ニュースレター2021 ❼ 福祉・相続法務
  
 
 
福 祉 法 務
 
資産凍結回避・遺言代用目的
 
福祉型家族民事信託
 
基 礎 知 識
 
ー 資産凍結を回避し 自分の資産を自由に承継し守る ー 
  
 
 
 
 ニュースレター2021の第7回福祉・相続法務は、これまでの基礎知識を踏まえ、今回も実際の民事信託の活用事例について取上げます。
 
 今回は、福祉型家族民事信託の類型の中で、日本で最も利用されている「資産凍結回避目的福祉型家族民事信託」を更に発展させた「資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託」がテーマです。
 
 この類型は、民事信託を利用する上で最も基本的な利用形態である資産結回避を目的にした民事信託に、資産所有者が亡くなった時を想定して、その資産所有者の意思通りに受益権を相続人等へ承継させるスキームになります。
  
 この類型から、民事信託の特長である法制度補完効果に加えて法制度超越効果本格的に発揮される事になります。
 
 
 
 
 
<CONTENTS>
 
 
民事信託の代表的種類とその有効性
 
 
福祉法務
 
 資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託
 
 の代表的基本設計事例
 
 【事 例】
 
 【本件事件の法律的解決策】
 
 
資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託の意義
 
 
福祉法務の世界
 
 
 
 
 
 
 
民事信託の代表的種類とその有効性
 
 
 
●民事信託の代表的種類
 
 
 民法の特別法である我が国の信託法は、商事信託民事信託という2大利用方法の基本法として機能し、これまでは貸付信託や株式投資信託等で商事信託が信託銀行によって活用されてきました。そして現在、利用が拡がっているのが民事信託です。
 
 民事信託の歴史は、営利を目的としない特に個人間の契約により、主に親族の間で発展してきました。我が国でも信託法を利用した個人間の資産管理方法として、その活用は拡がりの一途を辿っています。民事信託は、全てオーダーメイドで設計できる個人の希望を叶えるための資産管理及び財産承継方法で、その基本的な活用方法として一番知られているのが、親族間で設計する福祉型家族民事信託です。
 
 ここで、民事信託の種類を体系的に整理してみましょう。
 
 
▼福祉型家族民事信託
 
 委託者、受託者、受益者が全て委託者の家族又は家族(親族)である信託です。委託者の現在及び将来の想いを守り、いかに委託者の資産を自身のため及び大切な家族のために管理及び利用するかという想いを実現させ、将来の家族生活に対する願いを叶える事を目的にして設計されます。法定後見制度や任意後見制度と共に福祉法務の制度的利用の一翼を担っています。超高齢社会の我が国では、民事信託を効果的に利用し、高齢者の権利が十分に果たされる事が期待されています。代表的基本設計形態の類型としては、資産凍結回避目的福祉型家族民事信託資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託があります。福祉型家族民事信託は、我が国で最も多く利用されている実績も多い、また信頼性も高い種類の民事信託になります。
  
 
▼資産管理型民事信託
 
 福祉型家族民事信託とは対照的な信託の種類がこの資産管理型民事信託です。福祉型家族民事信託が、高齢者や障害者の方々の権利を擁護し、法定後見制度や相続制度の不十分な部分を補完する「法制度補完効果」を利用しているのに対し、この資産管理型民事信託は、特に不動産等の所有者や中小企業経営者、資産家等が民事信託をもっと意欲的に活用し、次世代に確実にその資産を承継させる等、現行の法制度を全て適用しても実現できない「法制度超越効果」を発揮させた資産家の現在の想いを実らせ、将来の願いを叶える事を目的とした信託です。代表的基本設計形態の類型としては、相続人連続指定目的資産管理型民事信託相続財産連続指定目的資産管理型民事信託があります。最近、この種類の民事信託が増加傾向にあるようです。
  
 
▼株式管理型民事信託
 
 株式を信託財産として、株式が持つ議決権等の会社参加権である共益権や配当を受ける自益権を目的に応じて管理し、経営者の現在及び将来の問題を克服するためのスキームや会社等の事業主体が委託者や受託者となり、会社の特定の事業を信託財産として、事業改善等を行うスキームです。代表的基本設計形態の類型としては、始期付株式移転目的株式管理型民事信託後継者指定目的株式管理型民事信託事業承継目的株式管理型民事信託があります。この民事信託の種類は、これまで主に中小企業のオーナー経営者の方が、自社の後任を選定し、引継ぐ際に利用される事が多くあります。
 
 
▼目的実現型民事信託
 
 資産管理型民事信託株式管理型民事信託は、特に資産家や中小企業経営者等が自身や自社の株式等の資産を現行の法制度を超えて利活用し、有効に管理したいという想いや願いを叶える事が目的であるのに対し、この目的実現型民事信託は、自身の考えや悩みそのものに注目して、民事信託のスキームを設計し、財産管理を消極的又は積極的に利用する事により、本人の目的を達成しようとする信託です。代表的基本設計形態の類型としては、買主の死後のペットの世話を目的実現型民事信託を利用して解決するペット補償目的目的実現型民事信託があります。この民事信託の種類は、あまり事例が無く、設計局面での実現性も限られていますが、今後利用が拡大される事も考えられます。
 
