ニュースレター2021 ❺ 福祉・相続法務
  
 
 
福 祉 ・ 相 続 法 務
 
福 祉 法 務
  
法 定 後 見 制 度
 
入  門
 
ー 超高齢社会を支える高齢者等のための最後のセーフティネット ー 
  
 
 
 
 ニュースレター2021の第5回福祉・相続法務は、超高齢社会を支える高齢者等のための最後のセーフティネットである法定後見制度に焦点を当てます。
 
 聞いた事がある方も多いと思われます法定後見制度ですが、この制度は何のために制定されたのか、どのような制度なのか、そして利点、欠点は何か、何が問題なのかについてその要説を概説します。
 
 色々な分厚い専門書や実務書が有りますが、今回のニュースレターをご覧になって頂ければ、この法定後見制度の一応の概要はご理解頂けるのではないでしょうか。
 
 今回は、高齢者ご本人、そのご家族にとってとても大切な内容になりますので、是非ご覧下さい。
 
 
 
 
 
 
<CONTENTS>
 
 
 
■法定後見制度の制定
 
■法定後見制度
 
■法定後見制度の実際
 
■法定後見制度の問題
 
■法定後見制度の意義
 
■法定後見制度は最後のセーフティネット
 
 
 
 
  
法定後見制度の制定
 
 
 
●我が国は超高齢社会
  
 「高齢者」とは65歳以上の人をいいます。「高齢化社会」とは、人口に占める高齢者の割合が7%を超えている状態をいいます。そして、高齢化率が14%を超えるとその国は「高齢社会」となり、更に、高齢化率が21%を超えると「超高齢社会」となるのです。
 
 内閣府の平成29年版高齢社会白書によると我が国は、2007年に高齢化率が21%を超え、「超高齢社会」となり、2016年10月現在の高齢化率は27.3%に達し、世界でも非常に高くなっています。現代は、総人口の4人に1人以上が高齢者という事になります。
 
 
 厚生労働省の発表によると、現代社会は、超高齢社会になっています。認知症である高齢者は400万人とも500万人とも言われ、その懸念のある方々は400万人と推計されています。そして、内閣府の平成29年版高齢社会白書によると、団塊の世代が75歳に達する2025年には、700万人が認知症患者と推計され、その年の65歳以上の高齢者人口の約5人に1人に達すると見込まれています。
 
 
現代は超高齢社会
 
総人口の4人に1人以上が高齢者
 
認知症高齢者は400万人とも500万人とも
 
認知症になる可能性がある高齢者は400万人と推計
 
 
2025年には700万人が認知症高齢者
 
高齢者人口の約5人に1人に達すると見込まれる
 
 
 
●この社会で認知症高齢者に起こる困難
 
 我が国は、高齢化社会でも高齢社会でもなく超高齢社会です。今まで経験した事のない社会が到来しました。人々は皆社会の中で仕事をし、生活をしています。その中で、超高齢社会では、いつも当たり前のようにしていた事が困難になる人が出てきます。それは、この国の理念である人権と関わっているのです。この社会で生きている人々には「自己決定権の尊重」という考え方を基礎に、社会生活を送っています。自分の事は自分で決める決められるという当たり前の社会です。しかし、もしこの「自己決定権の尊重」される社会で、自分の事を自分で決められなくなったらどうなるでしょうか。それは、社会生活が今まで通り送れないという事を示しています。
 
 何故、自分の事を自分で決められなくなるのか? それまで当然過ぎて考えもしていなかった事です。しかし、今、この現象が大きな問題となってこの社会に押し寄せているのです。それが「認知症」です。認知症を発症すると、それまで自分で決めて、行動に移せた事ができなくなってしまいます。日常生活で身の回りの事ができないという問題とは別に、人との関係が成立しないという事態になるという事です。それは、社会の中で、他人との関わり合いが困難になってしまう事を意味します
 
 例えば、自宅を修繕するとか、自宅を売却するとか、家族のためにお金を支出するとか、銀行口座から預金を引出すとか、といった多くの事が自分の思い通りにできなくなります。スーパーやコンビニでおかずや日用品を買う事ぐらいはできるでしょう。しかし、誰かと正式に契約をするという場合、その相手方は、自分の契約相手を知るように努め、契約が滞る事なく成立させるために準備をします。その中で、自分の契約の相手方が認知症で判断能力(意思能力)が減退している、又は喪失していると判った段階で、契約は一旦ストップしてしまいます。そして、契約が法律的に適法に行えるように対処した後に、再び契約を続行する事になるでしょう。場合によっては、契約は中止し、その契約相手は別の相手方を探す事になる可能性も十分あります。それは、認知症になっている相手と契約をした場合、後日その契約が無効になってしまうからです。誰もそのような危険な契約を避けるものです。その他、銀行預金でも銀行の口座名義人が認知症により判断能力が無いと判った段階で、銀行はその預金口座を凍結して、預金を引出せなくしてしまいます。銀行としても、判断能力(意思能力)の無い口座名義人の預金が引出された場合、銀行の責任が問われる可能性があるので、そんな危険な口座取引きは銀行は絶対に行いません。
 
 何故、このような現象になるのでしょうか。それは、人は社会生活の中で、2つの関わり合い方をします。一つは、日常生活を成り立たせるために食品や衣類等の日用品を購入する場合です。そして、も一つは、誰かと契約行為をする場合です。前者の場合も契約になりますが、日常生活では少額の金銭のやり取りが頻繁に行われる場合で、例え行き違いが生じても大きなトラブルにはなりずらいと思います。また、例え認知症になっても、その程度によりますが、日用品の買い物程度は法的にも問題視される事は少ないでしょう。しかし、後者の正式な契約行為が必要になる場合は、話が違ってきます。契約をする場合は、法律的拘束力が厳しく働く関係に入る事になるため、契約の相手方が信頼できる相手か、自分で自分の事が決められる判断能力(意思能力)があるか、契約の内容が理解できるか等が前提問題となります。「契約行為」は法律行為です。
 
 つまり、自己決定権の尊重」を理念とするこの社会の中で、非日常的な契約行為(法律行為)を行う場合、自分で意思決定ができない人の暮らしに起こる現象が社会生活の困難性の正体です
 
 
 
「自己決定権の尊重」を理念とする社会の中で
 
自分で自分の意思決定ができない人に起こる現象
 
それが
 
社会生活の困難性の正体
 
 
 
●後見制度制定(禁治産制度から新たな制度へ)
 
 このように、判断能力が減退又は喪失した高齢者等の社会生活上の困難な問題は、どのような解決策があるのでしょうか。
 
 それは、まず高齢者本人の保護です。健常者との関係で、不利益を受けないようにする事が第一でしょう。消費者被害等から高齢者を守る事です。
 
 次に、ただ守るだけでは人間的生活は望めません。高齢者本人が健康であったときのように、健常者と変わりなく日常生活が送れなければ本当に高齢者を守る事にはならないでしょう。
 
