工事を依頼すれば良かったですが、法定後見人が付くと、その法定後見人に説明する事実上の義務が生じ、法定後見人が納得しなければ、自宅の修繕工事が不可能になってしまいます。具体的には、3社から4社の工務店に見積りを取り、比較検討した上で、合理的な理由がなければ、住宅の修繕工事をする事ができないといった状況です。
 
 このように、一事が万事、時間と労力が掛かり、このような事が複数回起きた場合は、もはや事実上、自分の父親の財産ですら使用できない状態、「法定後見制度上の財産凍結問題」が発生してしまう事になります。そして更に、第三者である法定後見人には、当然の事ですが毎月の報酬が発生します。家族は、その高齢者の財産から報酬を支払わなければなりません。
 
 法定後見人は、高齢者本人の財産を減少させる行為には、その使途が本人の生活上必要な支出ではない限り基本的に承諾はしません。
 
 これが、超高齢社会の第2番目の落し穴です。
 
 この法定後見制度は、一度開始したら、基本的に二度と止める事はできません。
 
 
 
法定後見制度上の
 
財産凍結問題
 
それが
 
第2番目の超高齢社会の落し穴
 
 
 
 
福祉法務 家族民事信託の優位性
 
 
 
●福祉法務という考え方
 
 福祉とは、「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味する言葉であり、すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念を指す言葉です。転じて、公的な配慮・サービスによって社会の構成員が等しく受ける事のできる充足や安心の事で、幸福な生活環境を公的扶助よって作り出そうとする事とされています。
 
 つまり、福祉法務とは、幸福な生活環境を法的支援により創り出す法律実務の事です。
 
 法律はこの社会の様々な基本的決まりを定めており、法律専門実務家である司法書士は、私的自治を前提としたこの法律社会で、人々が被る不利益を回避し、日々の暮らしを守る法律実務支援を通して人々の権利を擁護し、自由で公正な社会の形成に寄与する事を使命としています。
 
 福祉法務は、超高齢社会で高齢者の生活を法律的な局面から支援し、他の人々との関係で不利益を受けないようにする一種の権利擁護のための法律実務です。
 
 
 
●民事信託とは
 
 民事信託とは、財産管理及び財産承継の一つの方法です。一般法である民法に対する特別法の信託法に基づき、民事上の個人や法人の資産管理及び財産承継を実現する方法という事になります。
 
 特徴は、財産の所有者が、信頼できる人に、財産を譲渡(信託譲渡)し、その信頼できる人が、財産の所有者にとって大切な人を、財産の管理を通して守るというスキームと言えます。
 
 信託法上、財産の所有者を委託者、財産を譲渡され、その財産の管理を通して受益者に利益を与える人を受託者、その財産によって守られる人を受益者と言います。そして、譲渡された財産の事を信託財産と言います。
 
 信託法に基づく契約には2種類あり、一つは商事信託契約、もう一つが民事信託契約です。商事信託契約は、委託者が利益を図るために、受託者が営利を目的として、営業上で信託財産を管理・運用し、その利益を委託者(受益者)が得るという契約の種類です。例えば、信託銀行の株式投資信託等がその代表例になります。
 
 これに対し、民事信託は、信託法に基づく契約で、委託者が利益を求めず、受託者も営業として信託財産の管理・運用をせず、ただ委託者の大切な人、受益者のためにその信託財産を管理する契約の種類になります。
 
 つまり、商事信託と民事信託は根本的にその目的が違う種類の契約であり、民事信託はあくまで人と人との信頼関係が重要な基盤になっていて、お金の多寡が要素になる商事信託ではないという事です。
 
 
 
商事信託と民事信託は異なるもの
 
商事信託は信託財産の多寡が要素になる
 
民事信託は
 
人と人との信頼関係が基盤になる
 
信頼関係はプライスレス
 
 
 
●家族民事信託とは
 
 家族民事信託とは、民事信託の1つの種類であり、簡単に言うと委託者、受託者、受益者が基本的に皆家族である契約になります。
 
 民事信託は、人と人との関係が重要な基盤であり、歴史的に見ても、家族間で発展してきた種類の契約であるところに特徴があります。これは、人と人との深い信頼関係に根差す民事信託の起源からも自然な事であると言えるでしょう。
 