 
▼遺言信託
 
 信託の設定方法は、信託法上、信託契約遺言信託信託宣言の3種類の信託行為のいずれかで行いますが、この遺言信託は2番目の遺言により設定する委託者の単独行為の信託です。通常、民事信託は、委託者と受託者との契約により設定する事が一般的ですが、この遺言信託は、委託者が遺言によって受託者に信託をお願いするところに特徴があります。(勿論、受託者に指定された人は、受託者を承諾するか否かを選択できます)。民事信託の利用方法として、財産の所有者が自身の財産をどのように管理するかを考えるところから始まりますが、遺言信託が効力を発生させる段階は、その財産の所有者が亡くなった後であり、財産の所有者の想いや願いを実現する方法としては、生前に実現させたいという希望が普通であるため、特に遺言信託の利用が効果的と判断される事案の場合に選択される事が多い種類です。
 尚、現在、用語として「遺言信託」には2種類あり、1つは法律的意義、もう一つは商品のとしての意義です。通常、遺言信託といった場合、それは法律的意義の信託であり、信託銀行が顧客の遺言の作成をサポートし、かつ、その遺言の遺言執行者となるサービスとしての商品名である「遺言信託」とは、全く無関係ですので誤解に注意をして下さい。両者の違いは、法律的意義である「遺言信託」は、信託の設定行為(法律行為)であるのに対し、サービス商品としての「遺言信託」は、単に財産所有者である遺言者の遺言作成とその執行というサービス行為であるところにあります。
 
 
▼自己信託
 
 信託の設定方法は、信託法上、信託契約遺言信託信託宣言の3種類の信託行為の中で、この自己信託は3番目の信託宣言で設定する特殊な信託です。通常、委託者が自身の資産を受託者に譲渡(信託譲渡)し、その受託者が信託目的に従って信託資産を管理し、その利益を受益者が享受しますが、この信託は委託者が受託者を兼ねる種類となります。委託者の所有する財産の中で、一部の資産に信託を設定する事により、財産が分離され、委託者の資産として所有するのではなく、受益者のために所有管理する特殊な資産(信託資産になります。この種類の代表的基本設計形態の類型は、文字通り自己信託(自分の資産を他者ではなく自分に信託するという意味。)です。元来、信託は、自身の資産を信頼できる他者に譲渡(信託譲渡)るすところに本来の意義があり、一般的な民事信託の利用方法から見て、委託者が受託者を兼ねる実益があまり無い事から、現在、この種類の信託は多くはありません。
   
 
  
●福祉型家族民事信託の代表的類型
  
 福祉型家族民事信託とは、現在又は将来において「被後見人」となる可能性の人を対象として、その人の財産管理を適切に行う事によって生活基盤を安定させ、かつ相続やその後の諸手続き等を円滑にするためにの手法として民事信託を利用するスキームです。
 
 福祉型家族民事信託では、委託者、受託者、受益者が全て委託者の家族又は親族というとても信頼性の高いスキームで、委託者の希望を実現しようとするところに大きな特徴があります。信託の起源は家族間で利用され、発展してきたという世界の歴史があり、我が国の民事信託の種類の中で、最も利用され、信頼性の高いh信託で、信託というものに適した親和性のある利用方法といえるでしょう。
 
 その福祉型民事信託の代表的類型は次の通りです。
 
 
▼財産凍結回避目的福祉型家族民事信託
 
 前回のニュースレターで取上げた類型の民事信託です。超高齢社会の中で、高齢者の認知症による財産凍結を回避する目的の福祉型家族民事信託です。法定後見制度や任意後見制度では、高齢者自身やその家族の希望を実現できない場合に、法制度補完効果を発揮させ、高齢者が認知症になった後も、あたかも法律上は元気でいるかのような生活を創り上げる事ができます。これにより、公的機関や第三者が介入する事なく、高齢者自身は自分の資産を認知症になった後も思い通りに管理でき、家族は有効に利用する事が可能となります。
 
 
▼財産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託
 
 今回取上げた類型です。資産凍結回避目的福祉型家族民事信託を更に発展させたスキームで、資産の所有者である高齢者の死後に、高齢者の意思の通りに資産を大切な家族等に承継させる事を目的とした民事信託です。遺言はいつでも撤回が可能であり、相続人の地位が不安定である事、財産凍結回避目的の民事信託を利用しながら、自身が亡くなった後まで自身の想いや願いを繋げる遺言代用設計により、優れた法的効果を発揮し、生前は自分自身、死後は大切な特定の相続人の事を第一に考えた信託です。この類型の民事信託は、主に特定の相続人が予め決められた相続財産を確実に承継できるところに主眼が置かれる事が多いでしょう。
 
 
▼障害者将来支援目的福祉型家族民事信託
 
 障害者の子供を持った両親の死後の生活支援を補償したいと願う親の想いを実現する信託です。相続人連続指定目的資産管理型民事信託相続財産連続指定目的資産管理型民事信託といった資産管理型民事信託のスキームを利用し、障害者将来支援補償目的福祉型家族民事信託として機能させる方法です。両親の障害を持った子供への愛情を民事信託の力で実現します。
 
  
▼死後事務委任目的福祉型家族民事信託
 
 特定の財産がある場合、単独世帯で暮らしている方の死後の葬儀、埋葬、先祖代々の墓地の管理や先祖供養等の死後事務を確実に行いたいといった想いを実現する信託です。死後事務委任契約という一般的な方法も有りますが、この場合、墓地の管理や先祖供養という継続的な死後事務があるため、スポットで機能する通常の死後事務委任契約では困難な場合があり、相続人ではない遠縁の信頼できる親族等に自身の資産を信託し、その資産で目的を達成しようとするスキームになります。超高齢社会の中で今後の必要性も増すのではないかと考えられます。
 
 
 
 
福祉法務
 
 財産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託
 
 の代表的基本設計事例
 
 
 
【事 例】
 
 
 
●家族構成
 
 〇父親 本人A(75歳)
 