 この二つの考え方が所謂齢者の権利擁護になります。
 
 我が国には、明治時代からある本人保護の制度がありました。それが、禁治産制度準禁治産制度です。しかし、この制度は、簡単に言って、財産を守るための制度、すなわち、その方法として本人を社会から隔離して、その財産を守るといった発想から制定されたものでした。確かにこの事により、本人は社会から不当な侵害を受けずに済むでしょう。しかし、本人自体の生きている実感というものは得られず、更には禁治産や準禁治産になると社会から差別的扱いがされ、本人は元よりその家族にとっても居た堪れない状況に陥る事になり、とても障害の多い制度で、現代社会、とりわけ世界的価値観からしたら、到底受容できる制度ではなかったのです。
 
 そこで、批判の強かった禁治産制度、準禁治産制度を廃止して、新たな制度を創設する必要性が出てきました。我が国では1999年の民法改正で従来の禁治産制度に代わって制定され、翌2000年4月1日に施行されたのが、民法に基づく法定後見制度(成年後見制度)と任意後見契約に関する法律に基づく任意後見制度です。
 
 法定後見制度は、任意後見制度との対比から使われる専門用語で、正確な法律用としては成年後見制度になります。このニュースレターでは、任意後見制度との違いを明らかにするため、敢えて法定後見制度という用語を使用します。そして、法定後見制度と任意後見制度を合せて後見制度といいます。
 
 当時、法務省において従来の制度をどのように改革すべきかという問題に停滞しがちだった後見制度制定の議論に拍車が掛かったのは、厚生労働省で議論されていた介護保険制度にあります。福祉サービスの利用に当たって、厚生労働省では行政処分である措置制度から受益者の意思決定を尊重できる契約制度へと移行が検討されていのです(これが所謂「措置から契約へ」)。この制度では、高齢者の介護サービスについては、2000年から介護保険制度の下で利用者とサービス提供事業者の間の契約によるものとされる事となりましたが、ここで認知症高齢者は契約当事者としての能力が欠如している事から契約という法律行為を支援する方策の制定が急務という背景があったのです。
 
 そこで法務省は、成年後見関連4法案を国会に提出し、1999年12月に第146回通常国会において成立させました。その後、政省令の制定を経て2000年(平成12年)4月1日、介護保険法(1997年(平成9年)制定)と同時に成年後見制度は施行される事となったのです。こうした経緯から、介護保険制度と成年後見制度はしばしば「車の両輪」といわれる事があります。
 
 新しい法定後見制度(成年後見制度)の基本理念とは、①自己決定権の尊重、②本人の残存能力の活用(本人の現有能力の活用)、③ノーマライゼーションになります。
 
 
 
 
 <法定後見制度の基本理念>
 
 
自己決定権の尊重
 
 
本人の残存能力の活用(本人の現有能力の活用)
 
 
ノーマライゼーション
 
 
 
 任意後見契約に関する法律の任意後見制度は、広義の成年後見制度の中に含まれるとされ、成年後見制度とは、広義には日本における意思決定支援法制度をいうとされています。
 
 
 
●障害者権利条約の批准と発効
 
 我が国の成年後見制度制定から遅れる事7年の2006(平成18)年12月、「障害者の権利に関する条約」(通称「障害者権利条約」といいます。)が第61回国連総会で採択され、2008(平成20)年5月に発効したのです。障害者権利条約は、障害者の人権や基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進するため、障害者の権利の実現のための措置等を規定し、市民的・政治的権利、教育・保健・労働・雇用の権利、社会保障、余暇活動へのアクセス等、様々な分野における取組を締約国に対して求めています。成年後見制度制定という制度的担保は早かったものの、我が国の成年後見制度は高齢者等に対する具体的人権意識が浅く、必ずしも国際社会から見て相応しい制度とは言えないものでした。
 
 我が国は、この条約の起草段階から積極的に参加すると共に、2007(平成19)年9月28日に署名しました。国内では、条約締結に先立ち、国内の制度改革を進め、「障害者基本法」の改正(2011(平成23)年8月)等様々な法制度等の整備が行われました。そして、2013(平成25)年10月、条約締結に向けた国会での議論が始まり、同年11月19日の衆議院本会議、12月4日の参議院本会議において、全会一致で承認され、2014(平成26)年1月20日、障害者権利条約の批准書を国連に寄託、同年2月19日に我が国についても発効したのです。
 
 
 
●横浜宣言
 
 我が国の成年後見制度と国際社会における障害者権利条約との関係で、重要な役割を果たしたのが横浜宣言」です。認知症や精神疾患等で判断能力(意思能力)が不十分な人を支援する成年後見制度について、法曹関係者らが話し合う世界初の「2010年成年後見法世界会議」が横浜市西区のパシフィコ横浜で開催され、同制度の適切な利用を訴える「横浜宣言」を発表して閉幕しました。同会議は2010年10月2日に開幕、4日に閉幕し16カ国から約500人が参加しました。
 
 日本に関しては、成年後見に関する市区町村長申立ての積極的な実施や後見人が本人の代わりに医療行為に同意できる権利を求めると共に、後見開始決定に伴う選挙権の剥奪等権利制限が多過ぎるとして、現行成年後見法の改正や運用改善を求めました。
 
 また、国連の「障害者権利条約」とハーグ国際私法会議の「成年者の国際的保護に関する条約」の早期批准も日本政府に要望しました。
 
 こうして成年後見法世界会議(2010年10月 パシフィコ横浜)は、成年後見制度の適切な利用を訴える「横浜宣言」を発表し、締めくくられたのです。
 
 我が国では、介護保険制度が1997年に制定され、成年後見制度が1999年(平成11年)12月に制定、共に2000年(平成12年)4月1日に施行されましたが、世界ではこれに遅れる事2008年(平成20年)5月に障害者権利条約が採択され、我が国でも2013年12月4日批准、2014年2月19日に発効しました。
 
 「横浜宣言」は、先行して制定された我が国の成年後見制度に対し、世界標準の理念とは乖離がある事を明らかにし、その改善を求める「横浜宣言」が発表されています。我が国の成年後見制度の重要なキーポイントとなる会議であり宣言であると言ってもいいでしょう。
 
 
 
●障害者権利条約の理念と成年後見制度
 
 その「横浜宣言」の理念を実現しようとするのが、成年後見制度の利用の促進に関する法律 (2016年(平成28年)5月施行、通称 「成年後見利用促進法」です。この成年後見利用促進法に基づき、平成29年3月に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画(計画期間:平成29年度~令和3年度) では、 基本計画の中間年度(令和元年度)においては、各施策の進捗状況を踏まえ、個別の課題の整理・検討を行う事とされています。
 