 中世のイギリスから発症した信託という考え方は、その後欧米に拡がり、現在では、ごく自然な資産管理及び財産承継方法として欧米社会に浸透しています。
 
 
 
●福祉型家族民事信託とは
 
 福祉型家族民事信託とは、信託の起源である家族間の資産管理方法である民事信託を家族民事信託と呼び、更に、現代の日本社会にある超高齢社会における問題を、特に高齢者の資産管理方法及び財産承継方法の視点から捉え、高齢者本人とその家族の幸福な生活を実現するための法律実務支援の一つに位置付けた信託の有効利用の形です。
 
 福祉型家族民事信託における「福祉型」とは、民事信託の利用形態で、現在の法制度を補完し、利用者にとって完全な法律上の効果を生み出す種類の契約になります。
 
 例えば、法定後見制度では、高齢者本人の財産を本人のためにしか利用できない制度であり、家族にとっても、また本来の高齢者本人にとっても、非常に窮屈感の有る制度になってしまっている印象は否定できないでしょう。しかし、この福祉型家族民事信託により、そのような弊害は殆ど無くなり、あたかも高齢者が元気であるかのような状況を法律上創り上げる事が可能になる画期的な最先端の資産管理方法及び財産承継方法なのです。
 
 それは、法定後見人といった高齢者の代理人がいない事。家族にとってそれまで会った事もない第三者が突然現れ、自分の家族の財産を管理する事がありません。そして、家庭裁判所と言った公的機関の関与がないため、私的自治が保障され、自由な生活をする事ができます。更に、法定後見人には、報酬を支払わなくてはならず、この法定後見制度が続く限り、一生支払う義務は免れません。そして更に、場合によっては、この法定後見人には、家庭裁判所によって法定後見監督人という役割の監督者が選任される事も有り、二重三重に制度の運用が複雑化し、この法定後見監督人にも家族は報酬を支払わなくてはならなくなります。
 
 これに対し、家族民事信託契約の「福祉型」では、資産管理に関し、高齢者やその家族にとって、現行の法制度を利用しただけでは不十分な法律的効果を補う能力、すなわち法制度補完効果があるのが特徴です。
 
 
 
 
福祉型家族民事信託の有効利用
 
 
 
●福祉型家族民事信託の利用方法
 
 福祉型家族民事信託は、高齢者の特定の資産を適切に管理する事によって、その高齢者自身の利益を図る事が目的であり、結果として、その家族を自己決定権の尊重という理念から解放する効果があります。
 
 福祉型家族民事信託は、高齢者の「特定の財産の管理及び承継」が目的になります。不動産や預貯金がその代表例になるでしょう。
 
 逆に言うと、特定の財産に対する法律行為ではない暮らしに関係する人との行為には、この福祉型家族民事信託という方法は利用できないという事です。例えば、高齢者のデイサービスの契約や高齢者施設への入居時の契約等です。
 
 高齢者の生活は、金銭に関わる法律行為だけではありまさせん。むしろ、それ以外の社会生活関係の方が日常的には多いでしょう。
 
 すなわち、高齢者の日々の暮らしを支えるためには、重要な資産管理及び日常の生活管理(身上保護)が必要な要素になります。
 
 そこで、利用されるのが福祉型家族民事信託と任意後見制度の併用です。
 
 
 
超高齢社会の中で
 
高齢者本人とその家族のための有効策
 
それは
 
福祉型家族民事信託と任意後見制度の併用
 
 
 
●任意後見制度とは
 
 任意後見制度とは、本人が認知症を発症する前に、信頼する人を自分の代理人として選定し、認知症が発症した後は、その自分が選定した人によって、本人の資産管理や日常の生活を援助する本人と任意後見契約の受任者との任意後見契約に基づく制度です。
 
 法定後見制度と任意後見制度との関係は、私的自治の原則から、任意後見制度が法定後見制度に優先し、実際にも、任意後見制度を利用し、任意後見契約の締結をしなかった認知症高齢者が、自分の財産管理の必要性から法定後見制度を余儀なくされる事例がが多く見られるでしょう。
 
