【ニュースレター2021 ➊ 福祉・相続法務】
相 続 法 務 遺 言 執 行 者
あなたの死後の代理人 遺言執行者
-遺言執行者と生前整理・相続対策の体系的取組み-
ニュースレター2021福祉・相続法務の第1回は、遺言の執行に重要な役割を果たす遺言執行者とはどういう者か、そして具体的な仕事内容について、また相続法務の総合的取組みにつて取上げます。
ご本人の遺志が叶うようにするための遺言はとても大切です。しかし、この遺言を執行する人の事を忘れがちになってはいないでしょうか。遺言書は、生前に作成する事はできますが、その遺言書で遺した遺志は誰が実現するのでしょうか。
遺言書がその効力を発揮する時は
もう遺言書を作成したご本人はこの世に存在していない
遺言書の作成だけでは不十分なのです。この事の重要性がハッキリと理解されていない方が多いのではないでしょうか。
遺言書の作成 = 不十分
そこで大事になって来るのが「遺言執行者」です
遺言執行の局面は、遺言書を作成したご本人が存在していない段階での話になります。
遺言書 = 生前
遺言執行 = 死後
遺言者の遺志を貫徹させるためには、どうしても生前と死後をセットで考えて、備えておく必要があります。
遺言書作成 + 遺言執行者指定 = 必要条件
今回のニュースレターでは、具体的に遺言を執行する遺言執行者とはどのような者か、そして、相続法務の定型的な取組みについても触れます。
是非、ご覧下さい。
■我が国と高齢者
●日本は世界一の高齢化社会
2020年(令和2年)7月1日現在(確定値)では、日本の総人口は、1億2,583万6,000人となっています。
その中で、65歳以上人口は、36,115,000人で,前年同月に比べ増加 (314,000人 (0.88%)となっています。
(総務省統計局 「人口推計(令和2年(2020年)7月確定値,令和2年(2020年)12月概算値)(2020年12月21日)公表」より)
2020年9月15日現在の高齢者の人口の総人口に占める割合は28.7%と過去最高になっています。また、日本の高齢者人口の割合は、世界で最高との事です(201の国・地域中)。そして、2040年には、35.3%になると見込まれています。
2020年の高齢者の総人口に占める割合を比較すると、日本(28.7%)は世界で最も高く、次いでイタリア(23.3%)、ポルトガル(22.8%)、フィンランド(22.6%)等となっています。
(2019年(令和2年)9月2日 統計トピックスNo.126 統計からみた我が国の高齢者 -「敬老の日」にちなんで- 総務省統計局 報道資料より )
●何故、遺言書が必要なのか?
▼相続に関する法的争いの実情
まず、全家庭裁判所での遺産の価格別遺産分割事件は次の通りとなっています。
すなわち、2019年(令和元年)の遺産の価格別統計では、
1,000万円以下 → 33.88%
1,000万円超から5,000万円以下 → 42.87%
に対し、遺産の価格が
1億円超から5億円以下 → 6,78%
5億円超 → 0.58%
と圧倒的に遺産分割調停・訴訟の対象となった遺産の価格は、5,000万円以下の事件が多い事が判ります。
つまり、2019年に遺産の価格で法的争いが生じた価格は、
5,000万円以下の事件 → 76.75%
が
1億円超の事件 → 7.36%
を凌駕しいおり、遺産の大小と遺産分割における法的紛争とは無関係である事を示しています。
そして、この傾向は、2019年(令和元年)だけでなく、毎年同じ傾向を示しています。
尚、この数値は、遺産の価格の算定が不能であった事件及び分割をしなかった事件は除かれています。
(裁判所 司法統計 「家事令和元年 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く) 遺産の内容別遺産の価額別 全家庭裁判所」より)