 成年後見利用促進法は、既存の成年後見制度の利用を単に促進させようとするものではありません。この国の成年後見制度を障害者権利条約の理念に沿うように根本的に改めた上で、その利用の促進を図ろうとする趣旨のものです。障害者権利条約の理念とは、①ノーマライゼーション、② 自己決定権の尊重、③身上保護の重視であり、この理念こそが本来の障害者の権利を守る「本来の理念」という事になるのです。
 
 現在の成年後見制度の問題点の大きな一つは「自己決定権の尊重」にあります。いかにして障害者の意思を汲取り、現実の生活に生かしていくかという問題に対して、様々な議論がなされているところです。
 
 
 
 <障害者権利条約第12条>
 
 
 障害者権利条約第12条「法律の前にひとしく認められる権利」においては、
 
 1. 締約国は、障害者がすべての場所において法律の前に人として認められる権利を有する事を再確認する。
 
 2. 締約国は、障害者が生活のあらゆる側面において他の者と平等に法的能力を享有する事を認める。
 
 3. 締約国は、障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用することができるようにするための適当な措置をとる。
 
 
 
●横浜宣言の意味
  
 障害者権利条約の理念を具現化する方法として、「横浜宣言」では、①社会全体で支える成年後見(地域連携ネットワーク)、②信託の活用が大きな柱になります。
 
 この「横浜宣言」は、障害者権利条約批准前の我が国における在るべき成年後見制度の源泉をなす重要な世界会議であり、成年後見制度利用促進法に基づき、世界の中の日本に相応しい成年後見制度の構築を目指すと共に、信託の活用の推奨を掲げました。
 
 営利を目的としない信託法の利用方法が高齢者施策と相俟って、この頃から急激に話題になり、注目を浴び始めたのが2006年(平成18年)大改正された信託法であり、その信託法に基づく「民事信託」だったのです。
 
 このようにして、この国の障害者施策が明らかになり、現在に至っています。
 
 
 
 
法定後見制度
 
 
 
●法定後見制度の変貌
 
 2000年(平成12年)4月1日に介護保険制度が施行され、従前の「措置」から、利用者自身が介護サービスを選択して「契約」する形へと変更されました。当初、成年後見制度は、判断能力が不十分で契約できない高齢者等を支援し、補完するために導入された色彩が強いものでした。
 
 それが、介護保険制度を補完するだけではなく、本人の財産を適正に管理し、後見人が法定代理人として遺産分割協議や自宅売却等の法的手続きを行い、消費者被害や虐待から本人を守る事等の制度でもあり、更に、障害者権利条約の理念、すなわち、ノーマライゼーション、自己決定権の尊重、身上保護の重視といった本来の理念であるべき真の本人の権利の擁護への頂へと進もうとしています。
 
 もはや法定後見制度は、一部の法定後見人だけが従事する領域から、その地域の行政や福祉分野に精通した専門職等と共に、法定被後見人を中心とした地域社会全体で担う制度へと変貌しつつあります。
 
 
 
●後見制度とは
 
 後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。法定後見制度には、本人の判断能力に応じて①成年後見、②保佐、③補助の3つの類型があります。
 
 任意後見制度は、本人の判断能力が健常なときに、本人が選定した者と任意後見契約を締結し、本人が判断能力が不十分な状態になった時に、任意後見受任者が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立て、任意後見契約を発効させ、任意後見受任者が任意後見人となって本人を支援する制度になります。
 
 
 
●法定後見制度の3類型
 
 高齢者等の判断能力(意思能力)の程度により、次の3類型に分かれます。
 
 
▼被成年後見人
 
 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある者。
 
 ※「精神上の障害」とは、認知症、知的障害、精神障害等、身体上の障害を除く全ての精神的障害を含む広義の概念です。
 
 ※「事理を弁識する能力」とは、自分の行為の結果について、合理的な判断をする能力(意思能力)の事。
 
 ref. 民法第3条の2
 
 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
 
 ※「状況にある」とは、終始意思能力を欠く状態である必要は無く、一時的に意思能力を回復する事があっても、通常は意思能力を欠く状態にあれば足ります。
 
 
▼被保佐人
 
 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者。
 
 
▼被補助人
 
 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者。
 
 
 
●後見開始の審判の手続き
 
 現在、法定後見制度は、その殆どが成年後見になりますので、成年後見の手続きについて記載します。
 
 
▼審判の実質的要件(審判の対象者)
 
 本人が、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある事。
 
 
▼審判の形式的要件
 
 〇申立人
 
 本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、又は検察官、任意後見受任者、任意後見人、又は任意後見監督人、市町村長。
 
 〇管轄
 
 本人の住所地を管轄する家庭裁判所。
 
 
▼後見開始の審判の流れ
 
 〇後見開始の審判の申立て
 
 ↓
 
 〇審判手続き
 
 ↓
 
 〇鑑定
 
 ↓
 
 〇審判
 
 ↓
 
 〇告知
 
 ↓ (2週間)
 
 〇確定
 
 ↓
 
 〇登記
 
 
 
●成年後見人の職務
 
 
▼成年後見人の権限
 
 〇代理権
 
 〇取消権
 
 ※成年後見人の代理権は、法律上の包括的代理権です。個々の法律行為について規定した委任状は不要です。但し、成年被後見人の身分行為(結婚、養子縁組等)については、成年後見人には代理権はありません。
 
 ※成年被後見人の行為は、取消す事ができます。但し、日用品の購入その他の日常生活に関する行為については、取消す事ができません(民法9条)。これは、成年被後見人の自己決定権を尊重するためです。
 
  また、成年被後見人は、基本的に自身のみで完全に有効な法律行為をする事ができません。事前に成年後見人の同意があったとしても、成年後見人が事前に同意をした通りの行為を成年被後見人が単独でする事を期待できないため、成年後見人には同意見はないのです。従って、成年後見人が事前にした同意に基づいて成年被後見人がした法律行為も成年後見人は取消す事ができると解されています。
 
  更に、自身の契約の相手が成年被後見人である事を知らなかった場合でも、成年被後見人の相手方に対し、成年後見人はその契約を有効に取消す事ができます。
 
  更にまた、成年被後見人がした取消す事ができる法律行為は、成年被後見人にとって不利益とならない場合、成年後見人が追認する事により完全に有効な法律行為とする事ができると解されています。
 
 
▼成年後見人の事務
 
 〇財産の管理に関する事務
 
 成年被後見人の財産の現状を維持する行為(保存を目的とする行為)、財産の性質を変えない範囲での利用・改良を目的とする行為(管理を目的とする行為)、財産を処分する行為(財産の売却等財産権の権利変動行為)、一切の法律行為及び事実行為。具体的には、通帳記帳の方法による入出金の確認と必要な費用の支払い、本人の所有不動産の管理、本人の所有不動産等の処分、確定申告その他の税金の申告・納税、その他の各種届出。
 