 
 
法定後見制度  公的なセーフティーネット
 
 
 
 つまり、認知症高齢者にとって、またその家族にとっても、認知症になった高齢者の財産が凍結された状態にある場合、主にその高齢者の預金の引出しや高額な財産を対象とする契約行為が不可能になってしまうため、その窮状から逃れるための方策として、必要に迫られる場合が最も切迫したシチュエーションとして想定されます。この場合、既に認知症を発症されており、本人には法律行為(契約行為)ができないので、家庭裁判所に申立て、その審判によって、その本人の財産管理のため法定後見人を選任して貰う事になります。
 
 従って、法定後見制度は、任意後見制度の利用をしていない場合で、本人の日常を支障なく支える事が必要な方々にとっての公的なセーフティネットといった意義があります。
 
 これに対し、任意後見制度は、認知症の発症に備えて、本人が予め、自分の財産の利用の仕方を決め、その内容を自分の代わりとなる任意後見人に委任する契約であり、法定後見制度と違い、自分の財産の使い道を自分で決定できる本人にとって比較的自由度のある制度という事ができます。まさに、これが自己決定権の尊重です。
 
 勿論、任意後見人は本人が選定できるので、高齢者の家族が受任する事もできます。但し、任意後見制度には、任意後見監督人という家庭裁判所が選任する監督者が必要になりますので、完全な私的自治を実現する事はできません。
 
 この任意後見制度にも、家庭裁判所の任意後見監督人という任意後見人を監督する立場の法律専門家等が選任されますので、その意味で、その判断には少し時間を要する場合もあります。特に、高齢者所有の財産の利用や活用に関しては、例え任意後見人とはいえ、その責任から保守的、消極的にならざるを得ない事も想定されます。ましてや、任意後見契約締結時に想定されていない事が発生した場合は、任意後見人の理解を得て、高齢者本人の財産を減少させる行為をする事は不可能です。
 
 
 
●福祉型家族民事信託と任意後見制度の併用方法
 
 福祉型家族民事信託で特定の重要財産を管理し、任意後見制度で高齢者本人の日常の生活関係を支援する仕組みが、現在考え得る最善の福祉法務になります。
 
 
 
特定の財産は
 
福祉型家族民事信託で管理し
 
認知症高齢者本人の日常の生活関係(身上保護)は
 
任意後見人が代理する
 
これが
 
現代の最善の福祉法法務 
 
 
 
 
法定後見制度の問題点
 
 
 法定後見制度は、高齢者の家族とは一定の距離感がある事で、その場の事情に流されず、法定後見人本来の使命を果たす事ができる反面、その家族からは、事実上、法定後見制度を利用したにも関わらず、別の意味で、不自由と感ずる現状が起きてしまうのもまた事実です。
 
 更に、この法定後見制度には、この法定後見人の他に、この法定後見人を監督する法定後見監督人が選任される場合があり、更に制度が硬直化してしまう可能性があります。
 
 現に、法定後見人の考えと家族の思いとが不一致を招き、不満を持たれている方々も多く、高齢者のための制度として制定された法定後見制度ですが、利用者は全体の僅かしか利用されておらず、残念な事に成年後見類型ではその数も減少傾向になっています。
 
 
 
 
福祉型家族民事信託と任意後見制度の調和
 
 
 法定後見制度と任意後見制度を見てきました。法定後見制度は事実上、任意後見制度の利用をされずに、認知症が発症してしまった後に、後発的に利用されている我が国のセーフティーネットという意義、任意後見制度は、認知症発症前に、高齢者本人が認知症発症後の自身の財産を、できるだけ自分の希望通りに利用したいという想いと、財産管理だけでない高齢者介護制度の利用を含め、その高齢者全般の契約行為を任意後見人が代わって行えるようにするという意義がありました。
 
 それでは、任意後見制度での欠点はなんでしょうか。それは、財産管理が第三者である任意後見人や任意後見監督人の関与によるという事です。任意後見人や任意後見監督人は、法定後見制度程ではありませんが、家族とは一定の距離感を持って高齢者のために独立の立場で、財産を管理する任務があります。家庭裁判所の関与は少ないものの、その裁判所が選任した任意後見監督人によって、任意後見人は監督され、大きく財産が減少する行為に対しては、正当な理由がない限り、その支出が認められない事もあるのです。
 