 〇母親 妻 B(70歳)
 
 〇長男   C(45歳)※配偶者・子供有り。
   
 〇長女   D(40歳)※配偶者・子供有り。
   
 
 
●事案概要
 
 現代は超高齢社会である。A自身やその家族の生活の維持のため、財産の所有者であるAの身体や認知症による精神障害の危険に対策するべく、様々の法律的解決方法を検討した中で、民事信託の利用が最適である事が判った。Aは、自身の資産の凍結問題を回避し、自身が認知症発症等になった場合でも、変わらずに資産が利活用され、その利益を享受したいと思っていた。そしてAの家族は、自分達の生活維持のため、第三者が関与する事無く家族だけで今後も安心した生活を送りたいという強い希望があった。
 
 更に、A氏が死亡後に遺された妻Bについても、安心した生活が送れるようにと願っていた
 
 これらのA氏の想いと願いから、身上保護を中心とした任意後見制度と特定の資産の管理を中心とした福祉型家族民事信託を採用する事となった。
 
 
 
●背景事情
 
 Aは、まだ元気であるが、親しい知人のXが妻に先立たれ、すっかり見なくなっていたところ、近所の友人からXが認知症を発症し、Xの家族はXの預貯金の引出しができなくなったと聞いた。
 
 そのXの家族は、銀行から法定後見人を選定して貰い、法定後見人がXの預金口座の管理を行うので、今後は法定後見人を口座名義人の代理人とする、と言われたとの事。しかし、Xの家族は家庭裁判所に行ったことも無く、たまたまこんな時に、まとまった資金が必要になり、身動きが取れない状況に陥ったという話である。勿論、Xが高齢者介護老人福祉施設に入居する際の契約金として、X所有の自宅を売却する事も法律上は不可能となった。
 
 Aには、遺すべく資産があり、将来の事を考えると、何かの対策をしておきたいと思うようになった。
 
 長女Dは家族の住む自宅があり、夫の仕事の関係で時々海外へ行く事も有り、また、Dの夫は多忙を極めていたため、Dは自身の家庭を優先して考えざるを得ない状況にある。父親であるAの自宅不動産等の資産には、取立てて関心が無く、相続するなら金銭でと希望していた。
 
 
 
●Aの想いと願い
 
 Aは、自分が元気なうちは、自分の財産で今まで通り暮らし、認知症を発症した後は、長男が自分の財産を管理し、その財産から生活費を賄おうと思っている。そして、自分が死亡した後の妻Bの事を案じており、更にA氏の遺産につていは、A氏の希望する通り、その遺産を相続人に配分し、各々仲良く生活して欲しいとの願いを持っていた。
 
 
 
●初回相談から事件依頼までの流れ概要
 
 A氏は、ホームページで検索して良さそうな法務事務所を選択し、問合せフォームで事情を送信した。数日後、司法書士 W法務事務所の司法書士Wから返信があり、一般的な回答であったが、Aの希望を叶えられる法律的方法がる事、その方法は民事信託という方法である事が記載されていた。そこで、A氏は、法律相談の料金や本件の報酬等概要を聞いた後、正式な予約を申込み、初回法律相談に臨む事になった。
 
 A氏は、自宅の最寄り駅付近のカフェで司法書士Wと会う約束にしていた。司法書士WからA氏の住所は、司法書士Wの主要な業務範囲の沿線にあり、直ぐに会えるとの事で、相談場所が決まったのだった。A氏は、時間にそのカフェに到着し、入口の自動ドアが開き、中を見渡した。窓際の席には司法書士Wが既に到着していて、A氏に向かって手を挙げ、合図していた。A氏は事前のオンライン無料法律相談で、当日の服装を伝えていて直ぐに判ったのだった。A氏と司法書士Wは、互いに会釈をし、簡単な挨拶を交わすと、椅子に座った。A氏は相談料を支払い、司法書士Wは領収書を渡して、簡単な雑談の後、司法書士Wは、ここでのコーヒー代は事務所負担である事を告げ、A氏に飲物をオーダーするように勧めた。大きな窓の外には、よく晴れた青空と大きな雲が眩しかった。
 
 司法書士Wは、早速法律相談に入った。司法書士Wは、事情聴取後、解決策を提案した。A氏は、今回の法律相談は初めてであり、色々な法律用語も織り交ぜながらの司法書士Wの話に、不明点を率直に質問し、司法書士Wに実現可能か聴いてみた。A氏は、自分の財産は基本的に自分で管理したい事自分達家族が主体になって今後も暮らしていきたい事この願いは家族皆の統一的考え方である事、この想いが実現できるのであれば、多少無理があっても平気である事等を司法書士Wに気持ちを込めて話をした。司法書士Wは、Aの希望を現行の任意後見制度だけに委ね、また遺言という一般的な相続法務からの提案では、満足にいかせる事は難しいとの心象を得ていた。そこで、福祉型の家族民事信託を提案した。司法書士WはAの家族からも話を聴かなければならないが、基本的に希望は叶えられるのではないかとの回答した。そこで、A氏は、司法書士Wに自分の事案を依頼した。司法書士Wは、本事案を事件化する事に賛成し、喜んで本件事件を受任した。
 
 
 
●Aの財産
 
 〇自宅不動産
 
 〇賃貸用不動産
 
 〇車
  
 〇預貯金
 
 〇年金
 
 〇生命保険
 
 〇有価証券
 
 
 
 【本件事件の法律的解決策】
 
 
 