 〇身上保護(生活、療養看護)に関する法律的事務
 
 具体的には、介護、生活維持に関する事務、住居の確保に関する事務、施設の入退所、処遇の監視・異議申立て等に関する事務、医療に関する事務、教育・リハビリに関する事務等。
 
 介護における介助等の医療・福祉的行為は行いません。
 
 ※医療行為に関する決定・同意
 
 医療を受けるための契約を締結する事は、当然成年後見人の権限に属しますが、医療を受ける事自体については、本人の同意が必要であり、成年後見人には、その同意を代理してする権限(医療行為の同意に関する代理権限)はありません。
 
 但し、①本人に同意能力が無い場合に限り、かつ②病的症状の医学的解明に必要な最小限の医的侵襲行為と③当該医療契約から当然予想される危険性の少ない軽微な身体的侵襲についてのみ、成年後見人が同意する事も可能であると解されています。例えば、健康診断受診及び各種検査受信については、原則として、成年後見に同意・決定権限が認められるものと解されています。
 
 (補足)
 
 現在、新型コロナウイルス感染症による医療逼迫状態が大都市を中心に断続的に発生しています。特に、高齢者医療では、医療逼迫を理由に大学病院や地域の中核的な医療センターの教授や医師が重症化した高齢者に人工呼吸器の装着を断念するようその家族を説得し、同意を求める所謂「命の選別」が行われているという報道がされています。しかし、そもそも高齢者の家族に患者である高齢者に関する医療同意権は無く、同意を求める事自体法律的には無意味で、更に医師は医師法により適切な医療を提供する義務があるため、患者を死に至らしめる蓋然性が高い行為をする事は違法行為であり、家族に対しては強迫行為の他の何物でもありません。
 
 何故、このような行為を医師が行うのでしょうか。医師は、患者の家族に医療放棄の同意を迫る事自体、法律的に無意味である事は承知しており、実は後日家族からの訴えによる訴訟に発展する事を防止するために行っていると考えられます。家族は同意書(承諾書)に署名した事により、自身の権利が消滅したと誤解するためです。しかし、例え、同意書(承諾書)に署名したとしても、家族に医療に関する同意権が無い事に法律上変わりは無く、いつでもその医師に訴訟を提起する事は可能です。患者の家族は、絶対に医療同意書等の「紙」に署名及び押印をしてはなりません。
 
 従って、ある日突然信頼していた医師から、大切な家族に対する死刑宣告のような説明がなされても、絶対に同意(承諾)をしてはなりません。法律上、医師には適切な医療を提供する義務があり、そもそもこの世の中で、死んでいい命と生かすべき命という区別は無く、若者でも高齢者でも、男性でも女性でも、健常者でも障害者でも、誰でも平等にコップ一杯の人権が有るからです。 
 
 
 
●成年後見人の事務の終了原因
 
 法定後見の終了原因は次の通りです。
 
 
▼絶対的終了原因(後見を必要としない状態となる場合)
 
 〇本人の死亡(本人が失踪宣告を受けた時を含む)
 
 〇後見開始の審判の取消し(保佐、補助又は任意後見に移行した場合を含む)
 
 
▼相対的終了原因(後見そのものは終了しない場合)
 
 〇成年後見人の死亡(交代)
 
 〇成年後見人の辞任(交代)
 
 〇成年後見人の解任(交代)
 
 〇成年後見人が欠格事由該当した場合(交代)
 
 〇成年後見人の交代が生じて成年後見人の任務が終了した場合
 
 
 
●成年後見人の報酬及び経費
 
 
▼成年後見人の報酬
 
 成年後見人に対する報酬は、家庭裁判所の審判に基づいて付与されます。1カ月2万円からで、成年被後見人の財産により3万円から6万円までで、一般的には3万円前後ではないでしょうか。
 
 この基本報酬の他に、日常的な身上保護等に関する事務ではない特に、必要な後見事務を行った場合、別途相当額の報酬が必要になります。例えば、遺産分割協議への参加等が考えられます。
 
 因みに、一般的に法律専門実務家等の専門資格者に対し、ある個人の財産管理等のために生じる1カ月の報酬は相当程度の額になり、1カ月3万円前後の額は破格になるでしょう。しかし、成年被後見人やそのご家族からしたら、この出費は大きい事になります。
 
 医療や権利擁護は国民の基本的権利です。その意味では、国民皆保険と同じように「法定後見皆保険」を創設する事も必要になって来るでしょう。誰もが年を取り、誰もが社会生活が困難となる超高齢社会で、将来不安が無く、いつまでも元気で暮らせる社会が難しい理念の話しより大事な事である事は言うまでもありません。
 
 
▼成年後見人の特別報酬
 
 一般的な日常の財産管理や身上保護とは別に、固有の問題で成年後見人が関与した場合は、基本報酬とは別に報酬が支払われます。例えば、遺産分割協議や訴訟等です。
 
 
▼成年後見事務の経費
 
 後見事務を執行するに当たり、成年後見人が支出した通信費や交通費等の実費は、後見事務に必要であり報酬ではありません。これらの経費(費用)は、家庭裁判所の審判を得るまでもなく、当然に、本人の財産の中から支弁されます。
 
 
 
 
法定後見制度の実際
 
 
 
●法定後見制度(成年後見制度)の理念
 
 法定後見制度は、従来からの本人の保護(財産管理を中心とした本人保護)の理念に自己決定権の尊重残存能力の活用(現有能力の活用)ノーマライゼーションといった新しい理念を加え、調和を図るものとして2000年(平成12年)4月1日に施行されました。
 
 
 
●法定後見制度の利用
 
 成年後見制度の各事件類型における利用者数は次のようになっています。
 
 2019年(令和元年)12月末日時点での利用者数については、成年後見の割合が約76.6%、保佐の割合が約17.4%、補助の割合が約4.9%、任意後見の割合が約1.2%となっています。(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見制度の現状」(2020年(令和2年)5月))
 
 
 
●法定後見制度(成年後見制度)の申立ての動機(平成30年)
 
 第1位に預貯金等の管理・解約(42.0%)、第2位に身上保護(20.5%)、第3位に介護保険契約(9.8%)、第4位に不動産の処分(9.3%)、第5位に相続手続き(8.4%)、第6位に保険金受取り(4.0%)、訴訟手続き(2.6%)、その他(3.4%)となっています。(最高裁判所事務総局家庭局「申立て動機別件数(平成30年)」)
 
 
 
●法定後見等に選任される者
 
 法定後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)は、本人や親族等から家庭裁判所に法定後見開始の申立てを行い、家庭裁判所から法定後見開始の審判がされ、法定後見人等の選任がされて始まります。
 
 そこで、法定後見人等には誰が選任されるかでしょうか。本人の親族司法書士弁護士社会福祉士等が選ばれます。つまり、大きく分けて、親族後見人第三者後見人に分かれます。第三者後見人のうち、司法書士、弁護士、社会福祉士を特に専門職後見人等といいます。
 