相続の争いは、相続財産の大小ではなく、相続人間の感情的又は平等意識から発生している事を理解する必要があります。
▼少子高齢化の加速と認知症
2020年9月15日現在の日本の高齢者の総人口に占める割合は28.70%になっています。そして、2025年には30.0%、2040年には35.3%に達すると推計されています。
つまり、現在は4人に1人、近い将来は3人に1人が高齢者になる事になります。
(国立社会保障・人口問題研究所 「日本の将来推計人口 (平成29年推計)」より)
また、高齢者の認知症有病率の推計では、2025年には20%で5人に1人、2040年には24.6%と4人に1人の割合で認知症の方が増加する推計も出されています。
(内閣府 「平成29年版高齢社会白書(概要版)」より)
▼少子高齢化社会が直面する相続問題
超高齢社会は、平均余命と健康寿命との関係で、非常に困難な状況に直面します。
つまり、高齢化とは、人間の寿命は昔に比べ長生きしますが、その健康期間の後に訪れる高齢期間の間に人は何らかの病と暮らす事になります。すなわち、「高齢化」とは、健康であった期間の後に何らかの病と一緒に暮らす期間という意味であるといってもいいでしょう。
この病の中に、認知症等の認知障害があった場合、法律的行為ができなくなってしまいます。また、認知症にならなくても身体の介護状態になる可能性もあります。
この場合、少子高齢化社会の中で、問題となるのが相続です。
つまり、高齢化し遺言者が認知症になった場合、遺言ができないという事です。
▼単独世帯(いわゆる「お一人様」世帯)
単独世帯との関係では孤独死と孤立死の問題があります。
孤独死とは、家族や友人等誰も気づかれる事なく一人で死んでいく事です。
孤立死とは、一人でなくなったかどうかではなく、社会的に孤立した状態で亡くなり、死後発見される事です。
単独世帯の割合は、2020年(令和2年)に35.74%、2030年(令和12年)には37.86%、2040年(令和22年)には39.29%と5人に2人が孤独死や孤立死になる可能性のある単独世帯になると推計されています。
(国立社会保障・人口問題研究所 「日本の世帯数の将来推計(全国推計)2018(平成30)年推計」より)
家族がいない、社会から孤立しているような場合、自身の思いや遺産を託す人がいません。
つまり、遺言書で最後の遺志を表示する以外に方法は無いのです。
■遺言書と遺言執行
●遺言書及び遺言執行者が必要な場合
何故、遺言書や遺言執行者が必要になるのでしょうか。
それでは、具体的な場面で検討していきましょう。
▼遺言書が必要な場合(遺産分割協議難航又は困難=法律上の理由)
何故、遺言書が必要になるのでしょうか。それは、遺産分割協議が難航する場合や困難な場合があり、これらは法律上の原因から支障を来たすために遺言書が必要になります。
〇前妻との間に子供(相続人)がいる場合です。
〇相続人が高齢又は認知症、知的障がいの場合です。
〇相続人の中に行くへ不明者がいる場合です。
〇相続人間の仲が悪い場合です。
〇相続人の中に未成年者がいる場合です。
〇遺言で認知する場合です。
〇遺言で相続人の排除やその取消しをする場合です。
▼遺言執行者が必要な場合(遺言執行難航又は困難=事実上の理由)
これに対し、遺言執行者が必要な場合は、遺言書が存在しなくても法定相続や遺産分割により相続自体は問題ありませんが、現実に相続人に遺産を分ける時にその手続きが難航する場合や困難な場合があり、これは事実上の原因から支障をきたすためにその相続分や遺産分割協議に従って遺産を分ける役割のある者が必要になるからです。
〇相続人が遠方に居住している場合です。
〇前妻との間に子(相続人)がいる場合です。
〇相続人が高齢又は認知症、知的障がい等の場合です。
〇相続人間の仲が悪い場合です。
〇遺言で認知する場合です。
〇遺言で相続人の廃除やその取消しをする場合です。
〇相続人が不存在で、遺言で遺贈をする場合です。
●何故、遺言執行者が必要なのか?