●本件事件の問題点である資産凍結問題とその回避策
 
 超高齢社会において、財産の所有者が認知症等を発症し、判断能力(意思能力)が減退又は喪失してしまった場合、その高齢者の財産は法律上、管理処分が不可能になり凍結状態になります。例え、家族であっても利用する事はできませんそのため、我が国では、法定後見制度任意後見制度といった公的制度を創設し、超高齢社会の中で、高齢者が法律的不利益を受けずに生活できる制度を制定しました。
 
 本件事件は、相談者である高齢者の財産管理を中心にした内容と遺された家族の生活についての相談でした。そして、A氏の家族からは、A氏が認知症になった後も家族水入らずで生活を送りたいという強い願いを聴いていました。
  
 司法書士Wは、相談者が心配している財産管理は、相談者本人の社会生活上の問題でもある事を指摘し、日常の生活支援と共に財産管理をする事がご家族にとっても有効である事を説明した。そして、司法書士Wは、身上保護と資産管理を併用させ、相談者の福祉と資産管理、更には遺された家族が水入らずで暮らせるようにする事が本件事件の本当の趣旨であり、究極的なA氏の問題解決になる事を解り易く説明した。納得したA氏は、司法書士Wに制度設計を任せる事にした。
 
 
▼法定後見制度
 
 法定後見制度は、高齢者本人が認知症発症等で判断能力が低減又は喪失した後に、家族等から家庭裁判所に法定後見人選任の申立てをして始まります。法定後見制度は、高齢者の権利擁護を目的として期待された制度でしたが、高齢者自身の福祉的側面、高齢者の家族との関係、法律判断という独立的専門的判断の意義及び重要性、とりわけ高度な法律判断を伴う法定後見人の立場といった局面で、必ずしも高齢者本人の家族からは理解が得られていない場合もあり、特に高齢者本人の家族との関係で一部に軋轢が生じている事もまた事実です。
 
 また、法定後見制度は、家庭裁判所が選任した法定後見人や法定後見監督人が高齢者の財産管理や監督を行うものであり、この制度は財産を積極的に消費するような事は想定しておらず、高齢者の財産をできるだけ減少させない事(消極的財産管理)が目的になっています。そのため、例えば、それまで支援してくれた父親の預貯金も家族や孫のためにも引出せず、高齢者施設への入居のため自宅を売却する際には家庭裁判所の許可が必要になる事や比較的規模の大きな自宅不動産の修繕さえも3カ所から4カ所の工務店からの見積もりが必要になり日常生活の中で、家族は困惑してまうもあります。
 
 今後は、法定後見制度における身上保護と財産管理という制度目的において、特に身上保護の福祉的側面と人権擁護の意義の違いを明確化し、創設目的である本来の制度趣旨に合った構造へと是正していく事が課題となるでしょう。
 
 
▼任意後見制度
 
 任意後見制度は、本人がまだ認知症等の判断能力(意思能力)が減退していない段階で、信頼できる家族等と認知症になった後の身上保護や財産管理を任せる契約を行う事で本人を代理する制度です。法定後見制度が高齢者が認知症を発症した後に機能するセーフティーネットであるのに対し、任意後見制度は、高齢者本人がまだ元気なうちに、自身で対策する本人の意思が制度に反映できる制度になります。
 
 しかし、任意後見制度も家庭裁判所による任意後見人の監督機関である任意後見監督人の選任が必要であり、法定後見制度に比べて、実質的にも法制度的にも優位ではありますが、財産管理面で公的機関の関与が問題となる局面もあります。つまり、家族以外の第三者が、高齢者本人の財産の管理を監督する事で、家族の中には抵抗感を持つ人達もいるでしょう。
 
 任意後見制度は、本人の意思の尊重という理念から、制度上、法定後見制度の上位(優位)的な位置付けであり、認知症発症等の前に、本人が積極的にこの任意後見制度の利用を検討する事が賢明でしょう。
 
 但し、身上保護財産管理の2大制度目的のうち、特に財産管理についても、任意後見監督人という第三者が本人の財産の管理を監督するため、その分自由度が減縮する場合もあります。
 
 身上保護については、医療費の支払い、入院時の支援等、本人の日常生活に直結した社会的関わり合いに対し、有効に機能する制度になります。
 
 任意後見制度の課題としては、法定後見制度との違いを明確化できるかというところにあります。法定後見制度は、消極的財産管理であるのに対し、任意後見制度がどこまで積極的財産管理が可能かという争いに合理的な回答を出す事が急がれます。
 
 
 
●財産凍結回避目的福祉型家族民事信託の有効性
 
 本件事件では、A氏はまだ元気である事、A氏に財産管理に対する想いや願いがある事、本件事件は特定の財産管理が目的である事から、法定後見制度の利用は不要であり、任意後見制度については、身上保護を中心的に機能させ、目的財産の管理方法は、公的機関の関与が無い民事信託を採用する事が最も有効となるでしょう。この資産凍結回避のための民事信託を資産凍結回避目的福祉型家族民事信託といいます。
 
 この福祉法務のスキームにより、A氏は、元気なうちは自分自身のために財産を活用でき、認知症等を発症した後は、資産凍結回避目的福祉型家族民事信託により、法律上はあたかもA氏が元気でいるかのような状況を作り出せ、資産凍結が無い生活が家族に保障されます。
 
 このスキームでは、委託者の希望の通り、委託者が亡くなった後には、この資産凍結回避目的福祉型家族民事信託を終了させ、民事信託契約の中で、信託資産(遺産)を委託者の希望の通りに相続人等に承継させる事ができるのです。
 
 
 