 法定後見人等と本人との関係別件数(平成31年/令和元年)では、親族後見人が約21.8%、第三者が法定後見人が約78.2%となっています。(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見制度の現状」(令和2年5月))。
 
 尚、後見人等に選任されている内訳としては、親族が19.7%、親族以外が80.3%となっています。また、親族以外の内訳では、第1位に司法書士(37.9%)、第2位に弁護士(26.2%)、第3位に社会福祉士(18.4%)となっています。法定後見制度全体としては、第1位が司法書士、第2位が弁護士、第3位が親族、その他の順になっています。(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和2年1月~12月-」)
 
 
 
●法定後見人等による不正
 
 法定後見人等による不正報告件数は、2014年(平成26年)まで増加傾向にありましたが、2015年(平成27年)以降、不正報告件数及び被害額はいずれも減少しています。
 
 その中で、2010年(平成22年)から2011年(平成23年)までの状況は、不正の95%から99%が親族後見人によるものとなっています。この中には、意図しない不正も少なくありません。不正の代表的なものは横領です。
 
 つまり、法定後見制度において、第三者後見人等は78.2%であるのに対し親族後見人等は21.8%ですが、不正件数では、法定後見制度全体に占める親族後見人等の不正の割合は95%から99%と後見制度は圧倒的に親族後見人等の不正が多い事が解ります。
 
 ここで、法定後見制度に対し、高齢者ご本人やそのご家族の方々が「専門職後見人の横領等の不正が心配で利用を躊躇せざるを得ない」といったご意見をお聞きする事がありますが、実は元々成年後見人の多くは親族でした。しかし、高齢者の親族の横領事件が大きく問題化した事が現在の専門職後見人の起用に繋がっているのです。 
 
 
 
●法定後見人等と本人との関係
 
 2009年(平成21年)から2018年(平成30年)までの統計では、2009年では親族後見人が全体の60%以上を占めていましたが、その割合は年々減少し、2018年には全体の20%余りになっています。(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見人等と本人との関係:第三者後見人と存続後見人の割合」)。
 
 
 
●法定後見制度の利用促進に関する必要性
 
 認知症等により判断能力が低下すると、①預貯金の引出し等、金銭管理が困難になる事、②介護サービスや入院が必要でも契約が困難になる事、③住宅、金融、医療等の全般にわたり支障を来たし、消費者被害、詐欺のターゲットになる恐れがある事が想定されます。
 
 今後、認知症高齢者や単独世帯の高齢者の増加が見込まれる中、法定後見制度の利用の必要性が高まっていきます。一方、法定後見制度の利用者は現在約21.8万人と極端に少なく、必要な人に制度が利用されていない状況が容易に判ります。
 
 法定後見制度の利用が高まらない大きな原因は、社会生活上の大きな支障が生じない限り、その必要性を感じていない事が挙げられます。
 
 現に、法定後見制度の申立ての動機は、第1位に預貯金等の引出しといった管理・解約であり、更には第4位に不動産の処分、第5位には相続手続き、第6位には保険金受取りといった財産管理が占める割合が多く、本人の家族が自身の父親等が当事者となって行う資産管理に直面した時に法定後見制度の必要性を実感するという実態が浮彫になっています。
 
 
 
●法定後見制度における申立人と本人との関係別件数
 
 申立人については、本人の子が最も多く全体の約22.7%を占め、次いで市区町村長が約22.0%、本人申立てが約18.6%となっています。
 
 
 
●法定後見制度と利用者の意識
 
 法定後見制度を利用するタイミングは、高齢者等本人の権利擁護という観点ではなく、高齢者等本人が認知症等による判断能力低下後のその家族の生活上の支障が生じた時点が一番多いという事が実体になっています。
 
 特に、高齢者等本人の家族が生活上の支障を実感する時は金銭的問題が生じた時点です。典型的な例では、高齢者等本人の銀行口座からの預金の引出しです。今まで支障なく行えていた預金口座からの預金の引出しができなくなった時の困難は予想以上のものでしょう。しかし、その時点にならなければ判断能力の低下の問題を理解する事ができないのが実態なのです。
 
 法定後見制度は、高齢者等本人ではなく、その家族が日常生活において、やむに已まれぬ事態に陥った段階で初めてその必要性を理解するのです。
 
 
 
 
法定後見制度の問題
 
 
 
●法定後見制度の利用状況
 
 成年後見関係事件(後見開始,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人 選任事件)の申立件数は合計で37,235件(前年は35,959件)であり,対前年比約3.5%の増加でした。しかし、後見開始の審判の申立件数は26,367件(前年は26,476件)であり,対前年比約0.4%の減少となっています。(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 ―令和2年1月~12月―」)
 
 
 
●本人の親族等と法定後見人との軋轢(あつれき)
 
 法定後見制度の利用の動機は、本人が認知症等を発症した時点での法定後見制度の申立てではなく、高齢者本人が財産の取扱いについて支障が出た際の親族が、その問題を打開するために法定後見制度の申立てを行うという事例がその殆どを占めています。
 
 つまり、法定後見制度の従来からの理念である財産管理における本人保護と新しい理念である本人の自己決定権の尊重、残存能力の活用(現有能力の活用)、ノーマライゼーションの調和を図った本来の理念を果たすための動機から利用するのではなく、最初の動機は本人の親族の生活上の支障が動機となっているという事です。
 
 そのため、例えば、認知症等の高齢者名義の預金口座が凍結され、預金が引出せない状況を打開するために法定後見制度が利用されるという事例が多くあります。
 
 本来の理念とは異なる動機による法定後見制度の利用により、親族の問題が解決した後は、法定後見制度を中止する事ができると考える親族も少なくありません。しかし、法定後見制度は、本来の理念により、本人の権利擁護が趣旨であるため、途中で制度が中止になる事はありません。本人とは合理性の無い親族の都合で、法定後見制度が影響を受ける事は無いのです。そのため、どうしても法定後見人が認知症等高齢者の財産管理を行う上で、不満を持つ親族も一部にいる事になります。
 
 法定後見人は、当初、親族が多く選任されていましたが、横領等の不正行為が後を絶たなかった過去の経緯により、現在は法律専門職が選任される事が多くなっています。
 
 法律専門職である法定後見人の後見事務は、財産管理と身上保護の2つの事務があります。認知症等の高齢者の数が多く、一人の法定後見人が何人もの法定被後見人を担当する事も珍しくありません。法定後見人の日常の後見事務は身上保護になりますが、この後見事務は本人の生活上の困難を解消し、社会から不利益を受けず、円満な日々が送れるようにするためのものです。しかし、この事が毎日本人と会って傍にいなければならないという誤解も親族の中に抱く人もいます。これは、法定後見人には報酬が本人の財産から支払われるため、法定後見人に対し尚更そのような感情論も抱き易くなるのでしょう。
 