このように、遺言書を作成しただけでは、最終的な目的は達成する事はできません。遺言書の作成で満足してしまう原因は、次のような事が考えられます。
つまり、
遺言書 = 生前
遺言執行 = 死後
という理解がされていない事が挙げられます。
すなわち、
折角遺言書を作成しても、実際にその遺言通りの遺志を遂げる局面では、当人である本人の遺言者はこの世に存在していないという事です。
これは、例え遺言書を公正証書で作成しても避ける事ができません。
遺言を考える場合、必ず、自分の生前と死後の事をセットで考える事が必要になります。
遺言書と遺言執行者の指定はセット
という事をこの機会に是非、認識して頂ければと思います。
■遺言執行者
●遺言執行者とは
「遺言執行者」とは、「遺言を執行する者」です。法律的には、次の規定になっています。
民法第1012条(遺言執行者の権利義務)
第1条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
民法第1015条(遺言執行者の行為の効果)
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
遺言執行者は、特定の相続人や受遺者のために存在するのではなく、亡くなった人の遺言の内容、つまり、遺言者の真実の遺志を実現する事をその使命としているのです。
遺言者が愛する妻や子供のために遺言書を書いたとしても、実はそれだけでは完結せず、遺言者の亡くなった後に誰かがその内容を実現する行動を実際に起こさなければならないのです。
●遺言執行者の存在意義
遺言執行者の存在意義は、2つあります。
▼法律上の存在意義
遺言者にとって、一部の相続人の思惑や遺言書の紛失等の不慮の事故により「遺言書の内容がその通りに実現されない」という事態を回避するために存在しています。
▼事実上の存在意義
相続人にとって、大切な人の死を前に、親族間の連絡や葬儀の手配等で心身共に困難な状況の中、更に戸籍事項証明書を揃えたり、預貯金手帳を基に金融機関等被相続人の金融資産の調査、更には司法書士や税理士等の相続関係の専門実務家を探したりする事の心労は大きなものが有ります。このような事務を代行してくれるのが遺言執行者です。
●遺言執行者がいないと
▼法律上の支障
遺言執行者がいないと、遺言者が折角遺言書を遺したとしても、その大切な遺言書が発見されない事態になる可能性があります。また、例え、相続人の一人が遺言書を発見したとしても、自分に不利益な内容であった場合、誰にも見せないで存在しなかった事にしてしまう危険性もあります。更に、遺言書の内容を実現する事に対する妨害行為をする相続人が現れた場合も困難な状況になります。
▼事実上の支障
相続人が多忙や海外に居住していた場合、自治体の役所や登記所、金融機関の窓口での相続手続きができないといった事があります。また、相続人間の事情により、全体としての遺言の内容を実現するための指揮者がいないという事態があります。
●遺言執行者のみができる事
遺言の内容により、遺言執行者のみが法律上できる事があります。次の内容を遺言する場合は、注意が必要です。
▼相続人の廃除や排除の取消し。
▼認知
●遺言執行者による遺贈の執行
遺贈とは、遺言によって遺産を贈与(無償で譲渡す)する事をいいます。遺贈には、次の通り3種類あり、各々で遺言執行者はその職務を果たします。
▼包括遺贈
遺産の全部又は一部の割合を示して遺贈の対象とする事です。
全部が遺贈の対象の場合は、遺言執行者が受遺者宛に権利義務の承継手続きを行います。
遺産の一部の割合を示して遺贈対象とされた場合は、相続人と包括受遺者との間で遺産分割協議が行われるまでの財産管理が遺言執行者の職務範囲となります。
▼特定遺贈
具体的な財産を示して遺贈の対象とする事をいいます。遺言執行者が受遺者宛に目的遺贈遺産の移転手続きを行います。
▼負担付遺贈