●遺言代用目的福祉型家族民事信託の有効性
 
 ここで、A氏が死亡した後のA氏の遺産の承継問題が浮上しました。資産凍結回避目的福祉型家族民事信託の利用で、本件事件のA氏の問題の半分以上は解決しますが、妻BのA氏の死亡後の安心した生活の実現という課題です。それと同時に、長男Cに対し、A氏が死亡した後も引続き賃貸アパートの経営を任せたいという事情があり、長男Cも自身でアパート賃貸経営ができる事に興味が沸いてきた事、A氏は、自身に対する献身的な想いから、賃貸アパートは長男Cに相続させたいと思うようになった事、更に、長女Dは賃貸アパート経営には関心が無い事、A氏は賃貸用不動産を長男Cに相続(承継)させたいと申し出たのです。
 
 司法書士Wは、現行法制度での解決策として遺言があったが、本件事件は民事信託利用の事件である事、また、A氏が遺言を作成した後に、A氏が気が変わる可能性も無い事は無い事、また、将来、長女Dが気が変わり、賃貸アパート経営に興味を抱き、父親であるA氏に遺言の書換えを要望する可能性も想定できなくは無い事から、妻Bの将来の生活安定化と長男Cの期待を保護する必要性から、遺言での対策は支障が生じる危険性がある事を感じた。
 
 A氏の想いは変わらないが、遺言制度自体はいつでも書換えが可能であり、一番新しい遺言が有効となる。長男Cからしたら、確実に賃貸アパート経営をしたいと願っているので、法制度上不安定な遺言は、本件事件の場合、適用を避けた方が無難であるとの心証を司法書士Wは持っていたのだ。
 
 更に、A氏の妻Bの生活の安定化だ。A氏の死亡後、妻Bの生活の安定化を図り、そして、最終的にA氏の特定財産である信託資産(遺産)を長男Cに承継させなければ、A氏の想いや願いは達成できません。
 
 そこで、司法書士Wは、遺言代用目的福祉型家族民事信託の利用を提案しました。この福祉型家族民事信託は、その信託契約の中で、委託者があたかも遺言で指定したように信託資産(遺産)からの受益を受ける者(第2次受益者)を指定でき、その受益を受ける者は、他の法定相続人に影響される事なくその利益を享受する事ができます。但し、この場合でも遺留分を侵害する事はできません。しかし、民事信託設計時点で、この遺留分対策も行いますで、信託スキーム全体からしたら最小限の影響で済ませる事ができます。本件事件では、そもそも遺留分が問題となるような家族関係ではあいりませんが、各相続人の公平性というA氏の想いを前提として設計をする事になります。
 
 この遺言代用目的福祉型家族民事信託の本来の存在意義は、財産の所有者の権利保護というよりは、その家族(妻B)の権利擁護に主眼があるといってもいいでしょう。
 
 尚、長男Cの賃貸用不動産の承継は、資産凍結回避目的福祉型家族民事信託でも遺言代用目的福祉型家族民事信託でも、信託契約の中で、信託財産の帰属先としての帰属権利者を指定する事により、委託者の願いの通り、信託資産を承継させる事はできます。
 
 遺言代用目的福祉型家族民事信託を利用する趣旨は、当初受益者(=第1次受益者)から第2受益者へと受益権の承継を遺言制度を超えて自由に指定できるところにその意義があります(民事信託の法制度超越効果)。
 
 
 
●資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託の設計スキーム
 
 
▼信託財産
 
 
 〇自宅不動産
 
 〇賃貸用不動産
 
 〇車
 
 〇預貯金の一部
 
 
 本件の場合、信託財産は自宅不動産、賃貸用不動産、車、預貯金の一部です。
 
 自宅不動産は、大きな修繕の必要性や高齢者福祉老人施設等に入居の場合、売却も視野に入れておかなければなりません。賃貸用不動産は、その経営手腕が問題となります。また、車は、認知症になった際は運転は控える事が必要であり、万が一事故に遭った場合も、相手方や保険会社との交渉も問題無くできます。預貯金については、一般的に譲渡禁止特約約款が付されている事が多いため、一旦、一部を引出し、受託者にて新たに信託口口座を開設して、その口座で管理する事になります。
 
 
 年金は、年金受給者本人の一身専属権である事、生命保険は、現在信託財産としての取扱いがなされている保険会社が少ない事、有価証券は、信託による信託口証券口座で管理が必要になりますが、有価証券の信託口口座に対応している証券会社が少ない事等により、信託財産としての管理はしません。
 
 口座名義人が認知症発症等の際に、金融機関にその状況が知れてしまうと即座に口座が凍結になります。年金は、本人が管理しなければならない事、生命保険は、生命保険の保険会社との相談や交渉が必要になる事、また有価証券も第三者の管理には適さない事から任意後見制度での対応が適切になります。 
 
 
▼当事者等
 
 
〇委託者  本人A
 
〇受託者  長男C
 
〇受益者  本人A(当初受益者=第1次受益者)
 
 
 資産の所有者が委託者になります。そして、委託者にとって信頼できる者を受託者に選定します。本件事件では、受託者を長男Cにしました。受託者は、委託者の子供であり、父親の生活支援や財産管理に違和感無い立場です。委託者であるA氏と受託者である長男Cは、親子であり、強く深い愛情で結ばれています。委託者と受託者によって民事信託契約をして、法律上の効力を発生させます。
 
 この民事信託によって利益を享受するのが受益者です。この資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託では、本人Aが受益者(当初受益者=第1次受益者)になります。つまり、委託者と受益者が同一人物になる設計で、この設計を自益信託といいます
 
 委託者兼受益者である父親が元気なうちは、自身の監督の下、今までと何ら変わり無く生活ができ、認知症を発症した後は、信頼できる自身の子供が自身の財産を父親のために管理・処分します。
 