 また、本人の財産管理上、本人のために支出する金銭も厳正に審査される上、親族のための支出は基本的に許されません。このような財産管理も親族にとっては納得のいかない事なのかもしれません。
 
 しかし、本来、法律専門職が認知症等高齢者の財産管理や身上保護を行う法定後見制度は、少なくとも一般のボランティアが行うより、正確であり、厳しい立場で第三者からの財産権の侵害から本人を守る権利擁護という観点からはより安心感の有るもので、尚かつ通常の法律専門実務家がする仕事と報酬との関係では、本人にとってこの法定後見制度は格段に低価格で利用できる事もまた事実になります。
 
 法定後見制度の主な阻害要因は、法定後見制度の趣旨自体は、大変良い制度ですが、第三者が家族の中に入り、身内の財産管理や身上保護を行う事自体不愉快に思う親族がいる事が主な原因の一つであり、法定後見制度は現在その利用が拡がりを見せない状況になっているとも言えます。
 
 
 
●法定後見人の財産管理と高齢者本人のプライバシー
 
 見落としがちなのは、高齢者本人の日常のプライバシーです。法定後見人の事務は記載してきましたように財産管理と身上保護にあります。財産管理とは、具体的に言うと法定被後見人、つまり高齢者本人の金銭の収支を管理するものです。法定後見人には男性もいれば勿論女性もいます。法定後見人によってその考え方は様々です。その事情により異なりますが、例えば1日に1,000円程度で週1万円程度の日常費(お小遣い)とする人もいれば、1カ月の日常費(お小遣い)として数万円とする人もいます。法定被後見人である高齢者本人は、その与えられた範囲で日常を過ごさなければなりません。
 
 例えば、一度に10万円、更に50万円もの支出が必要な場合、合理的理由が無いと法定後見人は認めない事が殆どでしょう。それは、財産管理をし、家庭裁判所にその集計を提出し、報告しなければならないからです。しかし、法定被後見人は成人であり、それも人生経験を積んだ高齢者です。一般に大人は必要が有ると「思えば」10万円、更には50万円程の支出は珍しい事ではありません。この場合、その使途を示し、必要性を法定後見人に説明し、理解を求め、法定後見人から承諾(許可)を得なければならないのです。ギャンブル等の遊興費は事実上以ての外である事が多いでしょう。
 
 つまり、法定被後見人、すなわち大人である高齢者本人の金銭の管理を自分の意思では無く、第三者である法定後見人に委ねなければならず、自由が制限されてしまう事もあります。資産家である高齢者であれ、年金といくばかりかの預貯金で生活している高齢者でありそれは同じです。勿論、生活費は資産に応じて一般の常識の範囲で必要になる生活費は渡されるでしょう。しかし、法定後見人の財産管理は基本的に同じです。法定後見人は身上保護がその事務の一つです。しかし、身上監護ではありません。高齢者に生活指導をするためのものではない筈です。
 
 法定後見制度は、法定被後見人の支出する金銭の多寡や使途については、聞いてはいけないという制度にしなければならないのではないでしょうか。
 
 法定被後見人というと、皆さんは話が出来ない、コミュニケーションが成立しづらい、一般の人とは違う人いう印象があるかと思いますが、実は殆どの場合、法定後見人や親族、地域の福祉・行政サービスの担当者と日常会話は可能な事です。
 
 このように、現在の法定後見制度は、高齢者のご家族との軋轢、そして法定被後見人である高齢者等のプライバシー保護の面で、まだ発展途上であると言っていいでしょう。
 
 
 
 
 
法定後見制度の意義
 
 
 
●法定後見人等の使命
 
 法定後見人等は、本人の権利擁護のために働くべきであり、本人の判断能力の不足を法定後見人等が補い、本人の利益を保護し、本人が人間らしく生活を維持できるように努める事が求められます。従って、本人の権利を侵害する者に対しては毅然とした対応を取る事も必要なるのです。
 
 
 
●法定後見人等の公正・中立・独立性
 
 法定後見人等は、本人の利益のために執務をする者であり、本人の親族や第三者の利益を図る事は許されません。勿論、親族や第三者の利益と本人の利益が一致する事はあるかもしれませんが、それは結果論であり、あくまでも本人の権利擁護が第一になります。
 
 対立的な親族がいたとすれば、法定後見人等が本人以外の者に対して、全て公正中立、そして独立の立場で、本人の利益保護以外は特に特定の者の利益を図るものではない事を理解する必要があります。
 
 このように、本人とは血縁関係の無い第三者である法律専門実務家が法定後見人として本人の権利擁護をする事により、本人の親族が果たせない、誰に対しても贔屓(ひいき)しない公正性、中立性、そして独立性を確保する事ができるのです。
 
 
 
●法定後見人等の責任
 
 法定後見人等は、財産管理や身上保護に関する事務を行うにあたり、本人に関する身上配慮義務と善管注意義務を負います。
 
 
 
●法定後見制度の向上
 
 法定後見人等は、本人の財産管理及び身上保護に関する事務を行います。しかし、この後見事務の具体的在り方は、一つの方法論に過ぎず、創意工夫の範囲で制度をより向上させる事も可能です。
 
 特に、身上保護に関する事務は、日常の本人の生活が対象になりますが、必ずしも法定後見人自身が本人の日常の生活を見守る必要は無く、支援機関(いわゆる中核機関)である法定後見制度支援センター(仮称)や地域のボランティア等の人々の中で適任者が「法定後見人身上保護支援員」(仮称)として、時々本人と会い、不自由が無いかを確認する事でその役割は果たせるのではないでしょうか。
 
 法定後見人はその法定後見事務が非常に多忙です。法定後見人は法律専門実務家が多く、一番大切なコアとなる権利擁護(法律判断)に集中して貰い、法定後見人でなくても可能な事務は「法定後見人身上保護支援員」に任せるという仕組みもあるでしょう。
 
 法定後見人等は、その名の通り、「後見」的に本人と関わり、「法定後見人身上保護支援員」との協議の中で、日常の契約行為(代理行為)や事実行為(代行行為)の要否を判断するようにする事も一つの発想の転換であると考えます。
 
 勿論、法定後見人は本人と必要に応じて会う事は、その前提となる事は言うまでもありません。意思決定の主体は本人であり、次に福祉・行政サービス等の関係者と共に協議をした結果、最終的に法定後見人がする本人の推定意思に基づいて行う法定後見人等であるからです。
 
 更に、法定後見人等はその使命により、地域の行政や福祉関係者、障害者団体、その他のボランティア団体とは異なる公正、中立、独立性が求められる厳しさがあります。福祉関係者等が行うカンファレンスでの意思決定方法として一般的に用いられる多数決や出席者の最大公約数での結論の出し方とは、厳しい人の権利擁護という判断とは必ずしもそぐわない現実もあります。(ここが「福祉・行政」と「司法」の違いであり、融合できない、また融合し一体となってはならない最も大きな理由です。)
 