 そこで、このような問題を打開する方法として、現在、福祉型家族民事信託が注目を浴びています。この家族民事信託は、法定後見人や任意後見人、任意後見監督人といった家族以外の第三者は関与せず、更に家庭裁判所も介入しない完全個人間の契約により、高齢者が認知症を発症しても、あたかも法律上は認知症を発症しない元気な状態で、高齢者の資産を高齢者本人のため、そして家族のために管理及び利用する事ができる法制度なのです。
 
 民事信託は、一般法である民法の特別法に当たる信託法に基づき、資産所有者が、信頼できる人に一定の財産を託し、高齢者本人のために、財産を管理及び承継する契約です。
 
 そして、「福祉型」とは民事信託の利用形態で、現在の法制度を補完し、利用者にとって完全な法律上の効果を生み出す種類の契約になります。
 
 例えば、法定後見制度では、高齢者本人の財産を本人のためにしか利用できない制度であり、任意後見制度は、高齢者本人が決められる自由な契約ではありますが、家族ではない第三者が任意後見人として高齢者本人を代理し、更に家庭裁判所によって選任された任意後見監督人によって、任意後見人が監督される制度で、やはり家族にとってはより良い制度が求められるでしょう。それは、任意後見人を家族とした場合も、後見制度である事により、高齢者本人のための財産管理という制約を受けてしまう事になります。
 
 「家族」民事信託とは、その名称の通り、民事信託契約を締結する当事者は家族であるという事です。従って、初めて会う第三者との関係は、この家族民事信託には登場しません。全て高齢者を中心とするご家族なので、安心感は他の制度とは比べ物にならない程強固です。また、コミュニケーションも生まれたときから一緒なので、認識に齟齬がある事はありません。
 
 この福祉型家族民事信託の登場人物につてい、具体的な例で構成すると、次のようになります。
 
 すなわち、財産を所有している高齢の父親が委託者その子供が受託者、その財産によって利益を得るのが元々の財産の所有者である高齢の父親という事になります。
 
 つまり、父親の財産をその子供が管理するという構造です。子供は父親を裏切りません。そして、父親も子供のための財産を遺すのです。この関係は、第三者が介入する制度とは違い、信頼と愛情の形が実現できる我が国唯一の方法である福祉型家族民事信託しかありません。
 
 そして、民事信託の利用方法の中で最も利用されているこの福祉型家族民事信託になのです。
 
 この福祉型家族民事信託と併せて、高齢者の生活全般の支援として任意後見制度を利用するのです。
 
 
 
 
民事信託とは
 
 
そもそも民事信託とは 一体何なのか?
 
 
 
 そもそも民事信託とは、我が国の信託法という法律に基づき、当事者間で設計され、契約される資産管理及び財産承継方法です。
 
 そして、信託法による信託の種類として、大きく分けて商事信託民事信託の2つがあります。営利を目的として、ビジネスとして利用するのが商事信託です。それとは異なり、営利を目的としない、個人間の信頼と愛情の形が民事信託になります。
 
 民事信託のコンセプトを一言で表現すると
 
 
 
私の財産を
 
信頼するあなたに託すから
 
私の大切な人のために
 
その財産を管理し
 
大切なあの人を守って下さい
 
 
 
 といった財産の所有者の思いや願いを叶える法技術です。
 
 そして、福祉型家族民民事信託は、「大切なあの人」が財産の所有者になる契約類型になります。この類型の契約形態を自益信託といいます。
 
 このコンセプトを事例に当てはめると、財産の所有者が委託者、財産を託される子供が受託者、受託者の財産管理によって利益を得るのが父親である受益者という事になるのです。 
 
 従って、家族ではない第三者が突然現れて、あなたの財産を勝手に管理したり、処分したいりする事はありませんので、ご安心下さい。民事信託の設計段階から、民事信託法務を専門分野又は取扱分野としている法務事務所の法律専門実務家である司法書士が、まず財産の所有者であるご本人から事情や要望をお聴きして、その固有の財産を有効管理するための設計に関与しますので、法律面でも心配はいらないのです。
 