受遺者がペットの飼育等の負担をする事を条件に遺贈する事です。受遺者がその負担を履行しない場合は、家庭裁判所にその負担付遺贈に関する遺言の取消しを求める事ができます。
●祭祀承継者の指定
祭祀承継者とは、祭祀財産(系譜、祭具及び墳墓等)を承継する者をいいます。遺言で祭祀承継者の指定がなされた場合、指定された人がこれらの財産を遺言者から引継ぐ事になります。
尚、遺骨は遺産分割の対象となる遺産ではなく、祭祀承継者が引継ぐ祭祀財産の一種だと解されています。
●遺言執行者の職務(仕事)
それでは、相続人にとって、遺言執行者は具体的に何をするのでしょうか。遺言執行者の職務、つまり、仕事の概要は次の通りです。
▼遺言書の確認(遺言公正証書以外の方式の遺言書の場合は、家庭裁判所での検認手続を経る必要があります。)
▼戸籍事項証明書の取寄せとそれに基づく相続人の確定。但し、戸籍事項証明書自体の取寄せは、相続人がする場合もあります。
▼指定遺言執行者の就職又は辞退の通知
▼各相続人宛の遺言書の内容の通知
▼遺産目録の作成及び交付
▼遺言書の内容に従った遺産の具体的な分配手続きの指揮
▼遺言執行者職務終了の通知
●遺言執行者の相続人との関係における義務
遺言執行者と相続人との関係は、法律上の委任契約における受任者と委任者の関係となります。そして、次の通り、その法律上の委任契約に基づく相続人に対する遺言執行者の義務及び権利があります。
▼遺言執行者の善管注意義務(遺言執行者として通常期待される水準の能力を発揮して誠実に職務を行う義務)
▼相続人の求めに応じて、いつでも職務の状況を報告する義務
▼職務終了後に遅滞なくその経過及び結果を報告する義務
▼職務遂行に当たって得た金品や債権がある場合には、遺言書の内容に従って相続人に引渡す義務
▼職務遂行に当たって支出した実費がある場合には、相続人に請求することができます。
●遺言執行者の指定
これまで記載してきました遺言執行者ですが、どのような方法で依頼する事ができるのでしょうか。遺言執行者の指定方法は次の通りです。
遺言執行者は、その名の通り、「遺言を執行する者」です。すなわち、遺言の存在を前提とするため、そもそも遺言自体が存在しない場合は、遺言執行者を観念できません。遺言執行者が必要となる場合は、故人が法的に有効な遺言書を遺して亡くなったときのみになります。執行すべき遺言書の内容が無い場合には、そもそも遺言執行者が就職する事はありません。
▼遺言で遺言執行者を指定する
▼遺言で遺言執行者を指定する人を指定する
●遺言に遺言執行者が指定されていないとき、又は遺言執行者が不存在になったとき
遺言執行者がいない場合は、利害関係人(相続人、受遺者等)が家庭裁判所に遺言執行者選任審判を申立てる事ができます。この場合、申立人が遺言執行者の候補者を指名する事も可能です。
●遺言執行者は必ず遺言内で指定
このように、遺言と遺言執行者とは別々の概念ではありません。法律上も事実上も一体となる構成になっています。
そして、遺言は遺言者の遺志の表明であり、遺言執行者はその故人が遺した遺言の内容を実際に実現するための者です。
従って、遺言書の作成の段階で、遺言執行者も同時に検討する事になります。
遺言書と遺言執行者はセット
●遺言執行者になるための資格は
遺言執行者に就職するために司法書士や弁護士、行政書士等の特別な資格は必要ありません。次の者を除き、誰でも就職する事ができます。但し、これまで見てきたように遺言執行者を誰にでも依頼する事は事実上困難でしょう。できれば、法律専門実務家が適しているのではないでしょうか。
▼未成年者(2022年(令和4年)4月1日より未成年者は18歳未満となります。)
▼破産者
●相続に関する重要な法改正
2018年(平成30年)7月6日民法の相続法改正、2019年(令和元年)7月1日施行により、次の通り遺言執行に関する重要な規定が変わりました。
▼相続不動産に関する相続の効力に関する改正