 法定後見人等が最終的に代理権限を行使して行う判断に対しては、喜んでくれる人もいると思いますが、反対や批判をする人も必ずいるものです。逆に言うと、法律専門実務家とは、そもそもそのような判断をする者であり、クレームを恐れては法定後見人の使命を誠実に果たす事はできません。
 
 その意味でも、本来は法定後見人等は、本人と関わりのある人々とは一線を画し、一歩下がったところで、全体の流れを俯瞰し、公正、中立、独立した自律的で誰に対しても囚われない自由な判断をする事が、本人の関係者と一体となって同化する事により、優る事になるのではないかと考えます。それは、本来、法律専門実務家は、憲法の理念に基づき、法令及び自身の良心にのみ拘束される者だからです。勿論、本人の意思決定の尊重理念はその前提です。
 
 従って、この法定後見制度に関わる福祉・行政、障害者団体やその他の福祉団体の関係者、そして法定被後見人のご家族は、自己決定権の尊重理念に基づく意思決定支援過程に関わる関与者として、この法定後見制度の基、家庭裁判所から授権された法定後見人等のする判断を最終的に受け入れる心の準備も自ずと必要になります。
 
 
 
●法定後見制度の利用促進
 
 成年後見制度の利用促進に関する法律(以下「成年後見利用促進法」といいます。)が2016年(平成28年)4月8日に成立、同年5月13日に施行されました。この成年後見利用促進法は、現状の法定後見制度が十分に利用されていない事の認識の下、同制度の利用促進施策を総合的かつ計画的に推進する事を目的としています。
 
 成年後見制度利用促進法の3つの理念は、次の通りです。
 
 
 
 <成年後見制度利用促進法の3つの理念>
 
 
ノーマライゼーション
 
 
自己決定権の尊重
 
 
身上保護の重視
 
 
 
 成年後見制度利用促進法に基づき、有識者によって構成される内閣府「成年後見制度利用促進委員会」における議論を経て、2017年(平成29年)3月24日、「成年後見制度利用促進基本計画」(以下「基本計画」といいます。)が閣議決定されました。この基本計画に基づき、司法、政府等が施策を打出しています。
 
 
 
 <基本計画の最重要課題>
 
 
▼利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善
 
 
▼権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり
 
 
▼不正防止の徹底と利用しやすさとの調和
 
 
 
●法定後見制度の福祉的機能と社会保障機能の深化
 
 成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定され、今後は、とりわけ利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善と権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりでは、市町村等における権利擁護支援の地域連携ネットワークの構築や法定後見制度の中核機関の設置等様々な動きが全国で盛んになってきています。
 
 法定後見制度は、本人の権利擁護のための制度ですが、法定後見制度だけで完結できるものではなく、法定後見制度を有効に機能させるための成年後見支援センター(仮称)等の所謂中核機関(支援機関)を設置すると共に、現行制度である地域包括支援センター(介護保険法)、社会福祉協議会(社会福祉法)、社会福祉協議会が実施主体となる日常生活自立支援事業(福祉サービス利用支援事業)、各基礎自治体である市区町村町、障害者団体、地域のボランティア団体等が連携した総合的な地域連携ネットワークを構築して、法定後見制度における福祉的機能と社会保障機能を組込んだ地域共生社会を目指しています。
 
 法定後見制度は、従来と異なり、専門的な権利擁護から社会福祉、社会保障へと変貌しつつあるのです。
 
 
 
 
 
法定後見制度は最後のセーフティネット
 
 
 
●法定後見制度に対する捉え方
 
 法定後見制度について見てきましたが、そこには法定後見制度の存在意義、問題、今後の法定後見制度と様々な事柄が内包していました。しかし、この法定後見制度も現代社会の問題解決策の一つに過ぎません。
 
 この法定後見制度は超高齢社会という現代社会の中で、結局どのような役割を果たすのでしょうか。それは、法務省や厚生労働省、最高裁判所が考える制度自体とは別に、利用者からの視点が重要となります。
 
 利用者は、本人であり、その関係者は本人の家族です。特に、重要なのは本人にとって権利擁護が十分であるかという問題です。では、権利擁護とは具体的にどのような事なのでしょうか。それは、言換えれば、本人の意思が十分に生かされるかという事に尽きます。
 
 それでは、この法定後見制度は、どのような制度であったかを再度確認してみましょう。まず第一に、本人の判断能力が低下又は喪失した段階から利用を始めるという制度になります。第二に、法定後見人という本人と直接関係の無い第三者が本人の財産管理や身上保護を行う制度です。ここで、関連している事は、本人の家族にとって不自由さを感じる事もあるでしょう。第三に、将来の新しい法定後見制度は、地域共生社会の中での社会福祉、社会保障機能を持った制度に創造される事になっています。この事自体は有効でありますが、家族にとっては、身近に自分達がいるのに、それに加えて福祉関係者や市区町村等の担当者によって定期的に観察がなされる事が、家族にとっては迷惑に感じる事も有るかもしれません。
 
 この法定後見制度が開始する段階では、既に本人の判断能力が低減又は喪失しており、地域連携ネットワークを背景に、本人の意思を最大限尊重した福祉関係者や市区町村の行政等の地域の関係者の意見や協議、その事を踏まえた法定代理人としての法定後見人の決定によって決する事になるため、元気なときの本人の意思とは必ずしも適合しない、客観的かつ合理性のある判断になる事が想定されます。
 
 そこで、本人の意思を十分に発揮できる他の法律的解決方法があれば、そちらの方が良いと考えるのは当然でしょう。
 
 その意味では、法定後見制度は、他の法律的解決策が図れなかった人達に対して、国家が人権を保障する最後のセーフティネットと考える事ができます。
 
 
 
●福祉法務という考え方
 
 法律的問題は法律的対処が必要になります。そこで、現代社会における法律実務からの福祉的施策の取組みを特に福祉法務と命名する事として、今回ご紹介した法定後見制度を含め次のような様々な法律的解決策が用意されています。
 
 〇生前整理
 
 これは、ご本人で行うものです。後に遺された人のために、遺品となる物品や口座情報、保険情報等第三者では判らない、また見落とす恐れのある事柄を整理し、解り易すくまとめて置く作業です。残された人は、ご本人が何を考え、どのようにして欲しかったのか、遺品はどのようにして欲しいのかをまとめます。まとめた結果をエンゲージメントノート(所謂エンディングノート)に書き記しておく事も有効です。
 
 〇見守り契約
 
 高齢のため体が不自由であったり、認知症の発祥が懸念される方のために信頼できる第三者との間で見守り契約を締結する方法です。定期的な連絡をする事により、急な健康上の変化等に的確に対応する事により大事を防ぎます。
 