 お解りになりましたでしょうか? ここが一番大切なポイントです。今、注目を浴びている民事信託とは営利を目的にした商事信託とは異なるという事。そして、民事信託の目的は、財産の所有者が、その財産を自身のため、家族のために活かしたいという思いを実現し、願いを叶えるための資産管理方法及び財産承継方法であるという事です。
 
 
 
民事信託は 営利を目的としない
 
民事信託の目的は
 
財産の所有者が
 
その財産を自身のため 家族のために活かしたい
 
という思いを実現し願いを叶えるための
 
資産管理及び財産承継の方法
 
 
 
財産凍結問題の対策と民事信託の設計
 
 それでは、財産凍結問題に対して、具体的にどのように対策したらよいのでしょうか?
 
 まず、
 
 ①財産の所有者が認知症等で判断能力が減退又は喪失する前に対処しなければ遅いという事です。
 
 そして、
 
 ②財産の所有者である本人が、どのような想いや願いをお持ちなのかを明確にする事です。
 
 更に、
 
 ③本人が大切な家族のために財産管理をする方法として、福祉型家族民事信託を選択した場合は、司法書士が福祉型家族民事信託の利用のためのに本人の思いを実現し願いを叶えるための具体的な設計をします。
 
 最後に、
 
 ④民事信託契約書を作成し、契約当事者と契約をして完成です。契約当事者は、委託者と受託者になり、受益者は単に利益を得るだけなので、契約当事者とはなりません。
 
 お解りになりましたか。
 
 まず、福祉型家族民事信託で一番大事な中心的な事は、本人の思いや願いという事を。そして、それを具体的に実現するための法律的方法が福祉型家族民事信託なのです。
 
 しかし、ちょっと待って下さい。財産の所有者が、受託者に財産を託す、つまり、譲渡するという事は、損をするのではないかという疑問です。
 
 違うのです。それは誤解なのです。
 
 
 
●「信託」という理念と福祉型家族民事信託の本質
 
 信託は、中世イギリスの下級市民が、領主からの財産侵害に対する対策として発祥しました。この下級市民が考えた事は、下級市民が個人として所有している大切な財産を相続等の時、領主から取上げられないようにするためのには、そもそも自分の財産でなくせばいいという発想から生まれたのです。
 
 この方法が後に「信託」と呼ばれる法技術として発展しました。そして、現代でもこの「信託」という方法が財産管理方法として様々な場面で利用されています。この福祉型家族民事信託でも、この発想で、大切な財産を守ろうとしているのです。
 
 すなわち、
 
 
 認知症を発症する前に財産をその高齢者から分離してしまえば、その高齢者が認知症を発症し、判断能力が喪失して契約行為ができなくなっても、その高齢者が所有していた財産は既に受託者、例えば子供に移転していますので、その子供が委託者、つまりその父親のために財産を管理する契約に基づき、財産が利用されれば、その家族には何の影響も無いという事です。
 
 
 これが、民事信託の本質的構造になるのです。
 
 民事信託は、一般法である民法でできない法律関係を可能にするのも、この信託という発想から初めてできるようになったという事です。
 
 現代は、超高齢社会であると言いました。その意味は、健康である期間の後に病気と共に暮らす期間があるという意味でした。この超高齢社会で、本人が財産を持ち続けると、認知症になり、判断能力が減退又は喪失した後は、その財産は自己決定権の尊重というこの国の人権の中で、法律的な取引ができなくなってしまうという事です。そして、この事により財産凍結問題が生じ、家族も本人のための目的であっても、本人の財産がら支払等が不能になり、デットロックに陥ってしまうのでした。
 
 つまり、本人が財産を持ち続ける事を止め、本人から財産を分離してしまえば、個人の意思の尊重理念からも解放され、法律上は、あたかも認知症になった本人が健康であるかのような状態を創り上げる事ができるようになるのです。
 