遺言での相続分を超える遺産の取得では、登記をしなければ相続人は自分の遺産である事を第三者に対抗できない事になりました。この改正により、今後は、相続分を超える遺産を取得した相続人の持分は、その登記をしなければ自分の相続財産である事を第三者に対抗する事ができなくなりました。
例えば、相続人が遺言執行の妨害行為をした場合、従前は当該行為は誰に対しても無効を主張できましたが、今回の改正で、遺言執行の妨害行為があった場合でも、第三者に対しては、その妨害行為が無効である事を対抗できない、つまり、第三者との関係では法律上有効として扱われる事になり、遺言上の相続人の権利を実現する事ができなくなったという事です(民法第1013条第2項)。
このような事が起きないようにするためにも、法律専門実務家を遺言執行者に依頼しておいた方がトラブル回避のためには有効です。
▼相続財産の中の預貯金がある場合
最高裁平成28年12月19日決定以前は、多くの金融機関は遺産分割前であっても共同相続人が単独で預貯金の払戻しを求めてきた場合には、その共同相続人の法定相続分については払戻しを認めてきました。
しかし、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当」とする、平成28年12月19日付けの最高裁判所の決定により預貯金が当然には分割されないとの判断に変わったのです。
これにより、最高裁判所での決定を受けて、平成29年以降、銀行等の金融機関が口座名義人の死亡した事実を知ると、すべての口座は一旦凍結されるようになりました。これが世に言う相続に関する「財産凍結」問題です。
そのため、この問題を解決すべく、遺産分割の公平性を図りつつ、現実的な需要に対応するため、2018年(平成30年)7月6日に法改正がなされ、2019年(令和元年)7月1日施行の次の制度になりました。
遺言でその預貯金を相続しない事になっている共同相続人がこれらの行為をした場合、故人の遺言書の内容を実現できなくなる恐れがあります。このような問題にも対処するため、できるだけ法律専門実務家を遺言執行者に選定する事が賢明であると思います。
〇遺産分割前における預貯金債権の行使
他の共同相続人の合意等を得なくても、共同相続人は各金融機関に対して最大150万円まで、単独で預貯金の払い戻しを受けることができるようになりました。この法的性質は、共同相続人の(準)共有財産である払戻請求権に対して、各々の共同相続人が単独で行使できることを認めたものと解されています。(民法第909条の2、民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令)
〇遺産の分割の審判を本案とする保全処分
家庭裁判所は預貯金に限定して仮払いの必要性があると認められた場合は、他の共同相続人の利益を侵害しない範囲で、預貯金の全部または一部の仮払いを認めることができるようになりました。 (家事事件手続法第200条第3項)
●遺言執行者と他資格者や業種との連携
相続財産には、不動産、預貯金、有価証券、現金、ペット等様々な種類があります。特に、相続税が問題となる場合は税理士、共同相続人間の法的紛争が予想される場合は弁護士、不動産が相続財産の中にある場合は司法書士、紛争性が無く、遺産に不動産が含まれていない場合は行政書士との連携もあるでしょう。因みに、相続財産の約40%強を不動産が占めていると言われています。この意味でも、予防法務では司法書士が親和性が高いと言えるでしょう。このような遺産の種類に応じて、遺言執行者は適宜他の資格者や業種との連携を図っていきます。
■相続法務
●相続法律実務からの体系的取組み
遺言と遺言執行者をキーに記載してきましたが、このニュースレターでも冒頭に示したように、
遺言書作成 + 遺言執行者指定 = 必要条件
は、基本となる組合わせになります。
更に、少子高齢化社会や核家族化の進展に伴い、遺産を残す人とその遺産を受継ぐ人との間の関係には、各々の事情に合せて対策が用意されています。