  〇財産管理委任契約
 
 高齢者が認知症の発症に備えて、信頼できる第三者との間で本人ができない財産管理を代わって行います。この財産管理方法は、通常の委任契約になりますので、金融機関等一部の相手方には、ご本人の意思が明確にされた委任契約である事を証明しなければならない場合もあり、公式には利用しずらい面もあります。身の周りの日常生活やごく私的な親族間で利用できる事が期待できます。
 
 〇任意後見制度
 
 任意後見契約法という法令に基づいた公式な契約です。この契約は、本人が元気な間に信頼できる第三者との間で任意後見契約を締結し、後に認知症等の意思能力が減退又は喪失した段階から効力を生じさせるもので、家庭裁判所から任意後見監督人が選任され開始します。この制度は、本人の財産管理と身上保護の2つの面で役割を果たしますが、利用方法としては財産管理というより、病院や高齢者サービス等法律的な契約が必要な本人の身上保護面で有効に機能する制度になるでしょう。
 
 〇法定後見制度(成年後見制度)
 
 任意後見制度の対照的制度がこの法定後見制度です。本人が元気なうちに任意後見契約を締結しなかった場合、何らかの方法で社会生活を保障しなければならない事から財産管理及び身上保護の両面で本人を支援する制度になります。この制度も法定後見監督人の選任が必要とされる場合があり、また法定後見人自身も本人が選定した者ではないため、元気な頃の本人の考え方や家族との関係等、法定後見人に対し、家族が不信感を抱く場合もあり、制度的拡がりが見られない状況も指摘されています。その反面、法定後見人は、財産管理と身上保護の2大使命がありますが、その中で特に財産管理では、必ずしも本人の家族の意に沿わない法律的判断が求められる場合もあります。この法定後見制度自体は、元々家族とは一定の距離を保たなければならない権利擁護という厳しい基本理念を持つ制度だからです。この制度は、法制度的には本人の意思やその家族の気持ちを前提とせず、家族等からの申立てにより初めから家庭裁判所が関与する制度で、本人の判断能力(意思能力)が減退又は喪失してしまった後に、本人を守る最後のセーフティーネットという捉え方もできるでしょう。
 
 〇目的別福祉型家族民事信託契約
 
 今最も注目を集めている資産管理及び財産承継方法です。現行の法令を全て適用しても不十分な問題を補完する事ができる本人の思いや願いを実現する最先端の法技術です。大きな特徴は、現在の思いと将来の願いの達成に必要な法律的問題を公的機関の関与無しに、自分と大切な家族だけで法律的に解決できる方法です。本人の意思の尊重理念に基づく家族という掛替えのない人達を守るための方法であり、その意味で法定後見制度より優位であり、任意後見制度に対しては、資産管理の面で特に優れている方法と言っていいでしょう。
 
 〇遺言
 
 相続は「争続」と言われるように、家族によっては難航する場合があります。精神的に安心し、明日への願いのためにも遺言をしておく事はとても有効です。法令の改正により、不動産等登記登録が必要な財産を所有している方は、遺言自筆証書より遺言公正証書の方を選択する事が優位になりました。
 
 〇遺言執行者指定
 
 本人の死後の事実上の代理人を遺言で指定しておきます。大切な遺言の執行はこの遺言執行者が責任を持って行います。遺言をする場合は、必ず遺言執行者を指定しておく事が重要です。折角作成した遺言も執行する時は本人はいません。相続人の誰かが遺言執行的に手続きをする事は、他の相続人にとって不信感を招く恐れもあり、「争続」を避けたつもりが、大きな争い事に発展してしまう恐れがあるからです。
 
 〇死後事務委任契約
 
 亡くなった後の色々な手続きを「死後事務」といいます。遺言書では遺せない遺志を第三者との間で契約し、死後に契約通りの手続きを行います。
 
 〇死後事務委任目的福祉型家族民事信託
 
 死後事務で継続的事務がある場合等に有効です。
 
 〇エンゲージメントノート(エンディングノート)
 
 一般にエンディングノートと言われているものです。当事務所では、エンゲージメントノートと名付けています。具体的な財産の配分ではない、自分の日常の思いや考え、家族に対する心配や希望、財産に関する個人的管理方法等を書留めておくものです。誰も自分の終わりや死を考えたくはありません。考える必要もないのです。自分は永遠に元気で生きたい、夢を叶えたいと思えばそれで十分です。本人が積極的に家族と関係を持ち、将来の家族に対する思いや願いを記すためのノート、それがエンゲージメントノートです。
 
 
 
●超高齢社会での困難を回避するために
 
 超高齢社会は長寿社会です。しかし、現実には個人の意思の尊重という理念の下、本人に判断能力が低減又は無くなった時、財産凍結、所有資産の自由な利活用が困難となる現実が待っています。
 
 その問題を回避するためには、どうすればいいか。
 
 それは、本人が判断能力を失う前に対処する必要があるという事です。そして、それ以外に本人の意思を生かす方法はありません
 
 その事を本人やその家族は認識する必要があるのです。
 
 
 
●自分に合った解決策
 
 「福祉法務」の様々な法律的解決策は、その全てが有効な方法であり消去法で、できれば不要な物だけを取除き、その他の全てを利用して頂く事が良いでしょう。しかし、積極的に特定の解決方法を選んで利用する事も差支えありません。
 
 いずれにしても、利用する場合は、有効に役立つように選択する事が大切です。
 
 
 
 
 
 
 
 
判断能力が低減してからでは 有効な制度は選べません
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 いかがでしたでしょうか。
 
 
 
 今回のニュースレターは、自身が高齢者だと思っている方やそのご家族にとって聞いた事がある法定後見制度について、その要説を概説すると共に僭越ながら当職の私見も交え掲載しました。
 
 
 
 法定後見制度には、今回取上げた成年後見人の他に保佐人、補助人という制度も有ります。現在の利用状況では、成年後見人が圧倒的に多いので、今回は成年後見人に焦点を当てました。この法定後見制度もその必要性が周知されるに従って、保佐人や補助人といった制度も増えてくる事でしょう。現に、昨年の統計では成年後見類型は減少しましたが、保佐類型、補助類型は逆に増加しています。
 
 
 
 そして、大事な事は、この法定後見制度は最後のセーフティネットだという事です。本人にとって、そしてそのご家族にとって更に良い制度がある事を知って頂き、是非、法定後見制度に辿りつく以前に、より良い制度を利用して下さい。
 
 
 
 この機会に、法定後見制度、そして福祉法務という考え方に関心を持って頂き、ご自身やご家族のための法律的対策をご検討されてはどうでしょうか。
 
 
 
 福祉法務、法定後見制度のご相談は、福祉法務を専門分野又は取扱分野としている法務事務所の司法書士にして頂く事をお勧めします。 
 
 
 
 
 
 
 
福祉法務 それは高齢者等に対する法律実務からの福祉施策の総合体系
 
 
 
 
 
 
 
※司法書士は、法律問題全般を扱う身近な暮らしの中の法律専門実務家です。
 
 
 
 
 
 
(2021年9月2日(木) リリース)