 
▼A氏の財産管理
 
 A氏が元気なうちは、資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託契約に従い、A氏の思う通り長男Cは財産を管理・処分し、A氏が認知症等により判断能力(意思能力)が低減又は喪失した後は、当初設定した資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託契約に従い、長男Cは父親Aのために、Aの希望通りに信託資産を管理・処分します。
 
 任意後見制度により、A氏の身上保護の他、財産管理も可能ですが、特定の財産管理に対しては、公的機関の関与、第三者による財産監督、各種報告制度、任意後見監督人への報酬といった任意後見制度特有の制度的制約があり、必ずしも高齢者本人及びそのご家族にとって有効性がるかは評価の分かれるところでしょう。本件事件では、A氏の想いや願い、その家族の強い願いから、福祉型家族民事信託を採用しました。
 
 ご覧の通り、この福祉型家族民事信託のスキームには、家庭裁判所等の公的機関の関与等は無く、A氏とその家族だけで、A氏が亡くなるまで信託財産が管理される事になります。
 
 福祉型家族民事信託は、このように現行の任意後見制度でもA氏の目的は達成できますが、A氏の十分な想いの実現と家族の願いを叶えるためには、不十分である事が判ります。福祉型家族民事信託は、現行の法制度だけでは不十分な部分を補完して、十分な能力を発揮させる法制度補完効果があり、本件事件でも身上保護は任意後見制度、特定の財産管理は福祉型家族民事信託によって依頼者の想いを実現し、願いを叶える事ができるのです。
 
 
▼任意後見制度の利用
 
 
〇任意後見人 長女D
 
 
 A氏の特定の資産管理とは別に、身上保護が必要になります。この点は、任意後見制度が機能します。
 
 具体的には、任意後見人には、長女Dを選任します。長女Dは、被後見人の長女であり、年金の管理、医療費の支払い、生命保険の契約継続、入院時の対応、施設入所時の契約等、的確に日常の生活を見守る事ができる立場です。実際の局面では、A氏の配偶者であり、任意後見人の母親であるBと協力して身上保護を行っていく事になるでしょう。
 
 尚、この資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託の設計では、後にA氏が死亡した時の遺産の相続に備え、全相続財産の各配分の公平性から、A氏の生命保険の受取り人を長女Dにしました。長女Dもこの件については同意しています。
 
 また、妻Bは、A氏が亡くなった後も当然にこの不動産に住み続ける事は前提になっています。
 
 
▼任意後見人管理の財産
 
 
〇年金
 
〇生命保険
 
〇有価証券
 
○残預貯金
 
 
 更に、年金、生命保険、有価証券、残預貯金の管理も任意後見人である長女Dが行う事になります。但し、この場合も長男Cの助言等を参考に管理される事になるでしょう。
 
 尚、A氏の妻Bは、高齢である事、今後、A氏と共に助け合って生活をするため、法律上の負担を負わせたくないというA氏の想いと妻Bの気持ちがあり、本件事件のスキームから除きました。
 
 A氏は、今回の相談で、妻Bについても身上保護が必要になると考え、また機会を見て司法書士Wに相談する意向を示しています。
 
 父親であるA氏が認知症発症等の後、任意後見受任者である長女Dが家庭裁判所に任意後見監督人選任を申立て、正式に任意後見契約が発効します。
 
 この任意後見制度の利用により、日常生活は任意後見人長女Dによって、特定の資産管理は資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託の利用により、受託者長男Cによって、各々問題無く機能します。この事により、A氏の家族全員の生活の安定化に繋げらる事になるのです。
 
 尚、受託者と任意後見人が同一人物となる福祉法務上の設計は、法律上困難となるでしょう。何故なら、任意後見人は本人の代理人として、受託者の監督権限等があり、両者を同一人とすると、利益相反関係が生じてしまうからです。
 
 また、信託法では、受託者は信託管理人、信託監督人、受益者代理人となる事ができないと規定されており、任意後見人は受益者代理人に準じるものと考えられるからです。
  
 
▼A氏の死亡後の設計
 
 A氏が亡くなった後は、この資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託の受益者をA氏の妻であり、受託者長男Cの母親であるB(第2次受益者)にします。
 
 この事により、信託財産で管理された利益を妻Bが享受でき、A氏の配偶者への想いを叶える事ができます。
 
 また、A氏が死亡した事により、任意後見契約は終了しますが、信託資産以外の財産は、A氏の相続財産として、A氏の遺言の通り、各相続人に相続されます。
 
 妻Bは、自身の夫であるA氏の遺した信託資産(遺産)からA氏が生きていたときと同じように利益を享受でき、A氏が亡くなった後も安心して暮らす事ができるのです。
 
 このように、遺言代用目的福祉型家族民事信託は、受益権を享受する受益者を自由に指定でき、あたかも財産の所有者が遺言をしたような法律的効果を発生させる事ができます。この法律的効果は遺言制度では不可能です。これを民事信託の法制度超越効果と言います。
 
 
▼妻Bの死亡後の設計
 
 受益者Bが亡くなった後は、第3次受益者を長男Cにし、資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託を終了させます。長男Cは、この信託の受託者でもあり、もともと受益者のために信託資産である賃貸用不動産の経営をしてきました。資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託が終了する事により、当初のA氏の願いの通り、長男Cが最終的に賃貸用不動産の所有権を取得する事ができます。A氏は、既にこの世にはいませんが、この資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託を設計した時の想いを実現させ、願いを叶えたのです。
 