ここでは、相続法律実務からの体系的取組みの概要をご紹介します。
▼エンゲージメントノート(エンディングノート)
ご本人の家族等に対する思いや財産について、記載するノートです。このノートには、遺言では語り尽くせない後世に受継げさせたいものを記述します。
故人が家族等に遺すものは財産だけではありません。自身の生き様や信念、信条等お金に換算できるものより大事なものであり、それはプライスレスがあります。
家族に対する自身の気持ちを書き留めるノートとして活用されています。
当事務所では、エンディングノートというノートはありません。あるのは、家族に対する「愛情」、「思いやり」といった本人と家族との絆としての意味であり、本人自身が積極的に家族と結びつくためにする「エンゲージメントノート」です。
▼生前整理
故人の財産がどこにあるのか、また幾つあるのかといった事が残された家族にとって障害となる事が想定されます。気が付かない預金口座やデジタル資産等、家族といっても第三者にとっては不明な点ばかりです。
生前整理は、このような問題を自身で事前に整理し、解決しておくためのものです。
因みに、「生前整理」と対義語は「遺品整理」になります。
▼遺言書作成(遺言執行者の指定)
相続が「争続」にならないために、遺言書を作成する事が大事です。争続の原因となる遺産分割協議を省略でき、法定相続分に無関係に遺言者は遺産を相続人に承継させる事ができます。また、遺言は、法定相続人ではない人に自身の遺産を承継させる事さえも可能になる法律上とても強い効力のある行為となります。そして、自身の遺産を死後に確実に承継できるよう遺言執行者を指定しておく事が重要であり、必要です。
▼遺言執行者
遺言の際、遺言執行者を指定しておき、遺言者の最後の遺志を、自身が亡くなった後に、遺言者の事実上の代理人として、責任を持って誠実に執行します。
▼死後事務委任契約
亡くなった後の様々な手続きを「死後事務」といいます。
死後事務委任契約の内容は、自治体役所への死亡届等各種届出、葬儀、納骨、遺品整理、預貯金解約、不動産名義変更、保険金請求、住居引渡しまでの管理、公共料金の解約手続き、住民税や固定資産税の納税手続き、パソコン・携帯電話の情報抹消手続き。遺品整理、車両の売却・廃車手続き、ペットの引渡し等々の手続きを事前に受任者との契約によりしておく事です。
この契約は、遺言執行者の指定との関係で親和性があり、同時に行われる事も少なくないでしょう。 その意味で、遺言執行者が兼任する事も一つの方法です。
▼死後事務の履行(遺言者の社会関係及び遺品の整理等)
生前に本人が契約した死後事務委任契約の履行の局面です。
▼遺言の執行
遺言書を作成した際に、遺言執行者に指定された遺言執行者が遺言書の内容を責任を持って誠実に執行します。
●生前整理と相続対策の必要性
相続で問題となったり、争いが生じたりする原因は、遺産の大小ではないという事。それは、少子高齢化社会や未婚率の増加、核家族化による孤独死・孤立死、また親子の高齢化、更には法制度や人々の意識の変化によって起こる争族等様々です。
自身が想像しているより複雑な現実もあります。
しかし、現在、このような背景の下、様々な法律事務からの取組みが用意されています。
そして、その相続対策の要が遺言書と遺言執行者の指定です。
遺言書の作成と遺言執行者の指定を基本に、この機会に、是非、生前整理と相続対策も体系的に検討してみてはいかがでしょうか。
いかがでしたでしょうか。
遺言書を作成すると長生きすると言われています。
人は、終わりを考えたくありません。だから、考える必要もないと思います。永遠に自身の人生を謳歌したいと思うのは自然な事です。
そのためには、しなくてはならない事があります。人生を今後も謳歌するために。
遺言書 そして遺言執行者の指定
それは 遺言者の安心と明日への願いの実現のために
※司法書士は、法律問題全般を扱う身近な暮らしの中の法律専門実務家です。
(2021年6月1日(火)リリース)