 家族民事信託の登場人物は、全て基本的にご家族です。財産をお持ちのあなたを裏切る事はありません。更に、不動産を受託者に移転した場合も、特別な登記が入りますので、第三者から見てもその不動産は民事信託によって移転した不動産である事が客観的に判るため、誰かが勝手に不動産を取得する事もありません。
 
 更に、委託者から受託者に財産が移転しても、それは一般にいうところの譲渡ではありませんので、贈与税が掛からないため、節税にもなります。
 
 そして、例えば、本人が亡くなった時に、受益者である子供の判断で、この福祉型家族民事信託を終了させ、受託者である子供へ残余財産を帰属させるように設計しておけば、信託財産は子供に承継され、その際は贈与税より税率が低い相続税が掛かるだけで、その意味でも節税効果があると言えます。
 
 
 
民事信託の本質的思想
 
それは
 
財産を所有者から切離し
 
現代の人権である自己決定権の尊重理念から
 
本人や家族を開放する事にある
 
 
 
 
民事信託の本質と有効要件
 
 
 民事信託の本質構造は、財産の所有者がその財産を信頼できる者に譲渡(所有者からの分離)して、その財産の名義人から外れ、譲渡された者が財産の名義人となり、その後はその譲渡人である元の財産の所有者のために、その財産を管理するというスキームになります。
 
 このスキームから、民事信託の本質的要素とは、次の4つになるでしょう。
 
 
 
譲渡する財産が存在している事(特定の財産の存在)
 
 
財産が譲渡される事(財産の譲渡性)
 
 
譲渡された財産の譲受人は、自分のためではなく、譲渡人が定めた目的に従って譲渡人のために財産を管理する事(信託の目的性)
 
 
譲受人は、譲渡財産と固有財産を分別管理する事(財産の分別管理性)
 
 
  
 
 この4つがそのまま民事信託の有効要件になると考えます。
 
 民事信託の精神的要件としては、受益者と受託者の信任関係になります。「信任関係」とは、信託法上の受益者と受託者との信頼関係の事です。
 
 そして、委託者と受託者との間で、特定の財産の存在を前提として、特定の財産の譲渡約束及び信託の目的に従った管理約束が法律要件であり、委託者と受託者が福祉型家族民意信託契約を締結して効力を生じます。
 
 その後、受託者は自己の財産と信託財産を分別管理する信託契約上の本質的義務が課されます。その他、受託者には、信託契約上の目的が適切に果たされるために必要な義務や一般法上で課される委任契約上の善管注意義務等が加わり、適切に委託者の譲渡した財産が、受益者のために管理され、受益者(委託者)の利益のために運用が開始され事になります。
 
 
 
 
民事信託の主役は
 
委託者と受益者
 
 
民事信託を支える精神的要件
 
それは
 
受益者と受託者との信認関係
 
 
そして
 
信託は受益者のためのもの
 
 
 
 
 
 
 
 
認知症を発症してからでは すべては遅いのです
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 いかがでしたでしょうか。
 
 
 
 福祉型家族民事信託とは、財産をその所有者から分離し、法律上は、財産の所有者を別人格にして、財産の所有者を法律上の不利益から解放する事によって、財産を元の所有者のために管理し、利益を享受しようとする考え方である事をご理解頂けたでしょうか。
 
 
 
 信託は、昔は中世イギリスの君主からの不当な財産権の侵害から発祥し、近代で国家の財産権の制約から個人を守るために発達、進化してきました。そして、現代では、民事信託は欧米では大切な家族のためにごく普通に利用されています。
 
 
 
 しかし、民事信託は、現代の日本では、新しい法技術です。今回のニュースレターでは、信託の起源である家族間の福祉型家族民事信託を取上げました。興味や関心を持って頂けたら嬉しいです。
 
 
 
 福祉型家族民事信託等のご相談は、福祉法務や民事信託を専門分野又は取扱分野としている法務事務所の司法書士にして頂く事をお勧めします。
 
 
 
 
 
 
 
願いが叶う画期的な法技術 民事信託で明日への希望を
 
 
 
 
 
 
 
※司法書士は、法律問題全般を扱う身近な暮らしの中の法律専門実務家です。
 
 
 
(2021年8月3日(火) リリース)