 また、妻Bが死亡した後は、任意後見契約は終了しますが、A氏の遺産は既にA氏が死亡した段階で遺言により信託資産以外の財産は相続人に帰属していますので、妻Bに固有の財産が無い限りは、妻Bの身上保護を中心とした任意後見契約の終了により、その役割を終えます。
  
 
 
 
 
資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託
 
 の意義
 
 
 
 資産凍結回避目的福祉型家族民事信託は、資産所有者が認知症発症等により判断能力(意思能力)を喪失した場合に備え利用し、資産所有者が死亡した段階で役割を終え、遺産である信託資産の帰属先を信託契約で定めた規定に従って承継させますが、この遺言代用目的福祉型家族民事信託は、当初の資産所有者(当初受益者=第1次受益者)が死亡した後の事を想定し、第2次受益者を信託契約の中で指定しておき、その第2次受益者が死亡した段階で、資産凍結回避・遺言代用目的福祉型家族民事信託を終了させるところに違いがあります。
 
 この類型は、個別の事情や事実関係を前提とした資産所有者に、どのような想いや願いがあるかによって、その活用方法である設計趣旨は異なりますが、要は資産所有者が抱える現行制度の遺言では達成できない問題を打開し、本来の存在意義である信託の受益者(第2次受益者やその後の第3受益者等)の権利擁護が図れるところに大きな意義があります。
 
 本件事件では、妻Bの安心した生活の実現という資産所有者であるA氏の想いを実現し、願いを叶えるために遺言代用目的福祉型家族民事信託を採用しています。
 
 このように、資産凍結回避目的福祉型家族民事信託と同様に遺言代用目的福祉型家族民事信託は、現行の法制度だけでは不十分な部分を補完して、十分な能力を発揮させる法制度補完効果があり、本件事件でも身上保護は任意後見制度、特定の資産管理は福祉型家族民事信託によって依頼者の想いを実現し、願いを叶える事ができるのです。
 
 
 
 
福祉法務の世界
 
 
 
●福祉法務の必要性
 
 資産凍結回避目的福祉型家族民事信託は、特定の資産の管理及び財産の承継方法です。人は「身体(Body)」、「精神(Spirit)」、「財産(Property)」の三要素からなるとの考え方があります。 特定の資産の管理には民事信託が適しています。しかし、人は資産管理だけでは成り立ちません。普段の高齢者等の生活や高度な法律上の行為、つまり、日用品の購入や高齢者施設入居のための契約行為等は、民事信託の射程外になります。そこで、機能するのが任意後見制度です。任意後見人は被任意後見人の代理人として高度な法律上の行為をする事ができます。
 
 すなわち、高齢者等の日常の生活や高度の契約行為は、任意後見人に任せ、特定の資産管理を民事信託で行うという構造的解決策が有効となってきます。現に、現在は、一つの法律的施策で全てを賄うという考え方から、高齢者等の日常から資産管理、そしてそのご家族のための方策として、福祉的施策の体系的な解決方法、福祉法務が求められています。
 
 
 
●福祉法務からのアプローチ
 
 福祉法務(相続法務)は、高齢者等の本人の生前から相続開始後までを法律実務の対象と捉えて、次の各施策を展開しています。
 
 
▼生前期
 
 〇生前整理
 
 これは、ご本人で行うものです。後に遺された人のために、遺品となる物品や口座情報、保険情報等第三者では判らない、また見落とす恐れのある事柄を整理し、解り易すくまとめて置く作業です。残された人は、ご本人が何を考え、どのようにして欲しかったのか、遺品はどのようにして欲しいのかをまとめます。まとめた結果をエンゲージメントノート(エンディングノート)に書き記しておく事も有効です。
 
 〇見守り契約
 
 高齢のため体が不自由であったり、認知症の発症が懸念される方のために信頼できる第三者との間で見守り契約を締結する方法です。定期的な連絡をする事により、急な健康上の変化等に的確に対応する事により大事を防ぎます。
 
  〇財産管理委任契約
 
 高齢者が認知症の発症に備えて、信頼できる第三者との間で本人ができない財産管理を代わって行います。この財産管理方法は、通常の委任契約になりますので、金融機関等一部の相手方には、ご本人の意思が明確にされた委任契約である事を証明しなければならない場合もあり、公式には利用しずらい面もあります。ごく私的な親族間で利用できる事が期待できます。
 
 〇任意後見制度
 
 任意後見契約法という法令に基づいた公式な契約です。この契約は、本人が元気な間に信頼できる第三者との間で任意後見契約を締結し、後に認知症等の意思能力が減退又は喪失した段階から効力を生じさせるもので、家庭裁判所から任意後見監督人が選任され開始します。この制度は、本人の身上保護と財産管理の2つの面で役割を果たしますが、利用方法としては財産管理というより、病院や高齢者サービス等法律的な契約が必要な本人の身上保護面で有効に機能する制度になるでしょう。
 
 〇法定後見制度(成年後見制度)
 
 任意後見制度の対照的制度がこの法定後見制度です。本人が元気なうちに任意後見契約を締結しなかった場合、何らかの方法で社会生活を保障しなければならない事から身上保護及び財産管理の両面で本人を支援する制度になります。この制度も法定後見監督人の選任が必要とされる場合があり、また法定後見人自身も本人が選定した者ではないため、元気な頃の本人の考え方や家族との関係等、法定後見人に対し、家族が不信感を抱く場合もあり、制度的拡がりが見られない状況も指摘されています。その反面、法定後見人は、身上保護と財産管理の2大使命がありますが、その中で特に財産管理では、必ずしも本人の家族の意に沿わない法律的判断が求められる場合もあります。この法定後見制度自体は、元々家族とは一定の距離を保たなければならない権利擁護という厳しい基本理念を持つ制度だからです。この制度は、法制度的には本人の意思やその家族の気持ちを前提とせず、家族等からの申立てにより初めから家庭裁判所が関与する制度で、本人の意思能力が減退又は喪失してしまった後に、本人を守る最後のセーフティーネットという捉え方もできるでしょう。
 
 〇目的別福祉型家族民事信託契約
 
 今最も注目を集めている資産管理方法です。現行の法令の補完や法制度を全て適用しても叶わない想いや願いを実現する最先端の法技術です。大きな特徴は、現在の思いと将来の願いの達成に必要な法律的問題を公的機関の関与無しに、自分と大切な家族だけで法律的に解決できる方法です。本人の意思の尊重理念に基づく家族という掛替えのない人達を守るための方法であり、その意味で法定後見制度より優位であり、任意後見制度に対しては、資産管理の面で特に優れている方法と言っていいでしょう。
 
 〇遺言
 
 相続は「争続」と言われるように、家族によっては難航する場合があります。精神的に安心し、明日への願いのためにも遺言をしておく事はとても有効です。法令の改正により、不動産等登記登録が必要な財産を所有している方は、遺言自筆証書より遺言公正証書の方を選択する事が優位になりました。
 
 〇遺言執行者指定
 
 本人の死後の事実上の代理人を遺言で指定しておきます。大切な遺言の執行はこの遺言執行者が責任を持って行います。遺言をする場合は、必ず遺言執行者を指定しておく事重要です。折角作成した遺言も執行する時は本人はいません。相続人の誰かが遺言執行的に手続きをする事は、他の相続人にとって不信感を招く恐れもあり、「争続」を避けたつもりが、大きな争い事に発展してしまう恐れがあるからです。
 
 〇死後事務委任契約
 
 亡くなった後の色々な手続きを「死後事務」といいます。遺言書では遺せない遺志を第三者との間で契約し、死後に契約通りの手続きを行います。
 
 〇死後事務委任目的福祉型家族民事信託
 
 死後事務で継続的事務がある場合等に有効です。
 
 〇エンゲージメントノート(エンディングノート)
 
 一般にエンディングノートと言われている者です。当事務所では、エンゲージメントノートと名付けています。具体的な財産の配分ではない、自分の日常の思いや考え、家族に対する思いや希望、財産に関する個人的管理方法等を書留めておくものです。
 
 
▼相続開始後
 
 〇遺言執行(財産目録)
 
 生前に作成された遺言の基づいて、被相続人の信頼できる第三者が責任を持って遺言を執行します。遺言執行者は、文字通り「遺言を執行する者」ですので、遺言の存在が前提になります。遺言を作成していない場合や遺言で遺言執行者を指定していない場合は、基本的に遺言執行者を観念できませんので注意が必要です。
 
 〇死後委任事務の履行
 
 遺言の内容にはならない身の回りのその他の事務手続きを、生前に契約した信頼できる第三者が行います。死後委任事務の契約で依頼する相手は、できれば遺言執行者が良いでしょう。遺言執行と死後事務はほぼ同時期に行うもので、遺言執行者も本人の事情を知っている事から、適切に死後委任事務を行う事が期待できます。
 
 〇死後事務委任目的福祉型家族民事信託の発効
 
 特定の財産がある場合、独世帯で暮らしている方の死後の葬儀、埋葬、先祖代々の墓地の管理や先祖供養等の死後事務を確実に行いたいといった希望を実現する信託です。死後事務委任契約という一般的な方法も有りますが、この場合、墓地の管理や先祖供養という継続的な死後事務があるため、スポットで機能する通常の死後事務委任契約では困難な場合があり、相続人ではない遠縁の信頼できる親族等に自身の財産を信託し、その財産で目的を達成しようとするスキームになります。超高齢社会の中で今後の必要性も増すのではないかと考えられます。
 
 
 
●自分に合った解決策
 
 「福祉法務」の様々な法律的解決策は、その全てが有効な方法であり消去法で、できれば不要な物だけを取除き、その他の全てを利用して頂く事が良いでしょう。しかし、積極的に特定の解決方法を選んで利用する事も差支えありません。
 
 いずれにしても、利用する場合は、有効に役立つように選択する事が大切です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 いかがでしたでしょうか。
 
 
 
 今回のニュースレターは、高齢者等の本人の生前の財産管理を中心にしたテーマでした。資産凍結問題は、人の生前死後別々の原因で起こる現象です。
 
 
 
 福祉型民事信託の中で、資産凍結回避目的福祉型家族民事信託は、人の生前に起こる資産凍結問題に対策する代表的基本類型です。
 
 
 
 資産凍結回避目的福祉型家族民事信託は、超高齢社会の中で、確実に自身の資産を管理できる事裁判所等の公的機関の関与無しに利用できる事民事信託の設計内容は自身で自由に設定できる事大切なご家族のためにも有効である事等、画期的な法技術である事をご理解頂けたのではないでしょうか。
 
 
 
 この機会に、福祉型家族民事信託に関心を持って頂き、ご自身やご家族のための法律的対策をご検討されてはどうでしょうか。
 
 
 
 福祉型家族民事信託のご相談は、民事信託法務を専門分野又は取扱分野としている法務事務所の司法書士にして頂く事をお勧めします。 
 
 
 
 
 
 
 
願いが叶う画期的な法技術 民事信託で明日への希望を
 
 
 
 
 
 
 
※司法書士は、法律問題全般を扱う身近な暮らしの中の法律専門実務家です。
 
 
 
 
(2021年11月1日(月) リリース)